宇宙海賊キャプテン茉莉香 -銀河帝国編-   作:gonzakato

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茉莉香は、銀河帝国に恨みを持つテロリスト集団が、茉莉香、チアキとサーシャを狙っているという情報を聞きます。
 そんな話を聞いても、なかなか本気になれなかった茉莉香ですが、突然、二人の転校生がクラスに、そしてヨット部にやってきます。ひとりはチアキと決闘をしたブルック王国の王女、もう一人は正体不明の少女。
 茉莉香は、チアキと王女がまた喧嘩しないかと心配しますが・・・。
 そして、テロリストから、次のような三人に脅迫状が届きます。
 「この星から出ていけ。海明星を戦争に巻き込むな!」
 そして、白凰女学院にテロリストが襲撃してきます。
 それも、いきなり、ヨット部室が襲われます。
 その襲撃を避けるため、ヨット部員は、学院の校舎の地下坑道に逃げ込みます。
 そこは、旧植民地連合軍の司令部跡です。この迷宮のような地下基地跡で、戦いが始まります。
 今回はその前編をお送りします。
 なおマンチュリア人と銀河帝国の歴史は、「補章 恐怖の大王の伝説」(第12話)をご覧下さい。


第十八章 白凰女学院地下迷宮の戦い  その1

18-1 加藤邸(海明星)

 

 目覚まし時計が鳴っている。

「ん? まだ朝5時かぁ。 もうひと眠り・・・・。」

 茉莉香は、また目を閉じた。

 その時、

「うわあああ・・・。寝坊、寝坊。今朝から早起きだったあああ・・。」

 茉莉香は、あわてて寝室から飛び出し、パジャマ姿のままリビングルームに出てきた。

「茉莉香さん、パンが焼けてますよ。」

 茉莉香専属の特別警備隊員であるジェーンが言った。

「いやぁ。ありがとう・・。」

 

 そういうと、さっそく茉莉香は朝食を食べ始めた。

 先日から警備強化のために茉莉香専属の特別警備隊から女性隊員三人が、海明星の加藤邸に泊まり込みで警備にあたっている。その中で一番年配のジェーンが、まるで母親のように茉莉香の身の回りの世話も焼いてくれている。

 そして、今日からは、茉莉香は特別警備隊の専用装甲車に同乗して、早朝にステープル邸に行き、チアキやサーシャと一緒にチアキのリムジン車で通学することになった。チアキの警備に参加するためだ。もちろんチアキの乗るリムジン車は、外見は普通の高級車だが、装甲車と同じくらい頑丈な安全対策が施されているためだ。

このため、中学入学以来続けていた自転車通学はあきらめた。

 

「ピンポーン。」

 誰かがやってきた。

 もちろん、家の外を守る特別警備隊が通行を認めているからベルが押せるのであって、来訪者は帝国軍の関係者であろう。

「はーい。」

 警備隊の隊員がドアフォンに応答している。

「加藤大佐、モーガン秘書官ですが・・・。至急のお話があるそうです。

お通ししますか?」

「わかりました。お通ししてください。」

 茉莉香は答えたが、それを聞いたジェーンの目つきが厳しい。

 それに気づいた茉莉香は、ジェーンの視線の先にある自分になにか問題があるのかと疑問に思いながらも朝食を食べ続け、ギルバート・モーガンが入ってくるのを待っていた。

「失礼します。」

 ギルバートの声が聞こえ、彼が今まさにリビングルームに姿を現わそうと言う時になって、茉莉香はジェーンの「厳しい目つき」の意味が分かった。

『あ! 私、まだパジャマ姿のままだった!』

 

「待って、待って、ギルバートさん。こっち見ないで。

 今、着替えてきますから・・・。」

 顔を赤くした茉莉香は、大きな声を上げてギルバートを制止し、食べかけのパンを口にくわえたまま、リビングルームを飛び出した。

 一方、リビングルームでは、ジェーンが頭を抱えていた。

「ううう・・・。

あの子が実の娘なら、うちの息子たちのように、パジャマ姿でリビン グルームに食事に出てきたところで叱っているんだけど・・・。

 私、甘いのかなぁ・・・。」

 

 

18-2 特別警護隊装甲車内(新奥浜市路上)

 

 あわてて白鳳女学院の制服を着た茉莉香は、ギルバートからの話を、ステープル邸へ向かう特別警備隊の専用車の中で聞いた。

特別警備隊の専用車は大型トレーラーサイズの装甲車で、運転席のほかに、警備用の電子装置のオペレーター席、将校席、警備隊員の待機席などもあり、中は意外に広かった。

 

「早速ですが、加藤大佐。警戒指令です。

 今日、白鳳女学院に転校生が二人やってきます。

 一人は、イリーナ・フェリーニ。高校三年生で、ヨット部に入部希望です。しかし、 その身元が怪しいのです。

 彼女が今まで住んでいたレオン星は治安が悪く、国民登録はあまり信用できませ  ん。目下のところ、我々は安全が確認できていません。

 しかし、海明星行政府は、留学のための入国を許可しましたので、彼女は今日から通学してきます。

 もう一人は、大佐も御存じの方です。ブルック王国のアメリア王女です。私たちとしては、こちらの方は問題ありません。」

「わかりました。この時期に転校生で、しかもヨット部希望という女の子は、怪しいですね。」

 と答えながら、茉莉香は思い出した。

『そういえば、チアキちゃんと初めて会った時も、あの子は同じような怪しい転校生だったなぁ。

 でも、アメリア王女の方は、ギルバートさんは問題ないと言ったけど、大アリだよねえ。

 チアキちゃんとケンカしなければいいけど・・・。』

 考え込んだ茉莉香に、ギルバートが言った。

「そこで、加藤大佐、学校の中ではお願いしますよ。」

「わかっています。覚悟はできていますよ。

 私、海賊だから。」

 茉莉香は、不敵な笑いをうかべて、そう言った。

「そうですね。

 あなたのそういうキッパリしたところは、祖母も母も誉めていましたよ。」

「いやあ・・。そんな、わたしなんか・・。」

「でも、茉莉香さん、帝国海賊として命懸けで王家を守るということは、自分の命を粗末にするということとは違いますよ。」

「・・・。母からも言われました。私も考えています。」

 この時は、茉莉香は、少し硬い表情で静かに語った。

 

