宇宙海賊キャプテン茉莉香 -銀河帝国編-   作:gonzakato

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 帝国海賊加藤茉莉香の成人の祝いが、宇宙船パイレーツ・キャッスルで華やかに行われます。弁天丸のクルー達は、今日は実行委員会の事務局として祝いの会を仕切っています。
 しかし、そこは海賊達のやること、しだいに茉莉香そっちのけで、「馬鹿騒ぎ」に発展していきます。そして最後に、、、。
 本章のタイトルの意味が分かるまで、是非お読み下さい。


第十三章 幽霊海賊の秘宝

13-1 宴会場(パイレーツ・キャッスル船内)

 

 レッドクリスタル星域外延部の宇宙空間に帝国海賊の宇宙船パイレーツ・キャッスルが停泊している。その港湾区画には、今日は極めて多数の船舶が停泊している。今日は、パイレーツ・キャッスルの宴会場で、帝国海賊キャプテン・加藤茉莉香の成人の祝いが行われるため、招待客が大勢詰めかけているためである。

 今日の成人の祝いは、帝国海賊八氏族の族長の呼びかけで行われる。呼びかけ人に八人の族長全員が名前をつられることは極めて異例で、普通は一人、せいぜい二人であるといわれる。これも加藤茉莉香の人気ぶり、あるいは彼女への期待の表れであると言われている。

 弁天丸の船員たちは、今日は受付やら来客の応対やらで、非常要員以外は船から降りて、宴会の裏方に回っている。

 シュニッツアーは「自分の姿は宴会向きではない」と言って、居残り組に入っているが、その本音は「バカ騒ぎ」には興味がないためと思われる。

 一方、ミーサは、なぜか帝国海賊にも顔見知りが極めて多く、受付に次々と訪れる海賊の大物やそのジュニアらと親しく挨拶して、受付を仕切っている。こういうミーサを見ていると、その経歴に関する謎は、ますます深くなっていく。

 宴会場の入り口には、

 加藤茉莉香及びギルバート・モーガンを中心に左右に四名づつ八氏族の長、

すなわち、ヴァイシュラ・キッド卿、

 インドラ・クキ卿、

 アグニ・チャン卿、

 ヤマ・ブラウン卿、

 ラークシャ・ガンジ卿、

 ヴァルナ・モーガン卿、

 ヴァーユ・スミス卿、

 イシャーナ・クラーク卿

 が並んで、来客の挨拶を受けている。

 みな、儀礼用の海賊服を着た正装である。

「こうして、船長とモーガン卿の息子が、長老たちに囲まれて並んでいるところを見ると、まるで、今日は二人のためのパーティのようだなぁ。・・・」

 受付係の百目が、宴会場の方を見て、こうつぶやいていると、

「コラ、ムダ口をたたかないで、黙って、仕事、仕事。弁天丸にとっても、今日は大事な日よ」

 ミーサが、少し叱るような口ぶりで言ったものの、来客とにこやかに会話を交わす茉莉香を見て、こうつぶやいて、微笑んだ。

「今日の茉莉香の海賊服姿、華があってきれい。芳紀まさに18歳か、いいわねえ。

 ・・・ それにしても、娘の晴れ姿を、理莉香も見に来ればいいのに、鉄の髭さんともども欠席だなんて。」

 

 

 成人の祝いは、形どおりに始まった。

 司会は、弁天丸を代表し、ケインが行っている。

 正面の席の中央に茉莉香とギルバートが並び、その左右に四人づつに分かれた長老がすわっている。他の参加者は、それぞれ指定された丸テーブルを囲んで座っている。

呼びかけ人の代表として、八族長の一人モーガン卿があいさつをした。

 つづいて、乾杯に続いて、会食が始まった。

 その間にも来賓のあいさつが行われた。

 高齢の大物海賊たちから順に挨拶があったが、それが終わると、三人の若者が挨拶に立った。

「元海賊ブルドッグの息子三人でございます。

「私が長男のジョージです」

「次男のトムです」

「三男のエバートです。」

「今日はブルック王国国王になったオヤジの代わりに、茉莉香さんのお祝いに駆けつけました。茉莉香さん、ご成人、おめでとうございます。・・・」

 と、あいさつを続けたが、

「さて、今、オヤジの代わりに来たと申し上げましたが、これは単なるごあいさつの名目に過ぎません。

 実は、先日、茉莉香さんたち銀河帝国の使節が自治条約の調印のためにわがブルック星系に来られた際に、私たち三人は、茉莉香さんに白い百合の花を捧げました。」

 

