ISー(変態)紳士が逝く   作:丸城成年

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第11話 蒼い雫の陥落

決闘当日第3アリーナの第Aピット

 

 Aピットでは太郎、一夏と一夏に付き添っている箒の3人が待機していた。ISによる模擬戦闘は初めてと2回目の人間なのに2人は落ち着いていた。むしろ付き添いの箒の方が緊張している様子である。一夏は自分のISがまだ届いていない為、初めて目にする太郎の専用機を興味深そうに見ていた。

 

「太郎さんのISって派手だなー」

 

「そうかな。まあ、打鉄とかに比べたら派手かもしれないね。一夏のISはまだ届いてないみたいだけれど準備は大丈夫なのかい?」

 

 

 太郎の言葉に一夏のテンションは一気に落ち込む。

 

「何も出来てないっす」

 

「・・・どういう事ですか?」

 

「専用機が届かないうえ、訓練機も貸し出して貰えず剣道の稽古をしていました」

 

 

 これには太郎も驚いた。つまりほぼ何の用意もなくISに関しては素人である一夏が今から国家代表候補生と闘おうというのだ。もしかして負けたら奴隷というセシリアの言葉に期待しているのだろうか。ここではあえてその事については言わなかったが。

 

「流石にセシリアさんの事を舐めすぎですよ」

 

 

 箒が気まずそうにしている。どうやら剣道の稽古に関しては箒の考えだったようだ。箒を庇うつもりでは無いが一夏が言い訳する。

 

「いや、そうは言ってもやれる事なんて無いじゃないですか」

 

「セシリアさんの情報を調べる位は出来るじゃないですか」

 

「太郎さんは調べたんですか?」

 

「もちろんです。セシリアさんの事なら大体知っていますよ」

 

 

 そう太郎はセシリアの事を詳しく調べて大体の事は知っていた。今日着けている下着から生理の周期まで。

 

「でも俺の場合、その情報を活かせる気がしないですよ」

 

 

一夏の言い分も一理ある。

 

 セシリア側の情報を収集するなり、熟練者に頼み戦術を考えるなり出来ることはあるにはある。ただ、そもそも1回しかISを動かしていない人間ではまともにISを操作出来るかも怪しいところだ。それでは情報も戦術もあまり意味をなさない。

 

 そんな事を話していると千冬と真耶がAピットに入ってきた。

 

「山田。織斑の専用機が未だ届かん。お前の方は一次移行も済んでいるようだし先に闘うことになる。いいな」

 

「問題ありませんよ」

 

 

 太郎は軽く応えると美星を装着する。しばらく何かを我慢をする様な表情をしていた。それを見た千冬が

 

「どうした気分が悪いのか?」と聞くと

 

「逆ですよ。気分が良すぎて世界の果てまで飛んでいきそうです」

 

 

 太郎はそう応えるとピットから飛び出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、ちふ・・・。織斑先生、太郎さんのISってかなり個性的な見た目だけど・・・あれってスズメバチ?」

 

 

 そう太郎のISの見た目はどう見ても黄色と黒色を基調としたオオスズメバチをモチーフにしたものだった。

 

「そうだ、見た目通り名前は『ヴェスパ』日本での通称は『スズメバチ』。MSK重工が作った未完成の第3世代機だ」

 

「未完成?」

 

「搭載予定の主兵装が未完成で代替品を載せているらしい。開発会社もISその物もいわくつきの厄種だ。そう言えば操縦者もだな」

 

 

 IS業界にあまり詳しくない一夏と箒は何の事か分からないといった様子である。

 

「開発会社のMSK重工は元は3つの会社だったが、どの会社も元々黒い噂の絶えない会社だ。擬似的ISコアを人間を材料にして作ろうとしていたとか、人間の脳を火器管制システムとして使おうとしたとか、毒ガス兵器を開発しているとか言い出すとキリが無い位だ」

 

「「・・・・・・・・」」

 

 

 一夏と箒は何も言えずに聞いていた。

 

「ここまでは単なる噂だ。あとヴェスパに関しては単純に欠陥機だ。まあ、それはお前の専用機にも言えることだがな」

 

 

 唐突に未だ届かない自分のISを欠陥機呼ばわりされて一夏は目を剥く。

 

「俺の専用機って欠陥機なのかよ!」

 

「いや、欠陥機と言うのは言い過ぎたな。お前と山田のISは極端な設計なのだ。初期兵装が近接用武装しかないからな」

 

「えっ、まじで?」

 

「しかも、お前の専用機はその近接武装で拡張領域を使い切っているから追加装備は出来ない。山田の方は1つ位なら装備出来る。一次移行が済んで機能が増えたらしいがそれも武器ではなかったとのことだ」