 装甲車は、プラタナス通りを抜けて、ステープル家の邸宅へと近づいている。

 茉莉香は、警備用のモニターを見て、道路沿いや屋敷周辺に警備隊が、実に広範に、かつ目立たないように配置されているのに気が付いた。

 

「すごいですね。この配置。」

「ええ。24時間態勢です。」

「やっぱりすごいなあ。

 でも、警備のみなさん、雨の日や夜間などは、とてもつらい思いをされているのではないですか。もうすぐ、冬が来るので、さらにつらくなるでしょう。」

「お気遣いありがとうございます。加藤大佐がそうおっしゃっていると聞いたら、皆喜びますよ。」

「いや、そんな、私なんか・・・。」

「いや、加藤大佐、ご自身の立場、あなたが今の銀河帝国、とりわけ聖王家の方々にとっていかに大切な人かということを改めて自覚してください。警備に携わる者たちはそれに誇りを持って任務についています。

 もうご存知だから言いますが、この警備態勢については加藤大佐にも知られないようにと、箝口令が敷かれていた程なんですよ。」

「そうですってね。ご配慮、感謝しています。

 でも、マンチュリア星人の末裔の人って、そんな昔の復讐に、まだこだわっているんですか。私には、実感がなくて・・・。」

「それについては、確実な情報があります。また機会を改めてご説明しますよ。

 ですから帝国軍としては、第四次マンチュリア戦役を防ぐために、女王陛下と両王女殿下だけでなく、貴方とサーシャ・ステープル嬢に対しても、同様に厳重な警備を行うことに決めました。」

「え? サーシャも警備対象ですか?」

「そうですよ。

ご存じにように、彼女は、レオニーニ家の前当主の実の娘であり、先の反乱の際にも宇宙マフィアと銀河帝国との和平交渉にかかわりましたからね。」

「そうですね。」

「マンチュリア人は、彼女が一族から追放されたこと自体、銀河帝国との和平交渉を行うための偽装工作だと疑っていたそうです。」

「そんな・・・。そこまで疑うなんて・・・。」

「そういう人たちなのです。銀河帝国との和平を永遠に拒否する考えです。

 だから、サーシャさんを『裏切り者の娘』として狙っているんです。

 一方、旧宇宙マフィアの人たちにとっては、彼女は『安住の地』を与えてくれた『女神』のような存在なんです。

 だから、彼女にもしものことがあれば、レオニーニ家を始めとする旧宇宙マフィア主流派とマンチュリア人との抗争が始まるでしょう。

 そうなると、銀河帝国としてはアンドロメダ航路の予定空域における治安確保のため、抗争に介入せざるを得なくなります。

 結局、抗争はエスカレートして、第四次マンチュリア戦役が起こるでしょう。」

「そうなると・・・。」

「女王陛下が重力兵器の使用をお許しになれば、戦争は一瞬で終わります。昔の第三次 マンチュリア戦役のように、七日間もかかりませんよ。

 帝国が艦隊を動かすとしても、時空トンネルを使えば、核恒星系からM-8801星団までの往復の道のりは、たった一日で足りるでしょうね。」

「それは、彼らは一瞬で滅ぶと言うことですか・・・。」

「そうです。

 彼らも旧宇宙マフィアが開発した重力兵器を持っているかもしれません。

 だから、帝 国軍としても手加減はできません。全力で一撃を加えます。

 もし、彼らが先に重力兵器を使えば、帝国側に何十億人の犠牲がでることも予想されますからね。もちろん、対策は考えているそうですが・・・。

 参謀本部は、テロ対策だけでなく、第四次マンチュリア戦役を想定した作戦計画も検討しています。」

「そんな・・・。」

 茉莉香は言葉を詰まらせた。

 しかし、次の一瞬、こう言った。

「うう~~ん。もういいわ。朝から、そんな深刻なこと考えるの、ヤメ、ヤメ。

 ねえ、ジェーン。さっきのバスケット箱を出してよ。

 私、まだ、朝ご飯の途中だったのよね。

 何をするにも、まず朝ごはん・・・。」

 

 

18-3 ステープル邸(海明星)

 

 茉莉香たちの装甲車は、ステープル邸の通用口に乗りつけ、執事の出迎えを受けた。

「加藤大佐を、地下倉庫にご案内するように、旦那様から言付かっております。」

「え!? 地下倉庫?」

「はい。お嬢様とチアキ様もそちらにいらっしゃいます。」

 茉莉香は、ギルバートたちと一緒に通用口の奥にあるエレベーターで、地下倉庫に向かった。エレベーターのパネルは、地下2階の次は地下15階の表示だけがあり、茉莉香を乗せたエレベーターも地下15階に向かっている。

