ISー(変態)紳士が逝く   作:丸城成年

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美の追求を前に善悪など瑣末な事


第17話 人はそれを「愛」と言う

 太郎はクラス対抗戦に向けて整備室で美星と協力してヴェスパの調整をした帰り、メモの様な物を見ながら何かを探している小柄な少女を見つけた。少女は大きなスポーツバックを肩に下げており、どうやら道に迷っているようだ。紳士を自称する太郎は直ぐに駆け寄り声をかける。

 

「お嬢ちゃん、道に迷っているのかな?おにいさんが目的地まで連れて行ってあげようか?」

 

 

 猫なで声で小柄な少女に声をかける姿は正しく変質者だった。ただ少女は明らかに不審人物な太郎の事を警戒もせず、持っていたクシャクシャになった紙切れを太郎に見せた。

 

「この本校舎1階総合事務受付って所に行きたいのよ」

 

「すぐそこですよ。案内します」

 

 

 少女を伴って歩き始めた太郎だったがいつもの様にレギオンで少女を盗撮していた。美星が不思議そうに聞く。

 

『いつも思うのですが、こういうのは貴方の言う紳士道に抵触しないのですか?』

 

(愚問ですね。少女の美しさは一瞬で消えてしまう輝きの様な物です。美を愛する者としてそれを記録し、この世に留めておく事は崇高な使命なのです。そして、いつの日かより大きな美として形になるのです)

 

『学習しました』

 

 

 太郎の力説に美星は納得した。同一人物であっても今日と明日では微細な違いが出るものである。今この瞬間の少女を撮る事は今しか出来ない。美星はまた1つ大切な事を学んだ。

 

 道すがら近くの施設などを説明していた太郎は少女が何か聞きたそうな表情をしているのに気付いた。

 

「何か他に聞きたい事がありますか?」

 

「あー、うん、貴方ってここの職員?」

 

 

 確かに太郎は年齢的には生徒より職員と言われた方が違和感は無い。

 

「いえ、違いますよ。申し遅れました。私は1年1組の生徒、山田 太郎と申します」

 

「えええ、じゃあ、アンタが2人目の男性IS操縦者なの!?」

 

「そうですよ」

 

 

 太郎が2人目の男性IS操縦者と知り少女は驚きの声を上げた。何せ世界に2人しかいない男性操縦者なのだから驚いても仕方がない。だが少女が本当に聞きたかった事は別の事であった。

 

「それじゃあさ、もう一人の男性操縦者の事知ってる?」

 

「一夏の事ですか?彼ならクラスメイトですよ」

 

「一夏、元気にしてる?」

 

「元気にしてますよ。貴方はもしかして一夏の知り合いなんですか?」

 

 

 少女は太郎の問いに答えようか、どうしよかと少し迷ったが結局答えることにした。

 

「・・・うん。一夏は幼馴染。でも一夏には私が来てる事は内緒にして欲しいの。驚かしたいから」

 

「いいですよ」

 

 

 太郎の言葉に少女は笑顔になる。

 

「そう言えば、まだ私の名前言ってなかったよね。凰 鈴音よ。よろしくね」

 

「はい、宜しくお願いします。さて、ここが目的の総合事務受付です」

 

 

 話している間に目的地に着いていた。鈴音は太郎に礼を言って受付で転入手続きを始めた。太郎も鈴音には聞こえないように

 

(いえいえ、お礼を言うのは私の方です。新たなデータが手に入りました)

 

 

 と礼を言って寮へと帰っていった。

 

 

 

 

────────────────────────────────────────────────

 

 

 太郎が寮に帰ってくると部屋の前で楯無が太郎の事を待っていた。

 

「お帰りなさい。それとクラス代表就任おめでとうございます」

 

「ありがとうございます。部屋でお茶でもどうです?」

 

 

 出会い方が酷いものだった為か楯無は緊張気味だった。太郎の方は気にしていないのか軽い調子で部屋へと誘った。

 

「はい、ぜひ。相談したい事があるので」

 

