ISー(変態)紳士が逝く   作:丸城成年

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ラウラ ノーマルルート
第100話 黒兎の獣性


 IS学園寮の一室、一人の少女が自らの専用機にインストールされている特殊なプログラムをアップデートしていた。今回のアップデータはVer1.13である。

 

 プログラムの名は【恋愛支援ナビゲーションプログラム 男を狩る技術1,2,3(アイン、ツヴァイ、ドライ)】、ドイツの代表候補生であるラウラのISにだけにインストールされた物である。このプログラムはラウラが太郎と恋人関係になれるようとにドイツ軍の一部が開発した物である。

 

 このプログラムは恋愛に関する様々なシュチュエーションに対して有効と思われる行動を三択方式でラウラへ示すという物である。ただし、今回のアップデートでこれまでの三択方式が廃止され、唯一つの正解(笑)の道を示すように変更された。

 

 しかし、問題の本質はそこではない。修正すべき点は他にあった。このプログラムが示す方法は、その大半が的外れであり、ラウラと太郎の仲を進展させる役目をほとんど果たしていないのだ。

 

 何故、このような事態になってしまったのか? それはプログラムの開発に使用されたサンプルデータに原因があった。開発に際して使用されたサンプルは、ラウラが隊長を務める特殊部隊シュヴァルツェ・ハーゼの隊員とその部隊が所属している基地の人員から得ている。

 

 サンプル収集は様々な恋愛関係のシチュエーションにおいて、その時に有効だった行動を聞きだして集計したのだが、そもそも特殊部隊シュヴァルツェ・ハーゼの隊員達にはまともな恋愛経験など無かったのだ。その為、隊員達の多くは自らの想像や聞きかじった知識で答える事となった。そのうえシュヴァルツェ・ハーゼ以外の基地人員にもチラホラとおかしな者がいたのだ。

 

 これでまともな物が出来るはずもなく、ラウラと太郎の仲に大きな進展は生まれなかった。しかし、ラウラは諦めない、というかプログラムに従って自分がやった事が上手くいっているかどうかを分かっていなかった。

 

 それにラウラと恋愛プログラムは的外れな行動ばかりだったが、太郎は一般常識に乏しいラウラを微笑ましく見ていた。太郎がラウラの行動について注意や叱責をする事がなかった為、ラウラからすると失敗はしていないと勘違いしてしまったのだ。

 

 そして、ラウラは勘違いしたまま更なるアップデートという名の魔改造を受けたプログラムと共に、太郎を仕留めに掛かるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 近頃は日が落ちるのが早く、空は夕焼けに染まり始めていた。そんな中、第3アリーナから寮へと繋がる道を歩く男女がいた。放課後恒例の専用機を使った自主訓練を終えた太郎とラウラである。

 

 普段ならここにシャルやセシリアも参加しているのだが、今日は2人とも自身のISを少し調整したいと言って参加しなかったのだ。

 

 太郎と2人、ラウラはこの好機に昂っていた。ラウラはシュヴァルツェア・レーゲンが示した、とある策を実行に移す。

 

 

「い、今から時間はあるか。もし暇なら私の部屋へ来ないか?」

 

「ええ、それなら少しお邪魔しましょう」

 

 

 太郎はラウラの(つたな)い誘いに笑顔で答えた。

 

 最近、常識外れなアプローチを繰り返しているラウラを太郎は意外にも好ましく思っていた。それはラウラが初めて会った頃に比べ、人付き合いへ積極的になっているからだ。例え的外れな行動が多く、対象もほとんど太郎に対してだけではあったが、その変化は良いものだと太郎には確信があった。

 

 太郎はラウラの成長に目を細めながら、同時に初めて入るラウラの部屋がどんなものか想像を巡らす。意外と女の子らしいファンシーな部屋だったりしたら面白いな、と考えている間にラウラの部屋へ到着した。

 

 ラウラが扉を開け部屋へと入っていく。それに太郎が続く。

 

