ISー(変態)紳士が逝く   作:丸城成年

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クリスマス2

 太郎の用意したプレゼントは残すところ後二つ。一夏と箒の物である。一夏と箒は同室なので、これで最後という訳だ。太郎は一夏達の部屋に辿り着くと、早速ピッキングを開始しようとした。だが、なんとここでも鍵は既に開いていた。

 

 まさか、またここでも先客がいるのだろうか。太郎は慎重に部屋の中へとその身をすべり込ませる。

 

 

(美星さん、部屋中をスキャンしてください。私以外の侵入者がいるかもしれません)

 

『了解しました……部屋の中にはマスター以外に二つの生命反応があります』

 

(二つ……ですか)

 

 

 一夏と箒、二つの生命反応があって当然である。いつもであれば。

 

 実は今日、一夏は外泊許可を取って学園外に出ているので、部屋には箒しかいない筈である。つまり、この部屋に太郎以外の生命反応が二つあるという事は、そのまま侵入者の存在を示していた。太郎は警戒をさらに強め、部屋の奥へと進んでいく。

 

 ベッドが二つ並んでいる。その内、手前の一台は空であった。そして、奥のベッドには箒が眠っていた。

 

 ここで眠っている箒の姿に、太郎は大きな違和感を覚えた。何かがおかしい。太郎はもう一度、眠っている箒の様子をゆっくりと確認していった。

 

 

 

 顔、目を瞑っている。穏やかな表情である。

 

 胸、掛け布団の上からでも分かる膨らみ。その山は生まれながらに登山家である男達を、魅了してやまない威容を誇っている。重力へ逆らうようにそびえるソレには、まさに夢と希望が詰まっていると断言出来る。

 

 腹、未だ膨れていない。しかし、恐らく同室の一夏とバンバンやっている筈なので近く妊娠すると思われる(太郎の根拠の無い推測)。

 

 足、あ、ああ足が掛け布団からはみ出している。膝から下がベッドに収まらずに床についている。少し見ないうちに箒の身長は2mを優に超えてしまったのか。いや、そんな訳は無い。

 

 

 

 太郎は恐る恐るベッドに近付き、そっと掛け布団をめくった。そこには箒の足をペロペロと舐めている者がいた。

 

 

「よ、妖怪垢嘗(あかなめ)……いや、貴方は……束さん?」

 

「んー? あれ、タロちゃん何か用かな?」

 

 

 垢嘗改め、束が太郎に気付き首を傾げている。

 

 

「用も何も、私は箒さんと一夏へクリスマスプレゼントを持ってきたんですよ」

 

「それじゃあ私と同じだー」

 

「同じ?」

 

「ふふっ、もう年末も近いし、プレゼント代わりに一年分の垢を綺麗にしてあげていたんだよ。クリスマスプレゼントと年末の大掃除、同時に出来て一石二鳥っブイ!」

 

 

 プレゼントというのは物だけではない。形に囚われすぎていた太郎は目から鱗が落ちる思いだった。天災の渾名は伊達ではない。束を見直した太郎は、束の横に並ぶ。

 

 

「束さん……手伝いますよ」

 

 

 キリッとした表情で太郎が言った。それを見た束は親指を立てて見せた。束が左足、太郎は右足から作業を開始した。二人はペロリストとしても高い素養を持っていた為、瞬く間に作業は完了した。

 

 

「そう言えばタロちゃんは、何をプレゼントするつもりだったの?」

 

「箒さん位の年頃なら、これは幾つあっても足りないでしょう」

 

 

 束の質問に太郎は袋から現物を取り出して見せた。一箱に12個入り、それが三箱セットになったお得パック。幸せ家族計画コンドームである。

 

 束の拳が太郎の顔面を打ち抜く。

 

 

「うちの箒ちゃんは処女だよ」

 

「そんな、ありえないですよ。一夏と毎日ヤッていると思います」

 

「ぶー、さっき確かめたもん。お姉ちゃんは何でも知っているんだよ」

 

「……うーん意外ですね。しかし、そのうち必要になると思うのでプレゼントして置きましょう」

 

