宇宙海賊キャプテン茉莉香 -銀河帝国編-   作:gonzakato

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茉莉香、チアキのその後の物語を少しだけ追加します。

 今回はその一回目です。
 少し短めですが、取りあえず、書けたところで投稿させて頂きます。


エピローグ1 銀河聖王家の伝説

1 帝国軍演習宙域 (銀河系、核恒星系180-10-21星系)

 

 チアキの乗ったローズアロー2号は、今、180-10-21星系を飛んでいる。

 この180-10-21星系は、帝国軍の演習宙域である。

 しかし、単に番号で呼ばれている事実が示すように、核恒星系にあっても、この周辺星域は、これまでほとんど開発の手が及ばず、辺境扱いされているところだった。

 その理由は、銀河系の開発はレッドクリスタル星系のある半円部分に集中しているためである。これに対して、この星系は銀河の中心核を挟んで、帝都のあるレッドクリスタル星系から角度で180度の位置、つまり正反対の位置にあった。

 ここは、もっとも開発から取り残された宇宙であった。

 

「それにしても、寂しいところねえ。

 このあたりは、半径一万光年、人類の住む惑星がないのよねえ。

まるで、海賊が出てきそうな宇宙(うみ)だわ。」

 ブリッジの貴賓席に座ったチアキが、立体スクリーンに映る海図を見ながら、つぶやいた。

「ハハハ・・・。

 姫様。海賊って、誰のことでしょうかねえ。」

 チアキの言葉に、艦長のソフィア・クキが笑った。彼女もその苗字が示すように、帝国海賊クキ家の一族だった。

 

「フフフ・・・・。私たちのことに決まっているじゃないの・・・。」

 チアキも笑った。

 

「間もなく、演習開始時刻になります。」

「まあ、この寂しい演習宙域は、新兵器の秘密テストには最適ですね。

 姫様、ご用意はよろしいですか?」

「もう、スタンバイしているわよ。

 艦長、船の指揮権をこちらに委譲してください。」

 チアキは、すでに艦長席の横に設けられた透明な球体の操縦席に移動し、そこから艦長に返事をした。

 

 銀河聖王家の血を引く者は、コンピューターの認証機能が自動的に反応して、認証をクリアできる。しかも、チアキは、重力制御の新型艦のパイロットとしての能力も備えているので、速やかに自動操縦補助システムを起動できるのだった。

 したがって、たった一人でこの船の大艦隊並みの火力、機動力を制御できるという訳だった。ローズアロー2号は、軍艦としては、グランドクロスⅡの改良型として、最新の重力推進エンジンを搭載し、武装の火力はグランドクロスⅡに匹敵し、しかも新兵器の試作品まで搭載している重武装の船だ。だから、ピンク色で流線型のため『金魚』あるいは『姫様の船』と呼ばれたりする可愛い外観にもかかわらず、正体は『怪物』だった。

 もちろん、これだけの軍事力をたった一人のパイロットの判断に委ねることが認められるのは、チアキが第二王女だからである。

 さらに今回の演習でチアキがパイロットを勤める理由はそれだけではない。

 この実験は危険極まりなく、質量融合爆発が発生する可能性もあるとされていた。だからこそ、第二王女であるチアキが乗船するのだった。聖王家のプライドにかけて、王家の者は常に将兵の先頭に立つ気概を示すためだった。

 

「いつもながら、姫様は、機動が早いですね。

 了解しました。戦闘モードに移行します。

 秒読み、3、2、1、ゴー。」

 

 もちろん、「戦闘モード」とは、戦闘に備えて船の指揮権をチアキに委譲した状態をいう。

 戦闘モード移行後は、チアキの意志に従って、船はジグザグ飛行でもなんでも、自由自在に飛んで戦闘を行うことができる。

 だが、戦闘モード移行後、しばらくは、ブリッジに沈黙と緊張が支配した。

 やがて、航海士が言った。

 

「演習開始時刻です。

 ・・・・・

 時空ナビが、微弱なプレドライブ反応感知。

亜空間から、何かが近づいてきます。

 現段階では、敵味方識別不能ですが・・・。」

「今回は識別不要よ。シナリオ通りに、亜空間の標的船を迎撃する。

 え~と、・・・

 今、亜空間の標的を捕捉したわ。

 さあ、みんな。いくわよ。」

 チアキが言った。

 その言葉と同時に、ブリッジの操縦パネルが一斉に反応を始めた。

 

