魔法ニンジャ活劇   作:ダニール

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第五話

 

 

 深夜、とあるビルの屋上――三人の人影があった。

 

 初老の男と、幼い少女と、若い女性である。

 

「――。見つかったかい?」

 

「……いいえ。やっぱり、反応がない」

 

「そうか……。ちゃんと辿り着いているのは分かっているのだが。はてさてどこに行ってしまったのやら」

 

「もう一人の方も、感知できない」

 

「……やはり、彼が原因ということになるのかな。この異常が起きたのは、彼を送り込んだ後だからね」

 

「まったく。ウチのご主人様ほったらかして、どこで何をやってるのかね。その男は」

 

「――、彼を悪く言っちゃだめだよ。何か事情があるのかも……それで、これからどうする?」

 

「ふむ……。イチから私たちで何とかするしかないね。この状況は想定内ではあるのだし」

 

「……じゃあ船を見つけ次第、仕掛ける?」

 

「あぁ。任せ給え。プランAから試そう。君たちは、即座に動けるよう準備していてくれ」

 

「分かった。行くよ、――」

 

「はいよ」

 

 飛び去る二人を、暫くの間見つめていた男だったが、その内に彼も夜闇に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第五話

 

 

 ――こえますか――くの声が、聞こえますか――

 

「……?」

 

 突如、頭の中に声が響く。ホテルの部屋で、観光雑誌を眺めている時の事だ。

 

 これは――念話か。

 

 リンカーコア通信と呼ばれる魔導師の交信術である。それが、周囲一帯に、無差別で放射されている。

 

 しかし魔法文化の無いこの世界で?

 

 ――僕の声が聞こえる方、お願いです。力を貸してください――

 

 念話の主はかなり切羽詰まっているようだ。

 

 咄嗟に、机の上のデバイスを引っ掴み、ホテルの窓から外に飛び出す。

 

 その後、近くのビルに着地。そこから建物の屋上を伝って、発信源へ急ぐ。慣れたものである。

 

 何が起こっているにせよ、この世界で魔導師を必要とするほどの事態だ。ただ事ではあるまい。行かないわけにはいかない。

 

 生憎、俺は距離が開くと念話の送信も出来ないので、詳しく情報を聞くこともできない。

 

 ――到着するまで発信者が無事でいてくれるといいが。

 

 少々の不安を感じつつ、夜闇の中ひた走った。

 

 

 

 

 

 俺が地球に到着してから、一週間が経過していた。

 

 その間進展はなし。驚くほどなし。

 

 記憶は戻らないし、俺を知っている人間にも会わない。見覚えがあると引っかかるものもない。ただ言葉だけは――多少違和感を感じる物の――問題なく通じた。

 

 まぁ、日本全国回ってみたわけではないし、結論付けるのは時期尚早だろうが。

 

 唯一の前進は、謎の焦燥感が消えたことぐらいだ。

 

 この感覚は、俺をとある町に誘導したいようだった。町の名前は海鳴市。海と山に囲まれた、そこそこの大きさの町である。

 

 転送後に、引きつけられる感覚に従っていると、ここに到着していたのだ。

 

 現在そこのビジネスホテルを借りて、生活している。兎にも角にもこの世界の、この町に引きつけられた原因を探らねばならない。

 

 出来れば何時まででも粘りたい……が、これ以上長居は出来ないかな、と思い始めてもいた。一応テスタロッサ家とは通信機越しに和解を果たしたものの、これ以上留守を長くすると、本格的に追い出されかねない。

 

 “何か”あるんだろうけど、“何時、誰が、どうやって”かが分からないと、見つけようがなかった。近いうちではあるはずなんだが。

 

 せっかく単身で来れたのに、結局、テスタロッサ家のための観光情報集めだけで終わるのか、と思っていた時に、先ほどの念話である。

 

 これが待ち望んだ事件であれば良いのだが……と不穏な空気を感じる中、無責任に願うのだった。

 

 

 

 

 

 発信源に近づく――と同時に、良く分からないものが目に入る。

 

 俺と同じように屋上を飛び跳ねながら進行するもやもやした……何だ?