 それを聞いた途端、会場から歓声、拍手、足を踏み鳴らす音、机をたたく音などが響き出し、それまで静かだった宴会場の雰囲気が一変してしまった。もちろん、白い百合の花の意味を全員が知っているようだ。

「それで、もし今日これから、勝った者が茉莉香さんを嫁にするというような勝負があるならば、ぜひこれに参加して他の参加者を粉砕し、われわれの思いが一番と言う『男の気合』を見せたい。そう思ってやってまいりました。

 もちろん、茉莉香さんが望むなら、私たち兄弟同士の間で勝負を決することも覚悟してまいりました。

 茉莉香さん、私たちの気持ちは今も変わっておりませんよ~~。」

 三人は立ち上がって、正面の宴席にいる茉莉香に向かって手を振った。

 会場では、大歓声が湧き上がった。

「よし。よく言った。」

「そう来なくっちゃ。」

 

 いよいよ、バカ騒ぎの時間が近づいてきたようだ。

 茉莉香は、この様子を見て、ため息をついた。

「ナハハハ、王子さんたち・・・。でも、あ~あ、海賊ってやっぱり、こうなるなのかなあ。」

 この時、隣のモーガンが微笑して言った。

「ご心配なく。宇宙時代のいまどき、そんな失礼なこと、しませんよ。」

 

 そして、司会者であるケインが、騒がしくなった会場の人々に対してこう言った。

「え~~~、お話が盛り上がっているところ、まことに申し訳ございませんが、本日、これから行いますイベントには、そのような趣旨のものはございません。」

 もちろん、会場からは、「え~~~!?」という失望の声が上がった。

 それを聞いて、急にケインはくだけた調子で言った。

「しょうがないだろ。実行委員会で男たちからそういう『冗談』が出たらさあ、いや、あくまで『冗談』だよ、『冗談』。そうしたら、うちの弁天丸のミーサが、さあ、

 

『なにそれ。いったい女をなんだと思ってるの。

 誰? そんなこと言っているの。 』

 

 と、怒ったんだよ。

 そんなことを、本気で言ってる人って、ここにいるかい?」

 もちろん、誰も声を上げなかった。

 

「ミーサって、すごい。

 帝国海賊さんたちも、みんな、ミーサの言うこと、聞いちゃうんだ。」 

 茉莉香は、目を見張る思いだった。

 

 司会のケインは、話を続けた。

「それから、知ってる人は知ってるだろうけど、うちの船長は、第一王女様の副官になった時に『加藤茉莉香に関する勅令』によって、結婚に関してはあらかじめ女王陛下の許可を得ることとされているんだよ。

 だから、うちの船長と結婚するには、それ相応の度胸がいるってことよ。」

「えーーー!! 本当なの? 」

 茉莉香は、思わず声を上げて、周囲を見渡し、隣のモーガンと目が合った。

 モーガンは、微笑んで言った。

「ご存じなかったんですか?

 ご心配なく。女王陛下は茉莉香さんを娘のように大切に思っていらっしゃるんですよ。チアキ様と同じようにね。

 やっぱり、例の勅令、最後まで読んでいなかったんですね。」

「だって、勉強科目とかいっぱい書いてあって、とても長いから・・・途中で、以下同じかなと思って・・・・。

 ナハハ・・・・」

 茉莉香はまた苦笑いをした。

 

 一方会場では、ケインは、口調を格調高く改めて、話を続けていた。

「それでは、本日のメインイベントを始めたいと存じます。

 もともと、私ども弁天丸の加藤茉莉香船長は、親の都合で出生の際に海賊としての名付け親の儀式を行っておりませんでした。本日はその趣旨も含め、成人した加藤茉莉香の名付け親等を決める儀式を行いたいと思います。

 すでに、帝国海賊八氏族の各族長さんから、名付け親としての立候補を頂いておりますが、他に立候補のお申し出はございませんでしょうか。なお、立候補には、海賊宝箱一杯の9999(フォーナイン)の黄金インゴットか、または海賊宝箱一杯のテオドラ金貨が必要とさせて頂いております。」

