ISー(変態)紳士が逝く   作:丸城成年

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第35話 勝ち取る者

 当初、シャルルは寮では一夏と相部屋になる予定だった。しかし、諸事情により一夏ではなく太郎との相部屋になった。太郎の部屋は今まで1人で使っていた為に太郎の私物が溢れていた。仕方がないので楯無に暗部が管理している部屋を1つ用意して貰い、そこに私物の大半を移動させることになった。

 

 シャルルの荷物が寮の部屋に運び込まれる頃には既に太郎のコレクションの大半は移動済みだった。

 

 

「ごめんね。僕が急に転入したせいで山田さんに迷惑をかけてしまって・・・」

 

「いえ、寮の部屋は1つの部屋を2人で使う事が基本らしいので、これで本来の形になったという事でしょう。それにシャルルさんがルームメイトなら私は嬉しいですよ」

 

 

 謝るシャルルに太郎は笑顔で応えた。そう、この程度なら迷惑と思ったりしないだろう。何故なら太郎から見れば、まさに鴨がネギを背負って部屋にやって来たようなものだからだ。

 

 シャルルの荷物は少なかったので運び込みはすぐに終わった。太郎はシャルルの分も紅茶を淹れて机の上に置いた。

 

 

「どうぞ、セシリアさんに貰った紅茶です。美味しいですよ」

 

「えっ・・・オル・・・コットさんの紅茶・・・・大丈夫なんですか?」

 

 

 セシリアの名前を聞いてシャルルは太郎の淹れた紅茶を何か恐ろしい物かのように見ていた。シャルルの怯えも無理からぬ事だ。昼休みにセシリアのサンドイッチで屋上が阿鼻叫喚の地獄絵図と化したの間近で見ていたのだ。セシリアの関わった物を口にする事、それすなわち危険とあの場にいた人間なら誰もが考えるはずである。

 

 

「安心してください。セシリアさんは紅茶には随分とこだわりがある様でとても美味しいですよ。・・・セシリアさんが何か手を加えたりしているわけでもありませんし」

 

 

 太郎が怯えるシャルルを安心させようと「セシリアは手を加えていない」と強調し、先に自分が飲んでみて大丈夫だとアピールした。そこまでされてはシャルルも飲むのを断り辛い。恐る恐るティーカップを口に近付けると紅茶の良い香りを強く感じた。

 

 

「・・・あっ、美味しい」

 

 

 口に含むと自然とシャルルはそう言っていた。紅茶を楽しみながら他愛も無い話をしているとシャルルと太郎はすぐに打ち解けた。しかし、太郎にとってはここからが本題だった。

 

 

「さて、少し落ち着いたところで大事な話をしましょうか」

 

 

 太郎の口調は軽いものだったが、その目はシャルルの全てを見通そうとしている様だった。

 

 

「・・・シャルルさん、貴方は・・・女性・・・」

 

「えっ!?」

 

「・・・と付き合った事はありますか?」

 

 

 シャルルは太郎が「女性」と言ったところで体をビクッと震わせてしまった。

 

 

(美星さん、今のシャルルさんの反応をみましたか?)

 

『この子は自分が女である事を隠す気があるんでしょうか?』

 

 

 シャルルが女性である事をほぼ確信している太郎だけでなく、美星も呆れてしまう程にシャルルの反応は分かり易かった。

 

 

「な、なんで、きゅっ、急にそんな事を聞くんですか?」

 

「いえ、一夏の例もありますしシャルルさんも彼と同じ様な嗜好なら気を使う必要があるかと思いまして」

 

 

 慌てた様子で問い返すシャルルに太郎は何食わぬ顔で答えた。

 

 

「僕は、女の子とつ、つ、付き合った事は無いよ。でも、それは同性愛者だからとかじゃなくてISの訓練とかで忙しかったから!」

 

 

 シャルルは早口でそう言った。その間、太郎はシャルルの表情や仕草を注意深く観察していた。今のシャルルは自分の髪や口元を頻繁に触っている。シャルル自身は自然な仕草だと思っているかもしれないが、太郎から見れば落ち着かない様子に見えた。

 

 

「そうですね。希少な男性IS操縦者が身内であればデュノア社も随分張り切って訓練やデータ取りをしたんじゃないですか?」

 

「う、うん。た、大変だったよ。」

 

 

 シャルルの目線がキョロキョロしている。太郎は獲物が罠にかかってもがいている様子を見ている気分だった。

 

 

「私も政府からの要請でここに来たんですが、行動の自由がかなり制限されていて大変なんですよ。シャルルさんも政府から言われて来たんですか。それともデュノア社の方からですか?」

 

 

 太郎は自分も貴方と同じで大変だったと親近感を持たせる様な事を言いつつ、シャルルが【デュノア社】の名前が出た時に一瞬表情が暗くなったのを見逃さなかった。

 

 

(この様子を見る限りシャルルさんは、おそらく【デュノア社】もしくは【父親であるデュノア社長】によって半強制的にIS学園に来る事になったんでしょう)

 

『どうしますか、マスター?』

 

(彼女次第ですよ)

 

 

 太郎は美星と話しながらシャルルをどうするか幾つかの案を考えていたが、それもシャルル本人の意思次第で変更する必要がある。

 

 

「・・・僕はデュノア社、ううんデュノア社長に、父に言われて来たんだ」

 

 

