宇宙海賊キャプテン茉莉香 -銀河帝国編-   作:gonzakato

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 白凰女学院ヨット部一行は、いよいよ練習航海の最後の目的地、銀河帝国の帝都、惑星クリスタルスターに到着します。
 空港のロビーに着いたチアキは、ヨット部員達から「出し抜かれた」とか「うらやましい」とか、言われます。チアキに出迎えの人がいたのです。
 そして、銀河帝国の王女クリスティアは、茉莉香とチアキを自分の副官とするために、宇宙空間にある銀河帝国の第二王宮へ呼び寄せます。
シャトルに乗った二人は、「銀河のネックレス」と呼ばれるレッドクリスタル星系の星空に感動し、自分達が「銀河系宇宙の中心」に出てきたことを実感します。
 そして第二王宮に着いた二人は、俺の宇宙(うみ)を変えてしまう大プロジェクト「ミルキー・ウエイ計画」を銀河帝国が進めている事を知ります。
 その一方で、銀河帝国内が、内戦寸前の緊迫した事態に陥っていることに驚きます。

 アニメや原作では、ほとんど触れられなかった銀河帝国の中心部に話は進みます。


第四章 銀河帝国

第四章 銀河帝国

 

4-1 帝都クリスタルスター

 

 白凰女学院ヨット部一行は、銀河帝国の帝都クリスタルスターの衛星軌道上の専用シャトルから、惑星クリスタルスターの地上を眺めていた。

 

 いうまでもなく、クリスタルスターは、惑星の名前であり、帝都の名前でもある。

 惑星クリスタルスターは、青い海が80%を占める美しい可住惑星である。

 

「あの大きな大陸が、ホワイトゲーブル大陸、資源豊かで工業都市がいくつもある。

 その南の小さい島が、グリーンゲイブル島、ここが帝都の中心。

 島と行っても実際は大陸なんだが、最初の移民団が衛星軌道上から眺めて、島と名付けたので、今でも島と呼ばれている。」クリスが言った。

「青い奇蹟の星ってとこは、海明星といっしょだね。」

「遂に来たね。早く実際に街を歩いてみたいねえ。どんな街だろうか。」

「楽しみだなあ。」

「どうしたんですか、茉莉香さん。表情がさえませんねえ。」グリューエルが言った。

「いやー、てっきり昨日の主役はサーシャだと思ってたんだ。

 でもねえ、ネットでは、私のミニスカ・メイド服姿の写真とか書き込みが大量にアップされていて、もうビックリ。」

「やっぱり主役は、私ではなく、茉莉香さんでなくっちゃね。

 ネットに出ている茉莉香さんの写真、なかなか良く写ってましたよ。ほんとに綺麗です。」サーシャが言った。

「いやー。恥ずかしいなあ、やらなければ良かったかなあ。」

「何言ってるの、茉莉香が一番ノリノリだったじゃない。」チアキが言った。

「チアキちゃんこそ、ノリノリだったじゃない。」

「私は、ノリノリじゃない!」

「アハハハ・・・」

 茉莉香とチアキが、いつものも調子で言い合っているので、みんなが笑った。

 

「この調子では、空港のゲートで、花束抱えた茉莉香のファンが大勢で迎えてくれたりして。」

「いやあ、それはないでしょ。私たちが来るのを知ってるわけないし。」

「わかりませんわよ、茉莉香さんは、銀河のアイドル海賊なんですからねえ。」

「アイドル海賊って言葉、それいいねえ。

 空港でも、『マリカ様~~~!』って大勢のファンから声がかかってさあ。

 ねぇ、楽しそうでしょ。」

「私のことをネタにして、遊ばないでよね。たいへんなのは、私なんだから。」

「ハハハ・・・。」

 

 やがて、白凰女学院ヨット部一行を乗せたシャトルは、クリスタルスターのメトロポリタン空港に到着した。

 クリス王女が乗っているためか、シャトルの周りには、大勢の帝国軍の警備部隊が配置されていた。

 

「さて、空港に着いたね。

 私は用事があるから、ここからはミッキーが案内をしてくれる。

 あとで、また会おう。」

 そういって、クリス王女は出迎えの専用シャトルに乗り換えて、また、空港を飛び立って行った。

「さあ、これで気が楽になった。

 お嬢が抜けると、うるさい警備が少なくなって、こっちも行動が自由になるよね。

 さあ、ターミナルビルに行こう。

 到着ロビーを抜けて、待っているコミューターバスに乗ろうか。」

 ミッキーが言った。

 

 ところが、白凰女学院ヨット部一行が、到着ロビーにたどり着いたとき、それまでワイワイおしゃべりしていた部員達が一斉に沈黙して、驚いた表情をして固まってしまった。

 

