ISー(変態)紳士が逝く   作:丸城成年

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第102話 黒兎は牙を研ぐ

 現在、ラウラの愛機シュヴァルツェア・レーゲンは太郎専用の整備室で破損状態をチェックされていた。太郎を襲った事で美星の怒りを買い、激しい折檻を受けて破損してしまったのだ。

 

 整備室内ではシュヴァルツェア・レーゲンは見るも無残な姿を晒していた。機体の背部、操縦者であるラウラの腰や尻を覆う部分の装甲に大穴が開いている。機体の各所へコードが繋がっており、機体のデータを調べられてる。

 

 

「……これは私達ではどうにもなりませんね。一度専門家に見てもらうしかないと思います」

 

 

 太郎はシュヴァルツェア・レーゲンのデータが表示されたパソコンの画面を見て少し考えた後、ラウラへ言った。

 

 ISには自動修復機能がある。しかし、シュヴァルツェア・レーゲンの損傷状態では完治まで時間が掛かり過ぎる。それに破損そのものを直す技術は太郎とラウラには無い。本来であれば破損した部位を丸ごと交換すれば良いのだが、破損したパーツの替えが無いのだ。

 

 シュヴァルツェア・レーゲンはかつて太郎との闘いとVTシステムの介入により、ほぼ全損となった事がある。その時にドイツから学園へ持って来た予備パーツの9割は使ってしまっていた。現状、太郎やラウラに出来る事は無い。

 

 ラウラは思案する。ラウラは全損に近い状態のシュヴァルツェア・レーゲンを組み直した経験がある。予備パーツさえドイツから送って貰えれば何とか出来る自信はある。だがIS学園に来て既に二度目の大きな損傷である。

 

 ISというのはデータ(経験)を蓄積して成長する。それは大きな損傷を受けた場合も例外ではない。損傷状態の稼動経験が悪い成長に繋がる可能性があるのだ。損傷部分を補う為、通常状態では必要の無い余計な回路が生まれたりし、機体の稼動効率が下がってしまったという報告もある。

 

 出来るだけ早く、そして精密な修理が望ましい。

 

 

「ドイツで修理を受ける。それが一番だな」

 

「そうですね。では私も同行しましょう。お仕置きとはいえ少し私の相棒がやり過ぎてしまったので、修理に最後まで付き合いますよ。それにもう冬休みになりますし、丁度良いです」

 

「い、一緒に来てくれるのか?」

 

 

 太郎の言葉にラウラは驚いた。そもそも今回の件はシュヴァルツェア・レーゲンが太郎を襲ったのが原因である。ラウラは太郎がシュヴァルツェア・レーゲンと自分を責めるのではないかと思っていた。それなのにドイツまで付いて来てくれるなど想像すらしていなかった提案である。

 

 最初、ラウラの頭の中は驚きでいっぱいであった。しかし、次第に驚きは喜びに変わった。ラウラは早速その後、ドイツへの帰還の手続きをし、その旨自身の副官であるクラリッサにも通信を入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ラウラが隊長を務めるドイツ軍IS特殊部隊シュヴァルツェ・ハーゼ、その直接の上官であるフォルカー・マテウス中将が執務室で仕事をしていると突然、部屋の扉が開け放たれた。

 

 執務室の扉を破壊しそうな勢いで開いたのは、部下のクラリッサ・ハルフォーフ大尉であった。入室の許可をとるどころか、ノックすらせずに乱入して来たクラリッサをフォルカーは睨みつけた。

 

 

「ハルフォーフ大尉、何事だ?」

 

 

 フォルカーは厳しい目つきで詰問した。本来であれば怒鳴りつけるところだが、息を切らせ血走った眼をしたクラリッサの様子から、とにかく用件を聞くのが先決であると判断したのだ。

 

 

「き、来ます。た、たた隊長が……山田太郎を連れて来ると、先程連絡がありました」

 

「なにィィィィィ、ここにか!?」

 

「はい、いえ、それは違います。隊長に部外者を基地内へ招待する権限はありません。隊長は専用機シュヴァルツェア・レーゲンが損傷したので、その修理の為に一時帰国するのですが、山田太郎もこれに同行してドイツへ来るそうです」

 

「きょ、許可なら俺がする。絶対に、絶対にこの基地へ連れて来るんだ!」

 

 

 クラリッサの報告にフォルカーは大声を上げた。これはチャンスである。世界でたった二人しかいない男性IS操縦者である太郎をドイツ軍基地へと招待するというのは、大きな意味を持つ。現在、あらゆる国や機関が男性IS操縦者とお近づきになりたいと狙っているのだ。それらに先んじてフォルカーの指揮下にある基地へと彼を招待し、友好な関係をアピール出来ればフォルカー自身も上層部の覚えが良くなるはずだ。

