宇宙海賊キャプテン茉莉香 -銀河帝国編-   作:gonzakato

19 / 55
今回は、卒業を控えた「追い出し航海」の様子を描きました。
 追い出し航海のテーマは、「海明星を飛ぶ」。
 ヨット部の三年生は、思い出に浸りながら、楽しい時間を過ごしていきます。
 そして、追い出し航海には、三年生だけの「秘密の儀式」があります。
「秘密の儀式」とは、誓いの言葉を朗読したあとに、暗闇の中で持ち寄ったドリンクを混ぜた「闇のフルーツパンチ」で乾杯するものです。
 大丈夫でしょうか?お嬢様でも「裏で何をやっているか分からない娘」だらけですからね。そういえば、アニメ版では「打ち上げはジュース」というような意味深なタイトルがありましたが。
 そして、暗闇の中で三年生6人で乾杯するとき、6個あったはずのグラスが1個足りません。幽霊さんがもうひとりいると、茉莉香は恐がりますが・・・。
幽霊の正体は・・・。
 次回から、少し緊迫したストーリーを書きたいと思っていますが、今回は高校三年生を満喫する少女達を描きました。


第十七章 追い出し航海

17-1 オデットⅡ世号

 

 中継ステーションを離れたオデットⅡ世号は、海明星を周回する楕円軌道に入った。

船外へ宇宙服を着て乗り出したヨット部三年生たちは、並んで海明星を見た。

「何度見ても、きれいな星。」

「初めての練習航海の時も、きれいに輝いていたよね。」

「うん、そうだね。満天の星の中で、この星だけが青く、きれい。」

「この星で、私たちは出会ったんだね。」

「そうだね。何千億の星の中でも、この星なんだよね。」

「それって、やっぱり奇跡の出会いかなあ。」

「なに、少女趣味に浸ってるのよ。」

「でも、私とチアキちゃんも、この星で出会ったんだよ。チアキちゃんが、弁天丸の次期船長候補である私を見に来て、出会ったんでしょ。」

「あの時は、まさか、こんな物語になるとは思っていなかったけどね。」

「そりゃ、分かるわけないよ。

 私だって、ヨット部に入ったときは、自分が海賊船弁天丸の船長になるって想像もしてなかったもの。」

「波乱万丈の高校生活も、あともう少しでおしまいかなあ。早かったなあ。

 もっと楽しみたかったなあ。」

「ウルスラ。あんた、あれだけ大騒ぎしといて、まだ足りないの。」

「足りないよ。時間足りないよ。結婚前に出来るだけ遊んでおかないと・・。」

「何、言ってるの。あなたに足りないのは勉強時間でしょう。士官学校、甘くないわよ。」

「ハハハ・・・」

 

「こちらオデット二世号船長のナタリアです。

 先輩方、そろそろ、食堂のほうへおいでください。追い出しコンパの準備ができましたので・・。」

 船長になったナタリアが、ブリッジの船長室から連絡してきた。

「ナタリア船長、了解しました。」

「ナタリアが船長かあ。時代は変わるねえ。」

「でも、私たち、無事にこのオデットⅡ世号を後輩に引き継ぐことができたんだよね。」

「そうだね。」

「さあ、船内に戻ろう。」

「了解。」

 

 食堂にヨット部員が勢揃いした。

「乾杯!」ウルスラが言った。

「先輩、まだ、ですよ。」

「ハハハ・・・。」

「え~~、追い出しコンパの開催に当たり、私、部長のナタリアから、ひとことごあいさつ申し上げます。」

「手短に。お腹空いているから・・・。」

「今年の三年生の皆様には、ほんとうにお世話になりました。

 というか、銀河系を揺るがす大冒険に私たちを連れて行ってくださって、本当に貴重な経験をさせて頂きました。

 これは、ヨット部始まって以来の大冒険だったと思います。

 おかげさまで、私たちも、なんだか少し大人になった気分です。

 私たちは、この船で培った先輩方との絆や先輩方の教えを、いつまでも忘れずに、大切にしていきたいと思います。

先輩方は、ご卒業後は、それぞれの進路へ進まれるとお聞きしていますが、どうか今まで以上にお元気でご活躍ください。

 そして、たまには、この白鳳女学院のヨット部のことを思い出して、できれば遊びに来てください。

 では、先輩方の前途と白鳳女学院ヨット部の発展を祈念して、乾杯!」

「乾杯!」

 