 

 普段の自由奔放な楯無を知る人間が今の借りてきた猫の様な楯無を見たら驚くだろう。太郎は鍵を開け楯無を招き入れる。そして、楯無は太郎の部屋に足を踏み入れた瞬間固まってしまった。

 

 

 

 

 そこにはセシリア・オルコットと篠ノ之 箒が無言で直立不動でそこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬き一つせず、直立不動な2人の様子を不審に思って楯無が近付いて触れてみるとそれは本人達ではなく等身大のフィギュアだった。驚く楯無をフィギュアの素晴らしい出来に感動しているのだと判断した太郎は自慢げに説明する。

 

「素晴らしい出来でしょう。実は知り合いに凄腕の職人がいましてね。この部屋はどうも殺風景だと前から思ってたんです。それで何か良い絵画かアンティーク家具でもあればと探していたんですが、いっそ作ってしまえと考え直しましてね」

 

 

 実はこのフィギュアを作った凄腕の職人というのは美星の事だった。ヴェスパの腕を工作用マニピュレーターに一時的に付け替え、先日収集したデータを(もと)に製作したのだ。IS学園の整備室は工具等も充実しており骨格から組み上げられ、太郎がその道の仲間に頼んで取り寄せた各種シリコンや人工皮膚などの特殊な素材を惜しみなく使って仕上げられた等身大フィギュアは不気味な程に精巧に出来ていた。

 

 太郎は驚いて固まっていた楯無を椅子に座らせ、紅茶を淹れて渡す。紅茶を飲んで一息ついて落ち着いた楯無は、フィギュアについてはとりあえずスルーする事にして改めて相談したい事を切り出した。

 

 

「相談したいのは学園のセキュリティについてなんです。今年は貴方や織斑君といった世界で2人しかいない男性IS操縦者が入学しました。その為、例年以上に厳重なセキュリティにしているんですが太郎さんから見て十分だと思いますか?」

 

 

 太郎は少し考えこんだ。確かにIS学園のセキュリティは厳重である。しかし完全無比かと聞かれるとそうでもない。コンピューター制御のセキュリティに関しては美星とヴェスパなら簡単に突破出来る。それに太郎自身も色々とバレると不味い事をやっているが今のところ止められたりしていない。太郎が何よりIS学園に入って驚いたのは即応戦力の貧弱さだ。

 

「ここに入る前に思っていたより貧弱ですね」

 

 

 太郎の率直な意見に楯無の顔色が悪くなる。

 

「そんなに駄目ですか?これでも前年に比べて増強しているんですよ」

 

 

 太郎は首を横に振り少し呆れた様子だった。

 

「どうもIS関係者はISを過信している傾向がありますね。確かにIS学園には多数の専用機や訓練機があり、国内でも有数の戦力があると言っていいです。しかし、ISを装着した兵士が常に哨戒しているわけでも無いので通常兵器でも十分攻略可能ですね」

 

「ちょっと待って、何かあればISを装備した教員達が対応するんだから!そんな事にはならない筈よ!」

 

 

 太郎の想像以上に厳しい言葉に楯無はつい素に近い感じで反発した。ただ太郎の方は楯無の言っている事など想定済みであった。

 

「その教員達は事態が発生してから何分でISを装備して現場に辿り着くのでしょうか?専用機を持っているわけではないんでしょう?それにISを装着する前にその教員達が襲われて無力化されないと何故信じきっているのか疑問ですね」

 

 

 太郎の意見は徹底的にシビアで楯無はぐうの音も出ない。反論しようにも有効な考えが思い付かなかった楯無は反論を諦めて太郎に対応法を聞くことにした。

 

「では、どうすればいいんですか?」

 

「先程ちょっと言いましたがISを装着した熟練者が2、3人哨戒しているだけで格段に違いますよ」

 

「熟練した操縦者を交代要員も含めて常駐させて、ISも警備用に数機用意するなんて流石に無理ですよ」

 

「その位して当然の価値がここにはあると私は思いますがね」

 

