ISー(変態)紳士が逝く   作:丸城成年

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茶番劇

 時は少し遡る。太郎が日課の残り湯を採取していた頃、セシリアは太郎の部屋へ辿り着いていた。フーフーフーッ、と興奮して呼吸を荒くしている。

 部屋の扉の前に立ったセシリアは周囲に人がいないことを確認し、音を立てないよう慎重にドアノブを捻る。しかし、当たり前のように鍵が掛かっている。

 

「鍵ごときではこのわたくしを阻むことは出来ませんわ」

 

 鼻息を荒くしながらセシリアは不敵な笑みを浮かべると、自身の専用機ブルー・ティアーズのレーザービットを一基だけ展開する。そして、何の躊躇いも見せずドアノブと蝶番をレーザーで貫いた。

 セシリアは先程までドアであった物を壁に立て掛け、ついに太郎の部屋へ侵入を果たす。この時点で太郎はセキュリティ装置によって何者かが自室に侵入したことを知り、急いで共同浴場から戻ろうとしていた。

 そんな事とは露知らず、セシリアは小さなハンディライトを手に、部屋の中を物色していた。狙いは使用済みの衣服だが、見える範囲にはなかった。その代わりに目に入ったのはベッドだった。

 二つ並んだベッド。手前側のベッドでは誰かが布団を頭まで被って寝ている。奥のベッドはもぬけの殻だった。

 セシリアは手前のベッドの膨らんだ布団を慎重にめくる。恐らく寝ている者の足側だと思われる方をゆっくりと

持ち上げると、予想通り足が現れた。

 ハンディライトの光に照らし出された足は、白くきめ細かな肌をしている。セシリアは鼻を近づけ、くんくんと嗅いでみた。

 

「違いますわ。これは太郎さんの臭いじゃない」

 

 セシリアは失望したとばかりに布団を元に戻す。二つのうち一つは外れだった、ということはもう一つは必然的に太郎の物で確定だ。セシリアはもう一つのベッドに標的を変える。セシリアは吸い寄せられるように、目標のベッドへと倒れ込み、ベッドの上にあった薄手の掛布団を頭から被って思いっきり息を吸い込んだ。

 

「ふぁ~これ、これですわ~。フンフン、エヘッフェヘッフェッフェッフェ」

 

 夢見心地といった表情でセシリアは笑う。ベッドは予想通り太郎の物であり、太郎の臭いが染みついていた。オスの臭いにクラクラしつつセシリアは妄想の世界へ旅立とうとしていた。

 セシリアは毎日のように〇ナっている。夜、寝る時に布団を被って太郎の使用済みISスーツを嗅ぎながら妄想の世界に浸りつつ致している。その為、太郎の臭いとベッドに寝転がるという組み合わせで条件反射的に体の一部がグショグショなってしまった。まさにパブロフのメス犬状態だ。

 ちなみにセシリアのお気に入りの妄想ネタは三つある。

 一つは太郎達との決闘に勝ち、自分がクラス代表になったという妄想。そこでは太郎が副代表になって陰に日向にと代表である自分をサポートしてくれ、そこにいつしか愛が生まれるという設定になっている。

 二つ目はセシリアがイギリスの代表候補生から正式にイギリス代表へと昇格したという設定。太郎も日本代表になっており、IS世界大会(モンド・グロッソ)で強力なライバルとして立ちはだかるというものだ。この世界ではセシリアと太郎の実力が盛りに盛られており、完全に無双状態となっている。ライバル関係でありながら同時に惹かれ合う二人。そんな世界観になっている。

 三つ目は太郎を執事として雇い、二人で協力してオルコット家を空前絶後超絶怒涛の最強名門貴族として成長させた後、結婚するというご都合妄想だ。

 今日選んだネタは二つ目だった。妄想の中でセシリアと太郎はISによる激しい戦いを見せている。舞台はもちろんモンド・グロッソ決勝だ。

 

「フフッ流石はセシリアさんだ。私の機動に付いてこれるとは」

「この程度わたくしにかかれば児戯ですわ」

「やはり私とやり合えるのは、私を熱くさせるのは貴方だけだ!」

 

 セシリアの一人二役の気持ちの悪い茶番劇が始まる。二重の意味でただの〇ナニーである。 

 隣のベッドで寝ているのは太郎のルームメイトであり、自分ともクラスメイトであるシャルロットのはずだ。その彼女の横で致すという事。それは頭が沸騰しそうなほど羞恥心を湧きあがらせる。だが、それが良い。

 

「さあ二人で熱い二重奏を奏でましょう」

 

 誰かに聞かれれば間違いなく悶絶するクサいセリフを布団の中でブツブツ言いながらセシリアは高みを目指す。

 だが、そこに水を差すものが──────────騒々しい足音とともに部屋へと飛び込んできた。

 

「シャルっ無事ですかッ!? ふた●り改造されて〇ちん●みるく搾乳調●されていませんかっ!?」

 

 ルームメイトの安否を第一に考える紳士の鑑、山田太郎である。

 セシリアの意識は一気に現実へと引き戻される、と同時に恐慌状態に陥る。

 

(マズイ! こんなところを捕まっては弁解の余地もありませんわ)

 

 不幸中の幸いなのは布団を被っている状態だったので顔を太郎に見られていないことだ。セシリアは薄手の掛布団を被ったまま窓を突き破り屋外へ逃走を開始した。




太郎 「男装少女を男装ふた●り少女へと改造だとッ、まさかゴルゴムの仕業ッ!!?」
太郎 「ゆ゛る゛……す゛!!!!!」
シャル「ええ……(困惑)」


読んでいただきありがとうございます。

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