ISー(変態)紳士が逝く   作:丸城成年

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第113話 

 シュヴァルツェ・ハーゼの隊員達を訓練し終わった太郎は、一度基地に戻って泥と汗をシャワーで流した。シャワー室から出る頃には既に日が落ち始めていたので、ドイツ滞在中の為にとっておいたホテルへと戻ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 太郎がホテルの自室に入って最初にしたこと、それは室内の安全確認であった。

 

 

『チェック完了しました。部屋内に盗聴器、隠しカメラの類はありません』

 

「ありがとうございます。美星さん」

 

 

 太郎は自身の専用機のコア、美星へ礼を言う。太郎は今回通常の手続きでドイツを訪問している。宿泊施設も秘密裏に手配したものでもなければ、自分のツテを頼ったものでもない。つまり現在の太郎は、セキュリティーの厳しいIS学園にいた時とは違い、ほぼ無防備と言える。

 

 太郎は自分の【世界でたった2人の男性IS操縦者】という価値を正確に把握している。そんな太郎が無防備な状態でウロウロしていれば、ドイツの情報機関を筆頭に様々な相手からの監視が付いていてもおかしくない。そこでホテルの部屋を美星に頼んで調べてもらったのだ。

 

 結果はシロ。ISのセンサーを誤魔化せる様な盗聴器など考えられないので、本当に部屋の中にはないのだろう。部屋の中には。

 

 

「それではこの部屋の隣室や直上、直下の部屋はどうですか?」

 

『少々お待ちください。……問題ありませんね。それどころか各部屋とも空室のようです』

 

 

 このホテルに帰って来た時、エントランスではそれなりに客を見かけた。周囲の部屋全てに宿泊客がいないのは流石に偶然と思えない。

 

 

『それとここから100mほど離れた場所に軍用ISがいます。こちらを護衛しているようです』

 

「ドイツの方々には随分と気を使ってもらっているみたいですね。この国の企業などからしつこくコンタクトがあるかと思いましたが、大人しいものです」

 

『ドイツ軍がマスターに接触しようとしている者達を遠ざけているのですか?』

 

『恐らくは。今のところ、この国の軍とは非常に良好な関係ですからね。彼らとしても下手な事態は避けたいのでしょう。余計な小細工はせず、第三者の干渉も排除するという方針のようです』

 

 

 太郎の推測はおおよそ正解である。

 

 これはラウラの上司であるフォルカー中将の意向だ。自身の部下であるラウラが太郎を篭絡、もしくはそこまでいかなくても良好な関係を構築出来れば、今後の出世に有効な手札になる。そう考えての行動である。ちなみに発案者はラウラの副官であるクラリッサである。彼女の方は単純にラウラを手助けしようとしているだけだ。

 

 さて、部屋の安全を確認した太郎は今日の戦利品をポケットから取り出し、ベッドの上に並べていく。

 

 ヴェンデルとルッツのブラとパンツ、それと名も知らぬ隊員の土が少し付いたパンツを広げる。土が付いているのはラウラの襲撃で地面に取り落としてしまったからである。それとは逆にヴェンデルとルッツの物の状態は良い。沼に隠れていて泥まみれだったクラリッサ達と戦った時には、戦利品が汚れるてしまうのではと太郎も内心穏やかではなかった。しかし、幸いそれも杞憂に終わった。

 

 太郎は並べた下着を眺めてから左から順に指差していく。

 

 

「これは気絶してしまった子の分、こっちはヴェンデルさんの、そしてこのワールドクラスのブラはルッツさんですね」

 

 

 全て白色無地な下着ではあるが、ルッツの物はサイズが他の物と比べて突出している。それに名も知らぬ隊員の物は土が少し付いているので見分けるのは簡単である。

 

 

「はあ、思ったより数は稼げませんでしたね」

 

『ラウラさん達が健闘しましたから』

 

「それはそれで良い事なんですがね。これでは少々不完全燃焼です」

 

 

 残念そうにしながらも太郎はルッツのブラを手に取り、その大きさに改めて驚いたりしていた。頭に持っていくと片胸分のカップだけで太郎の頭をスッポリ包めそうな大きさである。流石に帽子の様に被れる程のサイズではなかったが。

 

 

「これだけのサイズとなると動くのにも邪魔でしょうに、そこそこ動けてましたね。あくまで同世代の子達と比べてですが」

 

『この下着のカップ部分に全て脂肪が詰まっていると仮定して計算すると両胸で3500グラムは超えてますね』

 

「それは凄いっ!」

 

 

 今持っているブラに男の夢と希望が3kg以上も収まっていたと知り、太郎は驚きに目を見張った。キラキラと少年の如く瞳を輝かせる太郎の耳へ、とある音が届いた。

 

 コンコン。

 

 扉を叩く音、楽しいひと時を邪魔された太郎は眉をひそめた。しかし、その訪問者が誰か分かると機嫌もすぐ良くなる。

 

 

「いきなり訪ねてすまない。話したい事があるのだが、少し良いか?」

 

 

 扉の向こうから聞こえたきた声はラウラのものだった。太郎が扉を開けるとオーバーコートを着たラウラが立っていた。

 

 

「まあ、とりあえず部屋へ入ってください」

 

「はい」

 

「そんなコートだと暑いでしょう。もう脱いだらどうです?」

 

「あっ、いえ、これはこれで問題ありません」

 

 

 ラウラのコートは一見して真冬を想定した作りである。室内で着るような物ではないのだが、何故か太郎の提案を断った。太郎は不思議に思ったが自分もいつも半裸だったり全裸だったりと、服装について人へ何かを言えるような人間ではなかったので気にしないことにした。

 

 

