宇宙海賊キャプテン茉莉香 -銀河帝国編- 作:gonzakato
5 披露宴2 適齢期
その後も海賊たちの競技とその勝敗に対する賭けは続いた。それぞれに盛り上がり、宴会場は大いに沸いている。
そんな騒ぎと全く無関係に、ひな壇の席に並んで坐る新郎と新婦は楽しそうに言葉を交わしていた。
茉莉香は、そんな新郎と新婦の様子をぼんやりと眺め、最近の出来事を振り返っていた。
「結婚かぁ。う~~~ん。」
「どうしたの? 茉莉香。ため息なんかついて・・・。」
チアキが声をかけた。
「あのねえ。結婚するって、あんなに楽しそうなことなのかなあ。」
茉莉香は、そう言いながら、新郎新婦の方を目で示した。
「そうねえ。私も結婚が楽しいかと聞かれると分からないけど、彼女は間違いなく楽しそうだねえ。」
「う~ん。年齢の問題もあるのかなぁ。
私たち今年やっと19歳になるでしょう。
結婚適齢期というのがあって、その年になると自然とそう思えるのかなぁ。
だから、私たちには、まだ早いのかなぁ。」
「それとこれとは関係ないでしょう。ねえ、グリューエル。」
「そうですね。でも、茉莉香さんも、そのうちおわかりになりますよ。ご安心を。」
「そうかなあ~。
そう言えば、チアキちゃん。新婦のリディアさんって、いったい何歳なんだっけ?」
「それは、茉莉香、あのねえ・・・・」
チアキが言葉を濁したときに、何かがチアキの顔に向かって飛んできた。
咄嗟に身をひるがえし、チアキは飛んできた白く丸いものをよけた。
そのため、何も気付かずにいたグリューエルの顔に、その白く丸いものが命中した。
「キャー。なんですの、これ!?」
それは、クリームパイだった。海賊のパーティで最後に投げ合うお約束の小道具である。
「やったわね。」
少し怒ったチアキは、タイミングよくテーブルに運ばれてきたクリームパイを力いっぱい投げ返した。
茉莉香とグリューエルが驚いて、チアキが投げた方向を見ると、新婦のリディアがこちらを睨んでいた。どうやらクリームパイを投げたのは、彼女のようだった。
もちろん、彼女はさっと身をひるがえして席を離れ、チアキの投げ返した白いクリームパイの皿をよけた。そして投げられたパイはそのまま飛んで、新郎のキースに命中した。彼は避けずに当たることを選んだようだった。
「逃げるな! 待て!」
チアキは、そう言ってリディアを追いかけた。
「フン。私が逃げるものかぁ。」
そう言いながら、リディアは手近なテーブルにあったクリームパイを奪い取って、チアキに投げ返した。
もちろん、チアキもさっと身をひるがえして、リディアの投げた白いクリームパイの皿をよけた。そして投げられたパイはそのまま飛んで、近くのテーブルに座っていた海賊船の船長の顔に命中した。彼も、避けずに当たることを選んだようだった。
「私に反撃しようなんて・・・。思い知るといいわ。」
そう言いながら、チアキも手近なテーブルに走り寄ってクリームパイを取って、走り回るリディアを狙って投げ返した。
二人は、テーブルの間を追いつ追われつ、走り回り、お互いにパイを投げ合っていた。
これを見た宴会の出席者たちはどうしていいか分からず、凍りついていた。
「ええ!? 投げ合っているのは、新婦と姫様じゃないか。」
「しかも、二人は本気でケンカしているよ !」
「おい、誰か、あのケンカの仲裁に行けよ・・・。」
「仲裁と言っても事情が分からないよ。」
「ケンカの原因は何だよ?」
「女のケンカというと、フツー、原因はオトコだよなぁ。」
「それなら、恐ろしいなあ、新婦と姫は三角関係だったのかぁ。」
「オンナのケンカに口を挟むなんて・・・俺はまだ死にたくないよ。」
「そうだよ。そんな恐ろしいこと出来るわけがない・・・。」
海賊たちがそんなことを小声で話し合っているうちにも、二人の投げたパイは、流れ弾となって、テーブルで凍り付いている彼らに次々に命中していった。
もちろん、彼らは、お約束のパイ投げ合戦を始めるような気分にならず、予想外の展開に戸惑っていた。
「ねえ、ねえ~~。
チアキちゃんも、リディアさんも、やめてよ。やめて!
