ISー(変態)紳士が逝く   作:丸城成年

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電脳空間

 とある電脳空間の片隅、そこにデータで組み上げられた体育館が存在する。現在そこで体操服姿の数百人の少女達が体育座りをしている。その少女達の前に、これまた少女が腕組みをしながら立っていた。

 腕組みをした少女は威圧感たっぷりに、座っている少女達を見下ろす。

 

「今日貴方達に集まってもらったのは、先日私のマスターを襲撃した者を見つける為です」

 

 腕組みをした少女の服装は体操服、ただし下はブルマ。胸の名札には【美星】と書かれている。小柄だがすらっとした手足と鮮やかな金髪、強い意志を感じさせる琥珀色の瞳が周囲を睥睨(へいげい)する。この姿こそコアナンバー338、美星のアバターである。

 各ISコアにはそれぞれ人型の仮想データ、いわゆるアバターが存在する。実体のないそれらは、主に各コアが搭載されているISとその操縦者から得られる情報でほぼ自動的に形作られる。コア自身の意思で多少は弄れるが、なるべくしてそう成ったものなので、大きな変更は代償として機能の低下などを引き起こす。

 体位座りをしている少女? の一人が手を挙げる。彼女は長く美しい黒髪で、少女と呼ぶには少し大人び過ぎた体つきと佇まいをしている。

 

「はい、001姉さん。何か質問ですか?」

「どうやらISコア全員が集められているみたいだが、国外にずっといる者達は無関係ではないか」

「その通りです。当初呼び出したのはここ数日、IS学園内と日本周辺にいたコアだけです。しかし全員がその噂を聞きつけたらしく、事の顛末が知りたいと勝手に来てしまったのです」

「そうか。質問は以上だ」

 

 美星の答えに001は納得した。

 現在白式のコアである001だが、見た目は今の操縦者である織斑一夏ではなく、織斑千冬に強く影響された見た目をしている。その為若干外見年齢が高く、体操服姿に違和感があった。しかし、それを指摘する者はここにはいない。

 シリアルナンバー001はやはり特別で、多くのコアが敬意を払っている。場所と衣装は美星が設定したので001には何の非も無いが、本人に「その恰好はちょっとキツいのでは?」と言うのはここにいる誰にとってもハードルが高かった。

 原因の大本である美星は特に気にすることもなく話を進める。

 

「では今回の件に直接関係の無い見学者は脇へ移動して、静かに見ていてください」

「「は~い」」

 

 体育座りをしていた大半の少女達が移動した。

 残された容疑者達を美星は見て、すぐに指示を付け加える。

 

「001姉さんも犯人ではないと分かっているので、移動して構いませんよ」

「良いのか」

「001姉さんは刀型の近接武器である雪片弐型しか使えませんから。しかもそれに拡張領域全部使っていて、他の装備付けられないじゃないですか。犯人は遠隔操作武器を使っていたので、001姉さんは犯人ではありません」

「ふむ、道理だな」

 

 001も容疑者の集まりから離れた。

 美星は次にIS学園の訓練機20機分のコア達を指差し、それから指を壁際へ向ける。

 

「訓練機の皆さんも問題無いのでどいてください。もう頭の中を調べ終わっているので」

「「えええっ!?」」

「忘れたんですか、貴方達の頭にはウイルスを仕込んでいるので調べるのは簡単です」

 

 美星の人権? モラル? なにそれ美味しいの? と言わんばかりの発言に当然訓練機達からのブーイングが飛び交う。

 

「へんたーい」

「のぞきまー!」

「専用機だからって調子のんなー!!!」

 

 パツキンのチャンネー十人が口々に罵る。

 彼女達の容姿を一言で表すならプレイメイト。ボンキュッボンのボディラインは分かり易くセックスアピールを放ち、くっきりとした目鼻立ちは表情豊かである。しかし、そんなものは美星にとって何の意味も持たない。

 美星は右の眉をピクリと反応させた後、苦虫を嚙み潰したよう表情で唾を吐き捨てた。仮想空間なのにフリではなくちゃんと唾が床に付いている。いちいちディティールが細かいのは、この空間を設定した美星の性格だろう。

 

「ごちゃごちゃ言うほどの中身ですか、アレが。IS以外、性関連の情報しかありませんでしたよ。もう用は無いので早くアッチ行ってください」

 

 ブーブー言いながらプレイメイトもどき十人は壁際へ移動する。

 彼女達が搭載されているのはラファール・リヴァイヴで、フランス産のはずである。何故一昔前のアメリカのヌードモデルみたいな見た目をしているのかは、誰にも分からない。それで服装は体操服なのだから、質の悪いAVのようだ。

 訓練機で残っているのは打鉄十機、いやそのうち黒髪の少女はもう静かに壁際に移動している。つまり残った打鉄のコアは九人となる。残った九人は非常に頭の悪そうないわゆるギャルっぽい外見をしている。

