宇宙海賊キャプテン茉莉香 -銀河帝国編-   作:gonzakato

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 銀河系になにかとんでもないことが起ころうとしている。
 漠然とした不安が、ついに姿を現してきます。
 これに対して、茉莉香、チアキ、グリューエル、ウルスラ、リリイの五人はそれぞれの役割を担いつつ、立ち向かっていきます。
 


第四十四章 海賊の戦い

 

1 海賊の掟 (銀河系辺境宙域)

 

「ボス。ヤツラを発見しました。

 一光年ほど先の宇宙(うみ)を、編隊を組んで飛んでいます。」

「そうか、やっと捕まえたな。

 行き場のないヤツラをまとめて面倒見てやったのに裏切るとは、恩知らずドモめ。

 海賊の掟を思い知らせてやる・・・。」

 銀河の辺境宙域を縄張りにする宇宙海賊船ブルックリン号のダークマン船長が、うなった。

 

 ダークマン船長とその仲間の船は、逃げ出した「裏切り者」を追跡していた。

ダークマン船長らは、海難救助の報酬として、マンチュリア人の船を自分たちの船とし、その乗組員であった軍人たちを海賊の仲間にした。(第四十章 海賊の取引 参照)。

その後は、ダークマンらの思惑通りに事は運ぶかに見えた。

 しかし、そのマンチュリア人たちは各地の海賊たちの元から同時に脱走した。そして、ひとつの船団にまとまってどこかへ向かっていた。

 

「それにしても、誰がヤツラの逃走を手引きしたんだろうか?

まずは、逃げ出したヤツラを捕まえて、そいつの正体を吐かせないといけなぁ。

手引きした黒幕にも、きっちりケジメを付けないと・・・・。」

 

 マンチュリア人たちは海賊船を奪って逃げたが、それも優れた船、新しい船を選んで奪っていった。盗まれた船は、海賊船としてはかなりハイクラスの武装船だったので、かれらは大量の武器を手に入れたことになる。しかも、逃げ出す際に食料、武器弾薬から燃料まで彼らに必要な物資を海賊たちから盗んでいった。

 このように、彼らは用意周到かつ組織的に逃亡しており、それを指揮している者の存在が疑われる事態だった。

 

「あっ。ボス、やつらがいっせいにジャンプしました。」

「どこへ向かった?」

「ジャンプの航跡はどこへ向かっているかと見ると・・・銀河の外へと向かっていて・・・。

 ボス!  こりゃあ、M-19003星団の手前の、M-19019星団の方向ですぜ。」

「なに! それじゃあ、そこに遭難したやつらの仲間が生き残っていたのかぁ。」

 

 

2 全員集合! (ネオ・オアフ星衛星軌道上)

 

 

 弁天丸は、ネオ・オアフ星付近の通常空間にタッチダウンした。

 

「船長、まもなく、ネオ・オアフ星の中継ステーションに着きます。」

「了解。着いたら、お客様の荷物や補給物資の運び込みと、それから助っ人の海賊さんたちを乗せる作業開始よ。

 それから前にも言ったけど、予定の作業が終了するまで2日かかるから、その間、希望者は休暇を取って、ネオ・オアフ星のビーチに降りて行ってもいいわよ。」

 茉莉香船長が言った。これから始まる厳しい仕事に備えて、乗組員にほんのひと時でも休暇を楽しませようという船長の配慮だった。

「わ~い。」

 弁天丸の女性乗務員たちが歓声をあげた。

「私たちみんなで、ビーチとか、リゾートホテルを見学しようよ~。

今後の参考になるよ~♪。」

「ルカ先輩は、この星に旅行された経験がおありですよね?」

「あるわよ。新婚旅行の『経験』はないけどね・・・。」

 ルカが、聞かれてもいないのに、自虐的な返事をした。

「ククク・・・。なんたって、この星は新婚旅行では人気一番のところだからねえ~。」

 クーリエが笑った。

「ナハハ・・・、本当は、休暇のためにこの星に滞在するんじゃないのだけど・・・。」

 乗組員のやり取りを聞いていた茉莉香は、お得意の苦笑いをした。

 

 実際、今の弁天丸は、リゾート惑星に立ち寄って優雅にひと時の休暇を楽しむというような、浮ついた雰囲気ではなかった。これから戦闘覚悟の危険な仕事に行くのだから。

 やがて、連絡シャトルが、弁天丸から中継ステーションへ向けて、リゾート惑星に降りる乗員を乗せて発進していった。このシャトルは、弁天丸に戻るときには「助っ人」、つまり増援の戦闘要員を乗せてくることになっている。そして、戦闘に備えた物資の補給も始めることになっている。

 

 そんなあわただしい雰囲気の中で、茉莉香は、モーガン家のメイフラワーからの通信内容をギルバートから聞いた時のことを、改めて思い出していた。

「船長。

 祖母からの通信は、チアキ殿下からの通信とほぼ同じ趣旨です。

 つまり、弁天丸がM-19019星団まで荷物運びのお仕事をするのはやめたほうがいいという話です。」

 茉莉香とギルバートは、船長室で向かい合って座っている。

 そして、彼の話を聞いた茉莉香が問い返した。

「ええ! どうしてですか?