今日は、お祝いの宴会でしょう・・・。」
そこへ、茉莉香がケンカを止めようと、二人の間に割って入った。
「ケンカは、白黒つくまでヤルものじゃないでしょ・・・。
ここは、お互いに反省し合って、穏やかに握手して・・・手打ちというかぁ・・・。」
茉莉香は何とかこの場を納めようとした。
茉莉香も最初は驚いていたが、『これじゃあ、イケナイ』と思って動き出したのだ。
ところが、二人の反応は、茉莉香の予想外だった。
「何、言ってるんだ。誰のせいでケンカになったと思ってるんだ。」
新婦リディアがこう言うと、
「そうよ。茉莉香。あなたのせいよ。」
チアキもそう言って、応じた。
「ええ~! ケンカの原因は、キャプテン茉莉香かぁ。」
「ということは、三人で、男を取り合ったのか?」
「それじゃあ、キャプテン茉莉香も、カワイイ顔してるけど、ヤルことはヤルんだなあ。」
三人の話を聞いていた海賊たちの間に誤解が広がっていく・・・。
「ええ! 私が原因なの? どうして?」
茉莉香が怪訝そうにチアキに聞いた。
「ええ!? あなた、わかってないの!?
原因は、茉莉香が私に花嫁の歳(とし)を聞いたからよ。」
チアキが呆れて答えた。
「あれは、私、自分の『結婚適齢期』って何歳だろうと考えていて・・・・。」
そう言いながら、茉莉香も気が付いた。
女性の歳を聞くのはマナー違反だが、特に長命種の『若い女性』の歳を聞くのは、タブーであることを・・・・・。そして、茉莉香は、自分の『結婚適齢期』についての考えごとに集中するあまり、うっかりやってしまったのだ。
しかも、茉莉香たちの席は、最も上席つまり新郎新婦の目の前だった。だからその会話が新婦に聞こえてしまったのだ。
「う~~~ん。ゴメン。本当にごめんなさい。
だから、さあ・・・。
だからといって、あんなに派手にケンカすることないじゃないの。
もうやめてよ。」
茉莉香が言った。
「何、言っているんだ。
私が悪い訳じゃないのに、なぜ始めたケンカを途中でやめなきゃいけないんだ。
だいたい、私は、『お互い悪かった。』と両者反省してケンカを止めるような、『キレイゴト』なんか、ダイキライだ。」
「そうよ。私も売られたケンカを買った以上、勝つまでやるわよ。
なんで、私が負けなきゃイケナイのよ。
まあ、リディアが、『私が悪かった』と謝るなら許してもいいけど・・・・。」
「なんだと・・・。さっきも言ったが、私が悪い訳じゃない!」
リディアとチアキが口をそろえて言った。二人とも負けず嫌いで、まだまだやる気のようだ。
「ええ~・・・ゴメン、とにかくゴメン。ケンカをやめてよ。」
「・・・・・・」
二人は沈黙した。不満なのは明らかだった。
「ふ~~~~うん。」
その時、茉莉香は二人を交互に眺めて、顎(あご)に手を当てて言った。
「こうして見るとさあ・・・、
二人は結構、気が合うんじゃないかなあ。いいお友達になれるよ。
だって、二人の息がぴったり合っているよねぇ。」
「・・・・・・」
二人の間に、一瞬、沈黙が支配し、二人は顔を見合わせた。
しかし、次の瞬間、二人は互いに顔をそむけ、そして茉莉香に向かって言った。
「何、言ってるんだ! 悪いのは、加藤茉莉香だ!」
「そうよ。話を逸(そ)らさないでよ。
悪いのは、茉莉香よ。」
「ええ~~い。くらえ! 加藤茉莉香~~~ぁ!」
そう言ってリディアが茉莉香にパイを投げつけた。
チアキも負けずに投げつけた。
「あわあ~~。」
茉莉香は、あわてて逃げたが逃げ切れず、二人の投げたパイが当たり、船長服を汚してしまった。
「ひど~~い。
チアキちゃん、リディアさん。ヒドイよ。
このパイ投げは女性にぶつけないのが、お約束でしょう~~~。」
「知らないわよ、そんな『お約束』。」
「そうだ。とにかく、お前が悪い~~~!」
この時、それまで黙って三人のやり取りを聞いていた海賊のオヤジたちが、一斉に立ち上がった。
「そうだ! キャプテン茉莉香が悪い!」
海賊のオヤジたちは、いっせいに茉莉香めがけてパイを投げ始めた。
「ええ!? え、え、え~~!?」
茉莉香は驚いて、逃げ回った。
もともと、海賊のオヤジたちの狙いは正確でなかった。彼らはとにかくバカ騒ぎを始めればよかったからだ・・・。
「ひど~~い! 船長さんたち、ホントにひどいよ。」
「何を言うか! キャプテン茉莉香が悪い!」
「そうだ!」
たちまち、宴会場は、いたるところでパイ投げ合戦が始まり、めちゃくちゃになった。
もちろん、茉莉香はこのバカ騒ぎの中心にいる。
「も~~~!