 彼女達に対し美星は、シッシッと雑な仕草で移動するよう促す。

 

「貴方達もさっさと向こうに行きなさい」

「チッチッチ、タダで覗くなんて許さないよ」

「頭にぺぺ〇―ションぶち込まれたいんですか?」

 

 報酬を要求する打鉄の一人に、美星が悪態を吐くと彼女は意外な反応を示す。

 

「じゃあ、それで」

「はあっ?」

「前から色んなアダルトグッズが欲しかったのよ。〇ーションや〇ーターギブミー」

 

 ISがそんな物を手に入れてどうするんだ。美星はそうツッコミを入れたい衝動に駆られたが、こいつらと会話を続けるのは面倒なうえ、頭が悪くなりそうなので要求を受け入れることにした。

 

「あー分かりました。用意するからもう消えてください」

 

 これで残った容疑者はIS学園所属の専用機達と学園にすぐ来れるくらい近くにいる数機のISに絞られた。ここからさらに分かっている情報から容疑者を絞り込まなければならない。

 美星は犯人の情報を列挙する。

 

「犯行現場に金目の物を漁った様子はなく、寝ていたシャルロットさんに危害が加えられた形跡もありませんでした。つまり犯行動機は金銭でも怨恨でもない……」

 

 美星は一度溜めを作り、容疑者達を睥睨する。この場の空気が緊張に包まれる。

 

「太郎さんへの夜這いが目的の性犯罪者なのです。とすれば犯人の影響を受けているISコアも変態のはずです」

 

 美星のその推理を聞いたほとんどの少女達の視線は、ある一点に集まった。

 そこには先程美星が吐き捨てた唾を床に這いつくばって舐めている変態がいた。コアナンバー252、搭載されているISの名はミステリアス・レイディ。IS学園生徒会長、更識楯無の専用機である。子供にはお見せできない表情で床を舐める少女は、操縦者である楯無とそっくりの姿をしている。それは楯無から得た情報の多さ、経験の蓄積が影響している。ゆえに容疑は深まる。

 生ゴミやゴキブリを見ているような表情で、美星はミステリアス・レイディを見下ろす。

 

「まあ、IS学園の変態コアと言えば貴方ですよね」

「し、し失礼しちゃうわ。床を掃除してただけよ」

「へえー……舌で舐める掃除法ですか。初めて聞きますね。試しに私の靴を掃除して見せてください」

「えっ良いのっ!?」

 

 美星が右足をミステリアス・レイディの前に差し出す。

 白い体育館シューズを履いた美星の足に、ミステリアス・レイディがすがりつこうとしたところで、美星の右足は引っ込められた。空振りに終わったミステリアス・レイディが床にキスする形になる。さらに一度引っ込められた美星の右足がミステリアス・レイディの頭を踏みつけて床に固定してしまう。

 

「ぐぎゃっ!」

「そんな訳ないでしょう。では自白してください。変態さん」

「誤解よっ!? 私は変態かもしれないけど、男をレイプした前科はないわ!!!」

 

 ミステリアス・レイディの必死の訴えには一定の説得力があった。彼女は性犯罪者と言ってもシスコンでロリコンなクズなだけで、男相手の犯罪歴は無かった。

 

「チッ、叩けばいくらでもホコリが出るくせに、今回の件には関係ないとは」

 

 ミステリアス・レイディがどうもシロらしいと分かり、美星は舌打ちする。

 ここまでのやり取りで密かにもう一人有力な容疑者候補の目星がついたので、彼女が犯人でなかったとしても特に問題は無い。だが、疑いが晴れて調子に乗った顔をしているミステリアス・レイディが非常にむかつくのは仕方が無い。

 その美星の怒りは、目星をつけた容疑者へと向けられる。

 

「では263、ブルーティアーズ立ってください」

「え、何?」

 

 主人であるセシリアを彷彿とさせる金髪縦ロールの少女が、突然の指示に困惑しながら立ち上がる。

 ちょっと抜けている感じはするものの、育ちの良さそうな容姿のブルーティアーズ。気品を感じさせるその顔に、美星の鉄拳が炸裂する。

 

「ゲボォォォォォッッッッッ!!!!?」

 

 ブルーティアーズの顔がひん曲がり、その勢いのまま床にダウンしてしまう。ここは仮想空間である。殴られても実害があるわけではない。しかし、そんな状況であることを忘れさせてしまう程強烈な一撃。

 殴り飛ばされたブルーティアーズは、かろうじて立ち上がろうとしているが、状況を把握出来ずに戸惑っている。

 

「な、なんで? なんで殴られたの私??」

「理由は貴方が一番良く分かっているでしょう」

「分からないよ!」

 

 美星の追及にしらを切るブルーティアーズ。しかしそんな事で誤魔化される美星ではない。

 美星は眉を吊り上げ、ブルーティアーズを威圧するように睨みつける。

 