 誰も返事はなかった。

 そもそも、帝国海賊八氏族の全族長が、名乗りを挙げること自体前代未聞の事態であり、彼ら全員が名乗りを上げている以上、他の海賊が名乗り出られるはずもなかった。

「では、立候補を締め切ります。続いて、これより、名付け親争奪戦を始めます。以後の進行は、弁天丸のクーリエが行います。」

「えー、弁天丸のクーリエです。よろしくお願します。」

 あいさつに立って一礼したクーリエは、メガネをはずし、金髪をなびかせ、鮮やかな青のシルク生地で作られたバニーガールの衣装を身に着けていた。彼女がスポットライトに照らされると大きな歓声が上がったが、それを無視して、クーリエは続けた。

「えー、では、まず第一回のゲームの種類を決めます。1ゲームで一人脱落のルールですから、8人の立候補者のため、計7種類のゲームを行うことになります。

 ゲームの種類は、公平を期すため、フォーチュン・ルーレットで決めます。では、ルーレットを回します。」

 ルーレットが回りだし、白い球がカードと書かれた箇所で止まった。

「カードゲームです。カードゲームと言えば、ポーカーでしょう。

 それでは、以後のカードゲームの進行は、弁天丸のルカが行います。

 なお、ご来場のみなさんは、手元のタブレット端末をご覧ください。

 失礼ながら、八長老のカードの腕前を評価して、勝敗にオッズをつけさせていただきます。これを参考に、さあ、みなさん、張った、張った! 

 お手元のタブレットのゲーム参加欄に、ご自分の海賊番号と、勝つと思う出場者の枠番号、そして掛け金を入力してください。

 さあ~~~行きますよ~~~~。 ギャンブル、スタート!!」

 

 クーリエが宴会場の来客を扇動する間に、宴会場の中央に、緑の布を被せた丸い大型のゲームテーブルが運ばれ、八人が席についた。八人の立体映像が宴会場に映し出され、カードゲームをする各人の表情が宴会の招待客にもわかる仕組みになっている。

 ルカが、シルクの白いワイシャツと黒のチョッキ、蝶ネクタイというカジノのディーラースタイルで、テーブルの上に、八人のカードを配り始めた。

 クーリエは、来客相手の賭けをあおり始めた。

「さあ、オッズが出ましたが、なんと、ポーカーに強いモーガン卿、最初の手札のオッズは1.0です。元返しでは海賊のギャンブルではありませんから、みなさん、モーガン卿以外の人に賭けてくださるようお願しますよ。

 さあ、誰が勝つでしょうか。張った、張った。」

 

 つまり、この場は茉莉香の名付け親を決めるカードゲームの勝敗とその勝敗に賭ける来客のギャンブルとの二重構造になっている。もちろん来客相手のギャンブルの胴元は弁天丸である。

 

 ルカが、カードを配り終えた。もちろん、八人の立体映像からは、各人の手札の内容は、見えない。

「クキ卿、カードは交換いたしますか?」

「2枚、頼む。」

 ルカが二枚のカードを配った。

「モーガン卿は、いかがいたします。」

「私はこれで十分。」

 会場からは、どよめきが湧き上がった。

 こうやって、カードの交換等が一巡したあと、クーリエが言った。

「さあ、会場のみなさん、賭けの投票はそろそろ閉め切りますよ。八人の顔色を読んで、賭けてください。・・・はい、締切。

 投票結果が出ました。なんと、ほぼ全員が、モーガン卿に賭けてます。これでは賭けになりませんね。」

八人は、掛け金のコールに入った。

「チップ、3枚。」「5枚」「降りた」「6枚」・・・・

「初回だから、手短に行こう。勝負だ。」

「ワンペア」「ツーペア」・・・

そしてモーガン卿が言った。

「ストレート・フラッシュ。頂きだね。」

「ああ~~。なあ、これじゃつまらんよ。普通のカード・ゲームじゃ、金を賭けると、昔から、モーガンは負けなしだからな。」

「だから、モーガン投資銀行は千年負け無しなんだなあ。」

 これには、観客たちがどっと沸いた。

 

「あれ? ここでどうして笑うの?」

 ゲームの成り行きを見ていた茉莉香は、ギルバートに聞いた。

「いやあ、オヤジの銀行は、昨年、株式相場の下落で大損したんですよ。それをネタにした皮肉ですね。」

 ギルバートが苦笑して答え、茉莉香も微笑んだ。

 

