ISー(変態)紳士が逝く   作:丸城成年

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第30話 不遇な鈴の音

第2グラウンド

 

「本日からIS実機を使用した訓練を始める。気を引き締めて望むように」

 

「「「はい!!!」」」

 

 

 千冬の言葉に1組と2組の生徒達が力強く返事をした。千冬の言葉だからという理由だけでなく、専用機を持っていない生徒は入学からここまであまりISに触れる機会がなかった。その為に気合が入っている。

 

 申請すればIS学園は放課後に訓練機を貸し出すシステムになっている。しかし、訓練機の数は限られているし予約制で簡単には貸し出しては貰えない。その為、専用機を持っていない生徒達にとってはIS実機を使った本格的な訓練がやっと始まると気合も自然と入ってくるのだ。

 

 

「だが、訓練の前に実戦がどういうものか見てもらう。オルコットと凰は前に出ろ!」

 

「なんでアタシが・・・」

 

「わたくし見世物みたいで気が進みませんわ・・・」

 

 

 千冬の指示に鈴とセシリアは文句を呟いていたが、千冬に聞こえるように言う程に蛮勇でもなかった。ただ、聞えるように言ってないだけで、誰が見てもしぶしぶといった感じで前に出た。そんな2人の様子を見て千冬は彼女達だけに聞こえる小さな声で囁いた。

 

 

「アイツらに良い所を見せるチャンスだぞ」

 

 

 

「太郎さん、見ていてください。イギリス代表候補生としても、クラスの副代表としても恥ずかしくない実力をお見せしますわ!」

 

「専用機持ちの実力を見せてあげるわ!」

 

 

 セシリアは太郎に、鈴は一夏に良い所を見せようと、やる気が一気に高まった。太郎は「ちゃんと見ていますよ」と笑顔でセシリアに応えていた。そして、一夏の方は鈴がなぜ急にやる気を出したのか不思議に思っていた。鈴が報われる日は来るのだろうか。

 

 

 

 

キイイイィィィーン

 

 

 その時、突然上空から空気を切り裂くような音が聞こえて来た。

 

 その場にいた全員が空を見上げると何かがこちらに向けて高速で落下して来ていた。そして、ソレは一夏の上に墜ちた。

 

 

ズドォォォゥンン

 

 

 凄まじい音がしてソレは一夏もろとも10m程転がり止った。

 

 しばらくすると舞い上がった土煙が晴れる。

 

 そこにはISを装着した真耶に覆い被さり男の夢と希望が詰まってハチ切れそうな胸を鷲掴みにしている一夏の姿があった。

 

 

(この衆人環視の中で堂々と犯行を行うとは・・・一夏、やりますね!)

 

『一夏君は常人の一歩先を進んでいますね』

 

 

 太郎と美星が一夏を賞賛している頃、真耶は顔を赤らめ恥ずかしがっていた。

 

 

「お、お、織斑君・・・駄目です。皆が見ていますから・・・・。あああっ、でも、このままいけば織斑先生が義姉さんに!!」

 

 

 真耶の表情は明らかに悦んでいる。

 

 

『とんだクソビッチじゃないですか』

 

(それはそれで良い事もありますよ。病気には気を付けないといけませんが)

 

 

 呆れたように言った美星に太郎が反論した。

 

 一夏はいつまで経っても真耶の胸を鷲掴みにしたままで動かない。それを見て怒りに震えていた鈴が実力行使に出た。鈴はISを瞬時に展開した。

 

 

「いちかぁぁーーー、いつまでそうしてるのよぉぉぉ!!!!!」

 

 

 そして2本の青龍刀(双天牙月)を連結して一夏へと投げた。一夏は咄嗟に地面に転がるように避けたが、無常にも双天牙月がブーメランのように戻ってきた。

 

 

「げええっ」

 

 

 体勢の崩れていた一夏は向かってくる双天牙月をどうする事も出来なかった。しかし、双天牙月が一夏に当たる事は無かった。

 

 ドンッドンッ!

