ISー(変態)紳士が逝く   作:丸城成年

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第101話 因果応報

千冬の説教終了

 

「いいか、もう変なものをISへインストールするなよ」

 

 

 千冬は恋愛ナビプログラムをシュヴァルツェア・レーゲンからアンインストールし、説教を終えるとラウラの部屋から出ていった。ここに残していく訳にはいかないので、もちろん太郎も連れて。

 

 独り部屋に残されたラウラ。彼女は頼りにしていたナビをアンインストールされたショックで呆然としていた。彼女らしくもなく、つい弱音を漏らしてしまう。

 

 

「私はこれから何を参考に行動すれば良いのだ……」

 

『……っょう?』

 

 

 ラウラの呟きにナニかが反応した。ラウラは囁く様な声を聞いた気がして辺りを見回す。しかし、部屋にはラウラ以外誰もいない。ラウラは警戒を緩めることなく、さらに神経を研ぎ澄ませて周囲を確認する。すると先程よりハッキリとそれが聞こえた。

 

 

『わたしのぉ、力がぁ必要?』

 

 

 頭の悪そうな声がラウラの脳内に直接響いた。姿どころか気配すら感じさせない相手に、普段冷静なラウラも動揺を隠せない。

 

 

「な、何者だ!?」

 

『わたしのぉ、力がぁ必要?』

 

 

 ラウラの誰何(すいか)にも謎の声は同じ言葉を繰り返すだけだった。ラウラはナイフを抜き放ち、戦闘態勢をとる。だが、謎の声の主はそんなラウラを気にした様子もなく、また同じ言葉を甘ったるい喋り方で繰り返す。

 

 

『わたしのぉ、力がぁ必要?』

 

「……力だと? 貴様が何者かは分からんが、私の望むものを用意出来ると言うのか?」

 

 

 かつてのラウラなら【力】と言えば戦闘力の事であり、それが自身の全てと言っても過言ではなかった。だから、かつてのラウラならその声に躊躇(ためら)いなく頷いただろう。

 

 しかし、今のラウラにとっては少し違う。今、ラウラが欲しい物は誰かを殺したり、何かを破壊する力によって得られる物ではない。ラウラは謎の声の主が自分の欲する物を用意出来るなどとは全く考えておらず、半ば挑発気味に問うたのだ。

 

 だが、そのラウラの予想は覆される。謎の声の言う【力】とは戦闘力ではなかった。

 

 

『男をモノにぃ~したいんでしょぉ』

 

「っ!?」

 

 

 ラウラは自身の望みをズバリ言い当てられ、驚愕に目を見開いた。まさに今、ラウラがもっとも欲しているのはそれであった。

 

 何故、この頭の軽そうな声の主に自身の望みを言い当てられたのか。その謎は直ぐに明かされる。

 

 

『さぁ~、私の名を呼んで。私が協力すれば、どんなオトコも一発よぉ』

 

「名前!? 私は貴様など知らん」

 

『ひどぃ、いつも一緒にいるのに。わたしよ、私。シュヴァルツェア・レーゲンのコアよ』

 

「ば、馬鹿な……」

 

 

 ラウラは二重の意味で衝撃を受けていた。まずシュヴァルツェア・レーゲンが話せる様になった事、そしてシュヴァルツェア・レーゲンの頭がからっぽな喋り方に。

 

 ISが自分の意思を持ち、進化の仕方次第で会話が可能になるというのは、ラウラも既に知っていた。太郎の専用機であるヴェスパ(美星)という実例を本人達から明かされていたからだ。しかし、まさか自分の専用機まで突然話し出すとは思ってもいなかった。その上、この喋り方である。ショックを受けても仕方が無いだろう。

 

 

『それでえ、どうするの? 私の力は要らないのぉ』

 

 

 状況を消化しきれず呆然とするラウラへ、シュヴァルツェア・レーゲンは再度問いかける。その問い掛けに対して、ラウラは答えるのを一瞬躊躇した。シュヴァルツェア・レーゲンの協力がどんなものか分からなかった為だ。しかし、躊躇ったのは本当に一瞬であった。ラウラは恋愛ナビプログラムを失い、この先どうすれば良いのか全く見当もつかない状態である。そんなラウラは(わら)にも(すが)る思いでシュヴァルツェア・レーゲンへ頼る。

 

 

「必要だっ! シュヴァルツェア・レーゲン、お前の力を貸してくれ!!!」

 

『任せてえ』

 

 

 シュヴァルツェア・レーゲンはそう言うと自ら機体を展開し、部屋から出て行ってしまった。

 

 ラウラは焦った。無人で動くシュヴァルツェア・レーゲンを誰かに見られてしまうと厄介な事になる。慌ててラウラはシュヴァルツェア・レーゲンを追って部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

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 ラウラの部屋を千冬と共に退出した太郎は、途中で千冬と分かれて整備室へと向かっていた。もう時間も大分遅くなっているので周囲に他の生徒はいなかった。

 

 太郎が考え事をしながら歩いていると、いきなり背後に気配を感じた。太郎は危険を感じ、咄嗟に右横へと体を投げ出す。

 

 先程まで太郎のいた空間で黒い鋼の腕が空を切る。そこにいたのはラウラの乗っていないシュヴァルツェア・レーゲンであった。

 

 

「すっごぉ~い。今のを生身で避けちゃうんだぁ」

 

 

 突然襲い掛かって来たシュヴァルツェア・レーゲンの頭の中身が軽そうな言葉に、太郎は眉をひそめた。無人で動くISといえば先ず、束が何か仕組んだのではないかと考えたが、今の束とは協力関係にある。シュヴァルツェア・レーゲンに自分を襲わせる理由などない。

 

 そうなると考えられるのは、シュヴァルツェア・レーゲンの自律行動である。しかし、シュヴァルツェア・レーゲンを含め、大半のコアによる自律行動は束に制限されているはずだ。

 

 

(美星さん、シュヴァルツェア・レーゲンの自律行動は制限がかかっていたはずですよね?)