 

 想定が外れていても太郎は挫けない。靴下へコンドームを詰めて箒の枕元に置いた。

 

 次の日、一夏は箒が目を覚ますより早く帰って来ていた。その為、箒はそのコンドームを一夏からのアピールだと勘違いしてしまった。それから毎夜、箒は今日こそ一夏から誘ってくるのではないかと悶々とし、眠れぬ夜を過ごす事となる。

 

 ちなみに太郎の一夏へのプレゼントはプロテインだった。最近、一夏が筋肉に興味がある様子だったので太郎はそれをチョイスしたのだ。ただ、一夏は筋肉を付けたいわけではなかった。

 

 

 

 

 

 良い子の皆にプレゼントを配り終えた太郎は、意気揚々と自室へと戻って来た。扉に手を掛け開こうとした瞬間、延髄を何者かに掴まれ、強烈な力で引っ張られた。太郎は反射的に肘を相手へ叩き込もうとしたが、その相手が誰か気付き慌てて止めた。

 

 顔を真っ赤に染めた千冬である。顔が赤いと言っても、太郎の姿に恥らっている訳ではない。目が据わり、息が凄まじく酒臭い。かなり酔っている。

 

 

「やまだぁー、こんな時間まで何処をほっつき歩いてるんだあ」

 

「いえ、ちょっとプレゼントを配りに」

 

「プレゼントだあ? クリスマスなんてクソくらえだ。お前、ちょっと付き合えええ」

 

 

 千冬は太郎を掴んだまま、太郎の隣の部屋である自室へと入って行った。千冬の部屋には大量の酒瓶が転がっていた。そぢて、千冬は太郎を床に放り出した。

 

 

「おう、何飲む?」

 

「私は遠慮……」

 

「そうか、ウイスキーか。気取りおって日本人なら日本酒だろ」

 

 

 今の千冬は全く人の話を聞いていない。日本酒の一升瓶を持って来ると特に意味も無く、上部を手刀で切り飛ばして太郎へ突き出した。

 

 

「飲め」

 

 

 今の千冬に何を言っても意味がないと悟った太郎は、溜息を一つ付いた後に一升瓶を受け取った。太郎が飲み始めると、千冬がぽつぽつと話し始めた。

 

 一夏はどうやらデートらしい。一時帰宅の名目で外泊許可をとった様だが、恐らく嘘であると千冬は語った。別に弟が何処の誰と付き合おうと関係ないし、気にもならんと言いながら千冬は酒を呷った。どう見ても気にしている。

 

 

「一夏も年頃ですから、千冬さんも辛いでしょうが弟離れをし」

 

「誰がブラコンだっ!」

 

 

 太郎の話をぶッた切り、千冬は酒瓶を振り回した。普段の千冬ならともかく、酔ってヘロヘロの千冬の攻撃など太郎には当たらない。太郎は余裕を持って回避しながら、さらに踏み込んだ提案をする。

 

 

「千冬さんも彼氏を作っては如何です? ここに丁度良く一人紳士がいますよ」

 

「股間丸出しで訳の分からん格好をしたアホが何を言ってるんだ」

 

「いや、その私を強引に部屋へ連れ込んだ人に言われても……」

 

 

 千冬は一度、太郎を頭の天辺からつま先まで眺めた後、大きく溜息をついた。

 

 

「せめて、服をまともに着られる様になればなあ。お前の事は出来た男だと思うぞ……性癖以外は」

 

「普段は着ているじゃないですか」

 

「外を出歩く時は常に着ろ馬鹿もんがあ……う、お前のせいで気持ちが悪くなってきた」

 

「それは飲み過ぎだからですよ」

 

 

 酔いつぶれた千冬がうつ伏せに倒れ込んだ。そこへ冷静なツッコミをいれつつも、太郎も酔いがかなり回っていた。部屋に戻るのが面倒になった太郎もそのまま眠ってしまった。

 

 翌日、素面になった千冬は半裸状態の太郎を見てストンピング嵐を見舞わせた。

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。

クリスマス用特別編はこれにて終了です。

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