「よし、午前の実習はここまでだ。午後は今使った訓練機の整備を行うから、格納庫に先程のグループごとに集合しておけ。専用機持ちは自分の専用機だけでなく、担当グループの訓練機も見ることになるからな。では、解散」
ISの歩行訓練が終了し、各グループが訓練機を格納庫に移動させたところで千冬が解散の号令をかけた。大半の生徒達は初めての実機訓練を行った事もあり、訓練の事を少し興奮した様に仲の良い者達と話しながら食堂へと向かっていた。
「なあ、シャルル。良かったら昼食は一緒に食べないか?」
「うん、いいよ」
一夏はシャルルが転校して来たばかりで、右も左も分からないだろうと思いシャルルを昼食へと誘った。一夏は他にも箒や鈴、それと太郎を誘った。太郎を誘ったらセシリアも付いて来た。天気も良いので屋上で食べることにした。
太郎とシャルルはパンとジュースを買って来ていた。箒、鈴、セシリアは自分で作った弁当を持って来ていた。一夏は箒と鈴がパンを買う必要は無いと言ったので手ぶらであった。
箒は手に持っていた弁当を一夏に渡した。
「パンや学食ばかりでは栄養が偏るぞ。た、た、偶には私が作ってやらんこともないぞ」
「お、おう。サンキューな」
IS学園は各国のエリートが集まっている。その為、学食一つとっても普通の学校とは比べ物にならない程に豪華である。そして、栄養に関しても専属の栄養士を雇って管理しているので極端な好き嫌いをしなければ偏ったりはしない。ただ、今回の一夏は珍しく空気を読んでその点について指摘せず感謝の言葉だけを言った。
「一夏、これあげる」
鈴がそう言ってタッパーを一夏に向かって投げ渡した。
「おっ、これ酢豚じゃん!」
「食べたいって言ってたでしょ」
箒と鈴が一夏に弁当などを渡しているのを見てセシリアも意を決してバスケットをテーブルに置いた。
「わ、わたくしも今朝は早くに目を覚ましてしまったので作ってみましたの。太郎さん、そのパンだけでは足りないでしょう?こちらもどうぞ。量はあるのでデュノアさんや一夏さんもどうぞ」
セシリアがバスケットを開くとサンドイッチが隙間無く入っていた。
「鈴もセシリアもありがとう」
「オルコットさんありがとう。後で貰うね」
「セシリアさん、ありがとうございます。では皆さん、そろそろ食べましょうか」
一夏とシャルルがセシリアに礼を言った後、太郎の言葉で食事が始まった。一夏が最初に手を出したのは意外なことにセシリアのサンドイッチだった。
何故、一夏がそうしたか?
それは箒と鈴が凄い目で一夏の事を見ていたからだ。「どっちの物を先に食べるつもり?」と顔に書いてあった。箒と鈴は互いに牽制までし始めたので、一夏はどちらかを選ぶ事を避けてセシリアのサンドイッチを選んで逃げたのだ。それが最も最悪な選択であるとは今の一夏には分からなかった。
「ちょっと、何でアタシの酢豚から食べないのよ!」
「私が一番最初に渡したのだから私の物から食べるべきだ!」
「さ、最初は軽めの物から食べたかったんだよ」
怒る鈴と箒に苦し紛れな言い訳をしつつ、一夏はサンドイッチを口に入れ・・・・・その動きを止めた。 そのまま一夏は上半身をテーブルに投げ出す様に突っ伏した。口からサンドイッチを半分程ハミ出だした状態で一夏は痙攣しだした。
その場が沈黙に包まれた。
セシリアと一夏以外の全員が一夏の口からハミ出たサンドイッチを見ていた。そして、次にセシリアに視線を移した。彼らの目がセシリアに問いかける「サンドイッチに何を入れたんだ?」と。
「セシリアさん、何と言う毒物を盛ったのですか?今ならまだ一夏も助かるかもしれません」
「わ、わたくしは
太郎の問いにセシリアは犯行を否認していた。その横で箒と鈴が一夏を激しく揺すっていた。
「一夏!大丈夫か!?目を覚ませ!!!」
「す、すぐ救急車呼ぶから、それまで耐えて!!」
箒と鈴が必死で一夏に呼びかけているのをシャルルは心配そうに見ていた。
「とりあえず鈴さんは一夏が口に入れたサンドイッチを吐き出させてください。篠ノ之さんは救急車を呼んでください。残りの人は私と他のサンドイッチを調べましょう」
このままでは埒が明かないと太郎が全員に指示を出す。それぞれが指示の下に動き始める。
セシリアはバスケットに残っているサンドイッチを手にとって顔に近付け匂いを嗅いでみた。その瞬間、セシリアの鼻腔をツーンとした刺激臭が襲う。セシリアは涙ぐみながらサンドイッチをバスケットに戻した。
「これは無理ですわ。食べられるような物ではありませんわ」
このセシリアの言葉に彼女以外の全員が「そんな物を持ってくるな」とツッコミを入れた。
(美星さん、サンドイッチに毒物などが入っているか調べられますか?)
