ISー(変態)紳士が逝く   作:丸城成年

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第107話 野放し

 太郎の強烈な一撃を喰らい、失神してしまったルッツ。彼女は目を覚ます様子も無く地面に横たわっていた。流石に放置する訳にもいかないので、現在は近くにいた隊員が介抱している。

 

 ヴェンデルはルッツのその痛ましい姿を見て顔が強張っている。

 

 

「このキチ○イが……ただで済むと思うなよ」

 

「ふふっ、それはこちらのセリフです。うちのラウラに喧嘩を売っておいてタダで済むなんて思わないで下さい。高くつきますよ。それにある人から貴方達の相手をして欲しいと頼まれてもいるので、たっぷりとその身に教訓を刻み込んであげます」

 

 

 太郎の口調は怒りに震えるヴェンデルとは対照的で軽いものだった。あまつさえ、話している最中に視線をラウラやクラリッサの方へ向ける余裕すらあった。それがヴェンデルの気持ちを逆撫でする。

 

 

「チッ、ルッツに勝ったくらいで調子乗ってんじゃねえ。次は私とISを使った実戦だっ!」

 

 

 烈火の如くヴェンデルが吠える。しかし、それでも太郎は相変わらず涼しい顔である。

 

 

「付いて来い。こっちに専用のグラウンドがある」

 

 

 我慢の限界が近いヴェンデルは、ISにより模擬戦を行える専用のグラウンドの方を見ながら太郎に言った。一分一秒でも早く、コイツをブチのめしたい。そんな気持ちがありありと表れている───────────が、甘い。甘過ぎる。

 

 

「貴方は馬鹿なんですか?」

 

 

 太郎の呆れた様な声が背後から聞こえてきた瞬間、ヴェンデルは自身の体が真っ二つに引き裂かれた様な痛みを覚えた。

 

 

「がぁっ、な、なに……が?」

 

 

 突然の事に混乱状態のヴェンデルは、痛みに顔をしかめながら後ろへ振り返る。

 

 そこにはいつの間にか忍び寄っていた太郎が立っていた。そして、太郎の股間辺りから伸びた鉄杭が、自分の尻に突き刺さっていた。

 

 何故? どうして?

 

 ヴェンデルの頭へ最初に浮かんだのはそんな言葉だった。あまりにも唐突で予想外な状況に、怒りよりも困惑が強い。

 

 周囲の者達は太郎を取り押さえるべきか迷っていた。ヴェンデルとは違い、周囲の者達は一部始終を見ていた。太郎はヴェンデルが背を向けたところで気配を消して接近、ISを部分展開して【毒針】をヴェンデルの尻にお見舞いしたのだ。

 

 太郎のやり様を汚い、とシュヴァルツェ・ハーゼの隊員達の多くは思った。しかし、そんな彼女達をあざ笑うかのように太郎は告げる。

 

 

「自ら実戦と言っておいて、敵に無防備な背を見せるなど愚の骨頂です」

 

「ひきょ、うな……」

 

 

 太郎の厳しい言葉に、ヴェンデルは息も絶え絶えな様子で呻く。ここに来てやっとヴェンデルは自分に何が起こったのか理解した。卑怯にもこの男は背後から不意打ちをしたのだ。しかも、断罪する自身の声を聞いても、男は怯むどころか溜息を吐いている。こみ上げて来る怒りに任せ、抵抗しようとするも何故か体が上手く動かない。

 

 太郎は大した抵抗にもならないヴェンデルの動きを無視し、腰を引いて鉄杭を引き抜いた。するとヴェンデルは反撃するどころか足元が覚束無くなり、ひっくり返ってしまう。

 

 

「ふふっ、体が思うように動かないでしょう? 毒ですよ。まあ安心してください。ただ体が痺れるだけのものです」

 

「くそが、まと、もに……やったら勝てないから……こんな手を」

 

 

 事も無げに言う太郎に対し、ヴェンデルは睨み、罵る事位しか出来ない。

 

 太郎はそんなヴェンデルを見て、やれやれと呆れた様に首を振る。

 

 

「まさか、本気で私が貴方に勝てないと思っているんですか? 冗談でしょう。最初勝負だなんだと言いましたが……あれは嘘です。先程貴方のラウラへの挑発に割り込んだのは、ラウラを庇う為ですが、実は他にも目的があったんですよ。それは心技体全てが未熟な貴方達を鍛え直す事です」

 

「ど、どういうこ、とだ」

 

「訓練中、上官に対して幼稚な挑発を繰り返す精神。こちらが少し回避行動を取った位で攻撃がほとんど当たらなくなってしまう程度の技術。殺す気で殴っているのに大したダメージを与えられない貧弱な肉体。そのうえ自ら実戦などと言っておきながら、敵に背を晒す愚行」

 

 

 困惑するヴェンデルだけでなく、その場にいる者達全員を見回しながら太郎は話し続ける。そして、太郎の視線がクラリッサで止まる。

 

 

「心技体全てにおいて未熟としか言いようが無いです。そんな貴方達が強くなるにはどうすれば良いと思いますか?」

 

 

 いきなり太郎はクラリッサへと質問を投げ掛けた。唐突に話を振られたクラリッサは、戸惑いつつも答える。

 

 

「それは……今までより厳しい訓練を「不正解です」

 

 

 クラリッサが答えきる前に太郎が否定した。

 

 

「己の立ち位置、目指すべき先、それらも知らず闇雲に訓練しても非効率的です。そんなものは訓練の為の訓練でしかありません」

 

 

 太郎はTシャツを脱ぎ捨て、己の肉体をシュヴァルツェ・ハーゼの隊員達に見せ付ける。

 

 

「貴方達は今、自分達の未熟さを思い知ったでしょう。そして、目指すべき先を見ています。そう、この私です」

 

 

 太郎はそう言って自らへ親指を向けて誇示した。

 

 

「私がこのドイツにいる間、貴方達を鍛え抜いてあげます」

 

「良いのか!?」

 

 

 太郎の宣言にラウラは喜びと驚きに声をあげた。ちなみに他の者達は呆然としていた。

 

 

「良いですとも。それにシュヴァルツェ・ハーゼの方々は千冬さんの教え子、現在千冬さんの生徒をしている私とは兄妹弟子みたいなものです。未熟な妹達を鍛えるのも兄の使命です」

 

「よし、楽しみだな」

 

 

 誰も止める者がいない為、太郎とラウラの間で話がどんどん進んでいく。しかも、太郎はシュヴァルツェ・ハーゼの隊員達より後に千冬の生徒となっているのに、しれっと兄弟子と名乗っていた。

 

 IS学園では千冬というストッパーがいた。しかし、ここドイツには千冬はいない。鎖から解き放たれた野じゅ……紳士はもう止まらない。

 

 

 

 

 

 

 

 




太郎「この千冬さんの終身名誉一番弟子である私が、未熟な貴方達をビシビシ鍛えてあげます」


読んでいただきありがとうございます。

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