ISー(変態)紳士が逝く   作:丸城成年

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第40話 子兎の報復

 暗い寮の部屋にラウラは独り佇んでいた。

 

 ラウラがIS学園に転入して来たのは2人の男性IS操縦者と接触し、そのデータを収集せよという上層部からの命令が下されたからだ。しかし、ラウラ自身にとってはそんな事はおまけだった。

 

 ラウラは人工的に合成された遺伝子と人工子宮によって生み出された人の形をした遺伝子強化試験体という名の生物兵器だった。今では人権も認められているが、そんな物がお飾りだと言う事はラウラ自身も分かっていた。物心がつく前から軍事訓練を強制されてきた。あらゆる格闘術、あらゆる武器の使用法、あらゆる兵器の操縦法を学んだ。ラウラ自身が一個の兵器として生きてきたと言って良いだろう。そこに人権などと言う高尚な物は存在しなかったし、ラウラ自身も求めなかった。

 

 ただ求められる性能の最高値を出し続け、最高の兵器として必要とされ続ける事だけがラウラの全てであった。

 

 そんなラウラから全てを奪う出来事があった。白騎士事件に端を発する世界のIS偏重社会への変革である。全ての兵器がISによって時代遅れにされたと言う者さえ現れた。そして、時代に取り残された兵器の中にラウラもいた。

 

 既存の兵器に対して圧倒的な戦力比を見せたISをラウラの所属したドイツ軍も取り入れた。そして、当時優秀な成績を出し続けていたラウラにもISを操縦する事が求められた。ラウラを含めた多くの女性型遺伝子強化試験体にISへの適合性を向上させる為の処置【ヴォーダン・オージェ】が為された。そして、それがラウラの地獄の始まりだった。処置が失敗したのだ。

 

 【越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)】とは簡単に言うと擬似的なハイパーセンサーとしての機能を人工的に人間の目に与える処置とその処置を施された瞳の事をそう呼ぶ。ラウラはこの処置によって左の瞳の色が金色に変色し、常にその擬似的ハイパーセンサーの機能が稼動し続ける状態になってしまった。つまりラウラの越界の瞳は制御不能だった。制御不能な左目を抱えたラウラはIS訓練においてトップの座から転げ落ちる事になった。

 

 これは【ただ求められる性能の最高値を出し続け、最高の兵器として必要とされ続ける事】それだけが全てであったラウラにとって絶望以外の何物でもなかった。失意のラウラを他の部隊員からの侮蔑と嘲笑、そして【出来損ない】の烙印が待っていた。

 

 そんな絶望の底からラウラを引き揚げたのが千冬だった。ドイツ軍のIS部隊に教官として着任した千冬の指導の下、ラウラは再びトップの座に返り咲いた。ラウラは千冬の指導に従うだけで瞬く間に実力を付け、失った自信と地位を取り戻した。ラウラにとって千冬は救世主となった。

 

 ラウラにとってIS学園への転入は千冬を取り戻す為のものであった。上層部からの命令など二の次であった。今のラウラにとって千冬以上に優先すべき事など存在しなかった。

 

 だから、ラウラは許せなかった。千冬がモンド・グロッソ連覇を逃す原因を作った一夏が。千冬の前でラウラが醜態を晒すことになった原因である太郎が。

 

 

 

 

 暗い部屋の中で独り佇みながらラウラは誓った。どんな手を使っても一夏と太郎を排除する事を。

 

 

 

 

 

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 IS学園では新たな転入生・ラウラと3人目の男性IS操縦者シャルルが実は女だった事が話題になったが、それも数日の事だった。現在は間近に迫った学年別トーナメントに生徒達の関心は移っていた。特に1学年では【優勝者は男性IS操縦者のどちらかと付き合える】という根拠も無い噂が出回り盛り上がりを見せていた。しかも、今年の学年別トーナメントは例年とは違い2人1組のツーマンセルトーナメントとなった為にパートナー決めでも大いに盛り上がった。

 

 まず、誰もが考えたのが男性IS操縦者とパートナーになる事だった。これを機に一気にお近づきになろうという魂胆である。根拠の無い【優勝者は男性IS操縦者のどちらかと付き合える】という噂を信じるより確実である。

 

 そんな浮ついた生徒達をラウラは馬鹿にしていた。そして、同時にラウラにとっては好機でもあった。1年生の女生徒達に追い回され太郎と一夏は普段一緒にいるグループから離れていた。ラウラは太郎が強敵であると一戦交えた事で認識していた。だから、先ずは取り巻きの専用機持ちを排除する事に決めた。

 

 放課後、第3アリーナでセシリアと鈴がISの訓練をしようとしている事と太郎と一夏がその場にいない事を確認したラウラはここでセシリア達を排除する事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 太郎と一夏、そしてシャルは追われていた。間近に迫った学年別トーナメントのパートナーに3人の内の誰かを得たいという女生徒達に追われているのだ。太郎と一夏は希少な男性IS操縦者である。シャルは女だと明かしたが一部のコアなファンが執拗に追い回していた。それに3人は全員専用機持ちであるから戦力的に見ても学年別トーナメントのパートナーとして魅力的であった。