 チアキちゃんは詳しい理由を言ってくれなかったけど、メイフラワー様はなんとおっしゃっていたのですか?」

 茉莉香は、その理由が知りたかったのだ。

「船長、M-19003星団での海難救助の話を思い出してください。

 これは海賊たちだけの極秘情報なのですが、実は、あの時ダークマンたちが助けて仲間にしたマンチュリアの軍人たちが、船を奪って脱走したそうです。

 そして脱走した彼らはM-19019星団方面に向かっており、ダークマンたちがそれを追いかけているそうです。」

「ええ、本当ですか?」

「そうです。

 しかもM-19019星団付近の宇宙(うみ)では、すでに海賊たちと逃げ出したマンチュリア人の戦闘が始まっているそうです。

 したがって、付近の海では治安が極度に悪化しているそうです。」

「う~ん。私に危ない仕事をさせたくないと言うお気遣いはうれしいのですが・・・・。

 弁天丸は海賊船です。

 危険を恐れていては、海賊の仕事は成り立ちません。

 ですから、私は行きます。」

 キッパリと茉莉香が決意を述べた。

「やっぱり、茉莉香さんなら、そうおっしゃるでしょうねえ。

 私や祖母の予想通りですね。」

 ギルバートは微笑んだ。

「それなら、ひとつ策があるので船長に進言してくれと、祖母は言ってきました。」

「どういうお話ですか?」

「祖母は、船長と弁天丸の護衛として白兵戦の得意な猛者達を大勢乗り込ませたいので、受け入れて欲しいと言っています。

 もちろん、同乗させる乗員は、祖母自身とモーガン家が総力を挙げて、えりすぐりの強いヤツを集めるといっています。」

「白兵戦の得意な猛者ですか・・・。」

「そうです。ご存知のように、海賊の戦いは白兵戦が中心ですからね。

 命がけの肉弾戦というヤツですよ。」

「そんな、私のためにそこまでして頂くなんて・・・。」

 茉莉香は、緊張して少し頬を赤くした。そして、申し出を承諾した。

 

 その後の打ち合わせの結果、彼らは弁天丸の寄港予定地ネオ・オアフ星で乗り組むことになった。

 ネオ・オアフ星は、銀河系各地からの旅行者のために定期航路が発達しており、しかも最近、時空トンネルが整備され、集合地としてきわめて便利だからである。

 

「船長、これが今回乗り組んでくる戦闘員の名簿です。今、届きました。

 総勢50名、みんな歴戦のコワモテだそうですよ。」

 茉莉香は、ギルバートから乗員名簿を受け取った。

 しかし、そういうギルバートの顔がなぜか微笑んでいた。

「助っ人の戦闘員って、どんな人なんだろう?

 ちょっと怖い人たちかなぁ。・・・少し不安だなあ。

 それにしても、ギルバートさんはなぜ微笑んでいるんだろうか・・・?

 はっ! もしかして・・・。」

 茉莉香は、あわてて乗員名簿を調べ始めた。

 

「あっ、キャサリンさんがいる。彼女は凄腕だからねえ・・・選ばれて当然といえば当然だけど、どうして海賊の仕事なんかに加わっているのかなぁ。

 ということは、・・・」

 茉莉香は、もう一度、乗員名簿を隅々まで読み返した。

「あれえ!? 

 グリューエルは名簿には入っていない!

 けど、ウルスラとリリイが入っている。

 どういうことですか?」

「その二人は、チアキ様からのご推薦だそうです。」

「まあ、ウルスラは実戦経験があるから当然としても、リリイはまだ看護学部の大学生でしょう?」

「ええ、もちろん、ふたりとも、『歴戦のツワモノ』と祖母も認めたそうですよ。」

 ギルバートが答えた。

 茉莉香が知らない間に、二人とも海賊の人たちに実力を認められているようだった。

 

「・・・ん?

 ・・・でも、ウルスラのほかにも士官学校パイロット科の学生さんが三人もいますね。この人たちも『歴戦のツワモノ』なんですか?」

「いや、その三人は帝国軍士官学校・パットン校長のご推薦です。三人は、パイロット科の優等生で、将来はエースパイロットになること間違いないそうです。

 いい機会だから実戦を経験させて欲しいと・・・。」

「大丈夫なんですか?いくら優等生と言っても、未経験の人たちを加えて・・・

・ ・・う~ん。

 でも、メイフラワー様が認めたということは、やっぱり何か事情があるのですか?」

「アハハ、茉莉香さんもそう思いますよね。実は、パットン校長はこの三人とワンセットでないとウルスラさんは貸せないと言ったそうです。

 というのも、この三人は、日頃、ウルスラさんにパイロット科の勉強を教えているそうです。彼らのおかげでウルスラさんは落第を免れているそうですよ。

 だからこの機会にウルスラさんに恩返しをさせろというわけです。」

「ナハハハ・・・そういうわけですかぁ・・・。ウルスラらしいというか・・・。」

 茉莉香も仕方がないと思った。

「では、キャサリンさんが加わっているのは、なぜですか?