 部員たちはジュースで乾杯して、テーブルに並べられた料理を食べながら、あちこちで話が弾む。

「ねえ、ヒルデは来年はどうするの。グリューエルと一緒に帝国女学院へ転校しないの?」

「いいえ。私は高校まではこの海明星で過ごすつもりです。」

「よかった。

 でも、これで来年からは、お姉さんとは違う道を行くんだね。」

「そうですよ。ヒルデには中等部にたくさん良いお友達がいますからね。その出会いを大切にしましょうね。」

「はい、お姉さま。」

「そういえば、チアキちゃん。ヒルデも乗馬を始めたんだってね。乗馬部のコたちが言ってたよ。」

「ヒルデ。乗馬は、本当に楽しいでしょう。」

「はい。乗って初めてわかりましたが、馬と言うものは本当に賢い生き物ですね。

ますます興味がわいてきました。」

「よかったよね。

 それで、来年のヨット部はどうなるんだろう。

 もう『茉莉香様ぁ~~~!』は無くなるんだよね。」

「ははは・・・今度は『ナタリア様ぁ~~~!』じゃないかなあ。」

「そうかもね。

 ナタリアは、この頃ますますカッコよくなって、ファンが増えてきたよね。」

「ねえ、ハラマキ。受験勉強はどうなの。」

「私やリリイは、家政学部への内部進学だからまだ楽だけど、サーシャは大変みたい。医学部は別よ。」

「サーシャ、大丈夫なの。」

「なあ何とかね。今は、本当に勉強だけに集中できるから。」

「そうだね。いろんなことがいっぱいあったけどね・・・。」

「それからねえ、このまえ、お父さんが言ってたけど、来年度からうちの屋敷に白鳳女学院への留学生の下宿人が大勢来るらしいわよ。うちはセキュリティーが良いからって、あちこちから頼まれたんだって。

父さんは、これでは、うちが白鳳女学院の女子寮みたいになるって、笑ってた。」

「うちの学校、結構有名になりましたからね。先輩たちのおかげです。」

「ヨット部にも、またすごいのが入ってくるんじゃないかなあ。海賊の娘とか・・・。」

 ウルスラが言った。

「ハハハ・・。歴史は繰り返すわね。」

「すごいのって、誰のこと言っているのよ。」

「ハハハ・・・。」

 

 

17-2 オデット二世号・三年生の寝室

 

「さーて、そろそろ、いくかな。三年生だけの恒例、秘密の儀式、『闇のフルーツパンチ』をやるよ。」

 ウルスラが言った。

「ええ、やっぱり本当にやるの!? どうなっても知らないわよ。」

サーシャが言ったが、言葉とは違い、その表情はいたずらをする子供のように楽しそうだった。

「あたりまえでしょ。ヨット部の伝統よ。昨年だってリン先輩たちはやってたでしょ。」

「あのう。私も参加したいんですけど。」

「ええ!? グリューエルはまずいでしょう。三年生じゃないし。」リリイが言った。

「私も中学の三年生ですわ。それに、今年でヨット部は卒業ですし・・。」

「とにかく、お姫様だからだめよ。」

「お姫様なら、チアキ先輩もいらっしゃいますよ。」

グリューエルは、納得せずに食い下がった。

「もう・・・理屈じゃないのよ。・・・茉莉香ぁ、何とかしてよ。」リリイが言った。

「ナハハ、グリューエル。我慢してね。」茉莉香が言った・

「でも・・・・・。」

「では、五分後に『荷物』を持って三年生専用の寝室に集合よ。」

 

