ISー(変態)紳士が逝く   作:丸城成年

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第36話 笑顔の絶えないパーティー準備

「あの・・・僕の名前・・・・。これからはシャルルではなくシャルって呼んでもらえますか?」

 

 

 太郎の仲間になる事を決めたシャルは太郎に言った。

 

 

「シャルさん、これからよろしくお願いしますね。」

 

「はい!こちらこそよろしくお願いします」

 

 

 太郎が「シャル」と呼ぶとシャルは嬉しそうだった。そのシャルの笑顔見ながら太郎はシャルが自由になる為に必要な手立てを思案していた。

 

 

「シャルさん、デュノア社の様な大企業を相手取るにはそれなりの後ろ盾が必要になります。ですから、今から私の友を呼んで今回の件に協力して貰おうと思います。シャルさんにとって都合の悪い事も彼女に知られると思いますが良いですか?」

 

「必要な事なら仕方がないです」

 

 

 太郎はシャルの了承を得て、自身の盟友であり対暗部用暗部「更識家」のトップである楯無を呼び出した。

 

 楯無は3分もかからず部屋へとやって来た。

 

 

「太郎さーん、こんな時間に何の用かしら?」

 

 

 【こんな時間】と言っている割には楯無は上機嫌だった。肌も艶々だった。

 

 

「新たな仲間の紹介と悪巧みのお誘いですよ」

 

「うふふっ、シャルロットちゃんをもう堕としちゃったか」

 

 

 シャルは楯無に自分の本名を言われて驚愕した。

 

 

「な、なんで僕の名前を・・・もしかして太郎さんとの話を聞いていたの?」

 

「それは無いわ。この部屋の盗聴器はもう外してあるから。私はこのIS学園の防諜も担当している暗部のトップなのよ。だ、か、ら、世界で3番目の男性IS操縦者が転入して来ると決まった時点でその素性は徹底的に調査済みって事なの」

 

 

 暗部のトップという予想外の言葉が出てシャルは混乱していた。IS学園の制服を着た目の前の少女が暗部のトップと言われても最初は信じられなかった。しかし、太郎はその少女の言葉に何の疑問も持っていない様子である。太郎が当然の事として受け入れているのなら、そう言う事なのだろうとシャルは納得した。

 

 

「僕の事を知っているんだね。何で僕が女だと知っていて転入を受け入れたの?」

 

「んー・・・太郎さんの仲間になるんだったら教えても問題ないかな。様子見していたの、フランス政府に対する手札になるかなって思って」

 

 

 シャルは楯無の言葉に絶句した。とっくの昔に自分もデュノア社の計画も詰んでいたのだ。シャルは大きな溜息をついた。

 

 

「はあー・・・・・僕の事は既に知っているみたいだけど、改めて自己紹介するよ。僕の名前はシャルロット・デュノア、今日から太郎さんの仲間になりました」

 

「うん、私は更識 楯無。表向きの肩書きはIS学園の2年で生徒会長、それとロシアの国家代表ね。そして、裏では対暗部用暗部「更識家」の当主としてIS学園を守っているの。太郎さんとは盟友だから、その仲間であるシャルロットちゃんは気軽に【たっちゃん】って呼んでもいいわよ!」

 

「・・・さ、流石に先輩を【たっちゃん】とは呼べませんよ。楯無先輩と呼びますね。僕の事はシャルと呼んでください」

 

 

 とりあえず自己紹介が済むと楯無は太郎に向き直って笑いかける。その笑顔は蠱惑的なものだった。

 

 

「さて、悪巧みのお誘いはシャルちゃんに関係する事かしら?」

 

「そういう事です。シャルに何者にも縛られない自由の勝ち取り方を実践を通して学んでもらおうと思いましてね。標的はデュノア社です」

 

 

 楯無に答える太郎も黒い笑みを浮かべていた。

 

 