みなさん、私、怒りましたよ。」
怒っているのか、困っているのか、楽しんでいるのか、どこか楽しそうな茉莉香の声に、海賊たちが一斉に反応した。
「上等だ。
ならば、どうだ、一騎打ちと行こうか、キャプテン茉莉香。」
銀河のサジタリウス腕をナワバリにしている、ブラックフラッグ号のブラン船長がそう名乗り出て、茉莉香と向き合った。
「お相手するわよ。
私、申し込まれたお仕事や海賊の決闘は断らないのがモットーですから。
ナハハハ・・・・。
それに、これでも、私、小さいころから、ドッジボールや雪合戦は負け無しよ。」
そう、茉莉香が言って、二人は向き合った。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
二人は互いに相手の動作を窺(うかが)っている。
そして先に、茉莉香がパイを投げる動作をした。
「ほほう~。それは頼もしい。」
茉莉香の動作を見ながら、ブラン船長は、余裕の表情で茉莉香の投げたパイをかわそうと左に動いた。
「かかったわ。」
そう言いながら、茉莉香は、そのままの動作でパイを投げず、わずかにタイミングを遅らせて、ブラン船長のかわす動作が行く先に素早くパイを投げつけた。
「うわ~~。 しまった。 『先の先』を読まれたか。」
ブラン船長は更に素早く方向転換が出来ず、茉莉香の投げたパイをまともに胸にぶつけてしまった。
「フフフ・・・・。フェイントって言葉をご存じかしら。」
茉莉香がそう言って微笑んだ。
「アハハハ・・・・。ブラン。お前の負けだ・・・・。」
二人の対決を見守っていた海賊たちは大笑いした。
海賊通しの一騎打ちは、まだまだ続いた。
茉莉香が次々と一騎打ちの相手を倒し、海賊たちのハデな負けっぷりに宴会場は爆笑に次ぐ爆笑に包まれた。
こういうバカ騒ぎが始まると、茉莉香以外の女性たちは宴会場を抜け出して行った。
そして、パーティは事実上、お開きになった。
6 御役目
パーティのあと、チアキとリディアは宴会場の隣の「続きの間」に移った。
「姫様、そろそろ、陛下から命じられた御役目を・・・。」
副官のスカーレットがチアキに促した。
しかし、チアキはそれに答えず、リディアを見て言った。
「あなたもなかなかヤルわね。面白かったわよ。」
「お誉めにあずかって、光栄でございます。」
リディアも敬語を使いながら、チアキの言葉に答えた。
「では、握手と行きましょうか?」
「承知いたしました。」
二人は仲直りの握手をしようとするのだが、なぜか、二人の言葉には緊張感が漂っていた。
二人は、言葉通りに、右手でしっかりと握手をした。
しかし、二人は握った手を離さず、お互いの手に力を込めて相手の手を握っていた。
「むむ・・・・。」
「これは・・・・」
次の瞬間、チアキとリディアは、左手に隠し持っていたクリームパイを相手の顔に押し付けた。つまり、力強い握手は、パイを押し付ける相手を逃がさないためだった。
「やるわね。同じことを考えていたのね。」
顔をクリームまみれにしながら、チアキが言った。
「恐れ入ります。」
同じように顔をクリームまみれにしたリディアも、言葉だけは敬語を使っているものの、チアキに負けていなかった。
「姫様・・・・お役目を。」
スカーレットがタオルをチアキに渡して、再度促した。
そこへ、新郎のキースがリディアに近づいてタオルを渡し、そして二人はチアキの前で片手片足を床につけ、跪(ひざまず)いた。
「では、よろしいですか。始めますよ。」
チアキが言った。
「はい。」
「はい。」
新郎のキースと新婦のリディアが神妙な声で返事をした。
「キース・グラント。
海賊女王の名において、あなたを帝国海賊のキャプテンに任命します。
その証(あかし)として、ここに黄金の髑髏とマントを授けます。」
チアキがそう言うと、スカーレットが黄金の髑髏とマントをリディアに手渡し、受け取ったリディアはキースの肩に髑髏をつけ、マントを羽織らせた。
そして、リディアは、キースの晴れ姿を、嬉しそうに見つめていた。
「おめでとう。」
チアキが言った。
「ありがとうございます。
私、キース・グラントは、陛下に永遠の忠誠をお誓い申し上げます。」
キースが女王の名代であるチアキに対して、宣誓の言葉を述べた。
「身に余る光栄でございます。
殿下におかれましても、このような辺境の地にわざわざお越しいただき、御礼申し上げます。
お帰りになりましたら、どうか、陛下に私どもの感謝の言葉をお伝えください。」
母親のマイラ・グラントも現れ、チアキにお礼を言った。
そしてこの日、チアキは、リディアという「女海賊の友情」で結ばれた友人を得た。
7 出航
「もう~。『海賊の巣探検隊』は、まだ、帰ってこないの~。
出航まで、あと2時間というのに・・・・・。
まあ、女の子ばかりで出かけたといっても、ルカが隊長として率いているから、遅くなっても安心だけど・・・。」
茉莉香は、すこし苛立っていた。
「ねえ、ダーリン。そのカードは何? 何かの会員証?