「ずいぶん深いですね。」

「はい、もともとは、独立戦争時の避難用シェルターとして作られました。

 その後は、最近までワインの貯蔵庫やチーズなどの熟成室として使っていましたが。」

 エレベーターを降りると、薄暗い照明しかない廊下が奥まで続き、両脇に小部屋が並んでいる。小部屋の木製のドアには、各種のワイン、チーズなどの名札が掲げられている。

 しかし、廊下のいちばん奥の部屋には、真新しい金属製のドアがついている。執事はそのドアを開けた。

 

 キユーン、キューン、キューン・・・

 

 いきなり、ブラスターの発射音が聞こえてきたので、茉莉香たちは身構えた。

「大丈夫ですよ。たぶん、お嬢様が試射をなさっているのでしょう。」

 執事は悠然と答えた。

 見ると、ドアの向こうの部屋の奥には分厚いガラス窓があって、その窓の向こうに、なぜか防護服の上から白鳳女学院の制服を着た、サーシャらしい人影が、ブラスター銃のようなものを連射している。

 ガラス窓の手前では、ステープル夫妻、チアキ、そしてスカーレットが様子を眺めていた。茉莉香は四人に目礼して、窓に近づいた。

「新兵器が仕えるかどうか、実際に試しています。」

 ジョージ・ステープルが言った。

「新兵器?」

「開発ほやほや。銃の方は、帝国軍にもまだ納めていない最新型の試作品よ。

 もっとも、今テストしているのはサーシャが着ている学校の制服の方なんだけどね。」

 チアキが答えた。

「銃の方は、普通のブラスターじゃないよね。光が熱線じゃないよ。」

 茉莉香が言った。

「ガンマ線ブラスターですか。こんな小型化に成功したんですね。」

 ギルバートがそう言うと、ジョージ・ステープルが肯いて、語った。

「問題は、ガンマ線の悪影響から銃の使用者を守ることです。そのためいろいろ対策を講じていますが、いま、サーシャが着ている制服にも、そういう機能が織り込まれています。」

「そうですね。お嬢様の健康がなにより大切ですからね。」

 ギルバートが言った。

「うわー。サーシャがこんなに射撃が上手だなんて知らなかったなあ。」

「さすがよね。・・・」

 モニターに示された射撃成績を見て、茉莉香とチアキが感心していると、ステープル夫人が、少し悲しそうに言った。

「あの子は、自分の身を守る術(すべ)をしっかり身に着けています。そういう子です。」

「あ、・・・いや、あのう。失礼なことを申し上げました。お許しください。」

 茉莉香とチアキが、あわてて頭を下げた。

 このやり取りに、ジョージ・ステープルが答えた。

「いや。こちらこそ、失礼しました。お気になさらないでください。

 ミーシャもやめなさい。チアキ様も茉莉香さんも同じ立場なんですよ。

 それに、ガンマ線ブラスターの練習をしたいと言い出したのは、あの子なんですから。」

「お嬢様ご自身の意志で練習をはじめられたんですか?」

 ギルバートが聞いた。

「ええ、サーシャは運動好きで、日課のスポーツ・トレーニングは欠かさないんです。それでも入試前は中断していました。

 しかし、入試が終わった途端に、射撃の練習を始めると言い出しまして・・・。

サーシャが射撃の練習をするなんて、私たちも見たことがなかったんですが・・・。」

 ジョージ・ステープルが言った。

「狙いは、生体兵器対策ですか。」

「それ例外に考えられません。」

 ギルバートとジョージ・ステープルは、他の人に聞こえないように小声で言葉を交わした。二人の間には、緊張感が漂っていた。

 

 手前のコントロールパネル席で、モニターを眺めていた技術者たちが言った。

「社長。テスト終了です。」

「結果はどうかな?」

「成功です。

 すべての測定ポイントで、お嬢様の被爆値は、安全基準をはるかに下回っています。」

「まあ、素晴らしい。使えるめどが立って、ほんとによかったわ。

 皆さん、海明星に着いてから、今まで休みなしでテストに付き合って下さって、本当 にありがとう。

 この辺で、ひと休みされたらどうかしら。

 まず、お先に上の階にあがって、お食事にしてください。食堂には、うちの牧場や農園でとれたおいしい食べ物がいっぱいよ。たくさん召し上がってください。味には自信がありますわよ。」

 ステープル夫人がそう言って、執事に食堂へ案内させた。技術者たちは、席を外すように言われたと思ったようだ。

 

「生体兵器かぁ。本当なんですね。」

 技術者たちが部屋を出たのを見て、チアキが言った。

「ええ、歴史に悪名高いマンチュリアの生体兵器は、今度も使われると考えられていま す。

 今日やってくる転校生もその可能性がありますので、爆発物探知器を常にお持ちください。普段は何も反応がなくても、警戒が必要です。」

 スカーレットが言った。

『それって、人間爆弾ってこと・・・。そんなむごいこと…。』

 茉莉香は声にならない声を上げた。

 

 マンチュリアの生体兵器の本体は、人間の胃の中に有機物でできた袋を取り付けたものである。起爆装置も袋と一体になった有機物で出来ている。

 しかも、普段は袋の中に何もいれず、ある日突然に、その袋に液体の爆発物を注入して、最悪の場合は本人も知らないうちに兵器にするという。こうして以前から潜入していた人物が、ある日突然に爆弾となってターゲットに近づき、爆発するとされる。

 しかも金属反応が出ないので、兵器として見逃しやすいという。

 さらに、相手を油断させ、あるいは射殺をためらわせるため、兵器となるのは多くの場合、子供や若く美しい女性であると言われている。

 したがって、人道上の見地を無視すれば、暗殺用の「兵器」として、きわめて有効とされる。

 このような「兵器」を使って、マンチュリア王政府は、反体制派の弾圧を徹底的に行ったとされている。

 唯一の欠点は、爆発物の液体がスーパー・ヒドラジン系の有毒化合物であることとされる。スーパー・ヒドラジンは、この時代でも宇宙船の推進剤として使われる爆発力の強い物質である。