 

「魔物か?……魔力反応を感じるが」

 

 見たことないタイプだ。そもそもこの世界に魔物って時点でおかしいんだけれど。

 

 と思っていると、周囲に結界が形成された。現実世界と位相をずらし、魔力持ち以外を弾き出す封時結界。

 

 察するに、念話の主が張ったものか。結構高レベルの魔法だったはずだが。

 

 例の魔物も同様に入り込んでいる。進行方向がこちらと同じだ。

 

 念話で助けを求めてきたのは、こいつが原因か。

 

 まず間違いなさそうだった。

 

 念のため確認してみよう。この距離ならこちらからも念話が使えるな。

 

『もしもし。さっきの念話を聞いて助けに来たんだが、聞こえるかな』

 

『! は、はい、聞こえます! 良かった……魔導師の方がいらっしゃったんですね』

 

『え……う、うん。その、多分』

 

 安堵している相手。しかし素直に肯定しづらい。俺が魔導師と名乗ると、身分詐称というか、もう詐欺な気がする。

 

『助けてほしいんです。今、こちらに向かって、ジュエルシードの思念体が迫ってきています』

 

『あぁ、捉えてる。あの、変なもやもやしているヤツ。あれを何とかすればいいんだな』

 

『はい。でも気を付けてください。あれは、本体であるジュエルシードを封印しなければ、無力化できません』

 

 封印……それはつまり――

 

 と、ほとんど並走する形にあった敵が、こちらを認識する。跳躍をやめ、俺の方を向く。

 

 でかい顔のお化けみたいなヤツだ。

 

 そいつは凶悪そうに唸り声を上げ、こちらに向かって跳びかかって来た。俺のことも敵だと判断したらしい。

 

 即座に横の建物に飛び移り、デバイスを起動させ、バリアジャケットを展開する。

 

 背負った刀剣型アームドデバイスに、全身黒ずくめ(なぜか長い深紅のマフラー付)のバリアジャケットを身に纏う。

 

 これがリニス監修、デザイナーアリシアの、魔法防護服。どんな奇抜なものになるかと思いきや、案外まともだった……ホントか?

 

 まぁ頭にかぶる頭巾(?)や口元を隠すマスクが付いており、そこまで顔を隠す姿は傍目に怪しすぎるのだが。

 

 後、マフラーだけはどうしても譲ってくれなかった。

 

 引っかかったりしそうで怖い、と言ったのだが、ほとんど実体のないビジョンだから、と押し切られた。そうまでして付ける物なのか……。

 

 デバイスを引き抜くと、細めの刀身が姿を現す――魔力を通す。

 

 敵がこちらに向かって触手を伸ばしてくる――全て斬り払う。

 

 こちらの攻撃が充分通用することを確認し、今度はこちらの番と敵に向かって跳びこむ。

 

 回避行動を取ろうとする相手を難なく補足し、一閃――思念体はその体を大きく切り裂かれる。しかし――

 

 ――あんまり、効いてないな

 

 思念体と言うだけあって実体がないのか、切り裂かれた部位は即座に修復されてしまった。

 

 それでも相手は、接近されることに脅威を覚えたのか、距離を取ったまま触手での攻撃を繰り出してきた。

 

 ――それなら、これでどうだ……!

 

 臆せず突っ込む。避け、払い、触手を掻い潜りながら、距離を保とうとする相手に一気に接近する。

 

 懐に入り込み、手元で刀身を回転させる。高速で回転する刃の渦に巻き込まれた思念体は、ミキサーにかけられたかのように無残に四散する。

 

 その内に肉体はほとんど吹き飛び、その中の“本体”が露わになる。

 

 青く輝く宝石のような物体――それが三個。

 

 ――これがジュエルシードか。……それにしても

 

 “丸裸”にしてやったというのに、そいつはみるみる体を取り戻し始めた。しかも分裂して三体になっている。

 

 相手は、どうやら俺に自分を倒すだけの力が無いと悟ったのか、周囲を囲んでぐるぐる回り始めた――舐められている。

 

 ――さっき封印と言ったな。と言うことはこいつを何とかするには封印魔法が必須なわけだ。

 

 今更言うまでもないが、使えない。

 

『すまない、助けを求めてきた人。どうやら力になれそうもない』

 

『ど、どうしたんですか。もしかして怪我でも……』

 