 

 

(いや、それどころか……もし、ボーデヴィッヒ少佐との仲がそのまま順調に進展していけばドイツへ移住する可能性すらある。そして、そのままドイツ軍へと引き込めたなら私の名が上がるのは間違いない)

 

 

 フォルカーの頭の中は、自分に都合の良い未来でいっぱいとなっていく。

 

 

「大将も夢では……それともいっその事、政治家へ転身というのも」

 

「願望が口から漏れ出てますよ。未来の大将閣下」

 

「ゴホッ、な、何の話だ。私はあくまで部下であるボーデヴィッヒ少佐の幸せの為にだな……」

 

 

 フォルカーの言い訳にクラリッサは呆れて溜息を吐いた。まず言い訳する必要など無い。前提として軍に利があるから支援しているのだ。それが成功してフォルカーの手柄となる事に何の問題があるのか。むしろ個人的な善意で軍の技術者や物資を使っていた場合の方がまずいだろう。

 

 もちろん、クラリッサがフォルカーへラウラを支援するよう提案したのはラウラの為であったが、クラリッサ自身組織人である。だからこそ態々具申書まで提出して形式を整えたのだ。それなのに今更わたわたするフォルカーへ、クラリッサは若干の不安を感じた。

 

 

(この人、頼りになるか微妙だな)

 

 

 クラリッサはフォルカーがあまり当てにならないと判断し、新たな助っ人の投入を決断する。

 

 

「許可さえ頂ければ、私とシュヴァルツェ・ハーゼの隊員達が万事上手く運びます」

 

「大丈夫なのか?」

 

 

 新たな助っ人、それは頼れる仲間であるシュヴァルツェ・ハーゼの隊員達である。フォルカーは不安そうだが、クラリッサは自信満々だった。隊員達は皆、ラウラや自分と同じ特殊な出自の面々である。気心が知れ、なおかつ遺伝子レベルで優秀な部下達とならどんな困難も乗り越えられるとクラリッサは信じていた。それに自信の理由は他にもあった。

 

 

「お任せください。私ほどの日本通はこの基地には存在しません。日本人の好みは熟知しているので、必ずや山田氏の好感を得てボーデヴィッヒ少佐との仲も取り持って見せます」

 

「お、おう……そうか」

 

 

 クラリッサが口早に聞かれてもいない事まで話してアピールしてきたので、フォルカーはその勢いに押されて引き気味であった。それにクラリッサが日本通という話、フォルカーは初耳であった。フォルカーのクラリッサを見る目は半信半疑といった感じであったが、クラリッサは気付かず話を進める。

 

 

「先ずは手始めにシュヴァルツェ・ハーゼが隊を挙げての歓迎会でご機嫌を取り、アルコールが回ったところで一気に既成事」

「駄目だっ! 何を考えているんだ。そんなもの許可できるか!?」

 

「いえ、しかし私がネットで知った話で、日本ではシンカンコンパと呼ばれる集まりがあり、そういった手が使われるのも珍しくないと……」

 

「ネットの情報を鵜呑みにするな! そんな事をしたら大問題だぞ」

 

 

 フォルカーの脳裏に嫌な想像が浮かぶ。精鋭のはずであるIS配備の特殊部隊が基地内へ異性を連れ込み、酒に酔ったあげく乱交などゴシップ誌の良いネタだ。

 

 

「もっと健全な手はないのか」

 

「健全……R-15指定までという事ですか。まあ、大丈夫でしょう」

 

「本当だろうな?」

 

「問題ありません」

 

 

 クラリッサはフォルカーの懸念など何処吹く風である。要は成年指定されていない日本のアニメ内で行われている行為くらいならOKという事だろうと、クラリッサは理解していた。

 

 

 

 

 自称日本通であるクラリッサとシュヴァルツェ・ハーゼの精鋭達がドイツで太郎を待ち受ける。太郎は彼女達の猛攻に耐えられるのだろうか。

 

 

 

 

 




読んでいただき、ありがとうございます。そして、遅くなってしまいましたが、あけましておめでとうございます。

新年早々ギャンブルで10万程負けかけました。何とか取り戻しましたが、危なかったです。当分危険な賭けはしないと心に誓いました。

そう言えば年末に大物制服泥棒さんが捕まっていましたね。ブツはどうなるんでしょう。被害者に返還されるのでしょうか。しかし、全てを被害者へ届ける事は出来ないと思います。誰の物かも分からない物もあるでしょう。

まさかゴミとして出したりはしませんよね。物は大切にしなければなりません。資源は限られているのですから。だから、あれです。お巡りさん、競売……いえ何でも無いです。




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