 殺風景、もしくは空き部屋。そんな言葉が太郎の部屋への印象だった。ラウラの部屋は、とにかく私物が少ない。ベッドや冷蔵庫など元々部屋にある備え付けの物以外、目に付く物がほとんどないのだ。

 

 

「……良く片付いてますね」

 

 

 反応に困った太郎は、当たり障りの無い感想でお茶を濁した。

 

 しかし、そんな太郎の気遣いもラウラの頭には入ってこない。太郎を上手く自室へと誘い込めたラウラは、逸る気持ちを抑えられず、事前にナビが示した策を早速実行へと移す。

 

 

「訓練の後だ、喉が渇いているだろう。スポーツドリンクならあるぞ」

 

「ええ、いただきます」

 

 

 軽く頷いた太郎を見て、ラウラは策の成功を確信する。太郎にベッドへ座って待つように言い、ラウラは冷蔵庫へ向かった。

 

ラウラが冷蔵庫の扉を開くと中にはスポーツドリンクとミネラルウォーターのペットボトルしか入っていない。そこからスポーツドリンクを2本取り出し、キャップを開ける。そして、太郎がこちらを見ていない事を確認すると、ポケットから白い粉末の入った小さな紙の包みを取り出し、片方のペットボトルへと粉末を注ぎ込んだ。

 

 そう、恋愛ナビが示した策とは【一服盛る】という手だった。

 

 ラウラはペットボトルのキャップを再び閉め、軽く振った。そして、粉末が溶けたのを確認するとベッドに座って待っている太郎の元へと急ぐ。急ぐ必要など無いのだが、流石のラウラも太郎が相手では冷静さを保てなかったのだろう。

 

 

「待たせたな。すまない」

 

「いえ、気にしないで下さい」

 

 

 謝るラウラから太郎はペットボトルを受け取る。そして、キャップが既に開けられている事に疑問も持たず、一気に3分の1程を飲んでしまう。

 

 ラウラは太郎へ盛った薬の効果が出るのを注意深く見守っていた。

 

 

「訓練後のスポーツドリンクは……ん?」

 

 

 太郎は不意に違和感を覚えた。体の感覚が若干鈍くなり、眠気を感じる。頭を振ってもそれは一向に拭えない。その代わりに慌てた様子の美星がプライベート・チャネルで呼びかけて来た。

 

 

『マスターっ! 体内に薬物の影響を確認しました。直ぐにISの生体維持機能で状態を回復させます』

 

 

 太郎は強烈な眠気に美星の声へ答える事も出来ず、ペットボトルを床へ落とし、ベッドに倒れ込んでしまう。

 

 その様子を確認したラウラが横たわる太郎へと手を伸ばそうとした瞬間、部屋の扉を激しく叩く音が響く。

 

 

「おい山田! 中にいるのは目撃者の証言で分かっているぞ。ここを開けろ。いや、もうマスターキーで開けるぞ」

 

 

 扉を叩いているのは千冬だった。ある意味箱入り娘なラウラが性犯罪の前科者である太郎と仲良くしているのを千冬は以前から警戒していた。ラウラと太郎が2人だけでいる場合、自分へ報告するよう生徒や職員に話を通していたのだ。

 

 千冬は寮長として管理しているマスターキーで扉を開け、部屋へと入って来る。

 

 

「ラウラの部屋に入る時は私の許可を取れ。お前達を2人っきりにすると絶対一線を越え……どうなっている?」

 

 

 怒鳴りながら部屋に入って来た千冬は、ベッドの上に倒れ込んだ太郎を見て目を見開く。床にはペットボトルが落ちており、中身が零れてしまっている。

 

 千冬は愛弟子とも言えるラウラが、その常識の無さにつけ込まれて如何わしい事をされているのではないかと危惧していたのだが、目の前に広がる光景は予想外のものだった。

 

 

「どういう……どういう事だ?」

 

「……ぐぅ、何か薬を……盛られたみたいです」

 