「どうしたの。みんな?」

 チアキがヨット部員を見ると、彼女らもチアキを見て、やがて意味ありげな笑顔を作って、こう言った。

「チアキちゃん、スミに置けないねぇ。」

「隠し事してたのね。まんまと出し抜かれたねえ。」

「なかなかやるじゃないの。さすがだねえ。」

「いいなあ。チアキ先輩。」

「はあ? 何言ってるの、みんな?」

 

 チアキは状況が理解できなかった。

 グリューエルが口に手を当てて笑いながら、言った。

 

「チアキさん、お出迎えの方がいらしてますよ。ほら、あなたの後ろ。」

 

グリューエルが指さした方向には、赤い薔薇の花束を持った、エドワード・ドリトルが立っていた。

 グリューエルだけでなく、他のヨット部員もサーシャの屋敷で開かれたダンスパーティの最後の記念撮影の際に、チアキと踊っていたエドワードも加わっていたので、彼のことを覚えていた。ジェーン先輩の親戚として挨拶も交わしていた。

 そして、部員達の『女のカン』は、彼が誰の出迎えに現れたのか、答えをすぐに見つけたのである。

 

「チアキさん、クリスタルスターにようこそ。歓迎します。」

 チアキに近づいてきたエドワードが言った。

「ああ・・・・・」

 

 チアキは驚いて、そして顔を真っ赤にして、口がきけなくなってしまった。体の動きも硬直してしまったが、やっと、どうにか、エドワードから渡された赤い薔薇の花束を受け取った。

 礼を言わなくちゃいけないと思いつつ、チアキは顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。

「うーーん、チアキちゃん、かわいいなあ。じれったいけど。」

 リリイが小さな声で言った。

 

 その間に、セレニティ王国の在銀河帝国大使が、グリューエルとグリュンヒルデの両皇女に恭しく出迎えのご挨拶をしていた。

 これに対して、二人は皇女として堂々と挨拶を受けていた。

「おー、さすが、お姫様。いきなり、オーラが光ってきたね。」茉莉香が言った。

 

「ちょっとごめんなさい、チアキさん。仕事をしてきます。」

 エドワードはそう言って、グリューエルとグリュンヒルデの両皇女、在銀河帝国セレニティ王国大使にご挨拶をし、ドレスアップした小さな女の子二人によって二人の皇女に、「奇蹟の薔薇」の花束が渡された。和やかに話が弾んでいるようだった。

 皇女へのご挨拶が済んだところで、

「副社長、そろそろ、お時間が。」

 と、ヒュー&ドリトル星間運輸の秘書たちが、エドワードに催促している。

 

「うーん、もうこんな時間かぁ。

 では、チアキさん、また連絡致します。今度は、ナイショですよ。」

 チアキに近づいて小声でそういって、エドワードは離れていく。

「あああ・・・・」

 エドワードの言葉でまた赤くなって固まってしまったチアキだった。しかし、何とかお礼を言わないと彼が行ってしまうと焦っていた。

 そして、彼の姿がもう見えなくなるという、最後の最後で体が動いた。

 

「ありがとう! エド! ありがとう!」

 ロビーに響く大きな声でそう言って、薔薇の花束を上に掲げて振った。

 チアキの声に気がついたエドワードは、満面の笑顔で手を振って、去って行った。

 チアキは笑顔を返したつもりだったが、思いがけない心遣いにちょっと涙ぐんでしまった。

 

 白凰女学院ヨット部一行は、バスに乗って、郊外の空港から高速道路を通り、銀河帝国の帝都クリスタルスターのメインストリート、グリーンガーデン通りに進んでいった。

 この通りには、緑溢れる、幅の極めて広い並木道が続いており、両側の建物はユーロクラシック風の煉瓦造りの古風な外観を残していた。有名ブティックやレストランなどが並ぶ、観光名所でもある。

 そして、一行のバスは、並木道の先にある、銀河聖王家の王宮クリスタルパレスの周りの道路を走っていった。

 王宮は、何処まで続くか端が見えない程の、幅の広い五階建ての建物である。建物には、塔が、一定間隔で作られていた。塔の頂上には、丸い形をした、黄金のドームや青いドームが作られており、光り輝いていた。道路から見ると、意外にシンプルな建物である。

 王宮全体は、中庭を持つ六角形の形をした建物であり、その中庭には、また六角形の同じ構造の建物が建って、外側の建物とは建物で結ばれている。六角形の建物で二重に囲まれた中央の空間は、庭園となっており、王族のプライベート用とされている。

