ISー(変態)紳士が逝く   作:丸城成年

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第103話 ドイツ産

 その日、普段は何の飾り気も無く地味な軍の基地がお祭りの様な状態だった。基地内の人間は例外無く飾り付けやパーティー会場の設営に駆り出された。

 

 これはたった一人の男の為に行われているというのだから驚きだ。この女尊男卑の世の中でそんな扱いを受ける者、それは世界でたった二人しかいない男性IS操縦者である山田太郎だった。

 

 ラウラに付き添って突然ドイツへ入国した太郎の歓心を得ようと、フォルカー・マテウス中将の命の下、基地を挙げての歓迎会を開こうとしていた。

 

 現場を仕切るのはクラリッサとIS特殊部隊シュヴァルツェ・ハーゼの愉快な仲間達である。IS特殊部隊シュヴァルツェ・ハーゼはラウラが隊長を務める部隊であり、その副隊長であるクラリッサが現在ラウラの恋路を助ける為に指揮をとっている。

 

 煌びやかに飾り付けられた基地内。そこで今か今かと太郎を待ち受ける精鋭達。

 

 そんな中、ついにその時は来た。

 

 基地のゲートにラウラと太郎が現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 クラリッサと特殊部隊シュヴァルツェ・ハーゼの隊員達、そしてフォルカーは基地内に設けた太郎歓迎パーティー会場で太郎達の到着を待っていた。会場と言っても広い食堂から必要な分の机とイスだけ残して余分な物を別の場所へ移し、飾り付けや長机にテーブルクロスを敷いただけである。ただ、長机の上には料理と飲み物が所狭しと置かれていた。

 

 しばらくすると会場の入り口にラウラが姿を現す。そのラウラの後ろから直ぐに太郎が現れた。当初の予定ではここは拍手で太郎を迎えるはずだったのだが、太郎の異様な姿にシュヴァルツェ・ハーゼの隊員達だけでなく、クラリッサやフォルカーまであっけにとられていた。

 

 ラウラと太郎は共に軍服姿であった。ラウラは現役の軍人なので自然であるが、太郎は軍の人間ではない。しかも、太郎の着ている軍服はドイツ軍の物である。そして、何よりおかしいのは────────その軍服のサイズである。

 

 ピッチピチだ。まるで子供服を大人が着たかのような姿である。袖や裾は10cm以上生地が足りておらず、肩や胸板、太もも、上腕二頭筋などあらゆる部分がはち切れんばかりだ。

 

 フォルカーは戸惑っていたが何時までも黙っている訳にもいかず、ぎこちない笑顔を作りつつ太郎の前へと歩み出た。

 

 

「よ、よ、ようこそ、お、おいでくださいました。わ、我々は基地を挙げて貴方を歓迎します」

 

 

 フォルカーは引きつった笑顔で噛みまくっている。しかし、それも仕方が無い。

 

 明らかに異常な姿の太郎、されど今から太郎の歓心を得ようと狙っているフォルカーとしては迂闊に指摘して機嫌を損ねるなどという事態は避けたい。今まさにどうすべきなのか必死で考えを巡らしているのだから、多少ぎこちなくなっても当然だ。だが、フォルカーのその思案は無駄に終わる。

 

 

「服のサイズが合っていませんね」

 

 

 フォルカーの後ろに控えていたクラリッサが誰もが抱いた感想を口に出してしまったのだ。

 

 

(おおおおおおおいいぃぃ!!!!!)

 

 

 フォルカーは目を見開いてクラリッサを振り返ったが、本人はいたって無自覚である。フォルカーは何とかして誤魔化そうと考えたが、先に太郎が口を開いた。

 

 

「それはそうでしょう。これはラウラの軍服ですから」

 

(意味が分からない。何故ボーデヴィッヒ少佐の軍服を彼は着ているのだ?)

 

 

 フォルカーの頭の中は【?】で埋め尽くされる。しかも、太郎自身は己のその行動に何の疑問も持っていない様子である。フォルカーの持っている常識では全く理解出来ない。

 

 そこにクラリッサの斜め上な質問が飛び出る。

 

 

「サイズが合わないのに敢えて隊長の物を着る。それは……性癖的な理由ですか?」

 

「そうとってもらっても構いませんよ」

 

 

 笑顔でさらっと答える太郎にフォルカーは唖然とする。太郎の言葉はさらに続く。

 

 

「それに日本には郷に入っては郷に従えという言葉があるんですよ。その土地に訪れたら、その土地の風俗や習慣に従うべきだという意味です。だからドイツ軍の基地へ(おもむ)くなら、服装も合わせようと思いまして」

 

(はっ!? そ、そうか性癖というのは日本式のジョークだったのか。こちらが本当の理由なのか。焦ったぞ)

 

 

 フォルカーは性癖うんぬんという話を太郎のジョークだったのだと自分を納得させた。それを言うなら太郎の現在の姿そのものがジョークでしかないのだが、フォルカーはそれ以上考える事を止めた。その後ろでクラリッサは別の意味に受け取っていた。

 

 

(ごう)(カルマ)に入っては業に従え……深い言葉です。罪深い欲望でも一度染まってしまえば、それを否定する意味はなく、ただその欲望に従っていくというのか。日本人は潔いです)

 

 

 クラリッサは太郎の言葉の前半部分しか聞いておらず、勘違いしたまま曲解していた。

 