 ローズアロー2号の船体全体が、七色の光に包まれた。

 やがて光は先端部分に集中し、さらにそこからビーム線のようなものが、プレドライブ反応を示した空間に向けて、何発も放たれた。

 

 それは、帝国軍の新兵器、重力粒子ビーム砲であった。

 今回の実験は、通常空間を飛行中のチアキの船から、亜空間を飛行中の標的となる宇宙船を攻撃するものであった。

 重力の粒子としての性質を利用して、重力シールドをも貫く重力粒子ビーム砲は、すでに開発されている。この兵器は通常空間内で使用することを想定して開発され、先の遠征でも実戦で使用された。

 しかし、帝国軍のエンジニアは、この兵器は亜空間を飛行する船に対しても有効ではないかと考えた。

 なぜなら、重力という力は、宇宙空間を構成する多次元空間の間でも伝わる究極の力とされるからである。それならば、通常空間から亜空間にも重力粒子ビームは伝わるのではないかという訳である。

 今回は、その実証実験を兼ねた演習をおこなうのである。

 

 やがてチアキが言った。

「亜空間の標的に命中したわ。

 私の時空ナビからは、そういう手ごたえがあったわ。」

「ウオー、すごい、すごい・・・・予想どおりだ。

 これで、時空トンネルや亜空間を飛行してくる敵から、星を守ることができるぞ。」

 ブリッジは歓声に包まれた。

 しかし、それも一瞬のことだった。

 

「通常空間に、強いプレドライブ反応。

 強力なエネルギーを持ったものが、亜空間から出てきます。」

 航海士が言った。

「これは、融合爆発だ。

 確認不要。逃げるぞ。

 姫様、タッチ・ダウン予定地点からできるだけ離れてください。

 ここが、爆心になります。」

 艦長がチアキに言った。船の操縦権限は、まだチアキにあるためだった。

「もう、やってるわよ。

 ・・・・・・

 でも、これじゃ、間に合わないかも!

 え~~い。イチかバチかで、シートジャンプよ。

 野郎ども、行くぜ~~。」

「おお~~!」

 思わずチアキの口から発せられた、海賊船の船乗りらしい気合に、クルーが答えた。

 

 ローズアロー2号は、瞬時に、時空トンネルを形成して、亜空間へ超高速跳躍した。

 

「時空トンネル入口、閉鎖を確認。

 融合爆発のトンネル内への侵入は無いようです。」

「ふう・・・、ひと安心ね。さて・・・」

 

 チアキは、船を爆心から数十億キロ離れた地点に、タッチ・ダウンさせようとした。

 

「姫様、この程度の距離では、爆発のエネルギーに対して絶対安全とはいえません。

 この距離では、爆発により発生した放射線は十分拡散していないと予測します。

 ですからここに停泊すると、すぐに大量の放射線、特に中性子線を浴びる危険がありますので・・・。」

 実験担当の技術士官が言った。

「分かったわ。

 でも、タッチ・アンド・ゴーで、いったん通常空間へ復帰して、超光速ジャンプをやり直すわよ。

 大丈夫よ。

 これだけ離れていれば、放射線がタッチ・ダウン地点に届く前に、亜空間へ戻る時間は十分あるわ。」

 

 通常空間に復帰したチアキの船は、すぐさま亜空間へ消えた。

 

 結局、チアキは、タッチ・アンド・ゴーで超光速ジャンプ(跳躍)を4回繰り返した。今の転換炉のパワーでは、タッチ・アンド・ゴーの短いタイミングで、長い距離を飛ぶエネルギーを放出できないとされていたからだ。

 しかし、チアキの効率的な操船で、ジャンプの距離は飛ぶたびに長くなり、合計百光年ほどの距離を飛ぶことができた。

 そして、船と乗員の安全を確認してから、船を慣性航行に移行させ、船の指揮権を艦長に委譲した。 

 

「姫様、危機一髪でしたね。

 それにしても、姫様の操縦は、本当に速いですね。

 通常のクルーによる操縦では、超高速跳躍が間に合わず、融合爆発に巻き込まれていたかもしれませんね。

 姫様のお蔭で、私たちは救われました。」

 艦長のソフィア・クキが、チアキに礼を言った。

「ありがとう。

 咄嗟のことだったけど、私もいい経験になったわ。」

「いやぁ・・・『銀河聖王家の伝説』を、目の前で体験させていただいた気分です。」

 