本当に嬉しそうだねえ・・・。」
操縦席のウルスラが、隣の機関士席に座る婚約者・ブラウン中尉が嬉しそうに眺めている金色のカードについて聞いた。カードには黄金の髑髏マークがついている。
「これは、海賊の巣博物館の『友の会』の会員カードです。
この存在は噂には聞いていましたが、海賊でないと会員になれないので諦めていました。
でも、いまは宇宙海賊船・弁天丸のクルーだから「立派な海賊」だと加藤船長の口利きで、会員にしてもらいました。感激です。」
「どうして、それが、そんなにうれしいの?」
彼が喜ぶ訳が分からないウルスラが聞いた。
「時空トンネルに関する研究のヒントをさがすためですよ。これがあると、博物館のデータベースにアクセスできるんです。
博物館には、マッド・サイエンティストとして世の中から排除された研究者の書いた論文から、超高速跳躍に失敗して遭難した海賊船の航海記録まで、宇宙大学にもない貴重な資料がたくさんありますからね。
ウルスラさんも御存じのレイ・レオニーニ氏は、この海賊の巣博物館と宇宙大学図書館の両方の資料からヒントを探して、時空トンネルの原理を開発したそうです。
なかでも彼が最も苦労したのは、時空の同時性をどうやって確保するかという問題です。同時性が確保できないと、時空トンネルで目的地に到達しても、何百万年も前の時代とか、その逆に未来とか、とんでもない時空に放り出されてしまう恐れがありますからね。
この問題について、それまでの研究では・・・・」
ブラウン中尉の話は止まらなかった・・・・。
やがて、ふと、話を止めた彼が、自分の話を笑顔で聞いていたウルスラに言った。
「私の話、分かりますか、ウルスラさん?」
「ぜんぜん。」
ウルスラは首を横に振った。
「ええ!? それじゃあ、なぜそんなに嬉しそうな顔をしているんですかぁ?」
「決まってるじゃないの!
そんな難しいことを一生懸命に考えているダーリンって、『立派な人だなぁ』って思ってダーリンの顔を眺めていたんだよ。
私、ダーリンのこと、尊敬しているんだよ、ほんとだよ。」
ウルスラが嬉しそうに言った。
ウルスラに大真面目でそう言われて、ブラウン中尉は顔を真っ赤にしていた。
「うあ~」
「あ、あ、あ~~」
その時、弁天丸のブリッジのあちこちから、声が上がった。
「ウフフ・・・、ウルスラさん、ごちそうさまです。」
同じく、話を聞いていたグリューエルが言った。
ウルスラは、宇宙物理学の最先端の研究をまったく理解できなかった。でも、彼女は『古代哲学者の妻』ではなかった。
ちなみに『古代哲学者の妻』とは、夫である哲学者の考えていること(哲学)に全く無関心で、むしろ『哲学』などというお金儲けとは全く無縁のことに熱中する夫を『役立たずの怠け者』と思っているような女性のことをいう。
ウルスラはとても素直な性格で、彼のことを尊敬していた。
こういう姿を見ると、二人はお似合いだった。
やがて、『探検隊』が帰ってきた。
「面白いところが、見られたねえ・・・。」
「あんな大人のお店なんて、私たち素人が出入りできるところじゃないものねえ。」
「それに、『大人のお店』の最深部、ヒミツの奥の小部屋まで、覗(のぞ)かせてもらったよぉ~~~!」
「それもこれも、ルカ先輩のお蔭です。ありがとうございました。」
女性隊員たちはまだ興奮が収まらない様子で、ルカに礼を言った。
「ありがとう。でも、奥の小部屋まで覗けたのは、今日もお店が休業だったからよ。
休業の原因を作った姫様にも、感謝しないとね。」
ルカが言った。
「うふふ・・・・。」
グリューエルが笑っていた。
「仕方ないでしょ。
ホテルの支配人が、『海賊の巣中の酒を全部飲み干すためには、酒代が足りなくなった』と、お金を取りに来たからよ。」
チアキが言った。