 しかし、それはきわめて毒性が強いため、袋から少し漏れただけでも兵器となった人間が死亡する。その結果、ターゲットに近づく前に運搬役の人間が死んで爆発することがあるとされる。

 

 これに対して、ガンマ線ブラスターは、もともと重金属の盾や装甲板を貫いて中の兵士を倒す兵器として開発されたものである。

 使用するビームが人体に有害ではあるが、透過性の強い放射線であるため、マンチュリアの生体兵器に対しても、胃の中の有機物の袋を外部から狙撃して、袋を破ることもなく爆発させることもなく、有機物で出来た起爆装置を無効化できるといわれている。

 従って、起爆装置を無効化できれば、その後の治療次第では、生体兵器とされた人を救うことも可能になるので、人道的な対抗兵器と期待された。

 しかし、同時に銃を使用する側の者が被爆する危険もあるとされた。

 この欠点がなかなか克服できなかったため、ガンマ線ブラスターは通常兵器としては普及していなかった。

 しかし、新型のガンマ線ブラスターは、放射線の安全基準をクリアする製品であるという。

 

 やがて、サーシャが戻ってきた。放射線対策の防護服を脱いで、アンダーウエア姿になっている。

「皆様、おはようございます。

 茉莉香さん、今日からご一緒ね。うれしいわ。」

「おはよう。私もうれしいよ。

サーシャやチアキちゃんと一緒に通学するなんて、なんか、私、お姫様になった気分よ。」

 茉莉香が、いつものように輝く笑顔で答えた。

『もう、茉莉香ったら、この前はお姫様になるのを嫌がってたのに・・・。

 そうか、みんなの気持ちが沈まないように気を使ってくれているかぁ。』

 チアキはそう思って、微笑んだ。

 

 

18-4 白鳳女学院三年雪組教室(海明星)

 

「えー、みなさん。転校生のお友達をご紹介します。」

 担任教師が、転校生を連れて教室に現れ、紹介を始めた。

「イリーナ・フェリーニです。レオン星から来ました。部活は、宇宙ヨットをやってました。よろしくお願します。」

 金髪ショートカットで碧眼、目鼻立ちはサーシャに似ているように見えるが、彼女よりもかなり長身の娘が、少し緊張した表情で話した。

「席は、サーシャさんの隣が空いているから、そちらを使ってください。」

「はい。」

 イリーナは、サーシャの隣の席に着いた。

『え! サーシャンの隣りだなんて、大丈夫かなあ。』

 茉莉香は心配したが、サーシャはいつも通りの笑顔で転校生に挨拶し、警戒している様子は見えない。

「では、出席を取ります。・・・」

 授業が始まった。

 

 昼食の時間になると、サーシャとその周りの席の生徒たちは、イリーナを誘って、楽しそうに話しながら食堂へ行ってしまった。

 茉莉香は、その様子を心配そうに見守っていた。

 そこへマミが茉莉香に話しかけてきた。

「ねえ、ねえ。高等部の一年にまたお姫様が転校してきたそうよ。

 噂では、茉莉香やチアキちゃんの知り合いらしいよ。どういう関係なの」

「マミは相変わらず、情報が早いねえ。

 まあ、知ってるといえば知っているけど・・・。お仕事の関係でね。」

 茉莉香は言葉を濁した。

「ねえ、チアキちゃん。あなたも、転校してきた姫様とお友達なの?」

「まあ、知ってるといえば知っているけど、友達とは言えないわね。あんな奴。」

 チアキは、少し機嫌の悪そうな口調で話した。

「まあまあ、チアキちゃん。今度は、なかよくしてね。」

 茉莉香がチアキをなだめようとして言った。

「何、言ってるのよ。ケンカを売ってきたのはあっちでしょ。」

 急に機嫌が悪くなったチアキが言い捨てた。

「なに? どうしてケンカしたの?」

 マミが興味深々の様子で、チアキに聞いた。

「それは、あっちがあいつに勝手に惚れて、しかも勝手に私がライバルだと思い込ん で、ケンカを売ってきたからよ。

 こっちは関係ないのに、ほんと、ムカつく・・・」

 チアキはそこまで言った時に、いつのまにかクラスメートたちが自分を取り囲んで、自分の話に聞き入っていることに気が付いた。

 それは、チアキと転校生のお姫様が『恋のライバル』という女子高生にとっては最も興味深い話題だったからだ。

 もちろんチアキの言う「あいつ」とはエドワード・ドリトルのことだとみんな分かっている。だから、なおさら関心が高い。

「なによ、みんな。こんなに集まってきて。

 もう昔の話よ。もう関係ないわ。

 それに、私はあいつのことなんか、なんとも思っていないんだからね。

 だから、ライ バルでも何でもないんだからね。・・・。

 はいはい、解散、解散。

 これ以上聞いてても、何も出ないわよ。」

 

 チアキは、顔を赤くしながら、ライバルであることを否定し、周りのクラスメートを追い払った。

 もちろん、チアキの否定にもかかわらず、『二人の姫は、恋のライバル』という噂は、下校時刻までに、学校中に広がっていた。

 そして、クラスメートの間では、こういう会話が交わされていた。

「チアキちゃん、売られたケンカは買うのね。」

「『アイツのことは、何とも思ってない』って言ってるのにね。」

「そこが、チアキちゃんのカワイイところなのよね。フフフ」

「そうね。フフフ。」

 