 

 2発の銃声がグラウンドに響き渡った。銃弾によって双天牙月は明後日の方向に飛んで行った。その場にいた全員が銃声のした方向を見た。そこには伏射姿勢でアサルトライフルを構える真耶がいた。

 

 真耶本人と千冬と太郎以外の全員が唖然としていた。いつもは頼りない感じの真耶だが、今の射撃技術と雰囲気は(まさ)に実力者といった感じであった。

 

 しかし、太郎は別の所に注目していた。太郎は伏射姿勢になった真耶の胸が地面に押さえ付けられて形を変えているのを凝視していた。

 

 

(あの胸で溺れたい!)

 

 

 太郎は真耶の巨乳に顔を押し付け、挟まれて窒息する程に圧迫されたいと思っていた。太郎がそんな欲望に満ちた目で見ているとは誰も気付かなかった。

 

 

「山田先生は元代表候補生だからな。あの程度の射撃は造作も無い」

 

「む、昔の事ですよ。結局、代表にはなれませんでしたし」

 

 

 真耶は千冬の評価が恥ずかしかったのか起き上がって否定した。この時にはもう先程までの実力者然とした雰囲気ではなく、いつもの雰囲気に戻っていた。

 

 

「それでは凰、オルコットの2人は準備しろ。お前達には山田先生と闘ってもらう」

 

「いや、流石に・・・・ね?」

 

「ええ、2対1では勝負にならないと思いますわ」

 

「心配するな。今のお前達では勝負にならん」

 

 

 勝負にならないとまで言われた2人は、流石に反発を覚えたのかムッとしていた。特に入試の実技で試験官であった真耶を倒しているセシリアは真耶を侮っていた。

 

 入試の実技試験程度でIS学園の教師が本気で受験生と戦う事など無いのだが、セシリアはそんな事を想像もしていなかった。セシリアはブルー・ティアーズを展開し、既に甲龍を纏っていた鈴に並んだ。

 

 

「準備はできたな?・・・では、始め!」

 

 

 千冬の開始の合図に3人は空へと翔け上がった。先制攻撃を仕掛けたのは鈴とセシリアだった。龍咆の連射とスターライトmkⅢのビーム攻撃を真耶は軽々と回避して見せた。

 

「デュノア、山田先生の機体はお前の所のISだったな。ちょうどいい説明してみせろ」

 

「あっ、はい分かりました」

 

 

 シャルルは千冬に頷き3人の空中戦を見ながら解説を始めた。

 

 

「山田先生の使用ISは【ラファール・リヴァイヴ】です。フランス、デュノア社製の第2世代型ISの最後期の機体です。スペックは第3世代型初期の物にも劣らない、現在配備されている量産型ISの中ではシェア世界第3位を誇る名機です。操縦性の良さと後付武装の豊富さで、操縦者や使用状況を選ばない高い安定性と汎用性が特徴の機体です」

 

「うむ、そこまでで良い。そろそろ終わる」

 

 

 千冬はシャルルの説明をキリの良いところで止め、戦闘が終わる事を告げた。

 

 セシリアと鈴は全くと言っていい程、自分達の持つ実力を発揮出来ずにいた。真耶は常にセシリアの射線上に鈴が来る様に闘っていた。自らそういう位置に移動することもあれば、セシリアや鈴を攻撃によって誘導したりもした。完全にセシリア達2人は真耶の掌の上だった。

 

 決着は呆気ないものだった。セシリアと鈴は真耶の射撃に誘導されて、互いにぶつかり合ってしまった。そこへグレネードを投げつけられ爆発に巻き込まれてしまった。機体の制御を出来なくなった2人は地面に墜ちていった。

 

 太郎は自分の近くに落ちて来たセシリアを瞬時にISを展開して受け止めた。しかし、鈴は不幸な事に誰もいない方向に落下していたので誰にも助けてもらえなかった。

 

 

「大丈夫ですか?セシリアさん」

 

「え、ええ。お恥ずかしいところをお見せしました」

 

「流石はIS学園の教師と言ったところですか。相手が悪かったですね」

 

 

 セシリアは悔しがりつつも、この状況を喜んでいる節があった。それを鈴は羨ましそうに見ていた。

 