「なあ、海賊ポーカーにしようぜ。

 これなら、モーガンのカード運の良さは勝負に関係ないだろう。もちろん、掛け金は一番負けた奴の一人払いだ。」

 クーリエが言った。

「次回のゲームは、それでよろしいですか。ルールを確認いたします。海賊ポーカーは、インディアン・ポーカーと似ていますが、違いもあります。

 プレーヤーは、引いたカード一枚を、カードを見ずに、額につけます。あとは自分以外のプレーヤーの札を見つつ、丁々発止、皆で駆け引きしながら、降りるか勝負かを決めます。

 札の勝負は、カードの強さですが、ジョーカーが最強、キング13からエース1の順で数字の多い方が強いとさせて頂きます。カードのマークは問いません。数字だけで勝負を決めます。だから、エースが最弱ですね、お間違いなく。

ここまではインディアン・ポーカーと似ていますが、賭け金は、勝った者の総取りではなく、負けた者の一人払いです。つまり、一番弱いカードを持つ者が、各勝者の掛け金と同額を払うというところが、海賊ポーカーの特色です。

 なお、観客の皆様は、プレーヤーに対してプレーヤー自身のカードの内容を知られないように、ヤジにご注意願います。

では、ゲームを始めます。さあ、みなさん、張った、張った。」

「はい、カードを配ります。」

ルカが、一枚づつ、カードを配った。各人は、そのカードを額につけた。

 その途端、観客から、ため息が出た。なんと、モーガン卿がスペードのエースを額につけていた。このゲームでは、最弱のカードだ。

「え~~、このゲームでは、誰が負けるかに賭けて頂きます。失礼ながら、オッズはこれです。」

「お~~。」

 観客がどよめいた。モーガン卿のオッズは、50倍。彼が負ければ大穴。逆に言えば、勝って当然と言うものだ。他の長老のオッズは、3~5倍と低かった。

「さあ、張った、張った。

 ・・・はい。賭けの投票はここで閉めさせていただきます。

 投票結果はこの通りです。」

 観客の持つタブレット端末に結果が表示された。投票結果も、オッズ同様、モーガン卿が負けることに賭けた者は少ないが、他の誰が負けるか投票は分散した。

 

「では、ゲームを始めます。」ルカが言った。

「ハハハ、これでは、モーガンはついに年貢の納め時だ。」

 キッド卿が、モーガン卿が降りないように、彼を挑発した。

「ええ? お前、自分のカードを知らないから、そんなことを言うんだよ。

 悪いことは言わん、降りろ。

 投資コンサルタント業を営む俺様の言う通りにすれば、必ずもうかるぞ。」

 モーガン卿の自虐的なジョークに、また観客たちがどっと沸いた。

 駆け引きが始まった。もちろん、各人は自分以外ではモーガン卿が一番弱いと分かっているが、自分もエースを引いていると、二人負けになると言う心理戦になっている。

 そして、八人は、掛け金のコールに入った。

「チップ、3枚。」「10枚」「20枚」「26枚」・・・・

 掛け金は、どんどん吊り上っていくが、降りる者はいなかった。

 観客のどよめきが広がる。このままいけば、50倍の大穴だ。

「100枚」

「この辺で勝負にしよう。」 

「では、皆さん、札をテーブルに下してください。」

 大穴に賭けそこなった観客のため息が流れた。

 クーリエが言った。

「モーガン卿の一人負け。負けの総額がチップ100枚をはるかに超えましたので、この試合はモーガン卿の敗北と決定しました。」

「ハハハ、金貨700枚の大負けだ。やっぱり海賊は、楽しくて良いなあ。」

 長老たちの賭け事は、チップ一枚がテオドラ金貨一枚にあたるというのが相場である。

モーガン卿は、なぜか上機嫌で席を外し、クーリエが試合を続けた。

「では、つぎの試合のゲームの種類を決めるため、フォーチュン・ルーレットを回します。

 それ~~! ・・・・ 次は、酒です。

 もちろん、酔いつぶれたり、飲めなくなったり、気分が悪くなって席を外した者が敗者です。オッズはタブレットに表示された通りですよ。

 ・・・さあ、張った、張った。」

 

