当初、男性の復権を目指す過激派集団は太郎を誘拐するくらいの気概を持って南の島にやってきていた。しかし良心の欠片すら感じない太郎の扱いを目にし、作戦は自然と救出作戦へ変化していった。
具体的な手順は先ず代表候補生の少女達と太郎を引き離し、少女達はコネクトジャマーで無力化、太郎の方は保護した後速やかに女性至上主義者達の手が届かない場所へ連れて行く。女尊男卑の風潮により圧倒的な影響力の差が男女の間にはある。だが世界の半分は男なのだ。世界の全てが女の支配下にある訳ではない。
太郎には一時的に不自由な生活を強いる事になるだろう。それでも今の扱いよりは間違いなく良いはずだ。そして太郎の協力の下、研究を続ければ男もISを操縦する事が出来るようになるかもしれない。そうすれば、この狂った世界は正しい姿に戻る。これから決行される作戦がその第一歩になると参加する過激派集団のメンバー達は信じていた。
まずは太郎と少女達を引き離す為に一小隊が動く。隊員の一人が観光客相手のショップ店員に扮して話しかけた。
「そこのお嬢さん、旅の思い出に一つ何か買っていかれませんか?」
猫なで声で呼びながら男は内心では反吐が出そうな気分だった。この組織への参加のきっかけで一番多いのは、女尊男卑になってしまった世界で虐げられたというものだ。ただでさえ嫌悪対象である女なうえ、希少な男性IS操縦者を迫害しているのだ。しかも頭のおかしい恰好をさせて荷物持ちをさせるという狂った性癖持ちなのだから嫌悪感もひとしおだ。
シャルとセシリアはそんな男の憎悪の念を知る由もなく足を止めた。
偽店員は強制的に借り上げた店を指し呼び込みを続ける。店先には観光地に定番の手作り感のある雑貨、ショーウィンドウには南国らしいアロハシャツや水着が飾られている。
「一組の皆には何か買っておいた方が良いかな?」
「何も無いのでは失礼かもしれませんわね」
二人は興味をひくことに成功した男は、気を逃すまいと攻勢を強める。
「こちらの菓子ならお手頃ですよ。まあとりあえず暑いので店内にどうぞ」
観光地では悪質なぼったくりも多い。もちろん二人もその程度のことは知っているが、同時に自分は騙されてぼったくられる程馬鹿ではないと思っているし、相手が暴力や脅しを使ってきても切り抜けられる自信があった。
この為シャルとセシリアは躊躇いなく店内へ入った。それに太郎も続く。
ここまで太郎が静かなのは、その手にある酒の存在が理由である。この酒を使って行う千冬討伐ミッションに気持ちが先走っていたのだ。あんなこと良いな、出来たら良いなと捕らぬ狸の皮算用をしている太郎は、知らない人が見れば何を考えているのか分からない顔でふらふら少女に付いて行く危ない人である。しかし太郎が奴隷のように虐げられていると思っている偽店員は、その姿に少女達から受けているであろう苛烈な扱いを想像した。もう身も心もボロボロなのだろうと。
怒りに打ち震える偽店員は声を荒げてしまわないように我慢しながら、少女達にお薦めの商品を紹介していく。
「食べ物に抵抗があるならTシャツなんかはいかがですか。こちらは地元出身のデザイナーの物です。どうぞどうぞ着てみてください」
偽店員は試着室へ促す。土産屋のTシャツなんて試着するような物ではないが、リゾートで浮かれている影響かシャルとセシリアは誘導に乗ってしまう。その間に偽店員とは別の隊員が太郎に話し掛けた。こちらの隊員も偽店員と同じ服装をしており、太郎は疑うこともなく店員と認識した。
「重そうな荷物ですね。隣に軽食や飲み物を扱っている屋台が来ているので、そちらで一休みしては?」
「はあ、しかし連れが……」
「そちらには伝えて置きますので」
気もそぞろな太郎相手に隊員はこれ幸いと強引に話を進める。
「その持っている荷物は……珍しいビールですね。珍しいお酒に興味が御有りなら良い店がありますよ」