 三千年の間に建て増しが続いて現在の形になったとされるが、古風な外観はそのまま維持されている。もちろん地下にも施設があるとされるが、外観からは想像できない。

 

「この王宮が、銀河の中心さ。授業で習ったろうけど、銀河標準時間も、銀河座標系もここが起点なんだよ。」

「女王様って、あそこにいらっしゃるんですか。」

「まあ、公式行事が行われるときはいるだろうけど、実際には三分の一も居ないんじゃないかな。

 普段は、惑星軌道上にある王宮・第二クリスタルパレスに居るのではないかなあ。その方が便利だしねえ。」

 ミッキーが言った。

 

 その後、バスは、新市街に向かった。超高層ビルが建ち並ぶ官庁街やオフィス街を通り抜け、若者で溢れる賑やかな通りに面して止まった。

 

「さあ、ミルキーストリートに着いたよ。降りよう。」

 ヨット部一行は歓声を上げて、通りに出て行った。次々とお店を見て回ったり、洋服や土産物を手に取ったり、記念写真を撮ったりして、楽しんだ。

 その後、ヨット部員は、カフェテラスのベンチに陣取ると、海明星では見かけない様々な珍しいジャンクフード、スイーツ、怪しい色の飲み物をあちこちの店からテーブルいっぱいに買い集めた。

 そして、

「いただきまーす!」

と、皆で「ミルキーストリートを食べる会」を開催し、昼食となった。

 

 

4-2 グランドマザー船内

 

 白凰女学院ヨット部の一行は、午後は、銀河系一番のお嬢様大学である帝国女学院大学、さらにミッキーの母校・帝国軍士官学校のキャンパスを見学して、夕方には空港に戻り、シャトルに乗って、グランドマザーに帰還した。

 夕食をしながら、ヨット部の部員は今日の見学について話し始めた。

 

「今日は面白かったねえ。」

「帝国女学院って、学校を出るときに、校舎に向かって

 『ごきげんよう』

 って、挨拶するのねえ。すご~いお嬢様学校だねえ。びっくりだよ~~。」

 リリイが言った。

「お辞儀の仕方、ちがうわよ、リリイ。

 体を傾ける角度が違うのよ。こうよ。」

「ごきげんよう。」

 チアキが実演して見せた。

「うわー、うまい、うまい。」

「チアキちゃん、上手、上手。」

 ノリノリのチアキの実演に、ヨット部の皆は拍手、喝采した。

 

「ねえ。ジェシカは帝国女学院の中等部に通ってたんでしょう。どうだったの?」

「あんまり思い出したくないんですけど、最初から最後まで、あんな調子ですよ。

 私は、白凰女学院の方がずっと気に入ってますけどね・・。」

「そっかあ・・・。

 ねえ、茉莉香とチアキちゃんは、帝国女学院に推薦入学で行くんでしょ。

 クリス先生は希望すれば大学に行っても良いとおっしゃってたし・・・。」

「そうねえ、・・・」

 チアキは、まんざらでもない様子だったが、

「私は無理かな、あんなの。性に合わないというか、弁天丸の仕事もあるし・・。」

「茉莉香は、士官学校の方が合っているかもね。」

「あはは・・。あれもねえ・・・。」

 茉莉香は苦笑いした。

 

「そういえば、ウルスラは、ずいぶんミッキー艦長に士官学校のこと、教えてもらっていたよねえ。士官学校に興味があるの。」

「いや~~。

 ミッキー艦長から士官学校のパイロット科を受験するように勧められてるんだ。

 女の子が、親にお金の心配かけずに自分の力だけで、宇宙船のパイロットになるには、士官学校に行くしかないってね。」

「そういえば、ミッキー艦長って、有名人だったんだね。

 士官学校に行くと、学生がたくさん集まってきたよねえ。」

 

 

4-3 第二クリスタル・パレス(銀河帝国王宮)

 

 夕食後、茉莉香とチアキは、クリスに呼ばれて迎えのシャトルに乗った。

「何処へ行くのかなあ」

「たぶん、第二王宮でしょ。

 惑星軌道上にあるとミッキー艦長が言っていた第二クリスタル・パレスよ。」

 

 シャトルの操縦席の窓から、核恒星系の賑やかな星空が見えている。クリスタルスターは、もう小さくなってしまった。

 

「うわ~、星の数が多いねえ。」

 

 加藤茉莉香は、シャトルの操縦席を覗き込んで、大きな声をだした。

「星空をご覧になりたいなら、いま客席に投影しますよ。」

 シャトルの副操縦士が言った。

 