 

「一夏!!なんでアンタはあたしを受け止めないのよ。先生は受け止めたのにあたしが相手だと嫌なの!?」

 

「無茶言うなよ!いくらなんでも距離が離れすぎてたから!!」

 

 

 鈴は一夏の言葉を頭では理解していたが、感情的には納得いかないのか未だ不機嫌そうに唸っていた。

 

 

「さて、IS学園教員の実力を諸君も少しは理解しただろう。これからは敬意を持って接するように。それでは実機による歩行訓練を始める。専用機持ちは5人だな。専用機持ちをリーダーとして5つのグループに分かれろ」

 

 

 千冬の指示に生徒達が思い思いの専用機持ちの所へと散った。

 

 

「山田さん、教えてー」

 

「やっぱり代表が1番強そうだしね」

 

「山田代表、自分は何処までも付いて行きます」

 

「筋肉は裏切らない」

 

 

 太郎の所には15人位集まっていた。そして、やはり他の男性操縦者である一夏やシャルルも人気だった。

 

 

「織斑君、私は信じているからね」

 

「やっぱ顔はいいしね」

 

「シャルルく~ん、手取り足取り教えてぇ~」

 

「第一印象から決めていました。宜しくお願いします。王子様」

 

 

 そんな盛況な3つのグループをぼーっと見ている人間が2人いた。

 

 セシリアと鈴だった。

 

 2人の前には誰もいなかった。

 

 

 

 

 やはり生徒達も年頃の女の子である。IS学園では会話する事も少ない異性に興味津々で・・・はっきり言って飢えている獣の様に3人の男性IS操縦者に群がっていた。それについ先程、かなり情けない姿を晒したセシリア達にわざわざ教わろうとも思わないのだろう。

 

 

「いっそ、わたくし太郎さんのグループに入りたいのですけど・・・・」

 

「あたし、これでも国家代表候補生なんだけどなー」

 

 

 セシリア達が寂しそうに3つのグループを遠巻きに眺めていると、鈴の手を引く者がいた。鈴が振り向くとそこには身長170cmを超える、女性としては大柄な生徒がいた。

 

 

「あ、あ、あの、私は凰さんに、お、お教えてもらいたいんですが」

 

「・・・・・ふふーん、まっ分かる人には分かるのよ。誰がホントの実力者なのかってことが」

 

 

 鈴は勝ち誇った表情でセシリアに言った。セシリアは「うぅ~」と唸るしかなかった。

 

 

「わ、私はどうしても凰さんが良く・・・て、はぁ、はぁ。ほ、ほっ、他の人が男の人の方に集まって良かったです。はぁ、はぁ」

 

「えっ・・・・?」

 

 

 大柄な女生徒は何故か息が荒く、鈴が不穏な空気を察知した時には両肩を掴まれていた。

 

 

「はぁー。やっぱり肌がすべすべして、はぁはぁ。ちょ、ちょっとだけならいいよね・・・」

 

「えっ、ちょっ、待って。放して、誰か助けて!」

 

 

 鈴が慌てて周りを見たが、セシリアは「凰さんは本当に人気者なんですね。羨ましいですわ。おほほほほ」と言って離れていった。

 

 鈴の危機を救ったのは千冬だった。

 

 

「この馬鹿共が!5つのグループに分かれろと言ったはずだぞ。こんな事もまともに出来んのか!?もういい、出席番号順でこちらが振り分ける!!!」

 

 

 千冬はグループに分かれることすら普通に出来ない生徒達に業を煮やし怒鳴りつけた。普段は千冬の事が苦手な鈴もこの時ばかりは千冬が女神に見えた。

 

 

 

 

 グループ分けが済むと後はスムーズに進むかと思われたが、そうはいかなかった。女生徒達がISを降りる際にわざとISを直立させた状態にするようになったのだ。こうしておけば次の生徒が乗る際にグループリーダーが抱えて乗せる必要が出てくる。後の女生徒達がお姫様抱っこをしてもらいたいが為に訓練機を操縦している生徒へ無言の圧力をかけ続けた結果、訓練する生徒が交代する時に毎回ISを直立させた状態で前の生徒が降りるようになった。そして、毎回リーダーが生徒を抱えないといけない状況が続いてしまっていた。

