ISー(変態)紳士が逝く   作:丸城成年

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第39話 子兎を見つけた獣

 シャルの父が新たな世界に旅立った為に自由となったシャルが、ついに女子生徒としてIS学園に通う日が来た。しかし、ここで太郎やシャルにとっても予想外の事が起こった。

 

 朝のSHRの時間、教壇に困った顔をした真耶が立っていた。

 

 

「え、えーと、今日は皆さんに嬉しいお知らせがあります。何と新しいお友達が2人も1年1組に来てくれました。・・・・・まあ、1人は既に知っていると思いますが。えー、2人共入って来て下さい」

 

 

 ついこの間、シャルが転入して来たばかりだというのに2人も新たな転入生が来たと聞いて生徒達はざわめきだした。

 

 

「う、うそー。また転入生?」

 

「このクラス何か凄くない!?」

 

「また男だったら良いな~」

 

「そう言えば今日デュノア君が来てないんだけど」

 

 

 

 

 その頃、騒いでいる女生徒達とは少し違う意味で太郎は驚いていた。

 

 

(2人?・・・・・1人はシャルだとして、もう1人は誰なんでしょうか?)

 

『廊下にシャルロットさんともう1人に反応がありますね。かなり小柄です』

 

 

 太郎と美星が話している間に教室の扉が開き、2人の少女が入って来た。1人は女子の制服を着たシャル、もう1人は小柄なプラチナブロンドの美少女だった。1年1組の生徒のほとんどは女子の制服を着たシャルを見て驚きの声を上げた。

 

 

「ええええ、シャルル君がなんで女の子の格好してるのおおお」

 

「そういう趣味なの!?」

 

「じょ、女装・・・でも本当の女の子にしか見えない」

 

「・・・・・ま、負けた。完全に負けてる」

 

「シャルル君は男の娘だったの!?」

 

 

 混乱状態になった教室内を真耶が「し、静かに~、皆さん落ち着いて」と言って落ち着かせようとしていたが、全く効果は無かった。

 

 

 

「煩いぞ、静かにしろ!!」

 

「「・・・・・・・・・・・・・」」

 

 

 真耶では効果が無かった為、千冬が一喝することで教室内は落ち着きを取り戻させた。

 

 

「シャルル・デュノアは偽名で本名はシャルロット・デュノアだ。デュノアは事情があって男として転入したが、見ての通り本当は女だ。その辺りの事情は機密事項だから詮索等も一切するな。この命令に反した者はそれ相応の罰があると思え」

 

 

 千冬の殆ど説明になっていない説明に対して疑問の声を上げる者はいなかった。千冬の放つ威圧感がそれをさせなかったのだ。

 

 

「ええーと、皆さん・・・・・改めまして僕の本当の名前はシャルロット・デュノアです。事情があって名前の一部と性別を偽って転入して来ていました。騙す事になってごめんなさい。でも、これからも仲良くしてくれると嬉しいです」

 

 

 シャルの言葉を聞いて静かになっていた教室がまたざわめき出す。

 

 

「・・・・・うーん、何か凄い事情があるみたいだし仕方が無いのかな」

 

「可愛いなぁ。何かに目覚めそう」

 

「私は女でも一向にかまわんっ!」

 

 

 シャルは概ね受け入れられているようだった。シャルや太郎も一安心であった。

 

 

「あの〜、皆さん静かにして下さい。もう1人の紹介が終わっていません」

 

 

 真耶の注意を聞いて生徒達の視線はもう1人の転入生へと集まった。彼女はここまでのやり取りを無言で眺めていた。まるで下らない物でも見るかのような目で。お世辞にも機嫌が良さそうには見えなかった。

 

 腰の辺りまであるプラチナブロンドが美しく、小柄ではあるが背筋が伸び直立不動のその姿に弱弱しさはなかった。肌は不健康に見える位白く、右の瞳は血のような赤で左目は眼帯に覆われていた。

 

 

「ラウラ、お前も挨拶をしろ」

 

「はい、教官」

 

 