 

 シャルは3人の中では追っ手が1番少なかった為にあまり苦労しなかった。太郎の追っ手は多かったが、学園に来る前は桜の代紋を背負った猟犬達からその身一つで逃げ切っていたのだ。素人を振り切る事など容易いものだった。そして、一夏はボロボロだった。女生徒の包囲網を突破する度に制服等を掴まれたりしたせいで、体も制服もボロボロな状態だった。3人は途中でバラバラに分かれて逃げたのだが今は合流していた。

 

 

「・・・・・一夏は大丈夫なんですか?」

 

「こ、この学園には悪魔がいる・・・・」

 

 

 制服が破けてほとんど半裸状態の一夏を見て太郎が心配して声をかけると、一夏は消え入りそうな声でそう答えた。

 

 太郎とシャルは思った。自分達はもっと上手く逃げようと。

 

 3人が校庭の目立たない場所で一休みしていると太郎に静寐(しずね)からメールが届いた。内容を確認すると第3アリーナでセシリアと鈴がIS訓練をしている所にラウラが乱入したというものだった。太郎達は直ぐに第3アリーナへと向かった。その際に女生徒達に見つかり一夏はズボンを失った。

 

 

 

 

 

 第3アリーナに太郎達が到着するとそこでは既にセシリアと鈴の敗北した姿があった。2人の装着しているISは軽めに見積もっても中破状態で戦闘を継続出来る状態には見えなかった。

 

 

「威勢が良かったのは最初だけだったな。やはりカタログスペック程の脅威は感じなかったな。遊びかファッション感覚でISに乗っている甘い貴様らなどが私に勝てる訳が無い」

 

 

 ボロボロのセシリアと鈴に対してラウラは無表情のまま、そう吐き捨てた。セシリア達は悔しそうに顔を歪めたが2対1で闘っておきながら一方的に負けてしまっては反論のしようもなかった。

 

 ラウラがセシリア達にトドメを刺そうと大口径レールカノンを放とうとした。その時、それを止めようと太郎が咄嗟にヴェスパと三式対IS狙撃銃を展開しラウラを狙撃した。しかし、その一撃をラウラは難なく躱した。太郎達がアリーナに現れた時点でラウラは太郎達3人に気付いて警戒していたのだ。

 

 太郎が次弾を装填する間をラウラは与えなかった。ワイヤーブレードでセシリアを捕らえ太郎達へ向けて放り投げたのだ。シャルはISを既に展開・装着済みだったが、ここに来るまでにボロボロになっていた一夏は未だ白式を展開していなかった。ここで太郎がセシリアを避けると一夏が危ない。太郎はそう判断してセシリアを受け止めた。

 

 

「そういう所が甘いのだ」

 

 

 ラウラは嘲りながらセシリアごと太郎を大口径レールカノンで攻撃した。太郎はその攻撃を避けられなかった。タイミング的にも避けるのは難しかったが、仮に避けられたとしても一夏に危険が及ぶのでその選択はとれない。

 

 ラウラの攻撃を受け劣勢に立たされる太郎であったが、その危機を救う者があった。

 

 

「やめろ!馬鹿共が!!」

 

 

 第3アリーナ内に千冬の声が大音量で響いた。太郎達に追撃をかけようとしていたラウラもその声を聞いて攻撃を止めた。

 

 千冬はラウラがセシリアと鈴の訓練に乱入して、その闘いが激しくなってきた時点で報告を受けており念の為に管制室で様子を見ていたのだ。ラウラが攻撃を止めてしばらくするとアリーナ内に千冬が移動してきた。

 

 

「お前等、模擬戦闘をするのは良いが限度を考えろ。これ以上やりたければ学年別トーナメントでやれ」

 

「教官がそう仰るのなら・・・」

 

 

 千冬が厳しい表情で言った内容をラウラは受け入れた。太郎達も黙ってそれに頷いた。太郎もこのまま闘おうとは思っていなかったので好都合だった。

 

 

(美星さん、大丈夫ですか?)

 

『はい、ブルー・ティアーズが位置関係的に盾の役割を果たしたのでヴェスパの機能に影響を及ぼす様な損傷はありません。あのビッチも偶には役に立ちますね。後でご褒美をあげないといけません』

 

 

 美星を心配していた太郎の問いに美星は問題無いと答えた。

 

 

(・・・・・それにしても今回はしてやられましたね)

 

『436の根暗ボッチは絶対に凌〇します』

 

 

 アリーナから立ち去るラウラの後ろ姿を見ながら、珍しく苛立たしげに言った太郎と怒りのあまりに犯行予告をする美星であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、雪辱に燃える太郎と美星。新たな武器を手に子兎とおまけを狩る!!


次回登場の新兵装の名前は「ゲヘナの炎」と「レイジング・スター」

後書きまで読んでいただきありがとうございます。



次回の投稿は木曜日か金曜日になると思います。

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