「それではっ!山田 太郎さんの1年1組クラス代表就任を祝してー。かんぱーい!!」
「「「乾杯!!山田代表おめでとー!!!」」」
食堂のあちこちでグラスが掲げられた。ここは1年生用の食堂で、今は太郎のクラス代表就任パーティーが開かれていた。何故か1年1組のクラス代表就任パーティーなのに他のクラスの人間も多かった。というか生徒会長の
楯無まで出席していた。それも太郎の隣にいた。
パーティーが始まると出席者が次々と太郎の元に挨拶に来た。しばらくしてそれが終わると次に新聞部の人間が太郎の取材を始めた。
「はじめまして、新聞部副部長黛 薫子です。今日は話題の新入生山田 太郎さんの取材に来ました~!」
「「お~!」」
薫子の言葉に周囲が沸き立つ。
「では最初にクラス代表になった感想を聞かせてください」
薫子はボイスレコーダーを太郎に向け一字一句聞き逃さないといった意気込みだ。それに対して太郎は気負う事なく、しかし当然の事のように目標を言う。
「クラスの仲間達と共に1年1組を最高のクラスにします」
「「オオオオオーーー!!!!」」
自信に満ちた太郎の言葉に周囲にいた1年1組の生徒達が拳を突き上げ雄叫びを上げ始める。周囲のあまりに激しい反応に薫子は動揺してしまう。
「す、すごい人気なんですね。セ、セシ、リアちゃんもコメントお願いします」
「太郎さんが最高を目指すというなら共にそれを目指すだけですわ」
太郎の傍に控えていたセシリアもさらっと答えた。次に取材開始当初から気になっていた事を太郎と楯無に聞く。
「なんでたっちゃ・・・。更識生徒会長がここにいるんですか?」
「「魂の盟友ですから(だからよ)」」
薫子は楯無と仲が良いのだがこんな楯無は初めて見た。それに「魂の盟友」という物が何なのか理解できず困惑してしまう。ただ自称ジャーナリストの勘が告げている。絶対に触れない方が良いと。それは生まれて十数年の人生の中で最も素晴らしい勘働きであった。しかし、この時の「魂の盟友」発言は周囲にいた人間によって学園中に広まった。
曰く、1年1組クラス代表である山田 太郎は学園最強更識 楯無が認めた男であると。
そうなる事も知らず薫子はもう1人の話題の人物、織斑 一夏にターゲットを移す。
「織斑君はどうです?模擬戦では山田さんに負けましたが、その時のことを聞かせてもらっても?」
一夏は負けた時の事を語るのは気分が乗らないらしく、テンションは低かったが質問には答えていった。
「どう?と聞かれても何も出来ずに負けちまったからな。太郎さんの攻撃は全部凄い衝撃だったし、一撃くらっただけで意識が持っていかれそうだったよ」
「ふんふん、【太郎さんのはす、ご、か、った】と。あと【意識がいかれそうだった】と。他には」
「次は負けない」
「下克上を狙っているんですね」
薫子はこの時、今回の記事はキテるな!!と確信していた。満足のいくネタが手に入った薫子はほくほく顔で帰っていった。この時の記事が後の悲劇を生む。
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1時間目の授業が終了し弛緩した空気の流れ始めた1年1組を襲撃する者があった。教室の扉が激しい音を上げ開かれた。そこにいたのはISを部分展開した凰 鈴音だった。突然現れた1年とちょっとぶりに見る幼馴染の姿に一夏は驚いた。
「鈴!?なんでこんな所にいるんだ!?」
「転校して来たのよ!それよりコレはどういう事なの!!!」
怒鳴りながら鈴が取り出したのは最新の学生新聞だった。そして、そこには・・・
【織斑一夏激白!!「太郎さんのは凄かった」「いかれそうだった」】
【織斑一夏は下克上を狙っている】
などという見出しが毒々しい色で印刷されていた。鈴が眉間に血管を浮き出る位怒りながら一夏と太郎に詰め寄った。
「ええええ、俺は単に模擬戦で負けた時の事を取材されて、太郎さんが凄かったって言っただけだぞ」
「でもクラスの子達も【織斑君のケツはガバガバ】とか【山田さんの下で今日も喘いでるはず】とか言ってたわよ」
「捏造だよ!?」
一夏は否定していたが、1年1組の生徒達も一夏の事を横目で見ながらもひそひそと話し合っていた。
「やっぱり・・・・」
「試合後にお尻押さえてたって聞いたよ」
「山田代表と違って自分から女子に話しかける事が少ないよね」
一夏に対する疑惑は強まっていた。しかし、もう1人の当事者である太郎は美星と関係の無い話で盛り上がっていた。
(凰さんの制服良いですね。私の顔を脇で挟むために露出させているんですかね)
『頼めば脇拓とか取らせて貰えないでしょうか。フィギュア製作の為により詳細なデータが欲しいです』
我関せずといった様子の太郎に鈴が矛先を向ける。
「何、関係ないって顔してるのよ。山田って言ってたわね。本当の所はどうなのよ!?」
鈴が太郎に向かって凄い剣幕で詰問したが、太郎は普通に「私はISと女性が好きですよ」と答えた。それを聞いて少数のクラスメイトが残念そうな顔をしていた。そして多数のクラスメイトは太郎のセリフより鈴の太郎に対する態度に激しく反応した。
「【さん】を付けろよ。ツインテール!!!」
「うちの代表にタメ口きいてんじゃねえぞダボが!?」
「そのうるせえツインテールをブッこ抜くぞ!!!」
1年1組の生徒達が鈴を口汚く罵り始める。流石の鈴もあまりの事に怯んでしまう。これを止めたのは太郎だった。掌を下に向けながら「落ち着いてください」と言うとすぐに口汚く罵っていた生徒達も静かになった。良く統率されていた。皆が落ち着くと太郎は鈴の前に歩み出る。
「凰さん、色々聞きたい事、言いたい事があるのは分かります。しかし、もうすぐ次の授業が始まりますし無許可のISの展開はバレると大変です。ここは大人しく一度自分の教室に帰った方良いと思いますよ」
「山田にしては良い事を言う・・・・ただしもう遅いがな」
鈴は自分の背後から急に聞こえてきた覚えのある声に慌てて振り向いた。そこには千冬が仁王立ちしていた。
「げえっ、千冬さん!!!」
「織斑先生と呼べ。それより無許可のIS展開は基本的に禁止されている。ただ今日の私は機嫌が良い。私が直々にISを外してやろう」
千冬は鈴の腕を掴み肩の関節を極めて捻りあげる。
「いたたたたた!!腕ごと外れる。ギブ、ごめんなさい、反省してます、勘弁して下さい」
「授業が始まるさっさと自分の教室に帰れ」
千冬はそう言うと鈴を廊下に放り出した。涙目の鈴は「一夏、後で話があるから覚えてなさいよ」と小者臭がする捨て台詞を言い帰っていった。千冬に関節を極められていた時、失禁しかけたのは内緒である。
美星はその様子を見逃しはせず動画として記録していた。喜んだ太郎は美星に何か欲しい物はないかと尋ねた。美星はワックスを希望した。自己修復機能のあるISにはボディの光沢が少し増すだけの効果しかないがIS用の高級ワックスで太郎にワックスがけして貰う事を美星は好んでいた。
今日は大人しめ。へいわだなー(棒