 

「くっそ~。1つでも羨ましいぞ」

 

 

 しかし一夏の言葉に千冬は首を振る。

 

「だが山田はその貴重な1枠をとんでもない物に使っている。三式対IS狙撃銃。この武器はお前等のISと違って本当の欠陥品だ。ISの絶対防御を貫通する事だけを目的として作られた世界最強の貫通力を持つIS用の銃だ」

 

 

「それって凄い銃なんじゃ?」

 

「確かに当初意図した通りの貫通力はあるが狙撃銃のくせに精度が低く長距離狙撃が出来んうえ、装弾数が4発でボルトアクション。高速で動くISにはまず当たらん実用性皆無の銃だ。しかも万が一にでも直撃すると相手が死んでしまうから使用弾頭を貫通力の弱い物に換えさしている。欠点だらけで唯一の強みすら消した銃だ。ほら試合が始まるぞ。あんな武器でどう闘うのか見物だぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリーナ

 

 Aピットから太郎が現れる。黄色と黒色を基調としたカラーリングにスズメバチその物なフルフェイスな頭部が不気味である。それ以外でも目を引くのはスラスターとは別に羽がある事だ。これは空中戦における旋回能力や細かい機動を実現する為にある。

 

「山田さんが初戦の相手ですの?」

 

「ええ、一夏の専用機が遅れているので私が先にお相手します」

 

 

 太郎はセシリアと会話しながら全く別の事を考えていた。

 

(あの太ももに挟まれて三次元躍動旋回(クロス・グリッド・ターン)されたいです)

 

 

 太郎はISの脚部ユニットとお尻の間にある肌が露出している場所と脇が大好物で先程からむしゃぶりつきたい衝動を抑えるのに必死である。

 

『ちゃんと録画していますよ』

 

 

 美星も準備万端である。

 

 セシリアは太郎の手にある無骨な見た目のスナイパーライフルを見て嘲笑う。

 

「あら、山田さんはそんな銃を使ってますの?わたくしのブルー・ティアーズも遠距離射撃型なのでライフルには詳しいですが・・・・その銃に関しては馬鹿らしくて試そうとも思いませんでしたわ。そう言えばその欠陥銃も作ったのは極東のお猿さんでしたね。お似合いですわ」

 

「この銃は確かに欠点の多い銃ですが欠陥品ではありませんよ」

 

「100人のIS関係者が見たら100人全員が欠陥品と言いますわ。そんな物を使って負けた言い訳にされたくありません。待っていてあげますから別の物に換えて来なさい」

 

「お気遣いは嬉しいですが、この銃が良いんですよ。それを貴方はこれから痛感すると思いますよ」

 

 

 太郎の言葉にセシリアはムッとする。

 

「痛感するのは貴方の方ですわ、わたくしの言葉が正しかったと。わたくしのスターライトmkⅢに勝てるわけ無いですわ」

 

 

 セシリアはそう言い終ると同時に撃つ。それを紙一重で避ける。セシリアはそこから2発目、3発目と続けて撃つが全て避けられる。生身でISの攻撃を避ける事の出来る太郎がISを装着した状態で避けられない道理はない。ただ攻撃を避けられたセシリアにも焦りはなかった。

 

「避ける事はお上手ですわね。しかし、これならいかがです?」

 

 

 ブルー・ティアーズの肩部ユニットから4基のレーザービットが分離し太郎を囲むように移動していく。それを見た太郎はほくそ笑む。予定通りだと。

 

「美星さん、今です」

 

『レギオン展開』

 

 

 ヴェスパの背部ユニットから実物大のオオスズメバチ型のビットが30匹吐き出される。これが一次移行で得た新たな機能である。

 

「か、数が多い!!」

 

 

 純粋な数の勝負では4対30であるセシリアは焦って相手のビットの数を減らそうと攻撃をスズメバチ型ビットに集中させる。しかし、これが太郎と美星の罠であった。見た目がオオスズメバチなビットなので攻撃して来そうなイメージがあるが実は攻撃機能は無いのである。

 

 このビットの総称はレギオン。索敵、観測用ビットである。設定された空間に対して群れの密度が一定になるように各々が位置取りし本体にデータを送り続けるだけの装備である。

 

 セシリアがレギオンへの攻撃に意識が移ったのを見て太郎は即座に三式狙撃銃を構える。セシリアはレーザービットを操作する際にIS本体の動きが疎かになる。その弱点を最初から狙っていたのだ。大気を震わす轟音とともに弾丸がセシリアへと放たれた。