 三年生の茉莉香、チアキ、サーシャ、ハラマキ、リリイ、ウルスラの6人は、二段ベッドがならぶ船内の寝室の床に輪になって座った。

 その輪の真ん中に、大きなガラスボウルが置かれ、中には刻んだ色とりどりのフルーツが入れられている。そして、コップが6個置かれている。

「さあ、電気を消すわよ。」

「いよいよだね。」

「みんなの人間性が試されるわね。」

「よし、消灯。

 それでは、各自持ち寄った『ドリンク』を、こぼさないようにボウルに入れてください。」

 

 トクトクと液体を注ぐ音が聞こえた。

「入れたわよ。」チアキの声が聞こえた。

「では、かき混ぜます。そして、出来上がった『フルーツ・パンチ』をコップに注ぎます。

 そして、こぼさないよう、コップは手渡しするからね。はい、一つづつよ。」

 リリイの声が聞こえた。

「これで、全部ね。みんな、コップを持ったかしら。いくわよ。」

「ええ!? 待ってよ。私はまだもらってないよ。」

 ウルスラの声が聞こえた。

「冗談と言うか、怪談はやめてよね、ウルスラ。まるでもうひとり、幽霊さんとか、いるみたいじゃないの。」

 茉莉香の、怖そうな声が聞こえた。

「茉莉香、やめてよね。あなたが怖がると、雰囲気がやばくなってくるじゃないの。」

 リリイの怖そうな声も聞こえた。

「でも、私、本当にもらってないよ。ウルスラ、嘘つかない。」

「ハハハ・・・。」

「やっぱり、電気をつけようか? ねえチアキちゃん。」

 また、茉莉香の怖そうな声が聞こえた。

「だめよ。電気をつけたら、『闇のフルーツ・パンチ』じゃ、なくなるわよ。面白くなくなるじゃないの。」

 チアキの声が聞こえた。

「しょうがないわねえ。ウルスラ、予備の紙コップに入れるから、これで飲みなさい。」

「はい。今度はもらったよ。確かに。」

「さあ、とにかく、『誓いの言葉』を始めるわよ。みんな、覚えてきた?」

「うん、大丈夫。」

「では、みんなで言おう。」

 

「ヨット部に集いし友よ

 われらの青春は ここに始まる

 共に空を駆け抜けた日々よ

 熱き思いは ここに始まる

 

 われらの学び舎 白鳳女学院よ

 われらの愛機、オデット二世よ

 われらのヨット部に集う 乙女たちよ 

 いつまでも 花咲き誇れ

 

 われらの団結は、つねに固く

 結ばれた絆は、永久(とわ)に続く

 船乗りの友よ いざ旅立たん 

 またいつの日にか ここに集わん

 

 良き風、良き航海、良き人生を願い 乾杯!」

 

「乾杯」

 何処かで、もう一人が乾杯の声をあげた。

「ん?・・今のは誰?・・」

「私、わかった!」

「それは後。とにかく、飲むのよ。」

 三年生達は、暗闇の中で、いっせいにコップのフルーツパンチを飲み干した。

「う! ・・・ これなあに。」

「う・・・すごい味。甘くて、からくて、ひりひりして、それに・・・。」

「それから先は、言わないのよ。」

「でも、この味になったということは、信用できない人がこの中にいたのは確かよね。

 誰かしらね。ウフフフ」

 サーシャの楽しそうな声が聞こえた。

「フフフ・・。誰かしらね。暗闇で分からなかったけど。」

 ハラマキも楽しそうな声を上げた。

「私たち、被害者よねえ。」

「そうよねえ。」

「そこが、『闇のフルーツ・パンチ』の醍醐味でしょう。ウフフフ・・・」

「みんな、一気に飲みきったかしら。」

「飲んだよ。」

「じゃあ、点灯。」

 点灯と同時に、7人目の参加者を探して、みんなの視線があたりを巡った。

 すると、何もないように見える空中に、空のコップを持った小さな手だけが浮かんでいた。その華奢な手には見覚えがあった。

「予想通りね。

グリューエル、光学迷彩スーツのスイッチを切りなさいよ。」チアキが言った。

「やっぱり、分かってしまいましたね。」

「はぁ、また『密航』かぁ。グリューエルとは、密航に始まって、密航に終わるのね。」

 茉莉香が言った。

「何言っているんですか。茉莉香さん、私たちは、これで終わりじゃありませんわ。

また始まるんですよ。これからも。ウフフフ。」

グリューエルの笑顔が輝いた。

 それから、グリューエルも含めた『三年生』たちの思い出話は、夜遅くまで続いた。

 