 ルカが、海賊のクック船長の絵が描かれたボトルを持って、言った。

「男の酒と言えば、これよね。『海賊魂』こと、パイレーツ・スピリッツ。

 すっきりした味で、45度の蒸留酒よ。アルコール度数はたいしたことないわ。ストレートで、何杯いけるかが勝負ね。

 これでは当たり前すぎでつまらないという皆さんには、弁天丸特製のワーム・スピリッツとか、スパイス・スピリッツも用意したわよ。楽しみね。フフフ・・・」

 ワーム・スピリッツとは、銀河系の星々に住む昆虫やその幼虫のうち、特に奇怪な姿をしたのを酒につけたものである。味も奇怪だと言われている。スパイス・スピリッツも同様に銀河系の星々に自生する様々なスパイスを酒に付け込んだものである。辛いもの、苦いものが多い。いずれもパーティの罰ゲームの定番である。

 

「では、一杯目だから、『海賊魂』からどうぞ。」

 ルカが、それぞれのストレート用の小さめのグラスに『海賊魂』を注いだ。長老たちは、一気に飲み干した

「なかなか良い飲みっぷりね。さすが海賊の男。さあ、二杯目を注ぐわよ。」

 二杯目も皆が一気に飲み干した。三杯目、四杯目、五杯目、六杯目・・・と、長老たちは、皆、簡単に飲み干した。

 ルカは、自家製と思われるボトルを持ちだして、言った。

「う~~ん、『海賊魂』じゃあ、勝負がつかないかしら。では、そろそろ、行きましょうか。

 私の秘蔵の品を提供するわ。はい、これはアンタレス星系の青サソリの幼虫を酒につけたものよ。青サソリ酒は、ちょっと舌が痺れる苦さなんだけど、それがまた良いのよね。それで、自分でも作ってみたけれど、弁天丸の人は誰も飲んでくれないのよね。船長は未成年だし。

 一応、毒抜きはできていると思うんだけど、毒見はまだやってないから・・・。そういうことで・・・。」

 アンタレス星系の青サソリの毒は、銀河系の生物毒では一番の猛毒として有名である。

 これには、さすがの長老たちも、皆、黙って顔を見合わせている。

 この時、茉莉香がつぶやいた。

「ねえ、ギルバートさん。45度の酒って、強いお酒なの? たとえば、火が付くくらいに、アルコールが濃いのかしら。」

 この茉莉香のつぶやきを聞いたキッド卿は、即座に隣のブラウン卿に言った。

「おい、キャプテン茉莉香が、『海賊魂』は弱い酒じゃないかと疑ってるぞ。お前、久しぶりに『火吹き男』の秘技を、キャプテン茉莉香にご披露しろよ。昔みたいに。」

「・・・わかったよ。俺がやればいいんだろ。俺が・・・」

 

 ブラウン卿は、『海賊魂』を口に含んで、ふうっと霧にして吹き出し、葉巻用のライターの火を近づけた。すると、吹いた霧から、ぼわっと炎が燃え上がった。これぞ、海賊の秘技『火吹き男』だった。

 これを見た観客から、盛大な拍手が沸いた。

しかし、予想外に火の勢いが強く、ブラウン卿の口元まで火がまわり、髭が焦げた。

「あちち・・・・。調子に乗り過ぎて、失敗だ。ハハハ・・・」

 ブラウン卿は、口元を抑えて、席を外した。

 この様子を見ていたクーリエが言った。

「いま、ブラウン卿が席を外しましたので、彼をこのゲームの敗者とします。」

「なんだ、つまらないわ。毒見をしてもらおうと思って、わざわざ持ってきたのに・・・。」

 これを聞いて、ほかの長老たちが安どしたのは言うまでもない。

 

「では、つぎの試合のゲームの種類を決めるため、フォーチュン・ルーレットを回します。

それ~~! ・・・・ 次は、弓です。」

 ・・・・

その後、試合は、弓、ビリヤード、腕相撲、射撃と進み、最終試合は剣と決まった。

 

「では、最後の試合を行います。最後の試合は、キッド卿とクキ卿の一騎打ち、剣による決闘といたします。

 勝敗の判定は、審判のルカが行います。

オッズはタブレットに表示された通りですよ。

 ・・・さあ、張った、張った!

 最後の勝負ですよ、負けている人は一気に取り返しましょう。勝っている人も、全額を賭けて儲けをさらに増やしましょう。さあ、張った、張った!