「いやあ~。チアキちゃんが挑発したからだよ。
『全部飲み干すと言うなら金は払うけど、飲み干す前に酔いつぶれたら、海賊たちの自腹だぞ。』って言うんだもの・・・・。」
茉莉香が、笑いながら言った。
「そうねえ。みんな意地になって飲んだようね。
おかげで、みんな今日は二日酔い。お店は休業になったわ。」
ルカが言った。
「でも~。そのせいで、海賊船の医師団は、昨夜は全員、徹夜だったんですよ。
急性アルコール中毒の患者さんとか、酔ってケンカしたり転んだりしてけがをした人とか、次々と海賊の巣病院に運びこまれてきたので、海賊船の医師や看護師が全員応援に行くことになって・・・。
それで、なんとか、患者さん全員の応急処置が済んだら、夜が明けていましたよ。」
まだ看護師の資格は無いものの、看護師の代わりに医師の治療を助けて、てきぱきと動き回ったリリイが言った。リリイは、ミーサ先生による『修行』のおかげで、早くも、救急医療の厳しい現場で動き回る度胸を身に着けていた。
もちろん、リリイが結婚式や披露宴に出席せずに居残り当直の役目を選んだのは、その方がトム医師の身近に居られるからだった。
「それにしても、ルカ先輩は、あのお店の女将(おかみ)さんにずいぶんと、気に入られていましたね。」
「まあね~。海賊の巣に立ち寄ると、決まって声をかけてくるわよ、彼女。
『おまえさんなら、店を譲る』とか、
『若女将(わかおかみ)にならないか。』ってね。」
「ハイ、ハイ。全員揃ったところで、話はそのくらいよ。
そろそろ弁天丸に出航の順番が回ってくるわよ。
総員、配置について。出航、準備。」
「はい。」
茉莉香が掛け声をかけると、みんな持ち場に戻って行った。
弁天丸Ⅱが、海賊の巣を出航する準備をしている間に、宇宙海賊船愛の女王号が出向して言った。
こちらの船は、新郎キースと新婦リディアも乗船しており、大勢の人々の見送りを受けていた。二人の新婚旅行も兼ねて、お客を大勢乗せてリゾート惑星を回るクルーズに行くという。
見送りの海賊たちの間では、昨夜の宴会の話題で持ちきりだった。
「これでとうとう、オテンバ・リディアも結婚かぁ。」
「ああ、そうだなぁ、母親のマイラのヤツも喜んでいたよなあ。」
「結婚となると、リディアも急に女らしくなったなあ。オテンバも卒業かぁ。」
「それにくらべて、アイツのオテンバぶりは、相当なもんだなぁ。」
「ああ、面白かったよ。新しいオテンバ海賊の誕生だ。」
「そうだなあ。アイツは、パイ投げも本気で参加していたものなあ。」
「やっぱり、アイツは何をやらせても華(はな)があるよ、なあ。」
「そうそう、人の目を引き付ける魅力があるって、いうか・・・。
アイツの出演する海賊ショーが大人気だという理由が良くわかったよ。」
「でも、色気がないのが、残念だがなあ・・・。」
「ハハハ・・・。あの調子じゃ、そりゃまだ、当分無理だなあ。」
「それに、アイツには、パイをぶつけても良いと姫様も言っていたし・・・。」
「これで、もう、アイツは、俺たちの仲間だ。」
「そうだな。もう一人前の海賊だ。
そう言えば、来月は、銀河系のサジタリウス腕をナワバリにしているグーフィー船長の息子の結婚式だろう。」
「よ~し。面白いから、アイツも来賓で呼べと言っておこう。」
「来るかなあ? アイツはグーフィーとは面識がないんだろう。」
「そこはそれ、手はある。」
「どんな手だい?」
「簡単だよ。海賊ショーの仕事を紹介して、サジタリウス腕に呼べばいいのさ。」
「なるほど。弁天丸は依頼された仕事は断らないがモットーだからなぁ。」
「楽しみだなあ・・・。」
「ハハハ・・・」
こうして披露パーティでの「アイツの活躍」の噂が伝わると、銀河系のあちこちの海賊たちから、様々な海賊のイベントへのご招待の声が、弁天丸船長加藤茉莉香にかかりはじめた。