『いや、そうじゃなくて……こっちは封印魔法が使えない』

 

 跳びかかってくる奴らを適当にいなしながら通信する。

 

『そうだったんですか……』

 

『あー、動きを止めるだけなら何とかなるんだけどね』

 

 落胆させたかと相手に申し訳なく思い、言い訳する。

 

『……それなら、封印は何とか僕がやってみます。一度合流を……』

 

『待った。あそこに人が……』

 

 ふと目を向けると、そこには結界の中を走る少女の姿が。

 

 まずいことに、この思念体もそれに気付いた。しかも彼女は頭上の俺たちに気付いていない。

 

 何時まで経っても攻撃が当たらない俺との戦闘に飽きたのか、標的を少女に切り替えるのが感じられる。

 

『そう言えば、さっきもう一人結界に侵入を……』

 

 その通信を聞きながら、先んじて彼女を確保するために地面に飛び降りる。

 

「え……わ! きゃっ! あ、あなたは……」

 

「失礼」

 

 いきなり上から謎の衣装を纏った人間が飛び下りてきて、盛大にビックリしている少女を抱え込み、すぐさまその場を飛び退く。

 

 その一瞬後、少女のいた場所にヤツらが突っ込んできた――その場にいたら間違いなくミンチだ。

 

『そのもう一人を捕まえた。女の子だ。そっちに向かうぞ、合流しよう』

 

「あ、あの……これは一体……?」

 

「ごめん、少し我慢して。すぐ下ろすから」

 

 腕の中で、未だに状況が掴みきれず困惑している少女に声をかける。

 

 ――年の頃は、アリシアと同じくらい、か?

 

 抱えているとその小ささと軽さが良く分かった。

 

 どうやら彼女は魔導師というわけではなさそうだ。現地の魔力持ちだろうか。先ほどの念話に引き寄せられて、ここまで来てしまったのか……。

 

 そう思っている内に、念話の主のもとに到着する。

 

「あ、良かった。二人とも無事だったんですね」

 

 安堵のため息を吐くその見た目――イタチだったか何だったか――は、少々予想外だったが、変身魔法や使い魔の類と考えればおかしくはないのか。

 

「え? あのフェレットが喋って……こっちの人は忍者で、え、え? 一体どうなってるのー!?」

 

 最も俺に連れられてきた少女は絶賛混乱中だったが。それと何気に俺の姿を忍者と認識してくれていた。アリシアに話したら喜びそうだ。

 

 まぁそんな話は置いておいて、フェレット君が俺たちに現状を軽く説明する。

 

「あいつが近づいてくるな……。さて、逃げるか、迎え撃つか、どうする? 逃げるのは難しくなさそうだが」

 

「出来るなら引きたいけど……でもあいつらを結界から出しちゃうと、周囲に被害が……」

 

「なんとかここでやるしかないってことか……」

 

 少女を守りながら封印魔法の二人三脚か……と悲愴な決意を固める。すると――

 

「あ、あのっ! 私にも、手伝えることありませんか」

 

 と、今まで黙って話を聞いていた少女が申し出る。

 

 その気持ちは嬉しいのだがいくらなんでもこの状況でこの子に手伝いはなぁ、と思っている俺とは別に、フェレット君は考えがあるようだった。

 

「……これを」

 

 と言って、首に下げている宝石――デバイスか――を差し出す。

 

 それを少女が受け取ると、

 

 "魔力素質を確認しました。新しい使用者の登録を行います"

 

 ――とデバイスからの応答があった。

 

「……使えるのか?」

 

「多分ですけど……レイジングハートが使用者として認めるだけの魔力を持っているみたいです。それなら、封印魔法も発動できるかも……」

 

「……よし」

 

 この際なりふり構ってはいられない。この場にいる人間でやるしかないのだ。

 

「俺が時間を稼いでおくから、君とフェレット君は魔法の準備を。それと俺の名前はエンダー」

 

「分かりました。僕はユーノです」

 

「は、はい! やってみます。えっと、た、高町なのはです!」

 

 窮地の中で芽生える連帯感によって、初対面とは思えないチームワークが完成する。

 

「よしじゃあ……いくぞ!」

 

 物陰から飛び出し、思念体へと向かう。相手もこちらを補足していたようで、もう間近だ。

 