16-3 中継ステーション

 

 翌朝、オデット二世号は、中継ステーションに入港した。

 ヨット部一行が、オデット二世号を専用ドックに収納して、中継ステーションのフロアに降り立つと、ステーション内は大騒ぎだった。原因は、チアキの船、銀河聖王家の御用船ローズアロー2号が入港しているためだった。

 ローズアロー2号は、ピンク色の美しい流線型をしているが、翼のようなものは一切ついていない。そして、先端部の両側には、赤い日輪の上に七輪の青い薔薇の花束という銀河聖王家のエンブレムを付けており、銀河聖王家の御用船であることを示していた。その他には何も表示がない。もちろん、船籍は、銀河帝国軍・第一艦隊の高速巡洋艦という、れっきとした軍艦である。

 大勢の人がドックの窓際に張り付いて、ローズアロー2号を眺めていた。

「銀河聖王家の船なんて、初めて見たよ。」

「あれが、銀河聖王家のエンブレムかぁ。へえ~~~。」

「うわーー、カワイイ。ピンク色の船。さすが、お姫様の船よねえ。」

「これが、重力制御推進方式という、最新技術の粋を集めた軍艦かぁ。

 でも、これで本当に飛べるのかい? 

 そもそも、翼も無いし、ジェット噴射口も無いじゃないか。」

「こんな、レジャー専用船みたいなのが、たった一隻で、我が海明星の星系軍の全艦隊より攻撃力が上回るといわれているそうだけど、本当かなぁ。実感わかないよ。」

「おかあさん、キンギョ(金魚)」

 小さな男の子が、チアキの船を指さして言った。

 この子の目には、ピンクの流線型が魚の形で、先端についた聖王家のふたつのエンブレムが目玉に見えたようだ。

「まあ、そうね。金魚よね。」

「これはいい。ゴールデンプリンセスの船が、ゴールドフィッシュ(金魚)か。」

「あはは・・・。」

 男の子の話を聞いていた大人達が笑った。

 もちろん、ゴールデンプリンセスとは、マスコミがチアキに付けた愛称である。

 

 白凰女学院ヨット部一行は、警備の都合で、群衆の集まるフロアを避けてドックの中へ入り、船のタラップに向かった。

 タラップの前では、中継ステーションの艦長一行が整列して待っていた。現在、中継ステーションは警備強化のため星系軍が管理しており、艦長はロビンソン少佐である。

「艦長のロビンソンです。

 王女殿下、航海のご安全をお祈りします。」 

「少佐、お見送り、ありがとうございます。行って参ります。」

 チアキが答えた。両脇に控えた、軍服を着たスカーレットとミニスカ学生服の茉莉香も敬礼した。

 王女が現れたことに気づいた群衆が歓声をあげた。

 チアキは、歓声に軽く手を振って応え、船に乗った。他のヨット部員も続いた。

「さすが、ゴールデン・プリンセス、お姫様ぶりもカッコ良いねえ。」

 手を振るチアキとそれに応じて沸き返る観衆の反応をみて、リリイが言った。

 

 ドアが閉まり、数分後、減圧の完了を告げるブザーが鳴り、ハッチが開いた。

 ローズアロー2号は、ドック内でふわりと浮き上がると、風のようにすーっと移動してドックを飛び出していった。

その様子を、群衆はじっと眺めていた。

「ああ、動いた、動いた。」

「推進剤の噴射も無いのに動くなんて、不思議だね。スゴイ。」

「こんなの、初めて見たよ。」

 ローズアロー2号は、追い出し航海のフィナーレ、ヨットステーションへヨット部員を運んでいった。

 