 

18-5 ヨット部部室(海明星・白鳳女学院)

 

 放課後のヨット部部室では、ナタリアとヤヨイが、部室の奥の本棚の前で、何かやっている。

「うーん。このあたりかなぁ。ヤヨイちゃん、そこの本棚、動かないかなあ。」

「見た感じ、動きそうもないですよ。」

「どうしたの? ナタリア、ヤヨイちゃん、二人で何やってるの。」

 部室にやってきたリリイが声をかけた。

「いやー。この前、パソコンで、歴代部長の引き継ぎ資料を見ていたら、『白鳳女学院 地下迷宮探検記』というのを見つけましてね。

 15年位前の先輩が、学校の地下空間を探検して、地図を作っているんですよ。

 それによると、このあたりに入り口があるらしいんですがね・・・。」

 ナタリアが答えた。

「ええ? ここにも入り口があるんですか?

 面白そうですね。ぜひ、探検しましょうよ。」

 いつの間にかグリューエルが部室に入ってきて、話を聞いていた。

「あなた、何か知っているの?」

「はい。もともと、学校の地下には、独立戦争の時に植民星連合軍の司令部があったら しいですよ。

 なかは、けっこう広いですよ。」

「あなた、学校の地下に入ったことあるの?

 あきれた。いつの間に入ったの。」

「去年、ジェニー先輩や茉莉香さんたちと独立戦争時代の書類を探すために入ったんで す。ドロボーを追いかけて・・・。

 あれ? この話は秘密でしたっけ?」

「秘密じゃないんだけど・・・。」

 そう言って、茉莉香も部室に入ってきた。

「グリューエル、お姫様なんだから、そんな危ないことやっちゃ、だめでしょ。」

 リリイが言った。

「はい、気を付けます。」

 グリューエルは笑顔で言った。反省している様子は無さそうだが・・・。

 

 そうこうするうちに、部員が集まってきた。

 今日は、転校生が二人ともヨット部に入ると言うので、顔合わせのためナタリア部長が全員集合の呼びかけをしたからだ。

 集まった部員を前にして、転校生があいさつを始めた。

「イリーナ・フェリーニです。レオン星から来ました。三年雪組です。

 環境のいい星で大学生活を送りたいと思って、来年からは白鳳女学院大学で学ぶ予定 です。

 そう思うと一時も早くこちらに来たくて高等部に転校してきました。

 ヨットはこれからもやりたいと思っていますので、よろしくお願します。」

「そうかあ、大学も一緒なのかぁ。なるほどね。」

 リリイが言った。

「私たちも一緒の大学よ。よろしくね。」

 医学部に合格したサーシャが言った。

 

 二人目の転校生が、あいさつを始めた。

「ブルック王国の第二王女、アメリア・ブルックです。一年花組です。

 よろしくお願します。」

 そして、チアキの方を向いて、言った。

「王女殿下には、その節は無作法をいたしました。お許しください。」

 

 そう言って、アメリアは、カーテシーの作法通りの挨拶をし、深く頭を下げた。

 二人とも、表情は硬い。アメリア姫の『口先だけの謝罪の言葉』は、またケンカを売っているように見えたからだ。

 

「いえいえ、わざわざお詫び頂くには及びませんのに。

 ご丁寧なごあいさつ、恐れ入ります。

 あなたも、この前お会いした時より、ずいぶん大人っぽくて、本当にお美しく、おし とやかになられましたね。」

「いえ、いえ、殿下には及びません。」

「おほほほ、何をおっしゃいます。銀河標準語もずいぶんお上手になられましたこと。  驚きましたわ。

 きっと、一族伝統の編み物もお上手になっておられるのでしょうね。」

 

 チアキは、アメリア姫がエドワードに渡そうとした『プロポーズのひざ掛け』は、姉のバレンシア姫が編んだものを横取りしたものだと知っていると、パンチを食らわした。

 

「いえいえ、私など田舎者育ちの海賊の娘です。とても殿下には及びません。」

 

 今後はアメリア姫がパンチを返した。

 自分を「田舎育ちの海賊の娘」と卑下したように聞こえるが、チアキも同じではないかと言う嫌味である。

 

「何を、ご謙遜を。

 それよりも、あなた、白凰女学院の制服、とてもよくお似合いですわ。

 胸元がとてもふくよかに見えましてよ。おほほほ・・・・」

 

 今後は、チアキのパンチである。チアキは、アメリア姫の胸元が見事な貧乳であることを承知の上で、誉めている。

 

 こういう表面的にはお上品で優雅なやり取りを聞いていたリリイが、つぶやいた。

『なんか、寒気(さむけ)がしてきた。

 チアキちゃん、最高に不機嫌そう。』

 

「それから、茉莉香さん。三人の兄たちから伝言がございます。」

 アメリア姫が、突然、茉莉香の方を向いて、言い出した。

「ええ? 私?」

「はい。兄たちからは、

『このたびのダンス発表会にお招きいただき、感謝申し上げます。お目にかかる日を楽しみにしております』

 とお伝えするように言われております。

 兄たちは、茉莉香さんとダンスを踊れる日をとても楽しみにしております。」

 そしてアメリア姫は、茉莉香には、本当に心からの、かわいい笑顔を見せた

「キャー!」

「・・・王子様だって」

 部室の中が大騒ぎになった。

 部員たちはまだ次回のダンス発表会で茉莉香が誰と踊るか知らされていなかったからだ。

「茉莉香先輩、その王子様たちとはどういうご関係なのですか?」

 下級生たちが、ずばりと核心を突いた質問をした。

「いや、その・・・、仕事の関係で・・・あの・・・。」

 何とかごまかそうと、茉莉香が苦しい答えをした。

 