 

 ただ、これを一番楽しんでいたのは女生徒ではなく太郎だった。太郎の主義の関係で自分を慕うクラスメイト達を相手に性犯罪じみた事は控えていたが正当な理由があるなら話は別である。

 

 

(抱きかかえないと訓練機に乗せられない。これは仕方がない。仕方がないんです)

 

 

 太郎はあえてスラスターなどの飛行に必要な部分だけを展開して極力生身で触れられるようにしていた。そして今、太郎が抱えているのは布仏 本音であった。大艦巨砲ならぬ小艦巨砲という反則の様な装備を持つ本音を抱えて、太郎は幸せいっぱいである。太郎は必死で表情を作っていた。この状況で平静を装うのは至難の業である。

 

 

(良い感触です。良い香りです。良いISスーツです)

 

「タローから何か悪いオーラが出てるー」

 

 

 本音は太郎に不穏な何かを感じたのかそう言った。

 

 

「心外です。確かに私は貴方を抱きかかえる事で幸せを感じていますが、決して他意はありません」

 

 

 太郎はそう言いながら本音を訓練機に乗せて指導を始めた。その様子を他のグループに割り振られた静寐が羨ましそうに見ていた。

 

 少しすると全員慣れてきたのか、ほとんどのグループが大きな問題もなく実習を進行していた。しかし、あるグループだけ何か揉めている様だった。

 

 一夏のグループだった。

 

 どうやら直立状態のISに次の生徒を抱えて運ぶか、一夏が踏み台になって乗るかで揉めている様だ。

 

 

「よし、じゃあ俺が踏み台になる」

 

 

 一夏がそう言っているのを太郎は聞いた。

 

 

「ヒュー、一夏は飛ばしてますね」

 

『自分を貫くその姿勢、私は評価しますよ』

 

 

 太郎と美星は一夏の攻める姿勢に関心していた。

 

 

 

 

 

 

 

一夏視点

 

 

 訓練機に次の生徒を乗せる為に抱えて飛行しようとしたら箒が怒鳴ってきた。わざわざ抱える必要は無い。踏み台になれとの事だ。酷くないか?

 

 まあ、クラスメイトをお姫様抱っこするのは確かに俺も恥ずかしいがコッチの方が手っ取り早いと思う。太郎さんも実習前に女子の追跡を振り切る為にシャルルのことを抱えて平気な顔で走っていたし、必要なら別に恥ずかしがるような事ではないんだろう。

 

 そんな事を考えながら訓練中の生徒にアドバイスをしていると彼女は直ぐ上手く歩行出来る様になった。次の人に交代しないといけない。

 

 

「そろそろ交代だから次の人は誰?」

 

「私だ」

 

 

 次は箒の番だった。箒はさっき抱えるのは必要無いと怒鳴っていたし、不本意だけどここは踏み台になった方が良いのだろうか。

 

 

「箒は抱える必要はないって言ってたよな?」

 

「・・・・まあ、そうは言ったが抱えて運んだ方が早いかもしれんな。うん、本当に本当に嫌なんだがお前がどうしてもと言うなら・・・」

 

 

 結局どっちなんだ?実習の時間は限られているし、箒の話は長くなりそうだ。仕方がないよな。

 

 

「あー。よし、じゃあ俺が踏み台になる」

 

 

 俺がそう言うと箒が怒り出した。何でだ?俺だって踏み台なんかになりたくないけど、箒が嫌がるかと思って抱えて運ぶんじゃなくて踏み台になることを選んだのに。

 

 太郎さんが俺に向かって親指を立ててサムズアップのジェスチャーをしているのが見えた。爽やかな笑顔だった。やっぱり俺の選択はあっていたのか?

 

 

 

 

 




読んでくれてありがとうございます。


鈴には変態を惹きつける何かがある(確信


原作ではこの時点で実機に授業で触れていると思いますが、この話では今回が初の実機訓練という設定で書いています。

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