「でも楯無先輩が暗部のトップで僕の後ろ盾になってくれても、デュノア社が簡単に言う事を聞くとは・・・・」

 

「いいえ、聞きますよ。彼らの致命的な弱味は既に私の手の内にあるのですから」

 

 

 言葉を濁すシャルに太郎はシャルの頭を撫でながら自信満々に言う。

 

 

「貴方がここにいる、それ自体が彼らにとって最悪の弱味になんですよ」

 

「で、でも、デュノア社は僕の正体がバレたと知ったら僕に全ての罪を被せて切り捨てるんじゃ・・・・・」

 

 

 不安そうなシャルの予想を太郎は軽く否定する。

 

 

「そんな手は通用しませんよ。社長の息子と言う触れ込みで入学して来たのにデュノア社とは関係ありません、などと言っても誰も聞かないでしょう」

 

「それと学園には正式にフランスの代表候補の男性IS操縦者として転入して来たんだからフランス政府だって無関係とは言えないわね」

 

 

 太郎の言葉に楯無も楽しそうに付け足した。太郎はさらに続ける。

 

 

「それにこんな事が(おおやけ)になればIS業界におけるフランスの立場はどれだけ悪くなるか・・・。これだけ強力な外交カードがあれば貴方の自由位簡単に手に入りますよ」

 

 

 唖然とするシャルの前で太郎と楯無は具体的な話を詰め始める。

 

 

「シナリオとしては太郎さんや織斑君の様な男性IS操縦者を狙う犯罪組織を炙り出す為の囮としてフランスとデュノア社に協力してもらった、という事にしておいて上げるから言う事を聞けって感じかしら?」

 

「いきなり犯罪組織などと言っても説得力が無いですね。実際に存在する過激な女尊男卑思想を持ったテロ組織、もしくはその予備軍にでも罪を被ってもらいましょう。その組織が男性IS操縦者に対する襲撃計画を立てているというタレコミがあったとして置きましょう」

 

 

 何の躊躇いもなく罪を被ってもらうと言う太郎に対して楯無も平然としている。シャルが少し嫌そうな表情をしている事に気付いた楯無は「罪悪感を感じる事はないわよ」と言った。

 

 

「シャルちゃんは知らないかもしれないけど、この国にも実際にそういう計画を実行するような犯罪組織はあるのよ。去年も男性に対する差別的な裁判の判決に抗議活動をしていた人の家が放火されるっていう事件もあったし、そういう連中の罪が1つや2つ増えても問題ないでしょ」

 

 

 楯無の説明にシャルも頷いた。そして、シャルも黒く微笑んだ。

 

 

「ああ、そうだね。ついでに犯罪者達も処分できるし、これが日本のことわざにある【一石二鳥】というものかな」

 

 

 シャルの言葉に太郎と楯無も笑顔で頷いている。

 

 

「シャルに囮を要請した理由は顔や名前があまり出ていない実力のあるIS操縦者だったからという事で良いでしょう」

 

「そうですね。後は架空の3人目の男性IS操縦者を立て、情報をその組織にリークする事で襲撃のタイミングをこちらでコントロールする。そして誘い出した所を一網打尽にするという計画だったというシナリオで行きましょう」

 

 

 楯無と太郎の打ち合わせは最終段階に入った。

 

 先ず、フランスとデュノア社にシャルの正体について脅しをかける。

 

 こちらの要求はシャルのフランス代表候補生としての身分の保障。デュノア社及び、デュノア社長とその夫人が所有するデュノア社株をシャルに譲渡する事。

 

 その代わりにシャルが男性としてIS学園に来たのはある犯罪組織を誘き出す為の囮として、IS学園と更識家が協力を要請した事にする。フランスとデュノア社に対してシャル転入に関する性別の偽証等の罪を問わず、IS学園とその暗部の作戦の一部だった事にすると言う事だ。

 