 千冬が転入生(ラウラと言うらしい)に挨拶するように言うと、ラウラは千冬の事を教官と呼んで敬礼した。それに対して千冬は面倒そうだった。

 

 

「私はもう軍の教官ではないし、ここは軍ではない。ここでは織斑先生と呼べ」

 

「了解しました」

 

 

 ラウラは千冬の命令に返事をした後、一歩前に出た。

 

 

「私はラウラ・ボーデヴィッヒだ。ドイツ軍から来た」

 

 

 ラウラはそれだけを言って黙ってしまった。他の生徒や真耶は続く言葉を待っていたがラウラの自己紹介はそれで終了だった。肩透かしを食らって微妙な顔をしている生徒や真耶を尻目に、ラウラは教室の最前列に座っている太郎と一夏を見て近付いていった。

 

 そして、太郎に対して右手を振りぬいた。

 

 バチーンと乾いた音が響いた。

 

 

(ふふっ、なかなか効きますねえ。しかし、軽い)

 

 

 太郎がラウラの平手打ちをそう評価していると周囲の生徒達がラウラを取り押さえようと立ち上がっていた。それを見た太郎は直ぐに止めた。

 

 

「皆さん、待って下さい」

 

 

 太郎の声は大きいものではなかったが、ラウラを取り押さえようとしていた生徒達はちゃんと止まっていた。

 

 

「・・・・・・良くクラスを掌握しているみたいだな。しかし、私は認めない。貴様があの人の弟などとは!」

 

 

 ラウラの言葉に太郎は首を傾げていた。何の事か全く分からないようだ。

 

 

「・・・・・・ボーデヴィッヒさん、私には兄も姉もいませんよ」

 

 

 そう太郎が告げるとラウラは一度千冬の方を振り返り、次に一夏の方を見た。そして、一夏の頬を太郎にしたように叩こうと一夏に近寄ろうとしたが千冬に腕を掴まれて止められてしまった。

 

 

「おい、ラウラ。・・・・・お前にはそいつが私の弟に見えたのか?」

 

 

 千冬が太郎を指しながら低い声でラウラに聞いた。今の千冬から放たれる威圧感は家族である一夏も体験した事の無い様な凄まじい物だった。転入早々、理由も告げずにクラスメイトに平手打ちをするという暴挙に出たラウラも流石にこの威圧感の中で真っ向から逆らう事は出来ない。

 

 

「い、いえ。教官の弟ならある程度強いはずなので、このクラスで1番強そうなこの男が教官の弟だと判断しました」

 

「私はこんな弟を持った記憶は無い。それにコイツは私より年上だ!」

 

 

 説明するラウラを千冬は怒鳴りつけた。

 

 

「まあ、まあ、織斑先生。間違いは誰にでもありますよ」

 

 

 太郎が止めに入る。今の千冬に意見出来る様な人間は教室内で太郎1人だけだった。千冬がギロりと太郎を睨み付けたが太郎は平然としていた。しばらく沈黙が続いたが千冬は掴んでいたラウラの腕を放した。

 

 

「・・・・・ラウラ、2度と間違うなよ」

 

「は、はい」

 

 

 千冬の言葉にラウラは直ぐに敬礼で答えていた。そんなラウラに太郎が声を掛ける。

 

 

「ボーデヴィッヒさん、私は山田 太郎と言います。この1年1組のクラス代表を務めています」

 

 

 突然の自己紹介にラウラは訝しげな表情になる。

 

 

「私はクラス代表として貴方に注意をしなければなりません。小難しい事ではありません。クラスメイトをいきなり叩いては駄目ですよ」

 

 

 太郎の注意をラウラは無視していた。千冬の言う事は聞いても太郎の言う事を聞く必要は無いと思っているのだろう。ラウラは先程までの千冬の威圧感には気圧されたが、今目の前にいる太郎からは千冬の様な有無も言わせぬ物は感じなかった。

 

 

「もし、ボーデヴィッヒさんが口で言っても分からない様なら肢体(からだ)で覚えて貰う事になりますよ」

 

 

 太郎の脅しとも挑発とも取れる様な言葉をラウラは嘲る。

 

 