 ピ、ピ、ピ・・・

 

 そのときに、ヨット部員の持っている携帯情報端末から一斉に緊急通信を伝える警告音が鳴った。また、学校の校内ネットに接続しているパソコンからも、緊急メール着信の強制警告音が鳴った。

「え!? 何が起こったの?」

 さっと携帯端末を開いてメールを読み、皆が口々に言った。

「緊急警報よ。直ちにガードマンと一緒に下校しなさいって、なにが起こったのよ!?」

「新奥浜市の中心市街で、環境過激派のデモが暴動に発展しているらしいわ。」

「すでに、機動警察が出動しているって。」

「負傷者多数ですって。」

「この街は静かなところなのに。どうしてこんな騒ぎが起こるの。」

「デモ隊は、『重力兵器の配備、絶対反対』を叫んでいるらしいわ。」

「そんなものがこの星に配備されると、戦争やテロに巻き込まれるって言っているそうよ。」

「ねえ、『ジュウリョクヘイキ』って、なにそれ?」

「あの~~、公爵様の反乱の時に、ウルスラ先輩が使ったグランドクロスの主砲みたいなヤツのことですか?」

 

「そうよ。私の船にも装備されているわ。」

 チアキが言った。

「でもね、デモ隊が反対しているのは、銀河帝国が極秘にこの星に配備する予定の新兵器の話だよ。敵の重力兵器による攻撃を防ぐ機能もある船らしいよ。

 でも情けないなあ、極秘情報がデモ隊に漏れているんだよね。」

 ウルスラが言った。

「ウルスラ先輩、どうしてそんなことを知っているんですか。」

「だって、船が来たら、私もテストパイロットをやってほしいって言われているから。」

「そうかぁ。すっかり忘れていましたね。

 ウルスラ先輩は、今も帝国軍の予備役パイロットなんでしたね。」

「うん。もう平和になったから、そんな役目は必要ないと思っていたけどね。」

「でも、なぜ、銀河帝国がこんな辺境の星にそんなスゴイ新兵器を配備するんですか?

 帝都なら当たり前でしょうけど。」

「私には分からないよ。聞いてないし・・・。」

 ウルスラはそう言った。

 そして、ヨット部員の視線がチアキに集中した。

「そうね。・・・たぶん私、いや、私たちがここにいるためでしょうね。」

「きっと、そうでしょうね。

 でも、平和になったのに、誰が私たちを狙うというのですか。」

「それはまだ・・・・。」

 

「もう今日はその辺で終わりにしましょう。

 それより、みなさん、学校の指示通りに、さっさと帰宅しないと。

 ガードマンの方も皆さんをお待ちになっているのではないでしょうか。」

 部長のナタリアが注意を促した。

 その声で我に返った部員たちは、あわただしく帰り支度を始めた。

 

 その時に、ジェシカ・ブルボンが茉莉香に言った。

「先輩、今日もファンレターがいっぱい来ていますよ。この袋に入っていますので、忘れないで持って帰ってください。

 それから、チアキ先輩とサーシャ先輩の分は、学校側が直接、警備の方にお渡ししたそうです。」

「ありがとう。今日の郵便当番は貴方だったのね。お世話になります。」

 茉莉香が笑顔で答えた。

「ありがとう。一所懸命、お返事を書くわよ。」

 チアキが答えた。

「ありがとう。私宛もあるなんて、珍しいわね。」

 サーシャが答えた。

 

 

18-6 ステープル邸(海明星)

 

 サーシャ、チアキ、茉莉香、グリューエル、ヒルデ、ウルスラ、アメリアの7人は、下校してステープル家の大きな客間の一室に集まっていた。今後の警備上の理由で、全員がステープル家に集められたためだ。

 このほか、部屋にはスカーレット、ギルバート、特別警備隊のジェーンとセレニティ軍のキャサリン、それにステープル夫婦が同席している。もちろん部屋の隅には警備隊の人たちが控えている。

 部屋の中の空気は、緊張感に溢れていた。

 原因は、部屋の中央にある大きなテーブルの上に置かれた、三通の手紙であった。それらは、チアキ、サーシャ、茉莉香の三人宛てのファンレターの中から出てきたものだ。

 

 チアキ宛ての手紙には、こう書かれていた。

 

 『第二王女と帝国軍は、海明星から出ていけ。この星を戦争に巻き込むな。』

 

 サーシャ宛ての手紙には、こう書かれていた。

 

 『死の商人の娘、裏切り者の娘は、海明星から出ていけ。この星を戦争に巻き込む   な。』

 

 茉莉香宛ての手紙には、こう書かれていた。

 

 『海賊の娘は、海明星から出ていけ。この星を戦争に巻き込むな。』

 

 ジェーンが報告した。

「いずれも、紙の印刷物から様々な大きさの文字を切り抜いて、張りつけて作った脅迫 状です。これは、手書き文字の筆跡を隠すための、大昔のやり方です。

 見たところ、宛先の人物のところ以外は、いずれも同じ切り抜きをコピーして使って います。

 封筒にも、手紙にも、差出人の名前などは書かれていませんでした。

 消印がないので、白鳳女学院内から差し出されたものと思われますが、学校内の監視 カメラでは不審な人物は写っていませんでした。

 また、手紙本体の精密物質解析からも、犯人の手掛かりは見つけられませんでした。」

「今の科学捜査は、電子戦対応ですからね。電子メールで脅迫状が来たら、発信元はす ぐ見つけられるのに。・・・こういう大昔のやり方は盲点でしたね。」

 スカーレットが言った。

 