 もし、この取引をフランスとデュノア社が飲まなかった場合は国際IS委員会へと訴える事になる。IS学園への国ぐるみの不正転入となると大きなペナルティが予想される。フランス政府が最も恐れるのはフランスに割り振られているISコアの削減だろう。現在、大国の防衛力、軍事力の要と言っても良いISコアを減らされると言うのは大きな痛手である。短期的な軍事力の低下だけでなく、IS関連の開発やIS操縦者の育成数にも関わってくる問題である。

 

 フランス政府はまず間違いなく要求を飲むだろう。何せ元々実力のあるシャルを代表候補生として身分の保障をする位、政府からしたら大した要求ではない。それにデュノア社への要求は政府からすれば何の損失も無い。むしろ今回、これ程強力な外交カードを相手に渡す要因となったデュノア社の経営者がその経営権を失うのなら願ったり叶ったりだろう。

 

 そして、今のデュノア社の立場ではフランス政府が要求を飲むなら従わざるおえない。そもそもシャルを男装させてIS学園に送り込むという無茶をやった理由は第3世代型ISの開発が遅れ、政府からの援助がカットされる苦境に立たされたからである。政府の意向をデュノア社に断る力は無い。それどころか今回の不祥事が表に出るだけで倒産しかねない。

 

 

 

「太郎さん、フランス政府とデュノア社相手に交渉するのにIS学園と「更識家」の後ろ盾だけでは少し弱くないですか?」

 

 

 楯無の率直な意見に太郎は少し考え込んだ。こういう場合、後ろ盾は大きい程良いに決まっている。交渉相手が国と大企業ならこちらもそれに匹敵する後ろ盾が欲しいところだ。

 

 

「私のISを開発したMSK重工にまた動いて貰いましょうか。この前、簪さんの打鉄弐式に関して話を持って行ったら倉持技研の未完成とはいえ次期主力機候補をタダ同然で手に入れられたと、開発部長どころか社長まで大喜びだったみたいですから。どうやら日本の次期主力ISを自社から出せそうだと言っていましたね」

 

「その節は簪ちゃんがお世話になりました」

 

「彼らなら今回の件も喜んで後ろ盾になってくれるでしょう。打鉄弐式だけでなくラファール・リヴァイヴという第2世代量産機の中でも高いシェアを持っている機体のデータや販路はMSK重工からすれば美味しい果実に見えるでしょう。そして、彼らなら話を通せる議員も多い。政府も後ろ盾になってくれるでしょう」

 

 

 太郎の話に楯無とシャルは頷いた。

 

 

「もしかしたらデュノア社はMSK重工に吸収されるかもしれませんがシャルはそれで問題ありませんか?」

 

「多分、例えデュノアの名前が無くなっても僕は気にならないと思う。それより従業員の人達がクビにならないかの方が心配・・・・。優しい人も結構いたから」

 

 

「確約は出来ませんが問題無いと思いますよ。MSK重工はこれを足掛かりにヨーロッパへ一気に進出する事を目指すでしょうから、今人員削減はしないと思います」

 

 

 自信ありげ言う太郎にシャルは何故言い切れるのか分からないという様子だった。

 

 

「何故そう思うか、答えは簡単です。今、欧州連合では第3次イグニッション・プランが進行中で次期主力機のトライアルが行われている途中ですから、そこに参加して勝ち残れば一気に欧州でのシェアを確立出来ます」

 

「でも、日本企業のISがイグニッション・プランに参加することは難しいと思うよ」

 

 

 反論するシャルに太郎は首を横に振る。

 

 

「そこでデュノア社の出番です。デュノア社をMSK重工が完全子会社化しなければ、デュノア社がイグニッション・プランに参加する事も問題にはならないです。それに現在、イグニッション・プランから除外されているフランスにとってはかなりのメリットになります」

 

「でも、もうトライアルはイギリスのティアーズ型、ドイツのレーゲン型、イタリアのテンペスタⅡ型で始まっているのに途中参加なんて認められるとは・・・・・」

 

 