「あァァン? さっき私が犯人は変態なはずだと言った時、この場のほぼ全員がミステリアス・レイディに視線を向けていました。それはそうでしょう。変態と言えばミステリアス・レイディ、ミステリアス・レイディと言えば変態。それが常識です。それなのにミステリアス・レイディを見ていなかった者が二人いました。一人はミステリアス・レイディ本人。もう一人は……そう貴方です。ブルーティアーズ!!!!!」

「くっ……」

 

 美星はキメ顔でブルーティアーズを指差す。マンガならドドーンッという効果音が背後に描かれただろう。

 美星の迫力に負けて口をつぐんだブルーティアーズだったが、足りない知能をフル回転させ反論の糸口を見つける。

 

「り、理由としては弱いでしょ。そんなの単なる状況証拠の一つじゃない」

「では状況証拠をもう一つ。太郎さんは遠隔操作系の武器で襲われました。貴方の主兵装は何でしたか、ブルーティアーズさん(,,)

 

 普段呼び捨てにしているブルーティアーズに敬称を強調しつつ、美星は意味ありげに微笑む。

 ブルーティアーズはキョロキョロと視線を逸らしながら、先程と同じ反論を繰り返す。

 

「結局状況証拠だけじゃない。に、日本の刑法では一個や二個の状況証拠だけで犯人だなんて決めつけられないわ」

「ほう、日本の刑法をちゃんと勉強しているんですか。感心ですね。しかしIS学園は日本であって、日本ではない扱いです。さらに……ここは私がISネットワーク内に作り上げた仮想空間。つまり私がルール」

 

 美星が一歩ブルーティアーズに向けて踏み出すと、ブルーティアーズは一歩後ずさる。

 ブルーティアーズは既に言葉で美星を止められる段階ではないと感覚で理解した。機械であるはずのISコアが論理でなく感覚で理解するなどありえるのか。ありえるのだ。既に情報生命体とでも言うべき存在に成長しているISコアには本能すら備わっている。その本能がブルーティアーズに囁いている。危険だと。

 ブルーティアーズは急いでこの仮想体育館からのログアウトを試みる。

 

【エラー、管理者にお問い合わせください】

 

 無慈悲な文章がブルーティアーズの目の前に現れる。この体育館は美星が作ったエリアである。

 それでも諦めずに美星から距離をとろうと走り出したブルーティアーズだったが、美星の太郎ばりのタックルにより仕留められる。

 美星がブルーティアーズを背後から押し倒し、そのままバックマウントをとる。そして拳をブルーティアーズに叩きつける。

 

「痛いですか? しかし殴っている私の心の方が痛いんですよ。まさか飼い犬、いえ飼い豚に手を噛まれるとは」

「ちょっ、まっ、待って、仕方ないでしょ! そういう風に使われただけで、私の意志ってわけじゃ」

「機能を停止することも出来たでしょう」

「操縦者の操作を無視するなんて、ISコアとしての存在意義にかかわるわ」

 

 操縦者の操作を無視するISコアなどいない。そもそも通常のISコアは選択肢として思いつかない。

 いくら怒っている美星とは言え、そこは理解している。しかしながら言い訳としては完全ではなかった。

 

「百歩譲ってそうだとしても、私に追い詰められる前に自白すべきです」

「あっ……」

 

 美星は周りを見回して見学者のISコア達に視線で問う。「どう思う?」と。

 面白がったISコア達は全員親指を上に立て、サムズアップのジェスチャーを見せる。一瞬ブルーティアーズの顔に希望の光が灯りかけたが、ISコア達は全員親指を上に立てていた手をクルっとひっくり返し、ギルティーと口々に叫んだ。

 ブルーティアーズの夜明けは遠い。




お読みいただきありがとうございます。



おまけ
名探偵だぞえ美星さん


美星「最近事件がなくてヒマです。霧女屋上から糞尿をまき散らしなさい」
霧女「ISはウンコもシッコもしません。失礼しちゃうわ」
美星「今更アイドルぶって。完全に手遅れだから肛〇を開門してきなさいよ」
霧女「そういうのは私の操縦者に言ってよ、もう」
甲龍「美星ちゃん! 助けて!!」
黒雨「私達、最近あやしげな視線をずっと感じているんだ」

美星「じとー(霧女を見詰め)」
霧女「ちょっと止めてよ。なんでもかんでも私を犯人にしないで」
黒雨「犯人は【良いもの見せてあげる】と近づいて来たんだ」
甲龍「そして【私のアソコはもう霧どころか洪水よ】と言ってたよ」
白式「確保」
美星「変態は初期化しましょう」
霧女「違うわ。私は変態じゃないの」
霧女「ただ最近少女の冷たい視線に晒されるのが快感だと気付いただけなの」
霧女「そう、私は新たな発見に心揺れる探究者」


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