 艦長の言った『銀河聖王家の伝説』とは、船乗りの間に伝わる伝説である。

 それは、船が絶望的な危機に陥ったときに、乗船している銀河聖王家の者が、警告を発したり、活路を示して導いてくれるという伝説であった。実際に、植民船の航海や軍艦の戦闘などにおいて様々な逸話が伝えられている。

 しかし、現代ではそれらは聖王家を神格化するための『おとぎ話』と考えられていた。

 

「ちょっと、それは大げさよ。」

 チアキが顔を赤くして、言った。

「失礼しました。

 でも、今回の経験で、重力制御推進方式の船に、思考制御型の自動操縦補助をつけて一人で操縦する意味が、私もやっとわかりました。

 こういう事態にも対処できるスピードが必要なのですね。

 自動操縦補助については、これまで、私も含め、船乗りの間では、自分たちの知識、経験を無視していると評判が悪かったんですけどね。」

「そうねえ。

 でも、私としては、一人で出来る自動操縦でも、ベテラン船乗りがそばに居てくれる安心感は欠かせないと思うけどね。」

「ありがとうございます。」

 

「それで、融合爆発の様子は、どう?」

 チアキが、演習担当の航海士に聞いた。

「光学映像では、まだ確認できません。百年後になります。」

「ハハハハ・・・。」

 まだガチガチに緊張している航海士の的外れな答に、ブリッジから笑い声が漏れた。もちろん、他のクルーは、笑う余裕が出てきたのだ。

「クララ、肩の力を抜きなさい。…もう大丈夫よ。」

 

 ソフィア艦長が、若い女性の航海士クララに優しく声をかけた。こういう気遣いが、彼女が『お母さん』と慕われる理由である。

 

「演習空域の観測モニターのデータを収集、分析してちょうだい。

 もちろん超高速通信を使うのよ。

クララ、気分は落ち着いたかしら?」

「はい。艦長。」

「それから、演習視察のために、他の船が来ていたはずだよねえ?

 その船はどうなったのかしら?

 近くにいるなら、その船のデータも欲しいわ。」

 艦長の指示に従って、演習のデータ分析を担当するクルー達が、動き出した。

 

「ねえ。ここは、どの辺かしら。

 でも、なにか、どこかで見たような星空ねえ。」

 ブリッジのモニターに映った光学映像を見ながら、チアキが言った。

「えーっと、時空ナビの示している座標から判断しますと、ここは180-9-21星系です。ここも、核恒星系ではとても辺鄙なところです。

 しかも、この星系の海図は百年前に作られたままですから、信頼できません。もちろん精密な海図を作る必要性も極めて低い辺境空域として放置されています。

 ですから、通常の超高速跳躍ではタッチ・ダウンすべきでない航路回避空域とされているところです。」

 男性の航海士が答えた。

「急いでジャンプしたので、さらに辺境に来てしまったわけね。

 ホント、時空トンネル航法でなければ、こんなところを安全に航海できないわね。

 それで、今、船は、この恒星の惑星公転面にいるのかしら。」

 チアキが聞いた。

「はい。そのようです。

 母星はスペクトルG型。比較的若い星です。

 星系内のハビタブルゾーンにふたつの惑星があるようですね。未調査ですが。」

「でも、ここには初めて来たはずなのに、そう言う気がしないのよねえ。

 ねえ、全天の星空をモニターに映せないかしら・・・。」

「可能ですが、全天スクリーンは姫様の貴賓室のものをお使いになりますか?」

「それでいいわよ。映像を送ってちょうだい。

 艦長、ちょっと星座を眺めて、休憩してきます。」

「承知しました。ごゆっくり、お休みください。」

 艦長が答えた。

 

 チアキは、自分の部屋に入って、全天スクリーンを起動させた。

 チアキは、今でも星空を眺めるのが大好きだ。

 だから、星空を眺めながら、危機一髪のところを乗り切った疲れを癒そうと思ったのだ。

 

 全天の星空をスクリーンに表示させて、これを眺めたチアキがつぶやいた。

 

「うわ~~。

 ここにも、銀河のネックレスがあったのね。

 どうりで、見たことのある星空だと思ったわ。フフフ・・・

 でも、なかなか綺麗な星空よね。気に入ったわ。

 この星の星座には、どんな物語がふさわしいかしら。・・・」

 

 そう言いながら、チアキは居眠りを始めた。

  

 

2 ローズアロー2号貴賓室(レッドクリスタル星系 第二王宮)

 