 ・・・はい。賭けの投票はここで閉めさせていただきます。投票結果はこの通りです。」

 観客の持つタブレット端末に結果が表示された。投票結果は、オッズ同様、半々に分かれている。

 ざわつく中で、ルカの緊張した声が響いた。

「試合開始!」

 二人の長老は、意外に身軽で、素早かった。

中央のテーブルを片付けて宴会場の中央に作られた空間の中で、カン、カンと剣を交わす音が響きはじめると、観客もしだいに興奮し、声援もそれにつれてどんどん大きくなっていく。

「いいぞ、やれやれ!」

「そこだ!、右、右に回り込め。」

「もっと踏み込め! 行け、 行け!」

 

「ええ!? 二人は、真剣で勝負しているんでしょう?」

 茉莉香は、心配そうな顔をして、隣のギルバートを見た。

「そうです。二人が使っているのは、真剣ですよ。」

「防具も付けずにやるなんて、危ないじゃないですか。怪我でもしたら・・・。」

 

 やがて、茉莉香の心配が的中した。クキ卿の突き出した剣が、キッド卿の胸に深々と突き刺さり、激しく出血した。

「ううう~~~。」

苦しそうな声を上げて、キッド卿は床に倒れた。

「ええ~~!、大丈夫ですか。ミーサ、応急処置をお願い。」

 茉莉香が、倒れたキッド卿に駆け寄ろうとしたが、彼を突き刺したクキ卿が茉莉香の前に立ちはだかった。

「ご心配なく。倒れたのは演技で、すぐに立ち上がるよ。」

 刺されたキッド卿は、胸に剣を突き刺したまま、立ち上がってきた。

「大丈夫、剣が胸に刺さっても、帝国海賊は、死なないよ。」

 キッド卿は、自分で胸に刺さった剣を抜いてみせた。剣は黒い血のようなものが、べっとりついていた。

 それを見た茉莉香は、少し冷や汗をうかべて、言った。

「・・・まさか、皆さん。サプライズとか・・・。」

「いいや、俺たち帝国海賊は、千年前にみんな死んでるから、二度と死ねないだけさ。」

「だから、不老不死だ。

 さあ、キャプテン茉莉香、貴方には青サソリの毒で作った酒をオススメするよ。

 これで、貴方も18歳の若さ、美しさそのままで、不老不死になるんだよ。

 いいだろう。 

 そして、ここにいるみんなは、今日は、キャプテン茉莉香が我々の仲間になるお祝いをするために墓から出てきたんだ。実は、この船は、千年前から帝国海賊の墓場なんだよ。

 これが、帝国海賊伝説の秘密さ。分かっただろう。

 さあ、青サソリ酒を召し上がれ。」 

 キッド卿は、青い酒をついで、青く輝くグラスを茉莉香に差し出して、勧めた。

そういう彼の顔には、次第に髑髏の白い骨格が浮き出てきた。

茉莉香は、宴会場の海賊たちを見回したが、皆、突然、骸骨やらゾンビやらの奇怪な姿に変身していた。いや、この場合は、元の姿に戻ったと言うべきだろう。

茉莉香は、目の前に近づいてきたミーサ、ルカたち、弁天丸のクルーを見て、言った。

「え、え~~~! ミーサたちも幽霊だったの?」

「ごめんね。一足先にね。・・だって昨晩、ルカが、青サソリの酒ではなく赤サソリの酒なら毒が無いから大丈夫というんで、みんなで飲んだのよ。

そうしたら、こうなっちゃった・・・どうやら、間違えて青サソリの酒を飲んじゃったらしいわ。」

 そういうミーサや弁天丸のクルーの顔は、しだいに白と青に変色し、やがて不気味なほど鮮やかな白と青で塗り分けられた隈取の顔になった。

「え、え、ギルバートさん! 助け・・・て・・・」

 茉莉香は、振り返ってギルバートに駆け寄ろうとして、立ち止まり、言葉を飲み込んだ。目の前のギルバートの顔にも、白と赤の隈取がしだいに浮き出てきた。

「え、え、ギルバートさん! あなたも、幽霊海賊だったの・・・?」

 茉莉香は、呆然として、ギルバートを見つめていた。

ギルバートも黙って、茉莉香を見つめていた。

「・・・・・」

 そして、ギルバートは言った。

 