 足を思いっきり踏み込む――体表のナノマシンが地面との摩擦を増し、常識外の脚力を全て推進力に還元する。

 

 弾丸のように飛び出した勢いそのままにキック――敵に直撃し、体が弾け飛ぶ。

 

 体に魔力を纏わせることぐらいは俺でも出来る。それが出来れば、魔導師や、このような思念体にでもダメージを負わせられる。

 

 まぁこいつには、大した意味はなさそうだが。

 

 周囲に飛び散った体を集め、再生を始める敵。忌々しそうに顔を歪め、唸り声を上げる。

 

 半身を引き、構える――デバイスは必要ない。時間を稼ぐことが目的なら、打撃で吹き飛ばした方がいい。

 

 すると、すぐ近くからとてつもない魔力の奔流が噴き上がった。

 

 その凄まじさたるや文字通り天を衝くほどのもので、こんな状況でなければ拍手の一つでもしていただろう。

 

 その魔力を、餌と思ったか脅威と思ったか知らないが、思念体がそちらに向かう様子を見せる。

 

 すかさず踏み込み左ストレート――注意を逸らす。

 

 苛立たしげに触手を振り回す――避ける。

 

 相手はまさしく人外の動きでこちらを翻弄しようとするが、“人外さ”で言えばこちらも相当なものだ。

 

 強化された視覚が相手の動きをミリ単位で補足し、強化された肉体がミリ単位で動きをコントロールし、体内外のナノマシンがあらゆる行動をサポートする。

 

 近接戦闘に限れば、相当な使い手でもあるリニスをも圧倒するその能力。

 

 一体何故こんな身体に作られてしまったのか。

 

『エンダーさん聞こえますか。こちらの封印魔法発動の準備が出来ました』

 

『で、出来ました!』

 

 連絡が来る――大分早い。

 

『オーケー。で、どうする? そちらに誘導すればいいのか』

 

『いえ、封印は砲撃魔法によって行います。こちらで補正しますが、出来るだけ相手の動きを止めてください』

 

『了解、任せろ。高町さん、頼んだよ』

 

『はいっ。任せてください!』

 

 元気のいい返事とともに、こちらのデバイスに射線とタイミングのデータが送られてくる。

 

 10、9、8、7……

 

 予感でも感じたか、背を向けて逃げようとする思念体。抜刀――

 

 6、5、4……

 

 逃げる背に追いつき、切り刻む。体を滅多切りにされ、動きを止める――

 

 3、2、1……

 

『撃ちます!』

 

 0

 

 射線から飛び退くと、そこに轟音とともに膨大な魔力の奔流が撃ち込まれる。最後まで足掻こうとしていた思念体を無情にも巻き込み、その本体であるジュエルシードを封印した。

 

「……ふぅー」

 

 一息つく。疲労はないが、安堵の溜息である。上手くいったみたいだ。

 

 それにしてもさっきの封印砲は高町さんのものか……。凄まじいな。

 

 さっきまで周囲に暴力的な魔力を撒き散らしていたジュエルシードもすっかり鳴りを潜め、辺りは静寂に包まれている。

 

 ……これでこの件は解決、か? 結界が解除され、周囲の風景に人気が戻ってくる。俺もジャケットを脱いだ。結局俺の記憶との関係は分からないままだ。

 

 まぁ今はそんなことどうでもいいか。彼ら――特に高町さん――は疲れているだろう。

 

 労わりに行かないと、と彼女たちのもとに向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……取られてしまったようです」

 

 少女が報告する。

 

「ふむ。管理局ではないね、早すぎる。データにあった、現地協力者の存在かな。いつ出てくるかと思ったが、そうか、今日だったか」

 

 初老の男が、考え深げに呟く。

 

「ごめんなさい……。あんなに目立っていたのに」

 

「気を落とすことはないよ。我々はその間に海にある六つの内、三つの封印を終わらせた。君の使い魔の彼女が更に三つを手に入れたそうだ。現時点で六つ。近い内にもう三つ手に入るだろう。順調と言っていい」

 

「……はい……」

 

 しかし少女の気は晴れない。自分を責めるように唇を噛み、視線を落とす。

 

 ――やれやれ。あの男たちも残酷なことをする。

 