 トライアルへの途中参加など認められるとはシャルには思えなかった。

 

 

「問題ありませんよ。現在トライアルに参加している機体達がそれら以外の機体に惨敗すれば計画を見直す事になります」

 

「それは確かにそうだけど・・・・」

 

 

 トライアル中の機体全てがトライアルに参加していない機体、すなわち自陣営ではない国のISに惨敗したとなると次期主力機としてそのまま採用する事は出来ないだろう。下手をすれば計画そのものを1から見直す事になる。

 

 

「イギリスのブルー・ティアーズは既に倒しました。後はレーゲン型とテンペスタⅡ型だけです」

 

 

 太郎は簡単な事のように言った。

 

 

「シャルちゃん、心配しなくても太郎さんが出来ると言うなら出来るのよ。ブルー・ティアーズだけじゃなくて日本の白式にも勝っているし、IS学園に入学してから実質4戦して太郎さんは未だ無敗よ。相手は全て第3世代の専用機かそれと同等以上の機体なのに」

 

「対戦相手に応じた兵装を用意すればより確実に対処出来るでしょう。第3世代型は未だ実験機レベルなので分かり易い弱点もあり、運用自体の経験値も低いので与し易いです」

 

 

 半信半疑のシャルに楯無と太郎は事も無げに言った。実際に太郎が闘っているところを見た事が無いシャルにとっては信じ難い話だった。

 

 

「まあ、私の実力に関しては明日の放課後に模擬戦でもすれば分かるでしょう。さて、私はこれから早速MSK重工に話を通します。もうトライアルの件もこちらから提案してしまえば良いでしょう」

 

「上手くいくでしょうか?」

 

 

 少し不安そうなシャル。

 

 

「今回の話は関係者全員に利益のある話です。フランス政府やデュノア社ですら不正の揉み消しとトライアル参加への具体的な手段を得るという利益がありますから話は通ると思います」

 

「そう、ですね。フランス政府やデュノア社にとっても悪い話では・・・無い」

 

「もしかしたら反発するどころか喜んで食いつくかもしれません。シャルさん良いですか、大事なのは彼らにやらされていると思わせない事です。私は選択肢を狭めたり、誘導したりはします。しかし、あくまで彼らには自分で選択している思わせないといけません。それに選ぶ選択肢に希望が全く無いのは危険です。追い詰めすぎると予想外の行動に出る事もあるので、希望を持たせてやる事も大事なんです。・・・そう言えば、話は変わりますがシャルさんはデュノア社長とその夫人をどうしたいですか?」

 

 

 唐突な太郎の問いにシャルは一瞬戸惑ったが直ぐに答える。

 

 

「太郎さんは希望を持たせてやる事も大事って言うけど・・・・・アイツ等に希望を持たせるのは嫌だな。僕は」

 

「ふふっ、大事な事を言い忘れていました。希望云々というのは交渉や取引、契約関係においての話です。今回の取引が上手くいけば、デュノア社の株を失った社長と夫人には大した力は残らないでしょう。もう交渉や取引の相手とする価値はありません。つまり好きにして良いですよ」

 

「あはっ、それじゃあ僕に良い考えがあるんだ。それと2人にも何か面白いアイデアがあれば聞かせて欲しいな」

 

 

 シャルは無邪気な笑顔で言う。太郎と楯無も心の底から楽しそうに笑っていた。

 

 

「デュノア社長には良い罰があります」

 

「そう言えば太郎さんはIS業界のソックスハンター組織とパイプがありますよね?」

 

「楯無さんは流石に良く知っていますね。そうですね、デュノア社にもハンターはいるでしょう。彼らにも参加してもらいましょう」

 

 

 

 

 さあ、楽しいパーティーが始まるよ

 

 

 

 

 




読んでくれてありがとうございます。


今回の話はみんな笑顔でほのぼのとした日常回になりましたね。
良かった、良かった。















おう、デュノア社長はケツ洗って待ってろよ!

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