「もうやめましょうよ。見てられませんよ。

茉莉香さんは、やっぱり怖がってるじゃないですか。」

「ダメじゃないの。最後までシナリオ通りにやらないと。『ホラー映画・幽霊海賊の秘宝』は、茉莉香のお気に入りのストーリーなのよ。」ミーサが言った。

「裏切り者。やっぱり、茉莉香の側についたわね。」ルカが笑った。

「ウフフフ・・・」クーリエは、笑いをこらえている。

 この時に、ギルバートや弁天丸のクルーの顔色が一斉にいつもの通りに戻った。宴会場の海賊たちも、全員、元の顔色、元の衣装に戻ったことは言うまでもない。最新の光学迷彩技術により、変身していたようだ。

「ええ~~~! みんなで幽霊に変身して、私を脅かした訳なの?」

 茉莉香の胸の中には、ほっとした気持ちと、バカ騒ぎと笑い飛ばしたい気持ちが湧き上がってきた。

 しかし、手元に給仕ロボットが、大きくて丸いクリームパイをたくさん運んできたのを見つけると、まったく違う衝動が湧き上がってきた。

「もう~~~~! 許してあげない。私は幽霊が苦手なのよ。それ知っててやったでしょ。

 それ、ちょっとひどいよ。もう。

 ええい~~~! それ! 

 もう~~~~! 私が笑って許すと思ったら、大間違いですからね・・・・」

 茉莉香は、クリームパイを手に取ると、帝国海賊の族長たちに向けて、次々と投げつけはじめた。パイは、次々に彼らの顔に命中した。

 族長たちは、投げつけられたパイを手に取ると、「お祝い返し」「御裾分け」などと言って、茉莉香の方ではなく、宴会場の海賊たちに向かって、投げつけた。

 これを合図に、宴会場の海賊たちがパイ投げ合戦を始め、宴会場中にパイが飛び交った。宴会場の中では、ブルック王国の王子達が周囲の海賊から集中攻撃を受けていた。

「キャプテン茉莉香を嫁にするだとお、10年早いわ。えい~~!」

「何を言うか、100年早いわ。えい~~!」

「1000年早いわ。え~~い!」

もちろん、王子達も負けていない。すぐさま投げ返している。

「何を言うんですか。私たちの『男の気合い』を見せてやる。」

「負けませんよ。えい!」

「茉莉香さんのためなら・・えい!」

 こういう調子で、宴会場のパイ投げ合戦は続いた。給仕ロボットが次々とパイを運んでくるので、投げるパイが無くならないからだ。

 

「『海賊のバカ騒ぎ』とは、これだったのかぁ・・・。」

 茉莉香は、その様子をしばらく呆然と見つめていた。そして、つぎのターゲットである弁天丸のクルー達の姿を探したが、既に逃げられていた。しかし、ギルバートは、逃げずに茉莉香の側近くに立っていた。

 茉莉香は、一瞬、迷ったが、

「もお~~~、なんかわかんないけど、あなただけは、許せないっていうか、腹が立つというか・・・」

 と言って、やはり、ギルバートにパイを投げつけた。

 パイが顔に命中したままで、ギルバートが言った。

「ゴメンさいね。やっぱり、怖かったんですね。」

「そういうことじゃなくて、なんというか・・・・。」

「でも、茉莉香さん、映画『幽霊海賊の秘宝』の結末はどうなったか、覚えてますか。」

「あれは、確か、ヒロインが秘宝を手に入れて、ハッピーエンド・・・。」

 そういいながら、茉莉香は、左手を腰に当てて、右手でVサインをして、にこやかにパッピーエンドのポーズを決めた。

 こういう姿を見せると、「加藤茉莉香は、ホラー映画が大好き」と誤解されてしまうのだが・・・・。

「そうですよ。だから、私たちも、あなたにプレゼントする『帝国海賊の秘宝』は、ちゃんと用意してますよ。こちらは、みんな本物ですよ。

 ほら、弁天丸のみなさん、運んできてください。」

 弁天丸の百目や三代目が、大きな台車に乗せて、沢山の海賊宝箱を運んできた。

 その箱の一つを開けて、ギルバートが言った。

「ほら、黄金と宝石がぎっしり。テオドラ金貨が詰まった箱もありますよ。」

「うお~~~、すごい、すごい。うわ~~~。」

 金貨や宝石を手に取って、たちまち機嫌の直った茉莉香が、族長たちの方を見ると、キッド卿が、顔や衣服にパイのクリームをいっぱいつけたままの姿で、茉莉香に近づいてきて言った。