『スキャンしてみましたが毒物反応はありません』
太郎は美星の言葉に少し驚いていた。
(一夏があんな反応を示しているのに毒物が入っていない?)
『致死性の物質は確認できません』
このままでは何も分からない。それに致死性の物質は入っていないと言う美星の言葉を信じて、太郎は覚悟を決めた。一夏が食べた物と同じ色の中身を挟んだサンドイッチを手に取りソースを小指ですくった。そして、ペロリと一舐めした。
「・・・何の味も感じませんね?」
太郎は不思議な事に何の味も感じなかった。しかし、舐めてから数秒後にそれは起こった。太郎は突然痙攣し始めると立ち上がり両手を鳥の翼のように羽ばたかせながら屋上を走り回った。そして、フェンスに向かって行った。
「I can fly!!!!!!!!!」
そう叫びながらフェンスをよじ登ろうとする太郎をシャルルが後ろから抱きついて必死で止める。
「無理だから!飛べないから!!」
シャルルの必死の制止が効いたのか何とか太郎は止まった。まだフラフラとしていた太郎は意識をはっきりさせようと頭を振った後に深呼吸した。シャルルは心配そうに太郎の顔を覗き込んだ。
「あの・・・・山田さん、何があったんですか?」
「・・・・・・・急に目の前が光に包まれて、全身が軽く感じたんです。まるで体ごと意識が飛んでいきそうな、そんな感じでした」
「アレはもう触らない方が良いと思います」
太郎はシャルルに頷いた。頼まれても再度口にする勇気は太郎にも無かった。
鈴が一夏を介抱していると一夏は飲み込んだ分のサンドイッチも吐き出し咳き込みながら意識を取り戻した。
「い、一夏!気が付いたの!?」
鈴の叫びに反応して一夏は顔を上げた。一夏は心配そうに自分の事を見ている鈴の両肩掴んで叫び始めた。
「りーーーん!!どうしたんだお前!何で肩の部分の布が無いんだ?落としたのか?布が足りなかったのか?あ・・・・それと何かゲロ臭くないか」
ブチ切れた鈴に一夏は蹴り飛ばされてしまった。
「ゲロはアンタが吐いたんでしょ!!!」
蹴り飛ばされた一夏は地面を転がり箒の足元で止まった。箒は自分の足元に転がって来た一夏に驚いていた。
「だ、大丈夫なのか?おい凰!なんて事するんだ!!」
「そいつが悪いのよ!!」
箒は鈴を怒鳴ったが、それより一夏の状態が心配なのか一夏の様子を見ようと
「箒、俺はこの位の年で黒い下着はどうかと思うぞ!白だ!!パンツは白しかない!!!白+下着=最高という方程式。これが人呼んで白式だああああ!!!!」
一夏のその言葉を聞いた箒は無言で一夏を踏みつけた。そこに鈴も参加してストンピングの嵐となった。実は一夏から黒い下着に見えたのはISスーツであった。女生徒はISスーツを着替えるのが面倒な時はISスーツの上から制服を着てしまう場合も多いのだ。
箒と鈴のストンピングが激しくなっていくのを見て流石に太郎とシャルルが止めに入った。
「二人ともその辺でいいでしょう。今の一夏は普通の状態ではありませんから、おかしな発言をしても真に受けては駄目ですよ」
「大丈夫?一夏?」
度々、理由のよく分からない事で暴力を振るう2人の幼馴染。それに比べて優しい太郎達2人。一夏は箒達の暴行を止めた太郎とシャルルをキラキラした目で見ながら、その足に縋り付いた。
「やっぱり、男同士っていいな」
「ひっ!」
シャルルは咄嗟に太郎の背中に隠れてしまった。箒と鈴がストンピングの嵐を再開した。今度は太郎とシャルルも止めなかった。屋上には一夏の叫びだけが響いていた。
「いたっ、いたっ、はあーはあー。光ぐぁぁおれええを包むぅぅぅ!どうした!!そんなものかああまだおれはいっていなぞおう!!!?くっ、俺はこんな暴力にぃぃいくっしたりいいいしない!!!!!」
一夏は結局救急車で病院に搬送される事は無かった。IS学園は下手な病院よりも医療設備やスタッフが揃っているので学園内で処置された。ただ病院に搬送されなかった理由はそれだけではなかった。一夏は明らかに正気ではなく、そのうえ制服には無数の靴跡が付いていた。騒ぎを聞きつけてやって来た学園職員が一夏のこの姿を見て薬物の使用と他の生徒から暴行を受けていたという事を推測して不祥事を表に出せないと学園内だけで事を治めたのだ。
ちなみに検査の結果、一夏の体内から毒物や違法な薬物の反応は無かった。
一夏「暴力などに屈したりしない!!!」
↓
一夏「サンドイッチと暴力には勝てなかったよ(アヘ顔ダブルピース)」
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