 いつものように、グリューエルが密航してくる手筈になっているからですか?」

 茉莉香がもうひとつの疑問を聞いた。

「いいえ。これは、彼女の意思だそうです。

 形の上では、チアキ様の副官スカーレットさん、つまり帝国海賊のクキ一族からのご推薦だそうですが、それは海賊の仕事をもっとやってみたいという彼女の意向を受けてのことだそうです。」

「へえー・・・。」

 キャサリンも自分の人生を考え、動き出しているようだ。

 

 

 やがて、新しく乗ってきた海賊の助っ人たちが、弁天丸の食堂ホールに集まりはじめた。

 ケイコが乗員名簿を見ながら乗船してきた者の集まり具合をチェックしている。全員をホールに集合させるのは、船長が乗船を認める儀式を行うとともに、全員そろったところで船長加藤茉莉香から今後の方針を告げるためでもあった。

 彼らは、その怖そうな姿を一目見ればわかるほどの歴戦のツワモノたちばかりだった。

 したがって、ホールの中は重苦しい雰囲気が漂い、誰も口を開かなかった。

 茉莉香も、まだ全員がそろっていないため黙っていた。

 

 そこへ、リリイが遅れて一人でホールに入ってきた。

 すると、その場の雰囲気が変わった。

 

「お~~お! リリイちゃん。お久しぶり。」

「海賊の巣で会って以来だねえ。」

「その節は、怪我の治療でリリイちゃんに世話になったねえ。」

「やっぱり、リリイちゃんが来てくれたのか。うれしいねえ。」

「来ないんじゃないかと、気にしてたんだぜ。」

 ツワモノたちがニコニコして、リリイを取り囲んだ。

「やあ、ビリーさんもお元気そうね。景気はいいの?・・・」

 これに対して、リリイはツワモノたちとタメグチで楽しそうに会話を始めた。

 

「イテ、テ、テェ・・・。」

 

 突然、一人の『ツワモノ』が声を上げた。

 よく見ると、リリイに手をつねられている。

「また! もう~。フランクさん、私のお尻、触ろうとしたでしょう!」

 

 リリイの言葉を聞いて、ホール内の海賊たちが爆笑した。

「ワハハハ・・・。大口たたいたフランクの負けだ。」

「一人負けだぞ。」

「さすが、『アンタッチャブル・リリイ』だねえ。」

「ん? 『一人負け』ですって?

 さては、みんな、お金を掛けてたんですか?

 フランクさんが私のお尻を触れるかどうかで?」

「ワハハハ・・・・。」

 海賊たちは笑って答えなかった。

「もーっ。アナタたちは・・・・。

 じゃあ、儲けの半分は私に寄こしなさいよ。出演料よ!」

「リリイちゃん。そりゃひどいじゃないか、海賊のウワマエをはねるなんて

・・・ハハハ。」

「そんなの当たり前です。私も海賊ですから。それも、ミーサ先生の直弟子よ。」

 

 もちろん、リリイが、海賊のオジサンたちからのセクハラを軽々と払いのけているのも、ミーサから受けた修行の成果だった。そのため、早くも『アンタッチャブル・リリイ』というあだ名まで付けられている。

 

「知ってるよ・・・ハハハ。」

 相変わらず、海賊たちはリリイを囲んで笑っている。

「ナハハハ・・・。」

 茉莉香も話を聞いて苦笑いするしかなかった。しかし、リリイが『歴戦のツワモノ』として認められている理由がわかった気がした。リリイを囲む楽しそうな雰囲気は、彼らがリリイを自分たちの命を預ける医療スタッフとしてとても信頼している証拠だった。

 

「おい、パイロットたちが来たぞ。」

「おっ、・・・・・」

 その声でそれまでの和気アイアイの雰囲気が消えた。ツワモノたちの間に緊張が走り、ホールの中を沈黙が支配した。

 その中を帝国軍士官学校の制服に身を包んだ四人が、ホールに入ってきた。

 もちろん先頭は、ウルスラだった。

 そのウルスラにツワモノたちの視線が集中している。

 これに対して、ウルスラもピーンと張り詰めた表情をして軍人らしいキリッとしたオーラを放ちながらホールに入ってきた。

 

 船乗りの世界では、パイロットと戦闘員(白兵戦要員など)の間には厳然とした上下関係がある。これは海賊船でも同じである。

したがって、ベテランの戦闘員といえどもパイロットに馴れ馴れしくタメグチで話しかけたりはしない。弁天丸のホールに集まったツワモノたちが、緊張して沈黙したのもそのためである。