 少女に隠れて溜息をつく。彼女のその責任感がどこから来るかを知っている者としては痛ましい思いを抱かずにはいられない。

 

 とにかく、今日はもう休ませねば。

 

「――。今夜はもう休みなさい。連日の魔力行使で、君の身体は疲れ切っている。なにより休息が必要だ」

 

「……はい、分かりました」

 

「いいね、くれぐれも、この間のように夜を徹して捜索を行わないように。次やったらベッドに縛り付けて、子守唄を歌ってやるぞ」

 

 私の歌声と言うと、それはもう酷いものだからな、と冗談めかして言うと少し、ほんの少しだけ口元を緩ませ、少女はその場を去った。

 

 ――もう一人の彼女にも強く言っておくべきか……いや、無駄だな。

 

 少女がどうしても、と言えば彼女がそれに逆らえないことを知っていた。それに現状でも充分気にかけている。これ以上は彼女の負担を増やすだけだ。

 

 もう一度、今度は大きく溜息を吐く。前途は多難だ。

 

 ――お前は本当にどこにいるんだ。このまま出てこないで終わらせてしまう気か。

 

 心の中で呟き、彼はまた今夜も休まずに捜索を続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 例の一件の翌日。

 

 俺とユーノ君と高町さんは今一度、一堂に会していた。

 

 理由は昨夜の続き――ジュエルシード集めに関するものである。

 

 

 

 昨晩三人で協力してジュエルシードを三つ封印したのだが、なんとそのジュエルシード、全部で二十一個もあるというのだ。ユーノ君の持っていた一つと足しても一七個残っていることになる。

 

「ジュエルシードは、“願いを叶える”と言われる宝石です。その正体は次元干渉型のエネルギー結晶体、要するにとても強いパワーを秘めている物体です。でもそのエネルギーの制御が難しく、結果として、封印して時空管理局に譲渡することになったんです」

 

「それが何故この地球に?」

 

「それは……」

 

 ユーノ君によって語られるその理由。

 

 とある遺跡で発掘された――ユーノ君はそこの責任者だったらしい――ジュエルシードを、管理局に保護してもらおうと輸送船を手配したら、途中その船が事故にあったそうで、結果、次元のハザマから放り出されたジュエルシードが、地球に散らばってしまったのだという。

 

 ユーノ君は一貫して自分の責任だと主張するが、そんなことない気がする。

 

「……それで単身地球に?」

 

「はい。封印が維持できていれば、本当に回収するだけで済みましたし。……万が一の事も、あると思ったので」

 

 結果としては正しい行動だった。もし彼が先んじて回収を始めなければ、今頃さっきの化け物に大勢の住民が轢殺されていただろう。……本当に被害がなかったかは、明日のニュースを見るまで分からないが。

 

「…………」

 

 高町さんが少々置いてきぼりになっている。疲れているだろうし、今夜はここまでにしよう。

 

「この件は明日改めて話そう。二人ともそれでいいかな?」

 

「は、はい。大丈夫です」

 

「分かりました」

 

 その後高町さんの家まで送っていき、二人と分かれてその日は終了した。

 

 ユーノ君は高町さんと一緒にいてもらうことにした。彼女にはフォローが必要だろう。

 

 

 

 そんなこんなで本日。

 

 午前中まで授業のあった高町さんとユーノ君と合流し、とある公園で会合を開くこととなった。よく晴れた気持ちのいい日だが、生憎楽しい話をしに来たわけではない。軽い認識疎外の結界の中での密談だ。

 

 通信機越しにテスタロッサ家も参加しての話し合いとなった。

 

 議題は“今後どうするか”だったのだが、紆余曲折の後、結果的には“全員で捜索”に決定された。

 

 高町さんは少し悩んでいたみたいだったが、自分の力が必要とされていることに気付くと、控え目ながらしっかりと、参加の意思を表明した。

 

 もしかしたら俺の土下座が効いたのかもしれない。無念なことに俺や現在のユーノ君では残り一七個のジュエルシードを全て封印するの不可能かもしれないので、プライドを捨ててお願いすることになった。その際、「あれ、この光景以前どこかで……」と高町さんが呟いていたが、気のせいだ。思い出さなくていい。

 

『まったく。こんな時に限って“海”が荒れているんだから』

 

 苛立たしげにテスタロッサさんが呟く。

 

 海とは世界の狭間、次元空間の事で、ここが荒れていると転移が難しくなる。そのために次元間航行船が存在するのだ。

 

 それにしても今回の荒れ方は色々不自然らしい。計ったように地球付近の次元が歪んでいるとのことだ。今回の件に関係しているのだろうか?

