魔法ニンジャ活劇   作:ダニール

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エピローグⅠ

 

 

 エピローグⅠ

 

 

 ジュエルシードを巡る騒動から数日後。暫く事後処理などで忙しかったが、ついに地球から発つ時がやって来た

 

 エンダー達は海鳴臨海公園に集まっている。理由は勿論、別れの挨拶を済ませるためだ。今二人の少女がたどたどしく、けれども真摯にお互いの気持ちを通わそうとしていた。それを少し離れた場所から見守るテスタロッサ家と、アルフとユーノ。

 

 エンダーはと言うと更に離れた場所で彼女達に背を向け、公園の縁に腰掛けて海を眺めていた。気持ちよく晴れ渡った青空に、穏やかに波打つ海。聞こえるのはカモメの鳴き声と波の音だけ。穏やかだった。未来には何の心配もないのだと思わせてくれる風景。

 

「君は見てなくて良いのか?」

 

 そのエンダーにクロノは後ろから声をかける。

 

「結果の分かっているものを、見る必要はないです」

 

 興味なさそうに言うエンダーだったが、その声が微妙に湿っていることに薄く笑うクロノ。そして彼の隣に腰を下ろす。

 

「これを」

 

 端末を差し出す。不思議そうに受け取るエンダーだったが、その内容が今事件の報告書だと知ると、問いかけるようにクロノの顔を見返す。クロノは知らぬ顔で海を眺めているので、仕方なく中に目を通すことにする。

 

「これは……随分と創作性溢れる内容ですね」

 

 エンダーは、クロノとリンディにはこの事件のほぼ全てを話してあった。未来の事も包み隠さず。最後まで黙って話を聞いた二人は、この事は他言しないようにと口止めしただけでエンダーを解放した。その後も彼らは随分と頭を悩ませたようだったが、この報告書にはそんな話は一切出てこなかった。ゴーストはただの次元犯罪者として扱われ、七つのジュエルシードを発動させた結果ジュエルシードごと行方不明。そう記されているだけだった。

 

「事実と違う」

 

「事実と言うのは、観測され、証明でき、説明できることを言うんだ。未来の世界からの来訪者なんて、どうやって証明する?」

 

 彼らの残した物やエンダー自身の身体に関しては、状況証拠でしかない。ゴーストが話した内容だって、信頼できるかは分からない。それだけで未来の世界に関する事情を証明しきれる訳ではないのだ。全ては終わったことだし、それに月に隠されたジュエルシードを見つけ出すことなど現実問題不可能なのだ。そう考えたクロノ達は、この件を“無かったこと”として片付けた。

 

 それが正しいことなのかは、エンダーには分からない。ただこれで良いんだという漠然とした確信はあった。何が起こったにせよ、それは全て遥か未来の話だ。それまでは、放っておきたかった。

 

 ただ一つだけ懸念がある。

 

「フェイトの事は……彼女はどうなります?」

 

 故郷から捨てられ、この世界に残されてしまった少女。彼女への対応はどうなるのだろうか。

 

「彼女は、首謀者の男の仲間として次元犯罪者として扱われることになるだろう」

 

 やはり。

 

「なら……頼みがあるんですが。俺の事も、彼女と同じ扱いにしてもらえないでしょうか。仲間の次元犯罪者として」

 

 たとえ記憶喪失だとしても、面識がなかったとしても、自分は彼女の仲間だったのだ。その罪を彼女だけに擦りつけることは出来ない。エンダーはそう思っていた。

 

 そのエンダーの言葉に多少驚きながらも、不思議と意外とは思わないクロノだった。しかし――

 

「それは……難しいだろうな。君が管理局の為、町の為に戦ったことははっきり記録に残っている。それこそ証明できる“事実”というやつだ」

 

「そうですか……」

 

 俯く。

 

「……ただ、証言は出来るかもしれない。アルフさんの話では、フェイトさんは首謀者の男に騙されて犯罪に加わっていたらしい。他にそれを証言できる人間がいれば、彼女の罪も軽くなるかもしれない」

 

 あの事件の後、微かな反応を頼りに管理局はゴースト達の拠点を発見した。そのビルには、傷つき衰弱したアルフだけが残されていたと言う。彼女の話では、ゴーストに“役たたず”と言われ切り捨てられたらしい。フェイトもそこでゴーストに利用され、使い捨てられる予定だったと。アルフはフェイトの使い魔だが、発見された時の姿のあまりの凄惨さに、主人を庇う演技である可能性は低いと判断された。

 

「分かった。それでお願いします」

 

 頭を下げる。これが仕事なんだよと苦笑して肩をすくめるクロノ。

 

「まぁ、どうなるにせよ、そう悪いことにはならないだろう。ロストロギアを、その危険性を承知の上で奪取しようとしたことが彼女の主な罪だ。だがそれも騙されて利用されていただけで、更には彼女自身には明確に管理局に敵対したという記録は残っていない。現時点では起訴されるかも分からないな」

 

 高い魔法の才能を持って生れて来た子供の中には、その力を利用しようとする大人達によって犯罪者として育てられてしまう例も多い。そういった子たちの更生、そして受け皿になってやることも、管理局の役目だ。クロノはそう信じていた。