16-4 チアキの個室(ローズアロー2号)

 

 ローズアロー2号では、ヨット部一行はチアキの個室に通された。

「まあ、宇宙船の中だからこのくらいの部屋だけど。

 とにかく椅子に掛けてよ。今、お茶を持ってきてくれるから。」

 一行が楽に座れる数の豪華な椅子が広々とした部屋に用意されていた。

 メイドさんが入れてくれたお茶を飲みながら、皆、部屋の中を見回してきょろきょろしている。

「うわーっ、すっごい部屋。ピッカピカの、フッカフカ。」

「宇宙船の中まで、この広さ、この仕様のお部屋なんて、さすが銀河聖王家ですね。」

「壁紙がなかなか良いセンスよね。草花の柄ね。家具も猫足のクラシックなデザインね。」

「壁紙は、イングリッシュ・クラシックという伝統的な柄のひとつだそうよ。」

「へえー、きれいね。よく見ると、隅々まで細かい花や葉が書き込まれているのね。」

「チアキちゃん、こういう柄の壁紙が大好きだったものね。チアキちゃんの好み、よくわかってるんだ。」

「まあね。この船は、お母さんからの誕生日プレゼントだったし。」

 チアキは嬉しそうに笑った。

「お母様にめぐり会えてよかったですね。」

「ええ、ありがとう。いろいろあったけどね・・・。

 茉莉香について銀河帝国に入っていったときは、まさか、こんな結果になるとは想像してなかったけどね・・・。

あっ! ハラマキ!

壁のスイッチとか、いろいろあるから触らないでね。

弁天丸に始めて乗ったときのようなことになっても、私、知らないからね。」

キョロキョロしながら部屋の中をうろつき始めたハラマキに、チアキが言った。

 

「そう言えば、始めて弁天丸に乗ったとき、ハラマキったら、『ポッチ』って、いきなり知らないボタンを押して、なんと弁天丸の主砲をぶっ放したのよねえ。」

 リリイが言った。

「ええ~~! そんなこと、あったんですかぁ」

「すご~~い。」

 一年生達が驚いた。

「ほんと、危なかったねえ。お陰で星系軍には追いかけられるしさあ・・。」

「でも、あれって、発射装置にセーフティ・ロックがかかっていなかったの?」

「そういえば、そうね。あの時はそんなこと、わかんなかったけど。」

「そう。今なら分かるけどね。

 茉莉香、弁天丸って、とても危険な状態のまま停泊してたんだねえ。」

「茉莉香、船長として問題じゃないかなあ。

 今もあんな調子なの?

 私が乗った帝国軍の戦艦では、主砲には常に何重にも厳重なロックがかかっていたよ。」

軍艦に詳しくなったウルスラが言った。

「ナハハ・・・まあね。プロの海賊船だからね。

 セーフティ・ロックなんて、そんな面倒なことはねえ・・・。」

 茉莉香が苦笑いして、弁解した。

 

「チアキ先輩、ここはリビングですよね。まだお部屋があるんでしょう?」

「あとは、寝室、浴室、衣裳部屋、TV電話用の執務屋、食堂、従者用の部屋、医務室と客間、・・。」

「すごいね。それみんな、チアキちゃん専用?」

「一応ね。この船、そもそも私専用の船だから。」

「ねえ、寝室見せてよ。

 あるんでしょ。天蓋つきの御姫様ベッド。見たいなあ。」

「だめ。恥ずかしいから。」

「いいじゃないの。それとも、彼の写真とかぁ、見せられないものが飾ってあるのかな。ウフフフ・・・」

「そんなのある訳、ないでしょ。」

 チアキは顔を赤くして否定した。

 