 

『へえ~~。ウルスラが、こんな顔するんだぁ~~。』

 

 茉莉香は、ウルスラの軍人としての姿を始めて見て、驚いた。

 ウルスラも、お茶目な女子高生から大人の軍人へと成長しつつあった。

 

「へえーっ。 コイツが、ハヤマ将軍の秘蔵っ子かぁ?」

「実戦で、重力制御式の巨大戦艦を軽々と操縦して帝国軍第三艦隊をさんざん痛めつけ、降伏させたって噂だぜ。」(第七章 公爵の反乱 参照)

「そんなヤツを帝国軍から借りてくるなんて、やっぱり船長のコネはスゴイなぁ。」

「それで、コイツを借りてきたってことは、船長は弁天丸でも例のヤツをやる気なのかなあ。」

「そうかもなぁ。地獄の『タッチ・アンド・ゴー』て、いうやつを・・・。」

 

 ウルスラも、海賊たちから『歴戦のツワモノ』として認められているようだった。 

 

「船長、全員集合しました。」

 ケイコが報告した。

「みなさん。私は船長の加藤茉莉香です。皆さんの乗船を歓迎します。

 皆さんに集まってもらったのは、今後の方針をお話しするためです。・・・」

 茉莉香が今後の航海に関する弁天丸の方針を説明し始めた。

 

 説明がおわるころ、ブリッジの乗員がギルバートにメモを持ってきた。

「あ、これは・・・。」

「どうしたの?」

「船長、追加の乗員があると連絡がありました。明日、乗船するそうです。」

「ええ?」

 茉莉香は、ギルバートが手に持つメモを覗き込んで言った。

「ええ~っと、追加は、一人は、宇宙海賊マリア・ジュニア・レオニーニ、19歳。そのほか護衛兼務の兵士4名の合計5名・・・?」

「理事長のご推薦だそうです。」

「理事長? グランマのこと?」

 

 二人のやり取りを聞いて、その前に並んだ海賊の猛者たちが声を上げた。

「理事長? 海賊協会の理事長か?」

「ソイツは、宇宙マフィアの大ボスと言った方が、わかりやすいなあ。」

「じゃあ、『マリア・ジュニア』って、だれだ。」

「大物に決まってるよ。理事長が護衛までつけるヤツだぞ。」

「ソイツは、グランマが自分の後継に指名しているという噂の、例の孫娘じゃないか。」

「いや。孫娘は後継指名を断ったという噂だぞ。」

「でも『マリア・ジュニア』を名乗る以上、後継指名を受けたってことか・・・。」

「すげえなあ。理事長がマフィアの次期トップを寄こすなんて。

 船長は、理事長とどういうコネを持っているんだ?」

 

 海賊たちの話を聞いていた茉莉香は、驚いた。

『グランマの孫って、サーシャのことじゃないの!?

 あの子も、弁天丸に乗船してくるっていうの!? 』

 

 

3 白兵戦 (M-19019星団周辺宙域)

 

「ボス。『獲物』との接触まで、あと3分です。」

 宇宙海賊船ブルックリン号のブリッジでは、操舵手が、相互の船の航行状況を表示するディスプレイを見ながら言った。

「電子戦、80%完了。まもなく乗っ取れます。」

 航海士が、電子戦の進行状況を表示するパネルを見ながら言った。

「よ~し。触手(強襲用のドッキングブリッジ)をぶち込む用意だ。

 オマエラ、白兵戦準備。」

 宇宙海賊船ブルックリン号のダークマン船長が、突入準備を命じた。

「お~う!」

 

 M-19019星団周辺宙域において、宇宙海賊船ブルックリン号は、「獲物」と狙い定めた、マンチュリア人の船に襲いかかろうとしていた。

 

 M-19019星団周辺宙域では、多数の海賊船とマンチュリア人たちの船が戦闘状態に突入していた。戦闘の状況は、敵味方入り乱れた混戦になっている。

 このような成り行きになったのは、当初マンチュリア人の船が集団で砲撃戦を挑んできたが、海賊船たちは砲撃をかわして散開し個別に接近戦を挑んでいったからだ。これは、相手の船に乗り込んで白兵戦を行うためである。

 つまり戦況は海賊たちに有利に進んでいた。

 なぜなら、海賊たちの戦い方は、正規軍同士の戦闘のような艦隊決戦ではなく、白兵戦が中心だからである。その理由は、目的の違いである。

 海賊たちが戦う目的は、経済的な利得である。利得とは、敵の船の乗員、積荷、そして船自体を奪うことである。このため、海賊たちの戦法は、大切な獲物である敵の船を沈めず、敵の船に乗り込んでこれらを奪うため「白兵戦」が中心になる。

 

