ISー(変態)紳士が逝く   作:丸城成年

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おいでませ南の島

  バリバリの女性至上主義者であるアンジェリーナは、男性IS操縦者太郎の活躍のニュースをネット記事で知り、抑えきれない怒りを覚えた。男性でありながらISに乗る太郎という存在はもちろんのことだが、それを持ち上げるような記事を書く者がいることにアンジェリーナは我慢出来ない。ISは今の女尊男卑の世を作るきっかけだった。その女性至上主義の象徴とも言うべきISを汚す者を許すことは出来ない。

 

「このヤマダタローとかいう男は、ただ潰すだけでは気が済まないわね。それにこの男を賛美する者も許しがたいいわ。でも元凶であるヤマダを排除しなくては、同じような輩は後から後から出てくるでしょうし……」

 

 アンジェリーナ・チャンドラー。偏狭でヒステリックな人間だが一角の女優として名を残し、人権派文化人に転身しても一部の層から熱狂的な支持を集められたのは、それなりに頭が回るからである。

 太郎を潰す一番手っ取り早い方法はIS委員会の権限を使うことだが、女尊男卑に染まった委員会とはいえ一枚岩ではない。二人目の男性IS操縦者として太郎が発見された時、アンジェリーナはIS学園ではなく実験施設へ送るべきだと主張したが、一部の派閥から猛反発を受けて断念した経緯がある。太郎に利用価値があると考える者も多く、妨害が入る可能性がある。

 

「いっそのこと、ヤマダタローとその支持者が潰し合ってくれれば最高なのだけれど」

 

 アンジェリーナは自分で言っていて起き得ないただの願望だと首を振ろうとして、ふと思う。自身の女優時代、ファンは必ずしも自分の味方ではなかったと。こちらの気持ちなど一切考慮せずハエのように集ってくる人間も多かった。中には公私ともに自身の邪魔になる者も存在したことを思い出した。

 ファン、支持者という者は上手く使えば力になるが、自身の思い通りに動く部下ではない。むしろ利害が衝突することも珍しくないのだ。

 ヤマダタロー、もしくは男性IS操縦者に強い興味を持つ者や利用しようとする者を上手く扇動してやれば、ゴミ同士で潰し合う展開を作れる可能性がある。

 

「こういった事を日本ではなんと言ったかしら……えー、そうそう一石二鳥ね。でも獲れるのは鳥じゃなくてゴミなのよね」

 

 フッと鼻で笑いアンジェリーナは具体的な策を練り始める。

 適当な校外イベントをでっち上げてマスコミにまとわり付かせるか? いやいや甘過ぎる。やられた方はストレスが溜まるだろうが、短期間では所詮嫌がらせの域を出ない。

 学園内の男に媚びる低俗な女生徒を煽って迫らせ、関係を持たせて不純異性交遊だと叩くか? 論外。その女生徒の所属する国、組織が男性IS操縦者を取り込む良い機会だと喜び勇んで介入してくる。

 男性IS操縦者をより深く研究し、あわよくば新たに男性IS操縦者を増やす方法を得たい連中をけしかける? リスクが高い。その研究の成功、それこそ考えうる限り最悪の展開である。いえ、研究をさせなければ良いのでは。

 男性IS操縦者を研究したがっている奴らはテロリストということにしてしまえば良い。極悪非道のテロリストが数少ない男性IS操縦者を攫い、倫理の欠如した人体実験を行おうとする。その討伐と被害者の救出作戦において、まことに残念なことながら被害者もその命を落としてしまうというのはどうだろうか。その際、出来るなら自分の手によってそれを為せれば最高である。

 アンジェリーナは歳の割には若く見える顔に醜悪な笑みを浮かべながら、今後の算段をつける。部下に太郎の動向を調べさせるとともに、テロリスト候補の連中とも接触する必要がある。もちろん足が付かないように直接交渉はしない。

 

 数週間後、アンジェリーナに朗報が入る。太郎が数人のクラスメイトと共に外出許可をIS学園に申請したのだ。太郎を誘拐させる為にIS学園から誘き出す計画を立てていたが、その必要が無くなった。同行するクラスメイト達が専用機持ちなのは厄介だが、短時間引き離すくらいなら簡単である。後は実行犯に最近開発されたばかりの秘密兵器を渡しておくだけでいい。名称をコネクトジャマーといい一時的に操縦者とISの繋がりを阻害するだけの物だが、相手が一人なら動きを止めるだけで充分だろう。

 今から自分の手の平の上で滑稽に踊る愚者達を想像して、アンジェリーナはほくそ笑む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突き抜けるような空、照り付ける太陽、透き通るようなコバルトブルーの海、汚れ一つないように見える白い砂浜、太郎達はこの世の楽園にやって来た。太郎の紳士仲間が所有するプライベートビーチという触れ込みだったが、島そのものがまるごと私有地である。ビーチ近くにはコテージがあり、そこに生活必需品は全て用意されている手筈だ。まさに至れり尽くせりである。

 太郎の紳士仲間がここまで便宜を図ってくれるのには訳がある。

 IS学園は人、物、情報、全ての出入りが管理されている一種の隔離エリアである。IS学園は世界中の紳士にとって手を出したくても出せない宝の島みたいなものなのだ。その影響で一般生徒の使用済みタオル一枚でも諭吉さん十人分は間違いなくいくという現実。需要の高い生徒の関連物なら、オークションで下手な宝石より高く売り買いされる。

 そんな希少なブツの供給者である太郎と是非懇意になりたいと思う紳士は星の数ほど存在する。この島を貸した富豪もそんな紳士の一人だ。

 

「良い所だね」

 

 島まで乗って来た船から桟橋に降りたシャルは、目の上に手をかざし強い日差しを遮り、周囲を見回している。

 セシリアとラウラも船から降りながら同意する。

 

「他の観光客がいないのはありがたいですわ」

「これなら多少暴れても問題無いな」

 

 パンパン。船のデッキに残っていた太郎は手を叩き、喜びに沸き立つ少女達の注目を集めた。

 

「さて実は今回……ビッグでスペシャルなゲストが来てくれています。ここで紹介しましょう」

 

 大仰な様子で太郎は右手を上げる。

 太郎がビッグでスペシャルというなんて余程の人間だと、少女達は期待と緊張に胸を高鳴らせる。

 太郎の隣に良く日に焼けた男が歩み出た。赤色を基調にしたアロハシャツ、麦わら帽子を被っている。人生の酸いも甘いも噛み分けてきたんだろうなあ、と思わせる目尻の深い皺。世界にたった二人しかいない男性IS操縦者を相手に全く緊張した様子の無い落ち着きよう。この男は何者なんだ。

 




注意
剥離剤(リムーバー)とコネクトジャマーは別物です。本編に書いてある通り性能は剥離剤より落ちます。阻害するだけですから。


麦わら帽子、赤いシャツ……ま、まさかお前は!?
正体について感想欄で触れられても、コメントで回答することはありません。ご容赦ください。

今回も読んでいただきありがとうございます。次の更新は今月中にする予定です。

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