 

 唖然とする千冬へ、倒れていた太郎が顔を重そうに上げて答えた。太郎はISの生体維持機能のおかげで何とか喋る事が出来る位には回復していた。

 

 太郎の言葉を聞いて千冬は、ラウラを睨みつけた。

 

 

「そうなのか?」

 

「はい、いえ、これは……」

 

「ちゃんと答えろっ!」

 

 

 千冬の問い掛けに口ごもったラウラだったが、一喝されて背筋を伸ばし敬礼をしながら答える。

 

 

「はっ! 睡眠薬を盛りました」

 

「馬鹿者がっ!」

 

 

 ラウラが答えた瞬間、ラウラの頭に千冬の鉄拳が振り下ろされた。ほとんど手加減されていない千冬の拳を喰らい、ラウラは声もなく頭を押さえて悶絶した。

 

 千冬は悶え苦しむラウラから太郎へと視線を移す。

 

 

「とりあえず、山田を保健室に運ぶか……」

 

「いえ、お気遣い無く。もうISの生体維持機能のおかげで大分マシになりました」

 

 

 太郎は自分を担ぎ上げようとする千冬を右手で制して、反応の鈍い自身の体を無理矢理起こした。まだ痛みに頭を押さえたままのラウラがそれを見て驚愕する。

 

 

「そんなっ、動けるのか。象でも眠る強力な睡眠薬だぞ」

 

「死ぬわっ! 何て物を盛っているんだ。普通の人間だったら死んでいるぞ」

 

 

 ラウラを怒鳴りつけた千冬は、まだ頭を押さえているラウラを見て、自分の方が頭を押さえたいと内心愚痴った。常識知らずだとは思っていたが、無自覚に殺人未遂を犯すなど流石に予想外だった。

 

 

「……それで、何故こんな事をしたんだ?」

 

「そういうプレイがしたかったんですか? 初めてがそれはちょっと変わってますね」

 

 

 千冬はギロリと、太郎は不思議そうにラウラを見詰めた。2人の視線の圧力は凄まじいものだった。千冬の眼光は耐性の無い者なら失禁しそうな程にギラついていたし、太郎は太郎で全く引きそうに無い。

 

 それと単純に2人の圧力が凄いだけでなく、ラウラにとって千冬達が特別な存在である事もまた、ラウラを追い詰める要因であった。

 

 恋愛ナビプログラムは機密事項であったが、ラウラは2人の圧力に屈してしまう。

 

 ラウラから話を全て聞いた千冬達は呆れかえる。

 

 

「睡眠薬を盛って、恋愛にどう繋がるんだ」

 

「睡眠薬は惚れ薬ではありませんよ」

 

 

 恋愛未経験者と性犯罪者の指摘にラウラは、首を必死に横へ振って訴える。

 

 

「例え最初は嫌がっても、最後は幸せなキスでハッピーエンドだとプログラムがっ!」

 

 

 それを聞いた千冬はラウラの抵抗を退け、恋愛ナビプログラムをシュヴァルツェア・レーゲンからアンインストールした。道標を失ったラウラは両膝を地に着け、途方に暮れてしまった。

 

 

 

 

 

 それで全ては元通りとなった、かに見えた。しかし、ISは進化する者。操縦者と共に経験を積み育っていく。この時はシュヴァルツェア・レーゲンの待機状態であるレッグバンドが怪しい輝きを放っているのを誰も気付かなかった。

 




読んでいただきありがとうございます。


プログラムの示した策。ドイツ軍基地に野獣先輩リスペクトな人間がいたんでしょうね。


それにしても12月は何故こうも慌しいのでしょうか。道路も心なしか混んでいる気がします。寒いし、忙しいし勘弁して欲しいです。

楽しい事なんて、今年も良い子にしていた私へサンタさんがプレゼントをくれるだろうって事くらいですね。

サンタさん、イブの夜に布団の中へ、そっと裸のラウラたんを入れて置いてください。



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