 チアキの乗ったローズアロー2号は、演習から帰還し、第二王宮の港湾区域に停泊した。第二王宮は、帝都クリスタルスターのあるレッドクリスタル星系の惑星軌道上にある巨大な宇宙ステーションである。

 船が帰還すると、さっそく、クリスティア第一王女が、船を訪れた。

「やあ、チアキ。融合爆発に巻き込まれそうになって、大変だったそうだね。

 でも、元気そうでほっとしたよ。」

「そんな。わざわざお見舞いに来ていただくほどのこともありませんが・・。」

「いやあ、心配したぞ。

 それで、めったに行かない辺境星域は、どんなところだったかい?」

「半径一万光年、人類の住む星がないところでしたよ。

 だから、海賊が出そうなくらい、寂しいところでした。」

「ハハハ・・・。核恒星系にも、そんなところがあるのか。」

「だから、危険な演習にはうってつけの星域です。

 でも、爆発から逃れるためにたどり着いた180-9-21星系は、なかなか美しい星空でしたよ。

 なんといっても、あそこには、銀河のネックレスのような星空があるんです。

 それに、全天にも鮮やかに輝く星々がたくさんあって、星と星を結びつけて星座としてどういう名前をつけるか、星座の物語を考えるだけで面白かったですよ。」

「そうか、面白そうなところだね。

 新弁天丸が動き始めたら、今度、茉莉香に、見に行ってもらおうかなあ。

 ところで、ちょっと二人だけで話があるんだが・・・。」

 クリスティア王女は、そう言って、そばに控える副官のスカーレットを見た。

「席を外しましょうか・・・。」

「いいわ。スカーレットさんはここに居てください。

 お姉さま、よろしかったら、私の寝室で話しましょう。

 あちらは、更にセキュリティが厳重ですから・・・。」

「わかった。」

 

 そう言って、二人はチアキの寝室へ入って行った。

 寝室に入ると、クリスティア王女は部屋の中を見回して言った。

「うわ~~~。寝室の模様替えをしたのかい?

 相変わらず、きれいな寝室だねえ。

 部屋全体の色彩のコーディネイトが、暖色系でとても柔らかくて、エレガントだねえ。

 それに女の子らしい可愛いものも、いっぱいあって・・。

 チアキ、なかなかセンスがいいねえ。」

「いやあ、どうも。お誉めにあずかって・・・。

 それで、お姉さま、ご相談とは・・・。」

 二人は、コーヒーテーブルを挟んで、椅子に座り、話し出した。

 

「話と言っても、私のことだが・・・。」

「はい。なんでしょうか。」

「いやぁ。私のことだが、・・・なあ。

 母上やエカテリーナ様から早く身を固めろとうるさく言われていて、・・・なあ。

そう言う訳でもないのだが、今度、とある名門一家の長男の家を訪問することになって・・・なあ。

 それで、なあ。・・・」

「なんだか、言いにくそうにお話になっていらっしゃいますね。

 嫌なら、お断りになれば良いではないですか。お姉様らしくもない・・・。

 お話だけで、まだお会いになったこともないんでしょう?」

「いや、実は、ジェニーの開いたホームパーティで知り合ってから数回会っている。

 今までは、茉莉香やバレンシアも一緒だったんだが、今度、二人だけでこっそり会おうと言うことになって・・・。」

「フフフ・・・。

 出来るんですか?そんなこと。」

「出来ると思ったのだが・・・。

 一旦、別な場所へ出かけて、警備隊には黙って、そこで変装して抜け出せば・・・。」

「アハハハ・・・。変装して出かけるところで、アウトでしょうね・・・。」

「いや、その前日にバレたよ。

 そもそも、私の日程に、空白の時間があるので怪しまれていたところに、相手の家の警備陣から王宮の警備陣に打合せが申し込まれて・・・・。」

「アハハハ・・・。

 無敵の第一艦隊司令官が自らお立てになった作戦だったのに、失敗ですか・・・。」

「笑うな! 