 その途端に、シャトルの室内照明が消えて真っ暗になり、次の瞬間にシャトルの室内が満点の星空に変わった。

 まるで、茉莉香とチアキの二人が星の海に浮かんでいるようだ。

 

「この船は来客用なので、こういう仕掛けがあります。光学迷彩技術の応用で、船内全体がスクリーンになる仕掛けです。

 銀河の星の海をお楽しみください。」

「うわー、星の数が多くて光が濃いねえ。まぶしいよ。さすが、核恒星系だねえ。

 ああ、ほら、チアキちゃん、天の川が私たちの周りをぐるっと取り巻いて、リングになっている。」

「うん、そのリングの両端で、二つの花のように広がって輝く星の渦は、核恒星系の紡錘状星雲の両端かな。花の色が白っぽいのと青っぽいのとで少し違っていて、青のほうが大きいから、こっちが銀河の中心核の方かな。

そして、赤色巨星レッドクリスタルも、天の川のリングに重なって光ってる。こういうのを、壮大な景色っていうのかなあ。」

「銀河の各腕の公転面と、紡錘状星雲の軸線と、レッドクリスタルの惑星公転面がほぼ同一平面上にあるから、そう見えるって、シュニッツアーから聞いていたけど、実際に見ると本当にきれいだね。」

「赤、白、青の宝石をつけた銀河のネックレスっていうけど、本当にそんな感じだね。

 ねえ、茉莉香、この星空を見てると、銀河の中心って感じがするね。」

「そうだね。

 ああ~、とうとう、私たち、銀河の中心に来たんだねえ。チアキちゃん」

「うん、来たんだね。茉莉香」

 二人は、星の海の中で、感激に浸っていた。

 

 やがて、茉莉香が星の海の中に何かを見つけた。

「船長さん、11時の方角にある、あの黒いものは何ですか。

 画像では、まだ小さいけど、すごく大きい船かな、小惑星かなあ。

 このスクリーン、拡大投影できますか。」

「さすが、キャプテン茉莉香ですね。

 あれが、惑星軌道上の銀河帝国の王宮、第二クリスタル・パレスです。

 この距離にもかかわらず肉眼で見つけてくれるとは、おなじ船乗りとしてうれしいですねえ。」

「ええ!? そんなに大きいんですか!」

「いま、拡大投影します。」

 

 やがて、画像の中の黒い雲のようなものが、どんどん大きくなっていった。

 上に長方形の滑走路のような形のものがあり、それに誘導灯のような光の列が見えた。

 

「宇宙船だから、滑走路は不要ですよねえ。あれは、何でしょうか。」

「今にわかりますよ。もう少し大きく拡大して見るとね。」

 

 やがて、四角い黒い雲の正体がわかった。

 黒いもの全体が王宮に出入りする宇宙船用の港湾区画であり、光の列はそこに停泊し、ライトアップされている宇宙船が並んだ姿だった。

 その光の数は、膨大な数の宇宙船が停泊していることを示している。

 

「うわー、王宮って、すごく大きいね。」

 二人が驚いて眺めていると、副操縦士が言った。

「船長、王宮の管制官からの連絡です。

 お二人を歓迎して、王宮のライトアップをするそうです。王宮を上からお見せするため、上空の飛行許可が出ています。」

「上から、ねえ。上空の飛行と。

 では・・・行きますよ、お嬢さんたち。」

 船長は笑って、シャトルの機体を上下に反転させた。

 

「あわわ、ひっくり返るの?」

 部屋の中の星空が反転するのにつられて、茉莉香は思わずシャトルの座席にしがみついた。

「なにをやってるのよ、茉莉香。

 船乗りなら、天地が変わっても驚かないでしょ。」

 チアキは平然としていた。

「いやあー。地上育ちの私としては、頭では分かってはいても、なかなか慣れないというか、できれば避けたいと言うか・・・。

 自分でディンギーを操縦するときはそうでもないんだけど。やっぱり、シャトルに乗っている場合は・・・。

 でも、チアキちゃんは大丈夫なの。

 船上育ちはこんなことでは驚かないっていうけど、やっぱり、チアキちゃんも船上育ちなの。」

「そうよ。船を下りたのは、海森星の白鳳女学院に行くようになってからよ。」

「そうかあ、咄嗟(とっさ)の反応でこんなに違うのかあ。よく覚えとこう。

 チアキちゃん、すごいね。」

「だから、『ちゃん』じゃないってば・・・。

 王宮へ行ってもその調子で呼ばないでね。もう・・・。」

「あ、チアキちゃん、見て見て!」

 茉莉香は光の差す方向を指さした。

「だから、『ちゃん』じゃないってば・・・・。!? 