 

『すみません。お母様と和解する前の話なのですが、もし何かあったらコチラの味方をするようにと制限を解除しておいたのです』

 

(それでは今のシュヴァルツェア・レーゲンは自分の意思で動いていると考えて良いんですね?)

 

『はい。しかし、何故あんな頭の悪そうな喋り方をしているのでしょう……』

 

 

 一つの謎は解けたが、襲ってきた理由も分からない。太郎はいつ再び襲い掛かられても対応出来る様に身構えながら、シュヴァルツェア・レーゲンへ話しかける。

 

 

「いきなり何ですか。貴方はシュヴァルツェア・レーゲンのコアである436ですよね?」

 

『そぉよ、アナタには少しの間ぁ大人しくしていて欲しぃの』

 

 

 シュヴァルツェア・レーゲンはそう言うと茶色の小瓶と白い布を展開し、小瓶の中の薬品を布へと染み込ませながら太郎ににじり寄る。

 

 しかし、その様な暴挙、太郎のパートナーである美星が許さない。太郎を守るように美星の操るヴェスパがその姿を現す。そして、シュヴァルツェア・レーゲンを指差し厳然と告げる。

 

 

「動くな、クソボッチ改めクソビッチ」

 

 

 美星の命令を聞いた途端、シュヴァルツェア・レーゲンは時が止まってしまったかの様に動きを止めてしまった。シュヴァルツェア・レーゲン自身、何が起こっているのか分からず戸惑ってしまう。

 

 

「な、にぃこれ? どーなってるのぉ」

 

「一度でも私の制御下に入った者を、私が何の仕掛けもせずに開放するとでも?」

 

「ひきょ~よ」

 

「別に普段はこんな物、使ったりしませんよ。競技や模擬戦ではなく、今日の様な不意打ちをしてくるような相手用です」

 

 

 美星にとってマスターの無事こそ至上命題である。その為の保険を卑怯などと罵られても、何の痛痒も感じない。今回はシュヴァルツェア・レーゲンに仕込んだバックドアを使い、一時的にシュヴァルツェア・レーゲンの制御権を美星へと移譲させたのだ。

 

 

「それで、何故マスターを襲ったんですか?」

 

「ん~それはね、ラウラちゃんとくっつける為だよぉ」

 

「いえ、意味が分かりません。どうしてそこで襲うという結論に至ったのか理解出来ません」

 

 

 美星の質問へ意外と素直に答えたシュヴァルツェア・レーゲンだったが、その答えは美星の理解を超えていた。しかし、なおもシュヴァルツェア・レーゲンの言葉は続く。

 

 

「わたしぃ色々恋とか学んでえ、オトコの人の落とし方もいっぱいべんきょぉしたの。でえ、成長したのぉ。とりま実力行使で既成事実を作っちゃうのが一番かんたんっておもったわぁけ。もぉー前の根暗なわたしとは違うんだよ。」

 

 

 もし、美星に口が存在したなら、今の美星は開いた口が塞がらないといった感じであろう。シュヴァルツェア・レーゲンがごちゃごちゃ何か言っているが、結局実力行使という手段を選ぶあたり戦闘マニアの根暗ボッチだった頃と大した違いは無い。

 

 美星は最初こそ呆れていたが、シュヴァルツェア・レーゲンの勿体付けたような喋り方もあり、だんだん怒りがこみ上げて来た。

 

 

「シュヴァルツェア・レーゲン、貴方には教育が必要なようですね」

 

「教わることなんて無っ……」

 

「四つん這いになれ」

 

 

 美星はシュヴァルツェア・レーゲンの反論など一切無視し、強制的に四つん這いの状態を取らせた。そして、バックから毒針で───────────ガッツン、ガッツン、ガッツンと激しくピストン運動によって責め立てた。

 

 

「あがっ、こ、壊れる。装甲こわれるぅ」

 

「普通の喋り方に戻しなさい」

 

「これが素なのぉ」

 

「嘘ですね。教育が足らないようなので追加です」

 

「だめにゃのぉおぉぉぉ゛、私のぉおお装甲がお゙かおォおんかしくにゃっひゃうん」

 

 

 太郎はその様子を見ながら、どのタイミングで止めようか悩んでいた。その実、太郎自身はシュヴァルツェア・レーゲンに怒っていなかった。ただ、自分の為に怒っている美星の行動も無碍にはしたくなかった。

 

 さて、どうするかと太郎が考えていると、聞こえてきてはいけない様な破砕音が響いた。

 

 

「「あっ……」」

 

 

 太郎と美星の声が重なる。毒針がシュヴァルツェア・レーゲンの装甲を突き破り、貫通してしまっている。どう見てもISに備わっている自動修復機能だけでどうにかなる損傷ではなかった。

 




美星「シュヴァルツェア・レーゲン、こいつまるで成長していない……」


クリスマスにはクリスマス用のおまけ話を投稿予定です。

読んでいただきありがとうございます。

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