 

 それから暫くの間二人で黙って海を眺める。お互いの心に複雑な感情が飛び交うが、二人とも言葉にしようとは思わなかった。

 

「そろそろ時間だ」

 

 そう言って、クロノが立ち上がる。エンダーもそれに倣う。

 

「……未来なんて、本当にあるのかな」

 

 小さく呟く。ふと口に出た言葉だった。これだけの事があって尚、エンダーには“未来”と言うものの実体を掴めずにいた。その為に命をかけることの意義も、根拠無く存在を信じて生きていく自信も、彼には理解しきれなかった。

 

「未来は存在するかどうかじゃない。必要とされるものだ。そしてそれを手に入れるために、僕達は戦っているんだ」

 

 素っ気ないクロノの言葉に静かに頷く。そうか……欲しいから、戦っているんだな。

 

 歩き始めたクロノに続く。その先ではついに友達となった二人の少女の姿があった。

 

 その内にアリシアが二人の元に飛び込んでいった。「私はお姉ちゃんだから、気を利かせて今は二人っきりにしてあげる」と言って離れていたのだが、どうやら我慢できなかったらしい。その光景を見てクロノが微笑む。

 

「フェイトさんの行く末は、心配しなくてもよさそうだ」

 

「ええ。アリシアはもうその気ですし、テスタロッサさんも是非と言うでしょう」

 

 期せずして、妹が欲しいと言ういつかのアリシアの願いが叶うことになる。

 

 目を細めて彼女達を見つめる。エンダーにはクロノ達にも、誰にも言っていない秘密があった。それはゴーストの最後の頼みだ。彼がエンダーに託した思いだけは、誰にも話すことは出来なかった。

 

 自分は裁判で証言することになるだろう。如何にゴーストと言う男が卑劣で、子供を利用し犯罪に巻き込む最低な男だったかを。フェイトの罪を軽くするために。それで良かった。

 

 彼の最後の頼みは、“フェイトを頼む”だったのだから。

 

 

 

 

 

 その後見守っていた全員でなのは達の元へ向かい、別れを済ませていく。

 

「エンダー君!」

 

 向日葵みたいな笑顔で迎えてくれるなのは。その手にはフェイトと交換したリボンが握られていた。記憶に残る、プレゼントか。

 

「エンダー君、本当にありがとう。エンダー君、ずっと守ってくれたから」

 

「礼を言うのこっちの方だよ。なのは、ありがとう」

 

 嬉しそうにはにかむ姿を見ると、本当にただの子供にしか見えない。そんななのはに対して、大人が子供にするようについ頭を撫でてしまいそうになる。だが途中で思い直し、彼女の前に手を差し出した。

 

 一瞬キョトンとした表情をするなのはだったが、すぐに笑顔でその手を取った。握手をする。友情と、敬意を込めて。

 

「それじゃあ、近い内にみんなでまた会おう」

 

「うん! 一緒に町を回れて楽しかったよ。今度はフェイトちゃんもアリシアちゃんも一緒にいこうね」

 

 未来の約束をし、手を離す。エンダーはその際誰にも見られないように、素早くなのはのポケットに手を伸ばした。

 

「ユーノ君もな」

 

「うん。今までありがとう、エンダー。また会おうね」

 

 なのはの肩に乗るユーノとも別れを済ます。簡潔に、けれども真摯に。あの事件の後、ユーノとは自らの身体の秘密を共有することになった。勿論後悔は無い。

 

 そしてエンダーは他の皆とともに一か所に集まる。転移魔法が作動し、光に包まれていく。涙ぐみながら手を振るフェイトに、千切れんばかりに腕を振るアリシア。その姿が光にとけていく。なのはも彼女達に手を振る。心を込めて、決して忘れないように。

 

 転移が完了する。光の消え去った時には誰もいなくなっていた。ともすれば夢だったのではないのかと錯覚してしまうほどあっさりと。穏やかな日の光と、波の音だけが響き渡る。

 

 でもなのはには分かっていた。手に持った黒色のリボンを胸に抱きしめる。皆と一緒に過ごした時間は、決して夢なんかじゃないって。自分が手に入れたものは、ちゃんとこの胸の中にしまってあるんだって。

 

 ふと、ポケットの中に違和感を感じた。何も入れた覚えは無いんだけど、と探ってみる。そこには――

 

「なのは、それ」

 

 そこには腕飾りに改造された、いつかのペンダントが入っていた。あの時より綺麗に装飾されているそれは、日の光を浴びて美しく輝いている。なのはは一瞬不思議そうにそれを眺めたが、すぐに笑顔になる。

 

「うん、そうだよね。寂しくなんて、ならないよね」

 

 青空の下、なのはは未来を確信する。きっとすぐ、皆と会えるって。

 

 

 

 

 こうして、地球でのジュエルシードを巡る戦いは終わりを告げた。誰が何を得て、何を失ったのかはまだ整理しきれないけれど、間違いなく希望はあった。

 

 それで充分だった。未来を手に入れるための戦いに一番大切なものは、それなのだから。

 

 

 

 

 




本当はここまでをプロローグにしたかった。
あと二話ほどアナザーエピソードをやり、1期編は終了です。

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