 やがて、宇宙海賊船ブルックリン号は、マンチュリア人の船の側面に接触し、襲いかかった。触手は、まるで生物のような柔軟な動きをしつつ、敵船の装甲を突き破って船内に侵入していった。

 船長らの突撃要員は、ドッキングブリッジ前に集合していた。全員、重装備の防護服を着用し、それぞれの得物(武器)を持っている。

「ボス、触手が敵の船を捕まえました。」

「よし、催眠ガス投入に続いて、突撃だぁ。」

「了解。」

「おい。腕がなまっているヤツ、真剣勝負に怖気(おじけ)づいてるヤツは、ジャマだから、引っ込んでてイイんだぜ。

 ここんとこ、平和が続いたからなあ。」

 ダークマン船長は、後ろに控える手下に対して、戦闘を前にして沸き立つ興奮を抑えつつ、上機嫌でうそぶいた。

「ヘヘヘ、ご冗談を。ボス、おれたちゃ、海賊ですぜ。」

「そんなヤツ、この船にはいませんよ。」

「むしろ久々の荒事(あらごと)で血が騒いでますぜえ~。ああ、この気分、タマラナイですぜ~。」

「へへへ・・・この斧が久々に血を吸いたいって、言ってますぜ。」

「相変わらず、おまえらはアブナイヤツだなあ。」

 ダークマン船長は、ニヤリと笑いながら言った。

「ボス、それ、ほめ言葉ですかぁ・・・・」

「ハハハ。・・・それはそうと、オマエラ、わかってるな。

 裏切り者には、降伏は許さないぞ。」

 ダークマン船長は、表情を引き締めて、手下の海賊たちを睨んだ。

「おーう。」

 腹に響く声で答えが返ってきた。

 

 ドスーン。

 そのとき、衝撃が船を揺らせた。触手が敵の船内に催眠ガス弾を放った衝撃だ。

 続いて、ドッキングブリッジが開き始めた。

 

「ブリッジ、聞こえるか?

 敵の船の人工重力をカットしたか。」

「もうやってます。」

 ダークマン船長はにやりと笑った。

「よーし。突入だ。」

 

 海賊ショーではない、本物の海賊の襲撃が始まった。

 

 

4 観察者 (M-19019星団周辺宙域の亜空間)

 

「それで、この混戦模様は、海賊有利と見ていいの?」

「はい、殿下。マンチュリア側の先鋒船団は、海賊船に白兵戦に持ち込まれて苦戦していると存じます。」

「マンチュリアの軍隊は、白兵戦を軽視しているからねえ。

 私の経験でも、それはよくわかったわ。」(第二十一章 茉莉香とチアキ 華麗なる出撃 参照。)

「殿下のご活躍は、お見事でした。」

「それで、戦況の見通しは?」

「海賊たちは、ここ1、2時間以内に先鋒の船団を制圧して、マンチュリア軍の後衛つまり本隊に迫るものと思われます。」

「なるほど。でも、あと2時間もこれを見てるだけというのも、イライラするわね。」

「殿下。まあまあ~。お楽しみはこれからですよ。

 われわれは、ヤツラが追い詰められた時に使う『奥の手』を持っているか、見極めるために、ここにいるんですから。」

「お楽しみ、といってもねえ~・・・。」

 チアキは、口を濁した。

 

 帝国軍第一艦隊旗艦グランドマザーのブリッジでは、艦隊司令官のチアキ、艦長のハヤマ将軍、それに参謀たちが、戦況について会話を交わしていた。

 帝国軍第一艦隊旗艦グランドマザー率いる第一艦隊の精鋭艦隊は、M-19019星団周辺宙域の亜空間に身を隠しながら、探査機を飛ばして海賊とマンチュリア人の戦闘を観察していた。

 もちろん、彼らの使命は、観察にとどまらない。

 

 『茉莉香~。お願いだから、こんな危ない宇宙(うみ)に、突然、タッチダウンしてこないでよ~。』

 

 チアキは、声に出さずに、茉莉香の無事を祈るしかなかった。

 そして、チアキは出陣に当たって下された女王の命令を思い出していた。

 

 

5 王家の義務 (銀河帝国最高司令部・星の大広間)

 