 ああ・・・」

 

 二人の前には、第二クリスタル・パレスの輝く威容があった。

 点滅する七色の光に包まれた中央の球体の周りにドーナツ型のリングが二重に取り巻いていた。中央の球体部の頂上では、ドーム型の開閉式外壁が開かれつつあった。その中から、まばゆい光に包まれた透明のドームが現れた。ドームの中には、青い塔を持つ建物を中心として、外壁に囲まれた古代都市風の街なみがあった。

 

「うわー、大きいね。中央のドームに街がひとつ入ってるんだ。」

「輝いてる。きれい。」

「街の中心にある建物が王宮だろうねえ。」

「さあ、ここが銀河の中心。行きましょう。」

 

 二人を乗せたシャトルは、少しの間、第二クリスタルパレスの周りを回って、そのあと、再び、上下反転して、港湾区画に入っていった。

 

 二人は、出迎えのコミューターに乗って港湾区画を出て、さらに船内のエレベーターに乗った。

「さっきまでに下に降りてたけど、いま上に登っている感じだね。分かってはいるけど、変な感じというか・・。」

「茉莉香、まだそんなこと言っているの・・・。そろそろ着くわよ。」

 

 エレベーターのドアが開くと、そこには一人の女官が待っていた。

 エレガントなロングドレスを着た女官は、厳しい視線で、一瞬のうちに、二人のミニスカ制服姿を足もとの靴から頭の髪型までチェックしたようだった。

 そして無表情で言った。

「お持ちしておりました。ご案内いたします。」

 

 エレベーターを降りて進むと、そこは王宮だった。

 ユーロ・クラシック風の古代建築のデザインを継承する地上の王宮と同じように、壮麗な装飾が施された高い柱が並び、極めて天井の高い廊下が続いている。

 廊下の床には、赤い絨毯が敷かれていた。

 警備兵が両脇に立っている廊下を、二人は案内の女官に続いて歩いていった。

 

「うわー、チアキちゃん、見て見て。

 宇宙船の中なのに、あんなに天井高い。それに宮殿の中って、こんなに綺麗なんだ。」

「茉莉香、はしゃいで大きな声をださないでよ。

 私たち、田舎者ってことが、まるわかりじゃないの。

 とにかく、静かに歩きなさいよ。」

 

 前を歩く女官が聞き耳を立てているので、肘で茉莉香をつつきながら、チアキは小声で言った。

 

 二人は、案内された部屋に入ると、帝国軍の軍服を着たクリスがいた。

「いよっ。来たね。そこにかけなさい。」

「先生、その制服は帝国軍上級大将・・・」チアキが言った。

「ああ、昨日、第一艦隊司令官に任命された。

 そこで、お前達も正式に副官になってもらおうと思ってなあ。」

「はい。」

「では、早速、任命だ。立ちなさい。」

「はい。」

 二人は立ち上がって、クリスの前に並んだ。

「では、加藤茉莉香、チアキキリハラ、お前達二人を第一艦隊司令官の副官に任命する。」

「はい。」

「はい。」

 二人は、クリスに敬礼した。

 そして、一人の男が近づいてきた。

「こちらが、秘書官だ。お前達にサインしてもらう書類があるそうだ。」

「ご就任おめでとうございます。

 それでは、こちらの書類にサインをお願いします。

 帝国軍人としての宣誓書、雇用契約書、それから・・・・。」

 二人は、文書の中身をまったく読まずに、次々とサインした。

 

「お前たちの任命は、これで終わりだ。次は、軍服に着替えなさい。」

 二人の軍服は帝国軍の通常のデザインのように見えたが、細かなところは違っていた。なにより階級章やボタンに至るまで、全体のバランスがカッコイイ。

 さらに、ウエストのラインが絞られて細くなっており、スタイルが良くみえた。

 もちろん、ミニスカートである。

 これはまったく見たことの無い、新しいデザインの制服だった。

 

 二人は、帝国軍の軍服なのにミニスカは許されるのかと、クリス王女の方をみると、王女の軍服も同じミニスカだった。

 彼女は白凰女学院でミニスカをはいて以来、すっかりハマッてしまったようだ。

 しかも王女は青い薔薇をかたどった宝石のピアスまでつけて、若い女性らしさを強調した装いになっている。

 

 二人の軍人としての階級は、茉莉香は大佐、チアキは中佐であった。

 二人とも、聖王家の王族以外では史上最年少の高級士官であった。

 なにせ、17歳と言えば士官学校の入学前の年齢であり、士官学校を卒業して22歳で少尉に任命されるのが普通だから、過去にそんなに若い高級士官がいるはずもなかった。

 もっとも、茉莉香の場合は、王族と同じように世襲である宇宙海賊船の現役船長であり、その実力も弁天丸と演習をした第七艦隊の評判が高いので、実力主義の帝国軍としては、認める余地もあった。

