ISー(変態)紳士が逝く   作:丸城成年

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第134話

「では(くだん)のビールを買いに行ってきます」

「あっ、ちょい待ち」

 

 千冬を酔い潰す為に酒を買いに行くことにした太郎だったが、束が待ったをかけた。

 

「自然に行こうとしているけど、その恰好じゃあマズいと思うよ~」

 

 そう束に指摘され太郎は視線を自身の体へと下げる。

 まっぱである。裸、全裸、生まれたままの姿、呼び方は様々だが一般的に買い物へ赴く恰好ではない。仕方がない。太郎は身なりを整える。太郎は南国にあったファッションを意識してコテカを装着してコテージから出て行こうとした。

 その時、セシリアとシャルに声を掛けられる。

 

「あら、お出かけですか」

「僕も付いて行って良い?」

「良いですよ。少々変わったビールが飲みたくなりましてね」

 

 本当は自分で飲む為ではないのだが、太郎はさらっと嘘を吐いた。

 セシリアとシャルは太郎の言葉と服装に何の疑問も持たなかった。二人は買い物に行くと知り、自分達もお土産を買っておこうと決めた。太郎のコテカについては特に言及しなかった。感覚が麻痺してきているのだろう。それはさておき二人は迎えの船を呼んで本島へ行くと思い、桟橋に向かおうとしたが太郎に止められる。

 

「そちらではないです」

「でも船が」

「もっと良い物があるでしょう」

 

 太郎はにやりと笑い砂浜の方を指差した。そこには、そんじょそこらのボートより速くてエキサイティングな乗り物があるではないか。砂浜に心なしかぐったりとしたデカマ〇、もといマーラ君が放置されていた。

 

「「エ゛ッ」」

 

 セシリアとシャルに電流走る……!

 二人は思う、まさかこれにまた乗るのかと。ハッキリ言って乗りたくない二人だったが、太郎はそれに気付かないようで既にマーラ君に近づき撫でている。

 シャルは一縷の望みをかけて太郎に聞く。

 

「あの、それって確かエネルギーを使い切ったんじゃないですか?」

「ハハッ問題ありません。ISと互換性があるみたいなので接続してやれば良いんですよ」

 

 太郎は爽やかな笑顔で絶望を二人にもたらした。ちなみに同じ頃ラウラは訓練と称して千冬と泳いでいた。確かに千冬に付いていけば訓練にはなるだろう。

 後日、このリゾート周辺は新種のUMAの噂で持ち切りになる。とんでもなく大きなペ〇スが海を高速移動していたという突拍子もない話に、最初の目撃者はヤク中扱いされた。しかしその後他にも多数の目撃証言が上がったことで状況は変わった。

 特に近くで目撃した者は少女の笑うような、それでいて泣いているかのような声が鳴り響いていたと証言し、海で亡くなった若い女性の霊を引き連れた魔王マーラの化身ではないかと震え上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 太郎達がIS学園から一時的に離れることを知った男性の復権を目指す過激派組織は、太郎達を追ってリゾート地まで来ていた。その内訳は武装した三小隊と情報収集や輸送などを担当する人員十五名。その小隊長三人と今作戦のリーダーの計四人が、太郎のこれから向かう本島のホテルの一室にて打ち合わせをしていた。

 

「目標はここから少し離れた個人所有の島にいるらしい」

「強襲するか?」

「冗談だろ、相手は専用機持ち複数人だぞ」

「その為の新兵器だろ」

 

 小隊長の一人が机の上のトランクへ視線を送る。その中にはコネクトジャマーという新開発のISと操縦者の繋がりを阻害する兵器が入っている。とある研究機関からの横流し品である。

 残りの小隊長二人も反対する様子は無い。しかしリーダーは難色を示す。

 

「コネクトジャマーはあくまで不意打ち用だ。戦闘状態に入ったIS数機には有効とは言えん。もし分散されて距離を取られたら、一方的にこちらは蹂躙されることになるぞ」

 

 威勢の良い小隊長もこの指摘には反論出来ない。コネクトジャマーは画期的な新兵器ではあるが、まだ万能からは程遠い性能である。起動すればこの装置を中心にISとIS操縦者の接続を阻害するが、離れれば離れるほど効果は薄くなる。しかも確実に行動不能にするには十メートル以内まで接近する必要があるという厳しい条件付きだ。一機でも範囲内から逃せば全滅は不可避である。

