ISー(変態)紳士が逝く   作:丸城成年

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閑話 クラリッサの独白

 太郎歓迎パーティー会場。その名の通り、日本からやって来た男性IS操縦者・山田太郎さんの歓迎パーティーが開かれている会場だ。パーティーも終盤に差し掛かり、開始当初は多くの人間に囲まれていた太郎さんも今はのんびり食事を楽しんでいるようだ。パーティーは特に問題も無く進行し、主催者である私としても一安心である。

 

 私はクラリッサ・ハルフォーフ。特殊部隊「シュヴァルツェ・ハーゼ」副隊長にして大尉である。歓迎パーティーの段取りなど未経験であるが、相手は日本人である。部隊一の日本通である私にかかれば、日本人の一人や二人持て成すなど造作も無い仕事であるはずだった。だが、そう甘くは無かった。ここまで来るまでにどれだけの苦労があった事か。

 

 太郎さんを喜ばす為のアイデア自体は簡単に思いついた。しかし、思わぬ落とし穴が私を待っていたのだ。

 

 パーティーの準備はシュヴァルツェ・ハーゼの隊員だけで全て行える訳ではない。会場となる食堂を貸し切る手配。会場のセッティング。食事の用意。催しの進行などなど、細かい事まで挙げ始めるとキリがない。それにも関わらず、シュヴァルツェ・ハーゼの面々は単純な労働力以外には何の役にも立たなかった。

 

 精鋭と言われるシュヴァルツェ・ハーゼだが、戦闘や訓練を離れると大半の隊員達は何も出来ない。それもそのはず彼女達は生まれてこの方、戦闘と訓練、それと軍事関連の座学位しかやってきていないのだ。歓迎パーティーなど見た事も参加した事も無い。それに隊以外の者とのコミュニケーションが上手くとれない隊員が多過ぎた。

 

 特に男相手の意思の疎通は壊滅的である。

 

 どういう話し方をすれば良いのか分からず、話かける事すら手間取る者。

 

 意味も無く相手を見下し、反感を買う者。

 

 結果、隊外の者との折衝は自分でやった方が早く、その大半を私がやる羽目になった。それもこれも───────────

 

 

「シュヴァルツェ・ハーゼの隊員達の経験不足が悪い、と?」

 

 

 気付いたら主賓である太郎さんへと愚痴をブチ撒けてしまっていた。幸い太郎さんは気分を害した様子もなく問い返してきた。ここで止めておけば良いのに私自身、酔いが回っていたのか大袈裟に頷いて愚痴を続けてしまう。

 

 

「そうです。うちの隊員は隊長を筆頭に軍の事しか出来ない、分からない者ばかりなんです。しかし、それは仕方が無いんです。だって、そういう事しかやってこなかったんですから」

 

 

 私の愚痴を聞いた太郎さんは、少しの間首を捻って思案していたが、何か思い付いた様子で顔をこちらへ向けた。

 

 

「それなら私がシュヴァルツェ・ハーゼの隊員達を指導するというのは、どうでしょうか?」

 

「た、太郎さんが?」

 

「ええ、彼女達の心技体を鍛えつつ、私と接する事で男への耐性も付く。一石二鳥でしょう?」

 

「確かに……ぜひ、お願いします」

 

 

 太郎さんの提案は私にとって非常に有り難いものだった。太郎さんは、あの隊長を変えた人である。必ず他の隊員達にも変化を与えるはずだ。この時の私は無邪気に喜んでいた。

 

 山田太郎。彼の指導がある意味で途轍もなく過酷である事を、私は後に思い知る。

 

 




読んでいただきありがとうございます。

次回「意外、それはヴェンデルの串刺しッッッッッッッ!!!!!!」

お楽しみに

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