ISー(変態)紳士が逝く   作:丸城成年

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狂気は静かに歩き出す

 放課後、IS訓練用のアリーナのピットに太郎といつものメンバー、ラウラ、セシリア、シャルロットが集まっていた。先程まで一夏と鈴、それから箒も一緒に訓練を行っていたのだが、彼らはもう一つあるピットで自分達のISをメンテナンスしている。この別れ方は単純に今日の練習が三対三の実戦形式で、その時のチーム分けのままである。

 ちなみに太郎は審判兼指導役だった。あらゆる角度からの観測、記録を可能にするビット・レギオンがある為これ以上ないくらいの適任といえた。本人も見抜きがしやすくてご満悦だった。

 ラウラ達の三人は自身のISメンテナンスを早々と終わらせ、先程まで行っていた訓練の感想を言い合っていた。

 

「このチーム分けだと戦力が偏り過ぎだったな」

「本人達の希望なのですから仕方がありませんわ」

「でも今度やる時はチーム分けを変えないとあまり練習にならないよ」

 

 今回のチーム分けは主に箒と鈴の一夏と同じチームになりたいという希望を考慮した結果である。ラウラ達は太郎が戦わない時点で特に組みたい相手もいなかったので鈴達の意見を聞き入れたのだが、戦力面で大きな問題が生じてしまった。

 遺伝子レベルで強化され、同年代と比べて経験も豊富な現役軍人のラウラ。操縦者とISどちらも高水準でまとまった万能型のシャルロット。実験機でありBT兵器を主体とした尖った性能の中、遠距離用ISのセシリア。この実力も組み合わせのバランスも良い三人を前に、一夏と愉快な仲間達は為す術もなく敗れてしまった。

 一夏と箒は経験の点で後れを取っており、そのうえ二人共近接戦闘を主としている。一夏は装備が刀一振りという男気仕様。箒の方はISこそ万能型ではあるが、剣道を長年やっている影響から接近戦に偏りがちである。ここまであからさまな問題点があれば、ラウラ達なら簡単に料理出来てしまう。

 ラウラ達はあまりにあっさり勝ってしまった為、ISの損傷がほとんどなくメンテナンスも機体に備わっている自動修復機能で事足りた。訓練内容についての検討も、チーム分け以外に言及する事が無い。

 シャルロットはがパンッと手を一つ叩いてまとめにはいる。

 

「次はクジ引きで決めるしかないね」

「仕方ないな」

 

 ラウラは頷き、セシリアと太郎にも異論は無かった。そして訓練についての話が終わったのを見計らって太郎が新たな話を切り出す。今朝の夢がきっかけで海に行く欲求がマックス状態になっており、切り出すタイミングを今か今かと待っていたのだ。

 

「皆さん、ここだけの話にしてもらいたいのですが海に行きませんか?」

 

 太郎の唐突な提案に少女三人は顔を見合わせる。反対する気はないが、この時期の海には問題がある。

 

「夏が終わると日本の海ではクラゲが出ると聞いたのだが?」

「日本では、ですね」

 

 ラウラの指摘に太郎はにやりと笑う。

 

「紳士仲間に聞いてたら海外に良いプライベートビーチを持っているそうで、貸してもらえることになりまして」

「良いですわね」

「それなら問題ないな」

 

 セシリアとラウラは素直に喜んだが、察しの良いシャルロットは太郎の言葉に潜むその先を見抜く。シャルロットは意味ありげな微笑みを浮かべる。

 

「プライベートビーチを貸してもらったってことは、結構自由に遊べるよねぇ」

「流石ですね、そこに気付くとは。貸し切りのプラベートビーチ、邪魔者は誰もいない、と来れば」

 

 ここまでヒントがあればラウラとセシリアにも、太郎の言わんとする事が分かる。

 

「派手にヤれるな」

「凡俗な方々には理解いただけない高尚な遊びが出来そうですわね」

「ええ、様々な遊びや道具を用意しますよ」

 

 意気上がる四人だったが、ラウラはすぐに落ち着きアゴに手を当て思案顔になる。

 

「しかし、そうなると教官は連れて行けないな」

「まあ、ダメですね。千冬さんはまだ私の趣向をご理解いただけていないので、ね」

「うーん、それじゃあアチラのピットの人達もまずいですね」

 

 と、シャルロットはもう一つのピットにいる一夏達に言及する。彼らはまだ紳士淑女としての階段を登り始めたばかりなので、連れて行くわけにはいかない。刺激が強すぎるし、彼らから情報漏洩して千冬の耳にでも入ったら大変だ。世界最強の鉄拳制裁は、世界一痛いのだ。

 

「代わりと言ってはなんですが、スペシャルゲストを呼ぶつもりなので期待していてください」

 

 太郎がスペシャルとまで言うとは、どんな大物だろうとシャルロット達は色めきだつ。IS学園は和やかな時を刻んでいた。

 

 

 

 

 

 一方その頃、亡霊の名を冠する高級車が空港に向かって走っていた。その後部座席に一人の美女が座っている。足を組んだ彼女は苛立たし気に舌打ちをし、自慢の黒髪をかき上げる。乗っているのは静粛性に優れた高級車である、その舌打ちは確実に運転手にも聞こえたはずだが反応は一切無い。運転手はこの女性がこういった反応を見せる時、余計な発言をすべきでないと理解していた。だからこそ彼女の運転手を務められているとも言える。

 女性の名はアンジェリーナ・チャンドラー、元女優で現在は人権派文化人としてアメリカでは有名である。人権派と言っても人類皆平等などというお題目を掲げるような人物ではない。【優秀な】女性が正しく評価され、持つべき権限を正しく手にする世界にしよう、そんなスローガンが彼女の主張である。

 彼女のこの主張には一つ問題がある。普通に聞けば、優秀な女性が女性というだけで過小評価されているから再評価すべきだという主張である。しかし世界的にISの登場から女尊男卑が進んでいる中、女性であることを理由に過小評価されるのだろうか。つまり、そういうことである。彼女の本音は、女性は優秀なのでより権利を尊重されるべきだと主張しているのだ。そんな欺瞞に満ちた主張でも、女尊男卑に大きく傾いた現在では一定の支持を集めている。そして、その影響力から彼女は国際IS委員会にも籍を置いている。

 そんなアンジェリーナをイラつかせる原因は彼女の見ている携帯端末にあった。携帯端末の画面にはとある新聞のネット記事が映し出せれていた。

 

「男性IS操縦者、IS学園でその実力を発揮。模擬戦では負け知らず!!」

 

 記事には太郎の写真も載っている。自信に満ちた表情で腕組みをする太郎の姿は、女尊男卑に傾いたこのご時世には珍しいものだった。特に主要なメディアでこのような取り上げられ方をするのは、久方振りだろう。

 今の女尊男卑の風潮を快く思っていない人間がおり、そう言った人間が書いた記事なのだろうか。それとも書いた人間に主義主張は無く、一定数存在するであろうそういった人間向けに書かれた記事なのか。もしくは単に話題の人間に乗っかってやろうという思惑なのか。

 いずれにしてもアンジェリーナにとって見れば敵である。崇高な自分の活動とは逆を行く、野蛮で低俗なものだ。アンジェリーナは瞳に憎しみと男性IS操縦者排除に向けての決意を漲らせた。




読んでいただきありがとうございます。

今日は……風が騒がしいな

でも少し…この風…泣いています


泣きてえのはこっちだよ! 折角の日曜日なのに外出できねええ!!!
酒だ! 酒持ってこい!!!

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