「そんな事よりっ、礼を、礼を言いたくて私は」

 

「礼ですか?」

 

「ああ、パパのお陰で部隊の隊員達と……打ち解ける事が出来た。その、私は人付き合いが苦手で今まで部下ともあまり良い関係とは言えなかったのだ。しかし今日の訓練の後、部下達が話し掛けてきてくれたんだ」

 

「良かったですね」

 

 

 笑顔で説明するラウラを太郎は微笑ましく思う。だが疑問もある。

 

 

「それで何故私への礼に繋がるのですか?」

 

「それは部下達が私とパパが闘っている所へ援護に来たのも、訓練が終わった後に話し掛けて来てくれたのも、パパと私が闘っている時の会話がきっかけだったと彼女達から聞いたからだ」

 

 

 太郎はあの時の会話を思い返す。太郎は単身で奇襲を掛けて来てラウラへ、何故一人で来たのかと責めた。シュヴァルツェ・ハーゼの隊長としての自覚に欠けていると厳しい言葉をぶつけたのだ。

 

 

(クラリッサさん達は偶々私達の会話が聞こえてきたので援護に駆け付けた、という様子ではありませんでした。状況的にクラリッサさん達は私があの場所に訪れる前から沼に隠れていたようです。つまり、あの会話を聞いて何か思う事があって援護に飛び出してきたのでしょう)

 

 

 彼女たちが何を思ったのかまでは太郎にも分からない。ただ、ラウラにとって悪い事ではないのは確かだろう。

 

 

「今まで人付き合いどころか人との接触自体避けていた私としては、パパの【隊長としての自覚に欠けている】という言葉は堪えた。しかし、お陰で目が覚めた。これまでの私は自分が強くなる事ばかり考えていたが、一人では出来ないことも仲間となら可能になる事もあるのだな」

 

「そうですね。信頼出来る仲間というものは大切です。そして、私にとって貴方はそこに含まれますよ」

 

「パパ……」

 

 

 恥ずかしそうに顔を赤らめるラウラは、お世辞抜きでドイツに来てから会った誰よりも可愛かった。太郎は強烈な性欲を感じたが、それをおくびにも出さない。ラウラへ手を出すことは許さんと千冬に厳しく釘を刺されているし、ここは太郎のホームである日本ではなくドイツである。もしラウラに手を出して、その既成事実を盾にドイツ軍や政府に何らかの約定を迫られると跳ね除けられるか分からない。

 

 太郎が性欲と危機管理の狭間で悶えていると、それを打ち破る事実をラウラがもたらす。

 

 

「そうだ、フォルカー中将から預かった物があったのだ」

 

 

 ラウラがコートのポケットから封筒を取り出して太郎へ渡した。封筒は上等な物で封もしっかり為されていた。

 

 太郎は封を無造作に破り、中に入っていた手紙を手に取って無言で読んでいく。それは太郎が想像すらしていなかったものであった。内容を要約すると─────────

 

 1、シュヴァルツェ・ハーゼの隊員は例外なく全員成人扱いである。

 2、同上の思想・恋愛の自由を軍は保障する(反社会的もしくは敵性勢力に関する事項は例外とする)

 3、今後ドイツにおける交渉窓口は自分(フォルカー)だけにしてもらいたい。

 

 

 フォルカーはドイツでは軍が太郎達の後ろ盾になるので、他の組織・勢力とは接触しないようにという要望なのだろう。そして、その代わり、ラウラを含むシュヴァルツェ・ハーゼの隊員達との人間関係へ無用な干渉はしないということだ。つまり聞こえの悪い言い方をすれば、ラウラ達を餌にコネクションを作ろうとしているのだ。

 

 太郎としてはラウラを道具みたいに扱っているようで、フォルカーへ若干不信感を持った。しかし、ラウラには上官からの命令で太郎と【関係】を持とうとしている様な意図は感じられない。これまでのラウラからのアプローチは全て本人の意思によるものだとしか感じられない。もしかしたら、文面通り自由恋愛を保障しているだけで生贄として差し出しているわけではないのかもしれない。

 

 太郎はフォルカーからの手紙について考えを巡らせるが、何らかの確証を得るには判断材料が少なすぎる。

 

 

「こういうものは直接話し合って決めるものだと思うのですが、一方的ですね。それにこの文面をそのまま信用して良いものでしょうか?」

 

 

 疑問が口をついて出る。太郎とフォルカーの付き合いは未だ浅い。この文書に書かれた内容を「はい、そうですか」と簡単に信じることは出来ない。そんな迷いを抱く太郎に美星が助け舟を出す。

 

 

『現状では例え罠だったとしても脅威にはならないでしょう。ラウラさんならマスターを軍へ売る恐れは少ないですし、後は物的証拠を確保されなければどうとでもなると思います』

 

「それもそうですね」

 

 

 バレないファールはファールじゃない。立件されて有罪判決をくらわなければ犯罪ではない。美星の暴論に、もちろん太郎は頷く。先程までの警戒が嘘の様にあっさりと太郎は受け入れた。太郎は用心深い男だが、それ以上に欲望に我慢弱い男である。

 

 リスクがある事を言い訳にして、行動しないような男ではない。行動した後、問題となったら大半は開き直り、偶に言い訳する事もある、そんな男である。

 

 

「それにラウラへ手を出すことは許さん、と千冬さんに厳しく釘を刺されていますが、あれはあくまで学園内の話でしょう。教師として学園内での行為を禁止するのは当然ですし、その権限もあります。しかし、私がドイツで成人女性と行為に及ぶのを止める事は出来ないでしょう」

 

 

 結論は出た。

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。次こそR18。


太郎「座右の銘は、後悔チン○立たず」

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