 そう言ったシャルルの表情は今の状況がシャルル自身も不本意だと告げていた。

 

 

「デュノア社長は貴方にIS学園へ男装をして行けと言ったんですか?」

 

「えっ!?・・・・ちが、僕はおと・・・・・」

 

 

 突然、太郎に男装と言われたシャルルは慌てて否定しようとしたが出来なかった。太郎の顔は疑っている表情ではなかった。太郎の表情は確信に満ちている。太郎が確信を持って自分を男装だと言っていると理解したシャルルは誤魔化す事を諦めたようだった。

 

 

「あっさり諦めるんですね。まあ、男だと言い張ったところで貴方の体が女である事は誤魔化しようがないでしょうが」

 

 

 太郎はシャルルの肩をポンポンと叩きながら言った。

 

 

「・・・・・なんで分かったんですか?」

 

「普通に見ていれば分かりますよ」

 

 

 シャルルの疑問に太郎は事も無げに言った。太郎の言った【普通】と言うのが一般人の言う【普通】とは一線を画すものだと、この時のシャルルには分からなかった。だから、ショックを受けた。

 

 

「・・・・・普通に女の子に見えたんだ。・・・ははっ、それじゃあ、みんな心の中では僕の事を馬鹿にしてたんだ。バレバレな男の格好をしている姿を、下手くそな演技を笑っていたんだ。これじゃあ道化だよ」

 

 

 項垂(うなだ)れるシャルルを太郎は黙って見ていた。

 

 

「・・・・それで僕をどうするの。学園の職員に突き出すの?」

 

「貴方はどうしたいですか?」

 

 

 太郎はシャルルの問いに対して問い返した。

 

 

「ふざけているの!僕に選択肢なんて無いよ!!」

 

「本当にそうでしょうか。・・・・・では私が貴方に3つの選択肢を与えてあげます」

 

 

 シャルルは太郎が馬鹿にしているのかと思って怒鳴ったが、太郎はそんな事は気にもしなかった。

 

 

「1つ目、自首する。2つ目、私と取引をする。3つ目は私の仲間になる。どれでも好きなものを選んでください」

 

 

 シャルルは太郎の提案に困惑していた。

 

 

「2と3は何が違うの・・・・」

 

「2は何らかの対価を私に支払う事で貴方が女である事に目を瞑り、場合によっては追加の対価で貴方の事をフォローしてあげます。3は私と志を同じくする仲間となるという事です」

 

 

 太郎の説明を聞いてもシャルルはその内容が良く分からなかった。

 

 

「僕に支払える対価なんて無い・・・・。それに志なんて言われても・・・・」

 

「対価など幾らでも支払いようはあるでしょう。それと仲間と言うのは単純です。私は何ものにも縛られず、ただ己が道を逝く事を信条としています。その道を共に歩む者、その全てが私にとっての仲間と言えます」

 

 

 太郎の言っている事自体は分かるが結局自分がどうすれば良いのかシャルルには分からなかった。ただ【何ものにも縛られず】という言葉が耳に残った。

 

 

「・・・何ものにも縛られず」

 

「そうです!私はこれまでも無理解な者達によって信じる道を逝く事を妨げられてきました。敵は強大で何度も挫けそうになりました。そして、ついには敗北し自由の大半を奪われる目にも遭いました。しかし、私は諦めたりはしない。私は以前より強くなりました。心強い仲間を増やし、狡猾さも得ました。私はもう止まらない!!!」

 

 

 

「私は自由だ!!!」

 

 

 熱く語る太郎をシャルルは眩しそうに見ていた。

 

 

 

 

 

 【何者にも縛られない自由】それは今のシャルルにとって何より欲している物だった。

 

 優しかった母は死に、父親は愛人に産ませた子供である自分を道具としてしか見なかった。

 

 父親の本妻には恨まれ家族と呼べる者は誰もいなかった。

 

 何処にも居場所の無い自分は生きる為に父親の命令に従い続けた。

 

 「こんな事はもう嫌だ」何度その言葉を飲み込んだか。

 

 出口のないトンネルを走り続けているようだった。

 

 だから、強く輝く光に・・・・【何者にも縛られない自由】に

 

 手を伸ばしてしまった。

 

 

 

 

「・・・・・どうすればその【何者にも縛られない自由】は手に入りますか?」

 

 

 シャルルの問いかけに太郎は右手を突き出し、何かを掴む仕草をして見せた。

 

 

「求めよ、勝ち取れ、口を開けて待っているだけで得られる物などに価値などありません!」

 

 

 シャルルは太郎の突き出された右手を両手で包み込んだ。

 

 

「太郎さん、僕を貴方の仲間にしてください。【何者にも縛られない自由】を勝ち取る強さを学ばせてください!僕の名前はシャルルじゃない!シャルロットだ!!もう、あいつ等のいう事なんか聞くもんか!」

 

 シャルロットは選択した。その選択がより過酷な道であるとは気付かなかったが。

 

 太郎は得た、仲間であり初めての教え子を。

 

 

 

 




今週は隔日で投稿します。

シャルからは闇の波動を感じるので太郎さんの教え子にしました。

色々やって貰う事になるでしょう。


それと太郎さんは有言実行の人物です。そして太郎さんはある人物を評して串刺しにすると言っています。そして、太郎さんから見てその人物と少し被るキャラが存在します。

聡明な皆さんならもう次の話がどうなるか察したはずです。


読んでいただきありがとうございます。

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