 女王から、姉のクリスティア第一王女の妊娠を理由に第一艦隊司令官の続投を命じられた翌日、チアキは帝国軍最高司令部に呼ばれた。

 チアキは、何のブリーフィングも無く、いきなり最高司令部の「星の大広間」に通された。

 「星の大広間」は、銀河帝国軍の最高司令官である女王から帝国軍の艦隊指揮官たちが出撃命令を賜る場所である。

 もっとも「出撃命令の下賜」自体は儀式であって、作戦内容は事前に艦隊司令部と参謀本部で練られており、艦隊司令官にも事前にブリーフィングされるのが慣例である。

 しかし、今回は何も事前説明がなく、異例なことが起こっている。

 チアキに続いて第一艦隊の主要幕僚や数名の艦長が、星の大広間に入った。

 そのあと、最高司令官である女王と参謀本部のヤマシタ総長と二名の次長が入室した。

『え! 向こうは四人だけか。』

 チアキは驚いた。

「司令官。見てのとおり、異例なことだ。

 だから、手短に言おう。」

 女王は娘のチアキのことを司令官と呼んだ。女王も、この場が帝国軍のオフィシャルの場であることを意識している。

 女王が語り始めた。

「第一艦隊の旗艦と指名された艦船は、準備が整い次第、速やかに中央基地を発進せよ。

 なお、本作戦の内容自体は言うまでもなく、そのための艦船の発進も第一級軍事機密とする。

 行き先と作戦内容は、時空トンネル突入後に、同行するミニッツ参謀次長から説明する。

 そして、特に今回の作戦では、いかなる兵器の使用も許可する。

 兵器の運用については、司令官の判断に一任する。以上だ。」

「承りました。

 必ずや、陛下の下に勝利の吉報をお届けいたします。」

 そう言って、チアキは敬礼した。

 

 そのあとに、星の大広間を退出しようとするチアキは、侍従から呼び止められた。

「チアキ様。陛下がご昼食にお呼びです。」

 

 女王の私的エリアの一室で、女王とチアキはテーブルに向かっていた。

 侍従や女官たちの給仕で昼食が進む間に、女王はチアキに最近の帝国女学院大学での生活の様子を聞いた。これに対して、チアキは、加藤茉莉香と自分のふたつのお誕生会が近々行われることになった経緯を話した。それは19歳のただの娘としてのチアキにとって、楽しい、楽しい時間になるはずだった。

 女王は、チアキの話を終始笑顔で話を聞いていた。その笑顔は、女王の母親としての顔だった。

 

 食事のあとのお茶の時間になると、女王は侍従や女官たちを下がらせた。

『いよいよ・・・かな。何を言われるのだろうか・・・。』

 そう思ってチアキは緊張した。

「チアキ。星の大広間でいきなり出撃を命じられて少し驚いたかなあ。」 

「はい。何か、大きなことが起こる予感がしました。」

「う~む。何から話そうか・・・・。

 そうだ。良い機会だから、王族としての『義務』について話そうか。

 これは、今回の作戦にあたって、ぜひ二人だけで話しておかなければいけないことだからね。」

「はい。」

 チアキは緊張した。女王の言葉は、今回の作戦において王族である自分が果たすべき役割があることを意味した。

 そして、それは『ろくでもないこと』に間違いなかった。

「チアキ、われわれ銀河聖王家の王族は、王の子孫だというだけで、今のような暮らしを続けているわけではない。それはお前も知っているだろう。」

「はい。承知しています。

 王族には王族としての『義務』があることを存じています。」

「そうだ。特に、青薔薇家のわれわれには、『宇宙の平和を守る』と言う義務がある。」

「はい。」

「そのためには、非情の決断をし、それを命じ、実行させることを逃げてはならない。

 チアキ。お前には、その覚悟があるかい?」

「はい。・・・・」

 チアキは、ここでも母の期待に全力でこたえようとしていた。

「そうか。やはりチアキはチアキだな。」

「・・・・

 母上。具体的には、どのようなことでしょうか?」

 チアキは、話を本題にもどした。女王が言った「チアキはチアキだ」と言う言葉に隠された意味も気になったが、それを問わなかった。

「チアキ。お前が弁天丸に乗って、サンタ・マリア星を訪ねたときのことを覚えているかい?」

「はい。多くの貴重な経験をさせていただきました。」

「う~む。そのとき、お前たちを襲った『パピネス財団』の一味のことを覚えているかな。」

「はい。慈善団体と聞いていましたが、一国の軍事力並みに戦艦を十隻も保有していたのには驚きました。」

「う~む。その後の彼らに対する捜査は秘密裏に進められたが、難航していた。

 そして、つい先日、私に中間報告があったが、内容は直ちには信じがたいものだった。

 これでは、捜査が難航するのも当然だと思ったよ。」

「どんな結果だったのですか。」

「結論から言うと、

 まず第一に、ハピネス財団自体が、もともと旧宇宙マフィア非主流派が秘密裏につくったフロント組織だったそうだ。フロント組織とは、表向きは合法の活動を行う団体だ。それが和平後も存続していたのだ。」

「せっかく合法化して作った慈善団体なんですから、おとなしくしていればよいのに。

 それなのに、どうして、かれらはサンタ・マリア星で私たちを襲ったのですか?