 しかし、チアキの場合は、海賊船の船長の娘であっても、本人の実力も知られておらず、王女のワガママを丸呑みした女王陛下の強い意向に沿って、やむなく茉莉香と近い階級にしただけであり、「茉莉香のオマケ」、「副官の副官」として、帝国軍としては不本意かつ常識外の人事と思われていた。

 

「それから、お前たちは、今後、副官として私と行動を共にするとともに、見習士官として教育や訓練も受けてもらう。その指導内容については、陛下のご意向により、勅令が出ることになっている。

 私の妹分だから、王族なみの特別扱いだよ。」

「いよいよ、ですね。なんだか、ぞくぞくしますね。」茉莉香が言った。

「ちょっと怖いというか、不安ですね。

 それに、いきなり中佐だなんて、いままでお仕事してきた帝国軍の方に申し訳ないです。」

 チアキが言った。

「あはは。まったくお前たちの反応は、予想どおりだなあ。

 でも、安心しろ。母上、つまり女王陛下の指示で、お前たちの教育・訓練は、王族用のカリキュラムではなく、お前たちの性格とこれまでの経験に合わせて特別に作るそうだ。

 だから、安心して学んでいけば良い。

 さあ、帝国軍の首脳会議に行くぞ。」

 

4-4 帝国軍首脳会議(第二クリスタルパレス内)

 

 クリス王女は、帝国軍の軍服に着替えた二人をひき連れて、廊下を進んでいった。

 すれ違う人々が頭を下げたり敬礼をしたりと、クリスに敬意を払っているが、それでもすこし驚きの表情を浮かべていることは隠せなかった。

 

「そうか、今日の先生、いや、司令官はイメチェンして、きれいだものねえ。みんな驚いているのでしょうねえ。

 おまけに、私たちを連れてきたからねえ。」茉莉香は思った。

 

 歩きながら、次第に軍人ばかりの区域に入ってきたのが分かった。

 三人は、大きい会議室に入った。

 

 その場は、本来、帝国の女王、宰相、帝国軍の参謀本部高官と各艦隊司令官が出席する帝国軍の最高レベルの首脳会議であった。

 しかし、女王陛下と第三艦隊司令官が欠席のまま、会議が始まった。

 そこで、新任の第一艦隊司令官としてクリス王女が紹介された。

 ちょっとした驚きが会議の席を駆け巡り、やがて緊張に変わった。

 

「そうか、ついにクリス王女が出てきたので、みんな驚いたのね。

 クリス王女が第一艦隊司令官として表に出てくるってことは、王位は譲らないという決意の表明、決戦を受けて立つってことね。」

 チアキは思った。

 茉莉香とチアキは、遠く離れた席に座っていただけであったが、王女が女子高校生二人を副官として連れてきたという帝国軍始まって以来の出来事ゆえに、参加者の視線を集めていた。

『あれが、うわさのキャプテン茉莉香か。』

 出席者の目が、そういっているようだった。

「確かに、今日の茉莉香は輝いて見える。王族みたいな、オーラに包まれてる。」

 チアキもそう思った。

 

 こういうときの茉莉香は、大勢の視線を集めても実に悠々と構えており、17歳の少女としての可憐さを備えつつ、17歳とは思えない大物の雰囲気を漂わせていた。

 おかげで、チアキは軍人たちからは注目を集めなかった。

 もっとも、逆に、王宮の侍従や女官たちからは、『チアキさんの方が話しやすそう』と思われていたことが、あとから分かったが・・・・。

 

 首脳会議は、銀河系の主要星系を時空トンネルで結ぶという「ミルキーウエイ計画」の研究開発について進捗状況の報告と、

 その完成時のゲート・ステーションの位置、

 「時空トンネル」の航行ルール、

 通常時のゲートの守備体制のあり方、

 特に帝都防衛の在り方、

 そのための帝国軍の再編成の素案、

 レッドクリスタル非常時の国民避難計画の見直し案

などについて、簡単な説明があった。

 これに対して、

 有人船は遭難時の自力航行能力が必要なため、超光速機関をもつ船しか通行を認めないが、

 無人の貨物船は超光速機関を持たない船も通行を認めるという

「時空トンネル」の航行ルールについて、疑問や慎重論が出て、議論になった。

 

「安全保障上危険であり、時期早尚ではないか」と慎重派が言えば、

「いや、超光速機関を持たない無人貨物船の通行を認めないと、ミルキーウエイ計画の経済上のメリットが最大限に発揮されない。これは、経済界が強く望むところだ。」

と賛成派は言う。

 意見は堂々巡りだった。

 