「いえ、もうこれだけで十分ですよ」
「まあまあ、そう言わずに。ガツンとくる奴が揃ってますよ」
「ほう……ガツンと」
酔い潰すのに酒が多くて困る事は無い。アルコール度数の高いビールに拘ったのは、千冬の警戒心を考慮しただけで別の酒があっても良いかもしれない。なんだったら強い酒を見せておいてからビールを出せば油断する可能性もある。
偽店員その二は別に言葉巧みなわけではなかったが、相手が他事に夢中なので簡単に誘導出来た。太郎を店外へ連れ出しながら偽店員その一にハンドサインを送った。
偽店員その一は太郎が店外に出たのを確認し、作戦を次の段階へ移そうとする。が、そこで予想外の事態が起こる。
「なんですかこのTシャツは!?」
「な、なにか問題が?」
セシリアが声を荒げて偽店員に詰め寄って来た。慌てる偽店員にTシャツの背中の部分に書かれた文字を見せつける。
【I ♡ dick(おチ●ポちゅき)】
「オゥ……」
これは酷い。戸惑う偽店員にセシリアはもう一着見せる。
【名器大洪水】
「え?」
ISが世界を席巻してから日本語を学ぶ者は飛躍的に増えた。特にISに関わる者やこれから関わっていきたいと思う者にとっては必須であった。そこで色々な商品に日本語が使われる率も上がっている。中でも漢字は恰好良いとして良く使われるようになった。しかしただでさえ現在の世界の風潮を嫌っている偽店員はわざわざ漢字まで勉強していない。分からないものは聞くしかない。
「あのぉなにか問題のある言葉なんですか?」
「えっ?」
「えっ?」
偽店員の問いに答えられないセシリアとその反応に戸惑いが増した偽店員。二人は無言で見つめ合うことになった。
見かねたシャルが割って入る。
「ぷっ、ん、それは性的な単語なんですよ……クッ」
笑いをかみ殺しながらシャルが説明すると、偽店員は得心し、セシリアは顔を紅潮させて怒る。
「笑いごとじゃありませんわ。こんな物をお土産にしたら頭おかしい人だと思われますわッ!?」
「えっ?」
「えっ?」
今度はシャルとセシリアがお見合い状態になった。シャルからすれば今更気にしても遅い、というか自覚していなかったことに驚きを隠せない。
しばらくしてシャルは言い辛そうに切り出す。
「セシリアってさ……学園の裏サイトじゃ三本の指に入るキチ●イだって評判だよ」
「ありえませんわっ!?」
三本の指ということは、あとの二人は太郎と変態糞生徒会長で間違いない。淑女として一皮むけたセシリアは変態と呼ばれてもさほど気にしない、むしろ誇りを持って受け入れるつもりだ。とはいえ少しだけ残っていた良識があの二人と同レベルと思われることに抵抗を感じさせた。
セシリアとは違い偽店員の方は当然だろうと納得していた。男にコテカしか着けさせず荷物持ちをさせている人間がキチガ●でないなら何なんだ。むしろIS学園にはコイツと同じような人間が後二人もいるのか、と戦慄を覚えていた。
「臨海学校の時もとんでもない水着だったし、裏では歩く公然わいせつ物陳列罪って呼ばれてるんだよ」
「ざ、罪人扱い」
「罪人じゃなくて罪そのものだから」
「おかしいですわ、間違ってますわ。人様にお見せ出来ないような汚い所なんて私には無いのに、くっ」
やっぱり頭おかしいじゃないか、IS学園は学園とは名ばかりで実は精神病院なのでは、と偽店員は疑問を持った。
男性の復権を目指す過激派集団はこの狂気に満ちた世界を変革出来るのだろうか。
IS少女はスケベなことしか考えないのか。
IS学園の裏サイトの利用者は太郎の紳士淑女仲間だけです。その為多くの一般生徒は太郎と生徒会長の異常性に気付いていません。つまり一般生徒の認識では一番頭がおかしいのは……。
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