・・・・

 まさか、まだ銀河帝国と戦争するつもりだったんですか?」

「結論から言えば、そうだ。

 だが、それには裏がある。

 第二の問題は、彼らの中に、秘密の出自をもつメンバーがいたことだ。」

「どういうことですか?」

「彼らの中に、われわれとの戦いの前に、マゼラン星雲まで逃げたマンチュリア人の末裔が、隠れていたのだ。」

「いま、『末裔』とおっしゃいましたね、母上。

 その言葉の意味をお聞きしてもよろしいでしょうか。」

「末裔と言ったのは、マゼラン星雲まで逃げようとして遭難したマンチュリア人の一部が、時間を遡って100年ほど前の時代のM-19019星団に漂着していたからだ。

 今、問題になっているのは、その子孫というわけだ。」

「ええ! 100年前ですか?」

「信じがたいだろう。」

「そうですね。

 それでは、彼らは、時空トンネルで、時間を遡る(さかのぼる)航海をしたのですか?」

「そういうことになる。その後の調査結果からみて、間違いないそうだ。

 彼らを遺伝子検査した結果とか、没収した船に残された航海記録とか、複数の手段で検証して、100年ほど前に漂着したことに間違いないそうだ。」

「なるほど。わかりました。

 でも、百年後の未来で戦って敗れることがわかっているのに、また、100年前から戦う準備をしてきたのですか?」

「彼らとしては、祖先に当たる人々に、子孫の自分たちが敗れたという『惨めな未来』を話したくなかったのだろう。

 まあ、実際のところは、再び戦いを挑む準備をするどころではなく、彼らはM-19019星団で文明を失いながらも、かろうじて生き延びていたに過ぎなかったそうだが。

 だが、50年ほど後に、宇宙マフィアの連中が、資源調査で訪れ、彼らを発見・救助したそうだ。その後、彼らは旧宇宙マフィアの仲間になって、今に至っているそうだ。」

「そうですか。

 でも、今はわれわれと戦争する気なのでしょう。」

「そうだ。彼らは、その後、『末裔』たちだけで、合法組織パピネス財団を作り、さらに その団体の表向きの活動として、20年ほど前から辺境に『人類の理想郷』を築くと称して、M-19019星団の開拓をしていると見せかけてきたそうだ。」

 

「彼らは、そこで、銀河帝国にまた戦いを挑もうと、着々と準備をしてきたのですね。

 つまり、未来を変えようというわけですか。」

 チアキの背筋がぴんと伸びて、緊張が体中に走った。

「そういうことだ。さすがチアキだ。」

「では、彼らは重力兵器の技術を手に入れているのですか?」

「それが一番重要な点だ。残念だが、それについては、今までの捜査でも、ハッキリわからない。

 もちろん、銀河帝国の軍事技術を盗もうとする悪巧みは続けてきたようだ。

 だから、彼らはブラック・マターを狙って、サンタ・マリア星に現れたのだ。」

「すると、彼らの軍事力は、通常兵器でも、かなりの水準なのですね。」

「報告では、M-19019星団に隠された彼らの軍事力は、帝国には劣るが、他の自治星系よりもはるかに強大と推測されている。これは意外だった。」

 

「それで、チアキ。ここまでは話の前置きだ。

 ここからが、王族として、二人だけで話しておきたい大切な点だ。」

「はい。母上。」

 チアキは、緊張した。

「作戦の内容は、表向き、M-19019星団周辺で行われているマンチュリア人の末裔と海賊との戦いの様子を、彼らに気づかれないように観察することだ。」

「はい。」

「でも、私がお前に託したいことは、かれらが重力兵器を持っていることがわかったら、直ちに彼らを始末して欲しいということだ。

 そのために重力粒子砲の使用を許可する。最大出力の一撃ですべてを撃破しろ。」

 女王はチアキの目をまっすぐ見ていった。

「わかりました。

・・・・・

 でも、そうすれば、M-19019星団全体が爆発してしまうかもしれませんね。超新星爆発のように・・・。

 非戦闘員も海賊も大勢巻き込まれるでしょうね。」

 チアキは、少し間をおいて言葉を続けた。

「そうだな。

 チアキ、繰り返して言うが、『宇宙の平和を守る』ということが、銀河聖王家の嫡流、青薔薇家の義務だ。われらの使命ともいえる。

 なぜなら、銀河系で彼らと重力兵器を使った戦争を始めるわけには行かないからだ。そうなれば銀河全体での犠牲者は、何百億人にも及ぶだろう。」

「そうならないように『打て』と命じるのが、私の役目・・・と言うわけですね。」

「そうだ。

 もっとも、今回、参謀本部が立案した作戦では、できる限り秘密裏に行い、当分の間、自然現象である超新星爆発にすぎないと説明するつもりだが・・・。

 銀河系外延部の爆発なら、銀河系内にはほとんど影響が無いはずだから・・・。」

「そうですか・・・。」

「それにしても、この作戦の重要性から見て、本来、これは王位継承者の役目なのだが・・・。」

 女王は、続く言葉を飲み込んだ。

 チアキは、その先に続く言葉を察し、きっぱりと言った。

 

 「わかりました。母上。

 私が、必ず、我が家の義務を果たします。」

 