 

「仮に来れても、テスタロッサさんは安静の身でしょう」

 

『なのはさんに任せるぐらいなら無理を押してでも私がやるわよ』

 

 一児の母として、娘と同じ年の子をこんな危ない目に合わせることに憤慨しているらしい。

 

「管理局には改めて救援要請を出しましたから、早く来てくれることを祈りたいですね。とにかくそれまでは、何とかして俺が盾になりますよ」

 

『……そうね。なのはさんが砲撃型の魔導師だったのが、不幸中の幸いね』

 

 彼女を後衛、俺を前衛にし、ユーノ君を補助とすれば、高町さんが被害を受ける可能性をかなり減らせるだろう。彼女自身の魔力適性も、驚くほど高いのだし。

 

 その彼女は今、別のスクリーン越しにアリシアと話をしている。話の内容は分からないが、どうやら仲良くなれたようで良かった。

 

『それで? エンダー』

 

「……何です?」

 

『惚けないで頂戴。この事件と、あなたの記憶の関係よ。無関係だとは言わせないわ』

 

「…………」

 

 当然、そうだろう。

 

「正直に言うと、自分でもまだよく分かりません。確かにこの世界の、この町に引き寄せられるものがあったのは確かなんですが、それが記憶とどう関係しているのかは未だ不明です。今回の事件に関しても、ジュエルシードに見覚えがあったりするわけではないんです。ただ……これが全くの偶然とは思えないとは、感じています」

 

『……まだ様子見というわけ。良いわ、信じてあげる』

 

 その後二言三言言葉を交わした後、連絡を終了した。

 

 ……思わず大きな溜息を吐く。

 

「どうかしたんですか?」

 

「いや。最近自分の信用を安売りしててね。いつか価値が下落するんじゃないかと怖くなった」

 

 高町さんが不思議そうな顔をする。

 

「それはともかく、改めてこれからよろしく。高町さん、ユーノ君」

 

「こちらこそ。手伝ってくれてありがとう。エンダー、なのは」

 

「うん、よろしくお願いします! それとエンダー君、私の事は、なのはでいいですよ」

 

「分かった。よろしくなのは」

 

 結束の証に皆で握手。

 

 

 

 今後の予定はジュエルシードの探索と、なのはの魔法訓練を並行してやることである。

 

 ジュエルシードに関しては、ユーノ君の探査魔法頼りになる。俺はもちろんなのはも現状使えないので当然なのだが、少々効率に疑問が残るところだ。

 

 ジュエルシードは、封印が効いていると中々発見できないせいでもある。暴走してくれれば簡単に見つけられるが、それはそれで本末転倒だ。

 

 魔法訓練に関しては、なのはのデバイス、レイジングハートとユーノのコンビで教導に当たることになる。

 

 俺にも教えようかと言われたが、とりあえず断っておいた。日々の努力を馬鹿にする気はないが、俺の場合は正直それぐらいで上達するレベルではない。年単位で予定を組む必要がある。

 

 それに余り師匠を増やしたくないというのもある。魔法の師はリニス一筋にしたい。

 

 なのはの方は、急に予定が詰め込まれて大変ではないかと思ったが、案外そうでもなさそうだ。

 

「ううん、大丈夫。ジュエルシードが暴走したら、皆が危ないもん。私が頑張らなきゃ」

 

 若いのに偉いなぁ、とついしみじみと呟いてしまう。

 

「エンダー君も若いと思うんだけど……」

 

「見た目だけな。これでも大人だから」

 

 だから遠慮せず頼ってくれていいんだよー、と言うとおかしそうに笑われた。……信じられてない気がする。

 

 とにかくこれからこの三人で活動だ。年上の威厳を見せてやらねば。

 

 

 

 




オリ主がいなくてもいい場面でオリ主を絡ませるのは難しい

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