 

 太郎の言う事は正しいと楯無も思った。IS学園には各国の未来のエース達が所属しており技術の粋を集めた専用機を持った代表候補生も複数いる。本来であれば軍を施設内に常駐させてもいい位の重要施設である。しかし、だからと言って太郎の案をいきなり採用出来るわけでもない。とりあえずIS学園の真の運営者である轡木 十蔵に話してみるしかない。

 

 楯無が相談に乗ってもらった事に礼を言い帰ろうとした時、2体のフィギュアが目に入った。そして、ふと思った事を口にした。

 

「この人形、お願いすればいくら位で作ってもらえますか?」

 

「材料費で30万位ですかね。手間賃については趣味でやっているので気分次第といったところだと思います」

 

 

 楯無は少し考えた。30万円は安い買い物ではないが現役の国家代表であり、対暗部用暗部「更識家」の当主でもある楯無にとってはちょっと高い服を買うのと同じ位の感覚だった。

 

「じゃぁ、お願いしたいんですが・・・この()をモデルで」

 

 

 楯無が携帯端末で画像を出して太郎に見せた。写っていたのは楯無と同じ様な薄い水色の髪をした少女だった。

楯無とは違い大人しい雰囲気だった。太郎はその画像を興味深く見ていた。

 

「楯無さんのご家族の方ですか?」

 

「妹の簪ちゃんです」

 

 

 楯無の表情が少し陰っているのを太郎は察したが、あえてこの場で詮索しようとは思わなかった。別の事を聞く事にした。

 

「製作する際に基になるデータが多ければ多いほど精巧な仕上がりになるんですが他に画像などはありますか?」

「あります。いくらでも」

 

 

 太郎の問いかけに楯無は食い気味で答え、身長体重や3サイズ等の数的データや数え切れない程の画像データなどを太郎のPCへとコピーした。太郎がその画像データを開いてみると着替え姿やシャワーを浴びている姿なども多く含まれていた。極めつけは寝ていると思われる簪の服を脱がし様々な角度から撮影された画像まであった。

太郎は首を傾げる。

 

「これは盗撮では?」

 

「家族の思い出です」

 

 

 自分の普段の行いを棚に上げている太郎も酷いが、そう言い切る楯無も良い勝負である。そして楯無は血走った目で太郎に迫る。

 

「この位、データがあれば良い物が出来ますよね!?」

 

「もちろんです。最高の物が出来るはずです!!」

 

 

 太郎は自信に満ちた顔で力強く答えた。太郎の答えを聞いた楯無は踊りだしそうな位喜んでいた。

 

「それで代金の方ですが材料費は30万程度用意してもらえれば問題ないですが、手間賃代わりに楯無さんに用意して欲しい物があるんです」

 

「なんですか?」

 

 

 今の楯無の喜び様なら大体の物は二つ返事で用意するだろう。

 

「フィギュアに着せるIS学園の制服を用意して欲しいんです。もちろん各人のアレンジを反映した物をです。IS学園の制服納入業者はなかなか手強くて横流しの交渉が難航してまして、正規品は手に入れ辛いんですよ。楯無さんなら何とかなるかと思いまして」

 

「そうですね。その位の事なら簡単です」

 

 

 

 

 

 二人は熱い握手を交わした。

 

 

 

 

 この日、山田 太郎に新たな仲間が出来た。

 

 【更識 楯無】彼女は若くして暗部のトップに就いている。心の何処かで拠り所を探していたのだろう。かつて学園最強と呼ばれた少女は次に学園最凶への階段を登り始めたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『腕が鳴ります』

 

 そして美星は新たな美への挑戦に闘志を滾らせていた。

 

 

 

 

 




この様なキチ〇イ文章を読んでいただき有難うございます。


評価してくれた方々、本当に感謝感激です。





それにしても14話の「一夏 散華」ばっかりアクセス数が伸びているんですがそれは・・・・・。

ホ〇っすか!?  ここホ〇率高すぎぃ↑

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