 太郎が一人になる、もしくは一人にしやすい状況となればやりようもあるのだが。打ち合わせの参加者達が頭を悩ませていると、思わぬ幸運が彼らに舞い込む。

 リーダーの通信端末が着信を告げるアラームを鳴らす。通信端末の画面は部下の一人からの着信を示していた。緊急の報告かもしれないので情報収集担当リーダーは小隊長達に一言断りを入れてから、すぐに通話を始めた。するとリーダーの顔に喜色が表れる。

 

「ツイてるぞ。目標がこちらに来ている」

 

 リーダーの言葉に部屋の重苦しい空気は一変した。降ってわいたようなチャンスに小隊長達は口々に実力行使を訴える。それに対しリーダーは手の平を拡げ、落ち着くように言った。

 

「待て、目標には代表候補生が二人付いて来ているらしい」

「引き離すか?」

「いや、まとめてコネクトジャマーの範囲内に捉えて一気に拘束してしまうべきだ」

「そうだな。目標だけを捕らえてもISの索敵能力と機動力で追跡されればお終いだ」

 

 急速に話はまとまりつつある。もしこの場を組織とは関係の無い人間が見ていれば、焦り過ぎではないかという印象を受けるかもしれない。しかし彼らの状況がそうさせるのだ。裏からの資金や情報の提供こそ豊富だが、社会への影響力や物理的な戦力面では心許ない。そのうえ女尊男卑の風潮はさらに進み続けている。彼らの立場もどんどん厳しいものになっている。このまま何もしなければ事態が悪化する事はあっても、好転する可能性は限りなく低い。この機を逃せば次は無い、それほどに彼らは危機感を持っていた。

 実力行使が決定したところで小隊長の一人が全員が内心気にしていたが口にしていなかった話題を切り出す。

 

「目標は……こちらに協力するでしょうか?」

 

 他の小隊長達は難しい顔をし、リーダーは少し考えた後疑問とは違うことに言及した。

 

「そもそもこのヤマダという男のパーソナルデータが余りにも少ない。これでは何の判断もつかん」

 

 日本政府は貴重な男性IS操縦者という強力なカードを活用する為、太郎が性犯罪者であった過去を消している。そ少しでも関連する情報も全て抹消、もしくは改ざんしている。そのうえ現在は生活の大半を機密性の高いIS学園で過ごしているので、いくら調べても太郎の個人情報は異常なほど出てこない。

 小隊長の一人が被っていた帽子を脱いで手の中で弄る。額がかなり広い。

 

「意外と周りは女ばかりでハーレムみたいになってんじゃないっすかね」

「バカ言え、IS学園は女尊男卑思想の中心だぞ」

「自分が中世の王族か貴族で、男は従者か奴隷だと勘違いしてる高慢なメスガキの巣だからな」

 

 残り二人の小隊長が口々に反論する。このイメージは過激な男尊女卑派だけでなく、一般的な男性が持っているものである。

 

「どういう扱いを受けているかは重要だな。目標にとっては不幸だが酷い扱いを受けている方が、こちらに協力的な可能性が高く都合が良い」

 

 リーダーが小隊長達の会話を一旦止める。

 

「一緒にいるという二人の代表候補生との様子が判断材料になる。三人の関係性が分かる様な画像か、動画を撮って送信させるか」

 

 リーダーは太郎が来ていると報告してきた部下に指示を出す。

 程なくデータが指示に使った通信端末とは別のタブレットに送られてきた。リーダーはタブレットを小隊長達にも見えるよう持ち、データを開く。

 送られてきたデータは動画で、隠し撮りしたような構図だった。まず映ったのは代表候補生と思われる二人の少女がカットフルーツの入ったジュースを片手に笑顔で談笑している姿だった。まさにバカンスを楽しんでいるといった感じだ。相手に気付かれないように画面がゆっくり横へ移動していく。そしてそこに映し出された太郎の姿に全員が息をのむ。

 身に着けているのは股間を隠す角のような装具だけ、両手には重そうな荷物、体の所々には打撲などの怪我が散見される。

 

「な、なん、という」

「オー……ジーザス」

「女性至上主義者共は悪魔か!?」

 

 小隊長達は驚きと怒りに震える。

 ハゲ小隊長は手に持っていた帽子をグシャグシャにして床に叩きつけた。

 

「雌豚が舐めやがって」

 

 男達は必ずこの狂った世界を変えて見せる、と心に誓い武器を手に取る。




>体の所々には打撲などの怪我が散見される

千冬に襲い掛かったボコボコにされたからね。仕方ないね。




読んでいただきありがとうございます。5月、6月は地獄でした。忙しくて両目と瞼が数日間痙攣しっぱなしになるし最悪でした。7月はいっぱいお話を書けるといいなとおもいましたまる

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