 

「長距離狙撃は無理、激しく回避行動をとるISには当たらない。それなら動きを止めてしまえばいいんですよ」

 

 

 太郎が嗤いながら素早く排莢し次弾を装填する。

 

 弾丸の当たったセシリアはあまりの衝撃に錐揉み状態で墜落しかける。そこは流石国家代表候補。なんとか機体を制御し地面に叩き付けられる事は無かった。シールドエネルギーが30%程減っていたがセシリアはそんな事気にしている状態ではなかった。

 

 

 絶対防御すら貫通する銃弾が自分に当たった。

 

 

 先程の銃弾は「偶々」貫通しなかったがこの事実にセシリアは平静ではいられなかった。今回、絶対防御を貫通する弾頭はその危険性から使用が禁止されていたがセシリアはその事実を知らなかった。今まで単なる欠陥品として見ていた銃が今では自分の命を奪う事の出来る凶器に変わっていた。

 

 いくら国家代表候補とはいってもセシリアに命の奪い合いの経験は無い。ISは既存の兵器群を超越したモノであるが一種のスポーツとしてセシリアは受け取っていた。それがいきなり殺されるかもしれないという状況になって恐怖しない方がおかしい。そして集中力の落ちた状態ではレーザービットは上手く動かない。

 

 この隙を太郎は逃さない。変則的な機動で間合いを詰めて行く。

 

「いや、いや、死にたくない!」

 

 

 上手く動かないレーザービットを諦め必死でスターライトmkⅢを撃つが太郎にはほとんど当たらなかった。そして狙撃銃を量子化し空いた両手でセシリアを捕まえる。セシリアの恐れた銃は仕舞われたが本当の恐怖はここからであった。

 

 太郎は正面からブルー・ティアーズの腕部装甲を掴み、ヴェスパの脚部をブルー・ティアーズの脚部に絡ませ固定する。

 

『さあ、お嬢様。お楽しみの時間ですよ。今から貴方(ブルー・ティアーズ)の膜(絶対防御)をブチ貫き乙女を散らして上げますよ』

 

 

 美星が舌舐めずりしそうな勢いだ。

 

「セシリアさん、三式狙撃銃は良い銃だったでしょ。でも実はこちらが本命だったんですよ」

 

 

 ヴェスパの股間部分の装甲が開きブルー・ティアーズに向けて紫電が疾走る疾走(はし)る。

 

 

 

 

 

 いつまで経っても専用機の届かない一夏は管制室で試合を観戦していた。管制室には千冬と真耶と箒がいた。そして今見た光景に千冬以外は絶句した。

 

「あれはヴェスパの主兵装『毒針』・・・そのままな名前だな。第2世代最高クラスの威力を誇るシールド・ピアースにナノマシンを付加した物だ。杭の周りの紫色の光はバリアーや絶対防御に干渉する役割があり、敵のISに刺されば先端から相手の制御を奪うナノマシンを流し込む第3世代最強の対IS武装だな。まあ、当てることが出来ればの話だが」

 

 

「太郎さんの武器って凄いのばっかりなんだな」

 

 感心する一夏に千冬は呆れる。

 

「あの武器を当てることが出来る腕があるなら他の武器でもっと簡単に勝てる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴェスパの毒針がブルー・ティアーズのバリアーを貫き、絶対防御すら突き破ろうとしていた。セシリアは最後の気力を振り絞りインターセプターを呼び出すが掴まれた腕を外せない。必死の抵抗も空しくついに絶対防御が貫かれる。

 

 蒼く一片の曇りもない美しいブルー・ティアーズの肢体に太郎の杭が突き刺さり彼女を汚そうと欲望のエキスを注ぎ込む。

 

『貫通おめでとうございます。ねえ、今どんな気持ちかしら。貴方が流す涙はやっぱり蒼い雫なのかしら。ふふ』

 

「ふう・・・・」

 

 

 美星はブルー・ティアーズを煽り、太郎は満足気な表情で大きく息を吐いた。

 

 

 

 しばらくして太郎はセシリアに話しかけた。

 

「セシリアさんはブルー・ティアーズの制御をほぼ失っている状態ですが・・・・・まだ続けますか?」

 

 

 セシリアは首を横に振った。

 

「わたくしの完敗です」

 

 

 

 

 セシリアは管制室にも自身の降参を伝え、試合終了のブザーが鳴らされた。

 

「試合終了。勝者山田 太郎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




美星「太郎って早くない?」
太郎「・・・・・・」



明日はちょっと忙しくて書けるか分からないし書けても短いと思うので今日は長めにしました。

呼んでいただきありがとうございます。

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