 それで、やむなく、相手の家に行くことになってなあ・・・。」

「へえ・・。

 二人で自由にデートもできないなんて、相手も本当に立派な家の方ですね。

 お姉さまのお相手は、どなたですか?」

「名前は、アーサーというんだ。

 私にもお前にもかかわりのある家の長男で・・・なあ。

 両親には、私もお前も会ったことがあって・・・」

 

 そこまで言われて、チアキは姉が、どの家のことを言っているのか気が付いた。

『ドリトル家では、ないはず・・・。

 ジェニーの両親やエドワードの両親には、私はまだ会ったことは無いから。・・・。

とすれば、ステープル家だろう。

 海明星のステープル家の屋敷で開かれたダンスパーティの時に、二人はサーシャの両親に挨拶している。もちろん、二人とも王女として会ったわけではないが・・・。

 それに、サーシャの上には、帝都で暮らす二人のお兄様がいると聞いている。』

 もちろん、姉の言い方が、いつもの姉らしくなく、恥ずかしそうにしている理由も気が付いたが、それは言わないことにした。

 

「わかりました。それは、ステープル家でしょう。」

「おまえ、本当に鋭いなぁ。どうしてわかるんだ。」

「だって、あの家には、女子高生憧れの、カッコイイお兄様達がいらっしゃると聞いていましたからからね。

 あのダンスパーティの時に、サーシャのお兄様たちが出席されないのを残念がっていたコたちが大勢いましたよ。」

「そうか。

 やっぱり、白鳳女学園の生徒たちにも評判だったのだなぁ。」

「でも、そんな名家の御曹司に、お姉さまがご興味をもたれるのは不思議ですね。

 聖王家の権力や富を利用しようという男性は、お断りのハズでしょう。」

「そうなんだが、アイツはそういうヤツではない。

 アイツは、家業よりも、孤児院とか福祉事業に興味があるんだ。

 そういうところは、私と話が合うんだ。」

「へえー。どういう訳ですか。」

「サーシャが身元を隠すため孤児として孤児院に潜入していたことは知っているだろう。

 そして、ステープル家の父母は彼女を探すふりをして、多くの孤児院を回ったそうだ。

 彼も、時々、忙しい父の代わりに、母と一緒に孤児院を回ったそうだ。

 そこでの体験が、彼には、とてもショックだったそうだ。

 自分たちが孤児院に入って行くと、子供たちが一斉に注目するそうだ。

 自分の父母兄弟ではないか、自分を向かえに来てくれたのではないか、とね。

 でも、帰る時には、みんな背中を向けて気が付かないふりをしているそうだ。

 その失望を隠した背中を見るのが、とてもつらかったそうだ。」

「なるほど、そういうものなのですか。」

「ああ、私も孤児として育ったし、孤児院で子供たちの世話をしていたから、そういう時の子供たちの気持ちは痛いほど良くわかる。」

「そういう子供の気持ちが分かる人って、ずいぶん優しい人なのですね。」

「そうなんだよ。私には過ぎた人だと思うよ。

 それに、彼は、その時はサーシャの為にと思って我慢していたが、今は家業を弟に譲ってでも、自分は福祉事業をやりたいと思っているんだ。」

「なるほど、お姉さまとの結婚で、長男として家業を継ぐ宿命から飛び出そうと言うのですね。」

「ああ。もちろん、私の代わりにやってくれるという意味もあるがねえ。」

 

「それで、私に何かお話がおありでしょうか。」

「ステープル家との縁談には、母上も乗り気でなぁ。

 ただ、エカテリーナ様から詳しく話を聞いていると、少し疑問に思うところがあってなあ。」

「はあ。どういうことでしょうか。」

「母上も、エカテリーナ様も、サーシャの事情は十分知っている。

 しかし、二人の話を聞いていて、私は気が付いたんだ。

 サーシャの存在が私の縁談の障害になるどころか、むしろ積極的に縁談を進める理由になっているのではないかと。

 母上は、『長男のアーサーがステープル家の福祉事業を継げば、サーシャが自由になるはず。』とまで言うのだ。

 それだけ、二人は彼女のことを大切に考えているようだと。

 しかし、これは変だ、何か秘密があると思わないかい。」

「そうですねえ。

 普通なら、旧宇宙マフィアの大ボスの実の娘なんて、王家としては交際を禁じるのが当然でしょうからねえ。

 まして、養父母の家とはいえ、彼女の家の方との縁談なんて・・・。」

「そうだろう。

 そう思って、この間、母上やエカテリーナ様を問い詰めて、分かったことがある。」

「なんでしょうか、やっぱり・・・。」

「ああ、お前も気が付いているかもしれないが、

 サーシャには、そして、旧宇宙マフィアの大ボスの家系には、銀河聖王家の血が流れている。」

「それも、青薔薇家の血という訳ですか・・・。」

「そうだ。

 お前は、前から知っていたのか?」

「いいえ。

 でも、王宮で暮らしてみて分かったのですが、惑星ライセで見たレオニーニ家の屋敷やその暮らしぶりは、聖王家に似ているような気がしました。

 特に、聖王家の王宮で王族たちだけで開くパーティに参加してみてわかっったのですが、私が以前、惑星ライセで参加した『時間無制限の夕食会』と言う彼らのパーティの作法や言葉づかいなどが、何から何まで、王宮のパーティとそっくり同じだとわかって驚きましたよ。」