 そうとも知らず太郎はフォルカーやシュヴァルツェ・ハーゼの隊員達を眺め、さらに飾り付けられた会場を見回した。突然の招待だったので乗り気ではなかった太郎も実際に歓迎されると悪い気はしない。

 

 

「本日はお招きいただき有難うございます。この様な歓迎をしてもらえて嬉しい限りです」

 

「気に入ってもらえて何よりです。さ、さ、そちらに座って下さい」

 

 

 フォルカーは太郎からの丁寧な礼を受け、ここまでは成功していると確信を持った。フォルカーは太郎をイスに座らせると部下にビールジョッキを持って来させて太郎へ渡した。

 

 

「では、先ずは乾杯から」

 

 

 フォルカーがシュヴァルツェ・ハーゼの隊員達に目配せすると彼女達もそれぞれがジョッキを持つ。

 

 

「「Prost!!!(乾杯!!!)」」

 

 

 会場内に参加者達の声とジョッキをぶつけ合う音が響く。太郎もフォルカーとジョッキを軽く当て合うとジョッキに口を付ける。そして、一気に飲み干し空のジョッキを机にドン、と置いた。すかさず近くにいたシュヴァルツェ・ハーゼの隊員が新しいジョッキを持ってくる。

 

 太郎はそれを半分ほど飲むと一度机に置いた。

 

 

「日本の物とは少し違いますが美味しいですね」

 

「ふふっ、当然だな」

 

「色々な種類を揃えているので試して見ますか?」

 

 

 太郎の感想に何故かラウラが得意げに微笑んでいると、先程太郎に新しいジョッキを渡した隊員が笑顔で提案する。

 

 太郎達が話している隙にクラリッサは太郎の飲みかけのジョッキを手に取った。そして、周囲から見えないようにテーブルクロスの下へと────────。

 

 

「ハルフォーフ大尉、何を……」

(静かに!!!)

 

 

 クラリッサの行動を不審に思ったフォルカーが声を掛けると、彼女は小声でそんな事を言う。ますます訳が分からないフォルカーを放置し、クラリッサはベルトを外した。

 

 クラリッサは○○○と下○をズリ下ろすとジョッキをへ○○を注いだ。

 

 ジョボ、ジョボボボボボ。

 

 

(ハ、ハルフォーフ大尉、き、君は何を……)

(いやらしい目で見ないで下さい。アッチを向いてください。変態ですか!)

(す、すまん)

 

 

 クラリッサに睨みつけられフォルカーはつい謝ってしまう。そうこうしている内に満杯になったジョッキをクラリッサは机の上へと戻した。下着とズボンも元通りである。

 

 太郎と話していた隊員がお薦めのビールを取りにその場を離れる。隊員が戻って来るまでに太郎は自分の飲みかけのジョッキを飲み干してしまおうと机に視線を戻す。しかし、そこに飲みかけのビールは無く、満杯となったジョッキだけだった。

 

 

「新しいのを注いでおきました」

 

 

 クラリッサは真顔で言った。太郎は何の疑問も持たずにジョッキに手を伸ばす。慌てたのはフォルカーである。

 

 

「ちょっ、まってぐわあっ!?」

 

 

 太郎を慌てて止めようとしたフォルカーにクラリッサは関節技をかけながら口を塞いだ。どういうつもりだ、と目で訴えるフォルカーへクラリッサは自信満々に語り始める。

 

 

(これが日本式の歓迎なんですよ。昔チラっと見たマンガでやってました。その時はお茶でしたが)

 

 

 いやいや、ありえないと首を振ろうとするフォルカーであったが、シュヴァルツェ・ハーゼでも実力者であるクラリッサを振りほどけない。

 

 太郎はジョッキを持ち、口元へ持っていく。そして、口を付ける寸前になって眉を(ひそ)めた。

 

 フォルカーは全てが【終わった】と思った。出世どころか国際問題だ。○○を飲ませようとしたなどという、ありえない不祥事で自身のキャリアが終わるなど考えた事も無かった。

 

 太郎は一度手を止めたものの、そのままジョッキに口を付けた。そして、ゴクッゴクッと喉を鳴らしながら一気に飲み干した。

 

 

「……まろやかな味わいの中に刺激的な香りが潜んでしますね。これはかなり新鮮なモノでしょう?」 

 

「搾りたてです」

 

 

 普通に話している太郎とクラリッサを見て、フォルカーは自分の頭がおかしくなったかのような感覚に陥った。ハルフォーフ大尉が言った事は本当だったのか、そう一瞬思ったりもした。しかし、首を横へ振って否定する。日本人にそんな奇怪な習慣があるとは聞いた事も無い。もし本当だったとするなら、日本人の相手は自分には務まらないともフォルカーは思った。

 

 ただ太郎はラウラの専用機が直るまで、この基地へこれからも訪れる予定である。その許可を出したのはフォルカー自身だ。つまりフォルカーがどう思おうと、しばらくは関わり合いがあるのは決定事項であった。

 

 

 

 

 

 

 

 




太郎   「これぞまさに、一番しぼり生っ!」
クラリッサ「糖質も30%オフです(中将と比べて)」



読んでいただきありがとうございます。

数日前までの寒波大変でしたね。みなさんは無事だったでしょうか。私は人生は初の蛇口から水が出ないという体験をしました。比較的温暖な場所なので凍って出ないなどという発想がありませんでした。地元で雪が積もっているのを生で見たのも数年振りです。

これ以上が無ければ良いのですが、皆さんも気をつけましょう。

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