『無人貨物船の通行が、安全保障上の理由でどうして議論になるんだろう。

 貨物船に武器を隠して運ぶ、テロ行為の実行犯が隠れて侵入する、どれも今の帝国軍にとってはたいした脅威ではないはず。・・・』

 チアキにも、理由が分からなかった。

 

 このほか、各星系の軍事情勢に配慮したゲートの場所等について、いくつかの意見が述べられ、更に検討することになった。

 

 席上、代理出席者であった第三艦隊の副司令官から発言があった。

「例の宇宙マフィアの件は、どうなっているのでしょうか。

 討伐艦隊を派遣するならば、ミルキーウエイ計画がスタートする前に決着をつけておく必要があると存じます。」

「その件は、大丈夫だ。手は打ってある。」

 とクリス王女が自信満々で答えた。

 他の参加者は、じっと二人のやりとりを聞いていただけだった。

 

『なぜ、ここで宇宙マフィアの話が出るのかなあ。

 まだまだ、私たちの知らない裏事情があるんだねえ。』

 と、茉莉香は思った。

 

 結局、軍の首脳会議は、予定時間を大幅に超過しても結論が出ず、引き続いて議論することとなって、終わった。

 

 帰り道の廊下を歩いているときに、クリス王女が言った。

「二人とも、今の軍首脳会議の話は、分かったかい?」

「いいえ。宇宙マフィアの話とか、超光速機関を持たない無人貨物船の話とか、なぜ問題なのか、分かりませんでした。」

 茉莉香が言った。

「そうか、少し事情を話しておこうか。私の部屋へ来なさい。」

 クリス王女は、自分の部屋に二人を案内した。

 

 

4-5 クリスティア王女の部屋(第二クリスタルパレス内)

 

 王女の部屋に入ってみると、その質素というより粗末な、ただの事務室のような部屋の様子に、二人は驚いて、目を見合わせた。

 

「ハハハ、驚いているのか。

 だろうなあ。銀河帝国の王女の部屋だから、さぞや、黄金の装飾や絵画など豪華なモノで溢れていると思っていたのであろう・・・。」

「・・・・ナハハハ。まあ、そうですねえ・・・。」

 茉莉香は、苦笑いした。

「確かに、これじゃあ、ヨット部の部室の方が、よっぽど贅沢な部屋に見えますね。」

 チアキも言った。

「だから、言ったであろう。私はツッパリ王女だったと。

 ここはもともと、王女の侍女が使う部屋だったんだ。

 王女用の本来の部屋は、この壁の向こうだ。そこにお前達が想像するような部屋がある。

 でも、私はそんな部屋は使いたくないと言って、ここを使っていたんだ。

 今でも、この部屋の方が気分が落ち着くんだ。」

「はあ・・・。」茉莉香とチアキはため息をついた。

「・・・そうだ、おーい、紅茶を三つ入れてくれ。」

 遠くで、答える声がした。

 

「この部屋なら、ゆっくり話せるな。

 それで、先ほどのお前達の疑問の話だが、宇宙マフィアと時空トンネルとの関わりから話そう。

 実は、時空トンネル航法を最初に成功させたのは、宇宙マフィアなのだ。

 理論を確立して、試作機を飛ばすことに成功したのだ。

 だが、彼らでは実用化に耐えるエンジンが製造出来なかった。強力な高出力転換炉は、製作費用が莫大で製造技術も高度であるだけでなく、部品一つから軍事機密として厳重に管理されているから、宇宙マフィアでは製造できなかったからだ。

 そこで、彼らは、中古の普通の転換炉を改造して1、2回使えば、エンジンが焼き切れて、壊れてしまうという「使い捨ての船」を作るのことにしたのだ。

 さらに、彼らは、資金回収のために、その技術をステープル重工業に売ったのだ。

 その金で彼らは惑星開発用の中古の資材、設備、武器などを目立たないように大量に買いつけて、何処かに運んでいったそうだ。

 時空トンネルを使ってその貨物を運んだので、当時の帝国軍でも行き先を探知できなかったそうだ。

 その資材や設備を使って、銀河の辺境星域に彼らの本拠地が作られているのは間違いないだろう。

 しかし、いまだにその位置は帝国にも分からない。

 宇宙マフィアがやって見せたように、時空トンネルを使えば、銀河の辺境まで大量の物資輸送が、迅速かつ安全にできる。

 ミルキーウエイ計画が進めば、宇宙の貿易や辺境開発はすすむだろう。」

「これじゃあ、宇宙海賊に物資の輸送を頼む会社は、なくなりますね。

 弁天丸の商売はどうなるんでしょうかねえ。」

「そうだな。海賊商売も変わらざるを得ないだろう。

 では、次は、安全保障上の問題だ。

 もちろん、時空トンネルを使うと、帝国軍の機動力は圧倒的なものになる。

 帝国宇宙軍は、銀河のどこにでも、一日以内に大艦隊を派遣できる機動力を持つことになるからな。」

「まさに、無敵艦隊ですね。」茉莉香が言った。

 