「ねえ、あなた。今日にでも帝都へ帰りましょうか。サーシャに『もしものこと』が あったら、私はどうしたらいいの・・・。」

「落ち着きなさい。ミーシャ。こういう時は、軽々しく動かないものだよ。」

「お母さん。私は大丈夫よ。負けないわ。」

 

「それで、この手紙の意味について、警備陣の皆さんはどう考えているんでしょうか。」

 茉莉香が聞いた。

「戦争に巻き込まれると言っていることは、環境過激派の主張と同じです。兵器がある から戦争が起こるという論理と同じです。

 しかも、手紙の差出人は、テロリストがステープル家のお嬢様を狙っていることを 知っています。」

 ギルバートが言った。

「私たちがいるから戦争に巻き込まれるというのは、いくらなんでも大げさでしょう。

 それに、今時、どんな戦争に巻き込まれると言うのよ。」

「加藤大佐、こういう人たちは、実は、海明星の人々の利益よりそれ以外の誰かの利益を代弁しているものですよ。

 具体的には、彼らはどんな戦争に巻き込まれる恐れがあるのか、何も明言していませ ん。

 しかし、今、現実的に考えられるのは、ご存じのように、マンチュリア人との戦争です。だから、戦争になれば、彼らが持っているかもしれない重力兵器によって、この星も攻撃を受ける恐れがあるということですよね。

 彼らはそれを知って動き出したと思われます。」

「環境過激派は、そういう秘密情報をどこから知ったの?」

「こういう情報や活動資金は、マンチュリア人の工作員から出ていると考えるのが自然 です。」

「そんな・・・。」

「敵を分断するのは、戦略・謀略の基本ですよ。加藤大佐。

 マンチュリア人は、宇宙マフィア時代からの非合法工作員を、各地にそのまま維持していると言われています。」

 ギルバートが言った。

「では、今、私たちはどうすれば良いの?」

「加藤大佐。油断せず、動かないことです。耳を澄まして、じっとしていることです。

 そうすれば、怪しい人たちの正体が浮かび上がってきますよ。きっと。」

 スカーレットが言った。

 

 その時、ウルスラが持っている帝国軍標準装備の携帯端末が鳴った。音声だけを使う最高難度の軍事用秘話通信装置が作動しているようだ。

「もしもし、アブラモフです。・・・・

 あ! ダーリン~~・・・ 」

 ウルスラの「ダーリン」の一声で、それまで緊張していた少女たちは脱力してしまった。

 

「なに?・・・・・

 いま『たう星系』に着いたの。そう、早かったね。・・・・

 うん、わかった。もうすぐ会えるね。楽しみだなあ。・・・

 うん。わかった。ちょっと待ってね。」

 

 『軍事用の最高レベル秘話通信でラブコール!? しかも、デートの約束!?』

いくらなんでも、それはないだろうと思われた。

 しかし、そういう空気を一切気にしないウルスラが、立ち上がって言った。

「加藤大佐、皆様。ただいま、新戦艦が到着したようですので、さっそくテスト飛行に 行ってまいります。

 すぐに、迎えの小型機が来ると聞いておりますので、玄関で待機いたします。」

 ウルスラは、きりっと敬礼して、部屋を出て行った。

 もちろん、ウルスラは、そう言い終わるとすぐに「ダーリン」との会話に戻って、楽しそうに話しながら歩いて行ったが・・・。

 

 ウルスラの話に当てられて、赤くなった顔を冷やすために携帯情報端末を操作し始めたヒルデが、声を上げた。

「ああ、みなさま。大変なニュースが入っています。

 銀河アカデミー賞受賞者の有名な宇宙物理学者、サハリン博士が、論文を発表して、 銀河帝国の重力推進機関の開発とその軍事利用を批判したそうです。」

「ええ? どういうことですの。」

 グリューエルが言った。

「銀河系を結ぶミルキーウエイ計画は、民生用と言いながら、これにより帝国の大艦隊が今まで以上の超光速で銀河系内を移動できるようになるので、銀河系の専制的軍事的支配を強化しようとするのが真の狙いだと言っています。

 また、時空トンネルを武器として利用する重力波砲は、小惑星を砲弾としてぶつけて可住惑星を砕き、何十億人もの人間を一瞬に殺戮できる大量破壊兵器であり、絶対に許すことができないと言っています。」

「ねえ、ギルバートさん。今頃こういうことを言い出すって、どういうことなんですか?」

 茉莉香が言った。

「彼は、『恐ろしい技術や兵器』を開発したのだから、銀河帝国は『悪の帝国』に違い ないと言いたいだけなんですよ。」

「それって、理屈が逆ですよね。

『武器がなければ、平和が達成される』と考えることと同じように、どこかおかしいですよね。

 うまく言えませんが。」

「そうです。とても理想的で美しそうな話ですが、非現実的ですね。

 まあ、平和な時代になったから、こういう非現実的な主張が魅力的に見えるんでしょうね。」

 ギルバートが言った。

「そうはいっても、直ちに反論すると『苦しい言い訳』にしか聞こえませんよね。

 環境過激派対策と同様、しばらくは銀河帝国批判のキャンペーンを見極める必要があるでしょうね。」

 スカーレットが言った。

 

「話を元に戻しますと、脅迫状への対策ですが、如何なる状況にも対応できるようにするため、やはり、皆さんも最小限の武器を持ってもらうことが必要でしょう。

 学校内での武器の携帯について、校長先生には、私からお話します。」

 ギルバートが言った。

「武器を持つと、かえってほかの生徒たちが危険な目にあうリスクが高まるのではないですか?」

 グリューエルが聞いた。

「いや。武器の無い方が、かえってリスクが高いでしょう。

 武器がないと、犠牲が増えると思います。

 例えば、他の生徒を人質に取られたらどうしますか?