 チアキは、母の期待に全力でこたえようと決意した。

 

 

6 後継者 (ネオ・オアフ星の衛星軌道上)

 

 翌日、ネオ・オアフ星の衛星軌道上に停泊する弁天丸に、最後の搭乗者一行が到着した。

 最後の一行は、船長加藤茉莉香ら弁天丸の主なスタッフと助っ人の戦闘員50人全員が見守る中を、弁天丸の食堂ホールに入ってきた。

 先頭は、若い女性だった。黒ずくめの上下の戦闘服にマントを羽織り、目と口以外は皮製の仮面で素顔を隠している。

 何も言わずに入ってきたためか、彼女の周りの空気にピーンとした緊張感が漂っている。

「コイツが、宇宙マフィアのボスの後継者か・・・・。」

「なんだか、すごい威圧感だな。」

 あとの四人の兵士は、先頭の女性に続いて入ってきた一人が女性、他の三人が仮面をつけた男性だった。みな長身で、いかに近接戦闘のプロといった、引き締まった体格をしており、『歴戦のツワモノ』であることは間違いがなかった。

 先頭の女性の兵士は素顔で仮面をかぶっていなかったので、ツワモノたちの間で彼女の名前をつぶやく声が広がった。海賊の間では、かなりの有名人だった。

「ウワァ~。エリーナ隊長が来た。」

 弁天丸乗務員のケイコもつぶやいた。彼女は、元宇宙マフィアのメンバーだったので、やってきた女性兵士のことを知っていた。

「だれ? 今なんていったの?」

 茉莉香がケイコに聞いた。

「本名、エリーナ・フリーニ。グランマ直属の警護役として有名な方です。

 一族の間では、SF(セキュリティ・フォース)、フェリーニ三姉妹の長女として有名です。」

 

 五人は、ホールの中央に来たところで立ち止まり、先頭の若い女性が、ホールに集まった兵士たちを一瞥した。

 たちまち「ザッ。」と言う大きな音がして、荒くれものぞろいの兵士たちが靴を踏み鳴らして直立不動に姿勢を正し、勢いよく敬礼した。ホールにいたツワモノたちは、彼女に見られただけで、これまで経験したこともないほどの威圧感を感じたからだ。 

 これに対して、彼女は満足した様子で口元に微笑を浮かべ、あごを少し動かして答礼した。それは、自分に対しては常にそうするのが当たり前という振る舞いだった。

 

 茉莉香もその気迫に押されたが、次の瞬間、深呼吸をした。

「(はあ~~。)」

 そして、茉莉香は言った。

 

「マリア・レオニーニ様。

 お目にかかることができまして、誠に、光栄に存じます。

 弁天丸船長の加藤茉莉香でございます。

 どうか、茉莉香とお呼びください。

 船長として、皆様の乗船を歓迎いたします。」

 

 そのあと、エリーナ・フェリーニが、一行を代表する形で、船長加藤茉莉香に話しかけてきた。

「初めまして。私は、エリーナ・フェリーニと申します。

 船長、お願いがあります。」

 彼女は、自分の所属する組織や階級などを明らかにせずに、名前を名乗った。

「始めまして。弁天丸船長の加藤茉莉香です。茉莉香とお呼びください。

 それで、ご用件は、なんでしょうか。」

「では、茉莉香船長に申し上げます。

 この船には貴賓室があると伺っております。

 どうか、お嬢様の控え室にそのお部屋を使わせていただきたい。」

「はい、承知いたしました。」

 そのとき、エリーナは、「お嬢様」と彼女が呼んだ若い女性の顔を見た。

 何かを待つ様子だった。

 

「船長。マリア・レオニーニと申します。マリアと及びください。

 お気遣い、感謝します。」

 その女性は自分で名前を名乗った。

「おおっ。」

 その瞬間、ホールの兵士たちにドヨメキが広がっていった。

 それは、予想した『宇宙マフィア・レオニーニ家の後継者』がついに現れ、名乗りを上げたという興奮であった。レオニーニ家の有名なSF(セキュリティ・フォース)であるエリーナが警護している以上、本人に間違いないと、皆、確信していた。しかし、ご当人が自分の声で名乗りを上げたところを聞いて、興奮がさらに増したのだ。

 だが、茉莉香の反応は違っていた。

 

『このコは、サーシャじゃない。

 声だけで判断すると、この声はあのコに似ている。たぶん、間違いない。

 でも、あのコは、こんな体格ではない。私より小柄なはず。

 いったい、どうなっているの?

 それとも、この方は、あのコのお姉さまとか、なの?』

 

 茉莉香は困惑していた。

 マリア・レオニーニと名乗った女性は、その茉莉香の困惑を面白がるかのように、仮面の中に見える口元に微笑を浮かべた。

 茉莉香は、その表情を見逃さなかった。

 

『あ! やっぱり、グリューエルだ。』

 

 


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