「そうだな。

 では、超光速機関を持たない無人貨物船の問題はわかるかな」

「貨物船自体に伏兵が紛れて進入するとしても、帝国軍の圧倒的兵力ではたいした問題では無いでしょう。

 時空トンネルを民間経済活動に開放することは問題がないように思いますが。」

 キアキが言った。

「そう。それ自体には、問題は無い。

 問題なのは、わざわざ宇宙船に積まなくとも、鉱物資源を自然天体の形でも、そのまま運べるという、時空トンネルの便利すぎる機能にある。

 このような自然天体をそのまま運べる機能を軍事利用すると、どういう使い方があるか、わかるかな。」

「あ、そうか。小惑星自体を砲弾にして飛ばしちゃえば、いいんですね。

 バーンと大砲みたいに。」茉莉香が言った。

「バーンなんて、簡単そうに言わないでよ。茉莉香!

 王女様、これって、恐ろしい兵器になりますよね。

 歴史で習ったユスティアン大王のマンチュリア戦役のような戦い方が簡単に出来ますね。

 比較的大きな小惑星が、可住惑星近傍にいきなり出現して超高速で飛んできたら、大艦隊がビーム砲を集中しても簡単に砕くことは出来ないでしょう。

 可住惑星を直撃して大惨事を起こす恐れもありますよね。」

 大惨事の姿を想像して顔を曇らせた、チアキが言った。

 

「そのとおり。さすがチアキだな。

 このような攻撃を物理的に防ぐ有効な手段は今のところ無い。

 現状では、帝国の星がそのような攻撃を受けたら、必ず相手の星にも報復するという、戦術的な抑止力しか頼る方法がない。」

「それで、マフィアの討伐艦隊の話が出たんですね。」

「表向きはそうだが、あの発言には裏がある。

 実は、アンドレア公爵と宇宙マフィアとは裏で繋がっている。彼のための非合法活動は、すべて宇宙マフィアが実行していると言われている。

 それを表向きに否定するために、ああいう発言をしているんだ。」

「ひどい話ですね。」

「そうだな。宇宙マフィアも、いずれ彼に裏切られ粛正されると分かっていても、彼の味方をしているのだろうから、悲惨な話だな。」

「では、サーシャが怒っていた『超兵器』って、これのことだったんですね。」

「そうだ。重力制御推進の船は、使い方によっては、星を砕いて大量殺戮を行う超兵器になる。」

 

「でも、サーシャって、この問題とどう関わっているんですか。

 もちろんお父さんの会社が開発した船だってことは分かりましたが、話の雰囲気は、秘密というか、なにか、もっと深い関わりがありそうでしたよねえ。」

「サーシャは、グランドクロスの操縦シミュレータも使ったことがあるようだったし、重力制御の船の開発にも関わっていたような雰囲気だったわね。」

「サーシャは、まだ、どんな秘密を抱えているんでしょうか。」

「それは、私からは言わない方が良いだろう。

 サーシャは、お前たちの大切な友達だろう。サーシャが堅く守っている秘密なのだから、それを自分で話す気になるまで、見守っていてあげなさい。」

「そうですね。サーシャは大切な友達ですからね。わかりました。」

 二人は答えた。

 

「それで、王女様が第一艦隊の司令官に就任されたということは、決戦の準備が整ったということですか。」

「お前達は、宇宙マフィアの艦隊が、オデットⅡ世号を襲って来たことを覚えているであろう。その時から、実際の戦いは始まっている。

 すでに、アンドレア公側からは、期限付きで王位継承に関する回答を寄こせと行ってきている。回答の期限は三日後だ。

 三日あれば、第三艦隊がレッドクリスタル星系付近に到達できるので、その時間を稼いだつもりだろう。

 宇宙マフィアの全艦隊も、集結するのではないかな。」

「ええー!三日後に開戦ですか・・・・。」

「もしかして、私掠船免状の海賊達もそのために呼んだのですか。」

「例の手打ち式の日程を決めるときに、予め、そこまで考えていた訳ではない。

 しかし、運命というか、日程が一緒になってしまったな。」

 

 


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