その時、部屋の中を眺めて、あちこち触って回っていたハラマキが、部屋の奥のドアの横にあるスイッチを見つけた。

「フフフ、このスイッチ、なにかなぁ。押してみようかなぁ。フフフ♪♪ 」

「あ、ダメ。開けちゃ。」

 チアキの制止が聞こえないふりをしたハラマキが、鼻歌を歌いながら、スイッチを押すと、ドアが開いた。

 予想通り、ドアの中は寝室であった。

 部屋には天蓋付きのベッドや化粧台があったが、どれも女の子にとって夢のような豪華さだった。

 化粧台や棚の上には、カワイイ小物が所狭しと並んでいた。

「うわあ!ピカピカ。」 

「すてき!かわいいものがいっぱいある。」

「お姫様の寝室って、こんなに輝いているんだ。」

 部員たちはいっせいに部屋を覗き込んで、叫んだ。

 

 興奮する一年生達を眺めながら、三年生たちがチアキを囲んだ。

「ああいうカワイイ小物とか、ぬいぐるみとか、チアキちゃん、大好きだものね。」

「そうそう、運河通りのお店を、よく一緒に見て回ったよねえ。」

「そうねえ。楽しかったよねえ。

 まあ、あの小物は、たいていお母さんのプレゼントなんだけどねえ。

 お母さんは私が赤ちゃんの頃に分かれたきりだったから、時々、私のことを幼児のように扱って、小さい子供の喜びそうなものをプレゼントしてくれるんだけどねえ・・・。」

 チアキが笑顔で言った。

「お幸せそうですね。」グリューエルが言った。

「ありがとう。」

 

 しかし、『三年生』達がほのぼのとした会話をしている間に、好奇心旺盛な一年生達は、ぬいぐるみを抱きしめたり、化粧品のブランド名を確かめてその香りをかいだり、鏡台の前に座って自分の髪をといだり、天蓋付きベッドを覆うレースのカーテンを開けて中に入り込んだりと、チアキの寝室を『侵略』しようとしていた。

「ああ! だめよ。そこまで。

 そろそろヨットステーションに着くわよ。

 はいはい、みんな出発の用意をして・・・。」

 顔を赤くしたチアキが、あわててみんなを追い出して、ドアを閉めた。

 

16-5 未来への航路(海明星衛星軌道上ヨットステーション)

 

 ヨットステーションに着いた白鳳女学院ヨット部員は、あわただしく搭乗手続きを済ませ、全員がヨットに搭乗した。

 いよいよ追い出し航海のフィナーレ、スペース・ディンギーによる海明星の衛星軌道飛行と新奧浜市への帰還のはじまりである。

 

「こちら、白凰女学院ヨット部部長、ナタリア・グレンノースです。

 ヨットステーション、聞こえますか。

 出港許可をお願いします。」

「聞こえます。こちらヨットステーション。出港を許可します。」

「さあ、いくぞ~~。出港。」

「おお!」

 ナタリアの号令で、白鳳女学院ヨット部一行の一人乗りスペース・ディンギーが次々と出航する。

「アイ・ホシミヤ 出港します。」「了解」

「ヤヨイ・ヨシトミ 出港します。」「了解」

「加藤茉莉香 出港します。」「了解」

「チアキ・ブルーローズ 出港します。」「了解」

「ウルスラ・アブラモフ 出港します。」「了解」

「リリイ・ベル 出港します。」「了解」

「原田真希 出港します。」「了解」

「サーシャ・ステープル 出港します。」「了解」

「グリューエル・セレニティ 出港します。」「了解」

「グリュンヒルデ・セレニティ 出港します。」「了解」

「ジェシカ・ブルボン 出港します。」「了解」

「メリー・ランバート 出港します。」「了解」

そして、他の一年生が続いて名前を名乗って、出港していった。

 

少女たちを乗せた宇宙ヨットは、雁型の編隊で進んでいく。

 眼下には、青く輝く海明星が見えている。

 海は青く、大陸は緑濃い。

 そして頭上には母星である「たう星」が少女たちの進む空の道を照らしている。

 

 彼女たちにとって、希望に満ちた未来への航路は、まだ始まったばかりである。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。