ISー(変態)紳士が逝く   作:丸城成年

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第130話

 謎めいた麦わら帽子の男を前に、少女達は様々な想像をめぐらす。

 

「もしかして大企業の社長とか?」

「いや、どこぞの軍関係者だろう。あの落ち着きようを見ろ」

「甘いですわ。あの自然体は、遊び慣れたセレブに違いありませんわ」

 

 それぞれの予想はシャルが社長、ラウラが軍人、そしてセシリアがセレブという範囲が広く曖昧なものを挙げた。ゲストに対する少女達の関心が高まっている。

 仕掛け人である太郎は、この反応に満足して──────いなかった。それどころか太郎にしては珍しく困惑していた。今回太郎が用意したゲストを、少女達も知っているはずだからだ。少女達はどうして初めて見るかのような反応をするのだろうか。不思議に思った太郎が隣にいるゲストを見る。太郎の視線の先には、麦わら帽子を被った男が立っていた。

 

「……ん、貴方誰ですか?」

「「えっ!?」」

 

 太郎の言葉に少女たちはびっくりする。太郎が呼んだゲストですらないなら、本当にその正体は謎である。

 だが戸惑っているのは太郎と少女達だけではなかった。彼らの注目を集めている麦わらの男もまた、その注目に困惑している様子だった。

 

「あ、あの……もう帰って良いですか? 必要な物は全てコテージに揃えてありますから。あと何か入用が出来たらコテージ内にある衛星電話で呼んでもらえれば、自分達は本島(ほんとう)におりますので」

 

 この島は群島の一つで、近くには淡路島と同じくらいのサイズの島があり、そこが点在する島々の中心拠点・本島になっている。そこには小さいながらも空港もあり、太郎達もそこから船に乗ってやってきた。太郎達が飛行機で本島に到着した際、空港では数人の案内人兼このプライベートビーチとコテージの管理人達の出迎えを受けた。

 男の言葉の内容から太郎は、そういえば案内人の一人がこんな容姿だったなと思い出す。

 

「ええ、もう本島へ戻って良いですよ。ここまでありがとうございました」

「いえいえ、それでは」

 

 案内人はぺこりと頭を下げ船の操縦席へ向かった。

 少女達の困惑は深まった。結局今のやりとりは太郎特有のギャグだったのだろうか? スペシャルなゲストと言いつつただの案内人でしたー、というギャグなのか? いくら仲良くしているとはいえ、太郎の感性は少々特殊なので判断に迷うところだ。

 そこでセシリアが意を決して聞いてみた。

 

「ゲストというのは冗談でしたの?」

「違いますよ。タイミングを見計らって出てくるようにお願いしたんですけど、おかしいですね」

 

 ちゃんとゲストは呼んでいる、太郎はそう言って首をかしげる。謎はますます深まる。

 そんな微妙な雰囲気の中、不敵な笑い声が響き渡る

 

「ふっふっふ、一流は期待されたタイミングで結果を出す。でも超一流は凡人の理解が及ばない存在なのだ」

 

 聞き覚えのある女性の声と共に、海から巨大なニンジンが飛び出す。ニンジンは太郎達が見上げるほど高く上昇し、そこから急降下して地面に突き刺さった。そして巨大ニンジンの側面がパッカリ開き、恐らく世界で一番ビッグでスペシャルなゲストと言っても過言では無い女性が現れた。篠ノ之束である。

 

「やあやあ凡人諸君、歴史上最高の天才である束さんと時間を共有出来る喜びに打ち震えると良いよ」

 

 束の言い様は尊大だが、言っている内容は誇張ではない。個人で世界に与えた影響の大きさでは歴史上でも類を見ない。それどころか一般人に比べてISにより深く関わっている少女達からすれば、インパクトはより大きいものになる。

 太郎と少女達は臨海学校で束と会っている。しかし、その際少女達の事は束のアウトオブ眼中であった。まともに挨拶すらしていない。それなのに今回は一緒にバカンスを過ごす、あまりの衝撃に少女達が呆然となるのも仕方が無い。だが驚きの展開はまだ続く。

 束の後ろから千冬が現れた。

 

(げえっ関〇)ジャーンジャーンジャーン

 

 太郎と少女達の心情を表すならそんなところだろう。南の島でハメを外してインモラルな火遊びをするつもりだったのに、その為にあえて誘わなかったのに、何故千冬がここにいるのか。

 太郎は慌てて束の腕を掴んで引き寄せ、顔を近づけ小声で問いただす。

 

(千冬さんはマズイです。絶対私達の邪魔をしてきますよ)

(だってー、ちーちゃんのいない南の島なんてなんの意味もないよ)

(しかしですね、確実にこちらの行動は制限されますよ)

 

 太郎の懸念を聞いた束は、天を仰ぐような仕草を見せる。

 

(はあ~、凡人の割には少しは見所があると思ってたんだけどなあ。ちょっと見ない間に丸くなっちゃった?)

(そういう問題ではないでしょう?)

(この束さんとタロちゃん、それに代表候補性が数人いるんだよ。負ける訳ないでしょ)

(力尽くで、ということですか。貴方と千冬さんは友達だと聞いていたんですがレイ〇とは)

(違うよ。束さんはちょっと激しめのスキンシップがしたいだけなんだよ)

 

 束は純真無垢な幼子のような目で欲望まみれの主張をする。

 

(ほら、ちーちゃんは武人気質だから拳で語り合う的な感じで、くんずほぐれつでさあ)

(くんずほぐれつって、おっさんですか貴方は)

(問題ある?)

(スキンシップなら仕方が無いですね)

(そうそう仕方が無い)

 

 ついに世界最強と呼ばれた千冬の前に最恐の刺客が立ち塞がる。それは自身の友と教え子だった。裏切りの拳が千冬を襲う。天災と変態、混ぜるな危険の組み合わせ。俺達の千冬に未来はあるのか。

 次回【鉄拳制裁】

 良い子のみんな、次回もよろしくね~。

 




おまけ

太郎「相手は千冬さんですよ、無理ですって」
束 「タロ、お前ほどの男がなぜ諦める必要がある」
束 「お前もあのちーちゃんの女子力の無さは知っていよう」
束 「今の時代をあいつ一人では生き抜いていくことは出来ん!」
束 「となればちーちゃんは必ず行き遅れる!」
束 「それでもいいのか!!お前ほどの男がなにを迷うことがある」
束 「既成事実を作れ」
束 「今は悪魔が微笑む時代なんだ!!!」

読んでいただきありがとうございます。

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