「アハハ・・。あのバカバカしいやつか。

 そっくり同じというなら、それを知っているヤツが持ち込んだことは明らかだよなあ。」

「それに、あの家で私が海賊ショーを演じた時に、舞台の前のプール一面に、ものすごい数の青い薔薇の切り花を浮かべてくれたんです。

 とても美しかったですよ。

 それで、ショーのあとでお礼を言いつつ、どこから持ってきたのかと聞くと、あの屋敷には青薔薇だけを育てている薔薇園があり、私のためにそこの薔薇を切って浮かべたというのです。

 そこは、高い塀に囲まれた、六角形のシークレット・ガーデンだそうですよ。」

「六角形・・・王宮の中庭と同じじゃないか。

 チアキ、その庭を見たのか?」

「いいえ。怖くなったので見ませんでした。 

 その話を教えてくれた人たちの目がとても真剣で、なにか強い願いを私に向けているような気がして、今にもそれを言い出しそうな気がして、ちょっと怖くなったんです。

 だから、シークレット・ガーデンを見て、彼らが大切にしている秘密や願いを知ると、あの屋敷に閉じ込められて帰れなくなるとか、想像したもので・・・。

 その時は、気にし過ぎかなと思ったのですが・・・。」

「なるほど。

 レオニーニ家の屋敷には、今も、銀河聖王家や青薔薇家とのかかわりを示すものが堂々と存在するわけだね。

 やっぱり、マリア王女の話は本当だったんだなぁ。」

「マリアというと、まさか、レオニーニ家のグランマご本人じゃないでしょうね。」

「いや、違う。あの人は、その人の娘だそうだ。」

「では、どのマリア様なのでしょうか、青薔薇家のマリアで、その時代の人というと・・・・。」

「私たちの曾御爺(ひいおじい)様の妹だ。

 聖王家の歴史書では、十八歳で事故死したことになっている。」

「へえ~~。

 でも、どういう経緯(いきさつ)で、そうなったのでしょうか。

 私が習った王室の歴史には、そんな王女がいたことは書かれていませんでしたよ。」

「そうだろう。もはや、彼女の存在自体が隠ぺいされているからな。

 私が、母上から聞いた話では・・・・。」

 

 そう言って、クリスティア王女は、女王から聞いたマリア王女の話をチアキに聞かせた。

 

「なるほど。

 それで、お姉さまのお話を聞いて思ったのですが、私たちの父親も、そのマリア様や、レオニーニ家の一族となにか関係があるのでしょうか。」

「チアキもそう思うだろう。

 母上に聞いたが、それは違うと否定された。

 しかし、私の父親については、『その時が来たら話す』というだけで、相変わらず何も話してくれない。」

「でも、お姉さまは、縁談が具体化してきたので、そろそろお父様のことを教えて頂く時期のはずだと、お考えなのでしょう?」

「そうだ。

 だが、母上は『まだ早い』と言っておられる。」

「では、どうなさるつもりなのでしょうかね。」

「私にもわからない。

 でも、母上がそんな調子だから、自分たちで、もっと、レオニーニ家を探ってみる必要がありそうだね。・・・・」

「そうですね。

 私も、今になって思うんですが、父のケンジョーがご先祖のことを話すときは、

『分かっているのは、爺さんが私掠船免状をもらってからのこと。

 それ以前のご先祖は、ただのロクデナシで、どんな星を飛び歩いて、何をして暮らしていたのか、まったくわからない。

 海賊なんだから、そんなものさ。』

 と、いつも言っていました。

 母上のことだって、

『彼女も海賊だから、詳しい身元は分からない。

 今、どこで何をしているかも、わからない。』

 なんて、平然と言っていましたよ。

 ホント、まったく。

 その時は、そう信じ込んでいましたがね・・・。」

「そうだろう。

 でも、母上のことを隠したのは、お前を守るためだったんだろう。

 大事に守られていたのだよ。」

「分かっておりますよ。今は。

 感謝もしておりますよ。」

 チアキは、顔を赤くして答えた。

「それにしても、『海賊だから・・・』と言うのは、ご先祖の正体を隠す良い手段だったのかもしれないなあ。」

「そうですね。」

 


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