 相手がマンチュリアの工作員ならば、皆さん方を倒すためなら、ほかの生徒の命なんかためらわず犠牲にするでしょう。」

「・・・・・テロとはそういうものなんですね。」

「そうです。

 では、具体的な作戦ですが、武器はこういうように・・・。」

 

 

18-7 ヨット部部室(白鳳女学園)

 

 それから数日経過した放課後、イリーナとグリューエルを加えた8人の「三年生」たちは、ナタリア部長、ジェシカ副部長の呼びかけで、再び部室に集まった。

 用件は、卒業記念の寄付の相談である。

「それで、ナタリア部長としては卒業記念の寄付は何が良いと思うの。」

「茉莉香先輩、卒業したら、サイレンウイスパーは、どうされるおつもりですか?」

「そうね。みんなが乗りたいのなら、寄付してもいいんだけど・・・。

 軍用機だから、今までは私の名義ってことで保有できたわけだけど、これから学校名義でも大丈夫なの?」

「それは校長先生が星系軍と話をつけたようです。維持費の予算は大変ですが。」

「それは、お父さんが寄付してもいいって言ってるわよ。

 大学生のヨット部も使わせてくれるならばね・・・。ウフフフ・・・。」

 サーシャが言った。自分も使い続けたいようだ。

「今年はそれで決まりかなあ。」

 茉莉香が言った。

「そういう訳にはいかないでしょ。茉莉香とサーシャだけに負担させるわけにはいかないわよ。」

 チアキが言った。

「では、このほかに、ディンギーの買い替えのために貯金をしますので、応分の御寄付 をお願いします。」

「なるほどね。それはいい考えだわね。あのコたち、ちょっと古いものね。」

 チアキが言った。

 

 バン。バン。バン。

 ドカーン!

 

 その時、部屋の外から、銃の発射音のような音や爆発音が聞こえてきた。

「あれ、ついに来たのかなぁ。茉莉香。」

「うん。そうかもしれないね、チアキちゃん。」

「私、ちょっと、外の様子を見てきます。」

 皆が止める間もなく、ジェシカが廊下へ飛び出していった。

 

 その時、それまで黙っていたイリーナ・フェリーニが、言った。

「こういう時は、陽動作戦も気を付けないといけません。

 皆様、地下通路を使って逃げましょう。」

「ええ!? あの襲撃は、おとりだと言うの?」

「その可能性があります。もしそうなら、警備の注意をそらしているうちに、私たちを狙うテロリストがここにやってくるはずです。」

 そういうと、イリーナは部室の奥の本棚に向けて、リモコンスイッチを押した。

 すると、本棚が自動的に手前に動き出して、さらにドアのように右に開き、壁に地下への入り口の扉が見えてきた。

「ええ! こういう仕掛けだったの。知らなかったなあ。『探検記』にも書いてなかっ たよ。」

 ナタリアが驚いた。

「さあ、中へお入りください。地下通路を使って追っ手から逃げましょう。」

「ええ? ・・・というか、あなた何者なの?」

 茉莉香が言った。

「茉莉香さん、イリーナは味方よ。話は後。さあ、急いで。」

 サーシャが言った。

 

 一行が地下通路に入ったその時、部室のドアが激しい音を立てて吹き飛んだ。

「手を上げろ。抵抗すると、こいつの命が無いぞ。」

 部室に三人の黒い防護服・黒いゴーグル姿の人間が入ってきて、そのうちの一人がジェシカの腕を捕まえ、銃を頭に突き付けている。あとの二人は、こちらに銃を向けている。

 

 これをみたイリーナは本棚の陰に隠れて、銃を向けている二人に激しく発砲した。

 いつの間にか、彼女は自動小銃のような武器を手に持っていた。

 そして、彼女は、侵入した賊が銃撃でひるんだすきに、人質のジェシカにかまわず、地下通路への入り口のドアを閉めてしまった。

 

18-8 『地下迷宮』(白鳳女学院地下の旧植民地連合軍司令部)

 

「あなた、ジェシカを見殺しにしたの?」

 地下通路の中で、チアキは咎めるような口調で言った。

 これに対して、イリーナは軍人のようにひざまづいて、臣下の礼を取り、言った。

「失礼いたしました。王女殿下。名乗らせていただきます。

 私は、ヒガン共和国国防軍の特殊部隊に所属しております、イリーナ・フェリーニでございます。

 そして、子供の頃からレオニーニ家でサーシャお嬢様の「カゲ」として護衛を務めておりましたものでございます。」

「私を守るために、わざわざ、ヒガン星団から来てくれたのよ。」

 サーシャが言った。

「そうなの。でも、ジェシカはどうなるの・・・。」

「殿下。ご安心を。

 彼女が人質であるならば、まだ殺されることはないはずです。

 そして、もう一度、私たちの前に現れるでしょう・・・。」

 そう言って、イリーナは、暗い地下通路の奥に向けて、耳を澄ました。

 

 ドーン

 

 腹に響く爆発音が、地下通路の左側から聞こえてきた。

「どうやら、白鳳女学院の外にある出入口から、テロリストが侵入したようですね。

 皆様、地下通路の右側を進んで、校舎の下、つまり旧植民地連合軍司令部の方へ行きましょう。

 皆様。武器のご用意をお願いします。」

 

 

 

 

 

 

 


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