「出来るものならやってみろ。先程の攻撃に対応出来ないような奴が私に勝てると思うのか」

 

「ふふっ、避ける必要が無かったから受けただけですよ。全く脅威を感じなかったので軽い挨拶かと思いましたよ」

 

 

 太郎はラウラに近付きながらそう言った。それを挑発と受け取ったラウラは太郎に殴りかかった。それは軍仕込みだけあって無駄の無い鋭い拳であったが、太郎には通用しなかった。太郎は自分に向かって来るラウラの右拳を外側から右へと受け流した。

 

 ラウラは全力で突き出した拳の勢いを受け流されてしまい上半身が泳いでしまった。その隙に太郎はラウラの背後に回りながら飛びつき、ラウラを引きずり倒してしまった。太郎は苦も無くバックマウントポジションをとった。

 

 

「は、はなせえ」

 

 

 ラウラは焦っていた。太郎に引きずり倒された時点でラウラにも太郎の実力がある程度分かっていた。経験を積めば組み合っただけでも相手と自分の戦力比がある程度分かる。そして、ラウラには分かってしまった。少なくとも寝技に関しては、この男は自分より格段に上であると。自分より強い相手により有利なポジションを取られてしまっては覆す事は難しい。このままでは尊敬する教官の前で無様を晒してしまう事になる。しかし、焦れば焦る程にラウラは深みに嵌っていく。それはまるで底なし沼に嵌ってしまったかの様で、いくらもがいても体力だけが奪われる結果となった。

 

 

「くっくっく、ボーデヴィッヒさん。貴方は先程のパンチも今のグラウンドにおけるディフェンスも良いですね。センスも技術もあります。しかし、軽い。物理的な意味だけでなく、貴方の攻撃からは信念も欲望も感じません」

 

 

 ラウラはもう太郎の掌の上で転がされている状態だった。暴れる子兎を太郎は愛でる。引き締まった小柄な肢体を味わい尽くす。小ぶりな臀部、無駄な肉が一切無い背中を撫で回す。そして胸に触れようとしたところで太郎は気付いた。

 

 

(ボーデヴィッヒさんはブラをしていないんじゃないですかね。まあ、良いです。確かめれば良い話です。美星さん!)

 

『はい、喜んで!レギオンを服の中へ忍び込ませます』

 

 

 太郎と美星の絶妙なコンビネーションでラウラの身体データは丸裸にされていく。しかし、そこで思わぬ邪魔が入った。

 

 

「止めんか、変態!」

 

 

 太郎は脇腹を千冬に蹴られて一瞬息を詰まらせてしまった。だが、執念深くラウラの体をロックした両足は維持していた。太郎は体勢を維持しながらチラっと千冬の顔を窺い心外そうに弁明する。

 

 

「私は変態ではありません。クラス代表として理不尽な暴力をふるうクラスメイトに教育的指導を行っているだけです。これを見過ごしてしまっては我がクラスは暴力が支配する無法地帯になってしまいます」

 

「私には強〇魔が女子生徒を襲っている様にしか見えんのだが」

 

 

 太郎は自分の事を性犯罪者を見るかのような目で見る千冬に対して自己弁護を続ける。

 

 

「物事というものは、それを見る角度や立場によって違って見えるものです」

 

「何でも良いから早くラウラを放せ!!」

 

 

 千冬に怒鳴られ太郎は渋々ラウラを解放した。ただ開放する前にラウラの耳を軽く舐めた後、「私の部屋は1002号室です。挑戦したくなったら何時でも歓迎しますよ」とラウラにだけ聞えるように言った。

 

 ラウラは太郎の拘束が外れると跳び退る様に太郎から距離をとった。強い怒りと警戒心が滲み出た目で太郎を見ていたが、当の太郎は涼しげな表情だった。

 

 

『マスター、レギオンから送られて来たデータの分析が出来ました。対象はやはりブラジャーを着けておりません』

 

 

 美星の報告を聞いて、太郎はつい舌なめずりをしてしまった。それを見ていたラウラを含めた教室内の全員が太郎の背後に凶暴な肉食獣の幻を見た様な錯覚を覚え戦慄していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。








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