「キャプテン茉莉香、成人した貴方を帝国海賊の一員として歓迎します。

 そして、貴方の後援者として、我々八人が、先ほど決めた順位に従って生涯、貴方の力になることを誓います。

 これは、古くからのしきたり通りに、そのことなどを記録した羊皮紙です。すでに私たちはサインしていますので、貴方のサインをください。」

 茉莉香は、また中身も読まずにサインした。

「さあ、これであなたも大人の仲間入り。おめでとう、キャプテン茉莉香。

ここにある『お宝』は、私たちだけでなく、この宴会場にいるすべての人たちからのお祝いです。どうか、お納めください。」

「おめでとう!!」

宴会場の隅々から歓声が上がった。

「あ、ありがとうございます。みなさん。」

 

 

13-2 弁天丸のブリッジ

 

 成人の祝いを終え、弁天丸は、次の仕事に向けて航海中である。ブリッジでは、茉莉香とクルーたちが「成人の祝い」について話していた。

「ミーサ、あれはないよ。本当に怖かったんだからね。私、そのことは、まだ怒ってるからね。」

「私じゃないわよ。そんなくだらないことを考えたのは。

 たぶん、茉莉香が帝国海賊の人たちが幽霊だったら面白いかなあって、何回も言ったでしょ。だから、それを聞いた実行委員会の人たちが、ひとつ、茉莉香の期待に応えて面白くしようと思って、考えたんじゃないのかしら。フフフ。

 それとも、勝者があなたを嫁にするというゲームの方がよかったかしら・・・」

「自分で相手を決められないなら、それもいいかも。」ルカが言った。

「何、言ってるんですか。今時、そんなのありえないって、ミーサも言ってくれたんでしょ。それに、私、幽霊を面白いなんて言ってませんよ。嫌がってたんですよ。」

「ハハハ、でも、茉莉香ちゃん、ゲームと一緒にやった賭けでは、胴元の弁天丸は大儲けよ。ざっと金貨2300枚の儲け。すごいわねえ。お祝いにもらったお宝と合わせると、船が一隻、新しく作れるくらいのお金になるかしら。」クーリエが言った。

「そうねえ。頭金くらいにはなるんじゃないかなあ。それにしても、ものすごく沢山のお祝いをもらっちゃったわね。」

「それだけ、期待されているってことよ。」ミーサが言った。

「幸い、船長の帝国海賊としての免許はほとんど制約がないから、船の新築もできる。私掠船の免許とは、大違いだな。重力制御推進方式の新型船をつくることもできるだろう。弁天丸二世号ができるな。」シュニッツアーが言った。

「それもいいかも。あれ、速いものね。

 この前、グランドマザーに乗せてもらった時、ほんとびっくりしたわ。あんなのが、銀河系をうろつきだしたら、宇宙航海が、まったく変わっちゃうね。私たち海賊は、どうなるのかした。」クーリエが言った。

「その点は、船長として、じっくり考えてます。」

「はいはい。それはそうと、例の羊皮紙の契約書、最後まで読んだ?

 後見人のことが書いてあるんでしょ。また、何か面白いことが書いてあっても、知らないわよ。フフフ・・・」

「ええ!?・・・ヤバイ!ヤバイ!ヤバイ!

 まだ読んでないわ。船長室の金庫に入れっぱなし。すぐに持ってくるわ。」

 やがて、茉莉香が、羊皮紙の契約書を読みながら、戻ってきた。

「ええ・・・・!」茉莉香が言葉を失っている。

「どうしたの? 見せて、見せて。」クーリエが言った。

 クーリエは、茉莉香が手渡した羊皮紙を読んで、言った。

「アハハハ、面白いわあ。やっぱり名付け親を決めてたんだぁ。」

「どれどれ・・」とミーサやルカも羊皮紙を覗き込んだ。

「アハハハ、なるほど、茉莉香が産んだ子供にも八人の名付け親が決まっているんだ。茉莉香、これじゃあ、子供は最低八人生まないとね。」ミーサが微笑んだ。

「それについては、『加藤茉莉香は、誠心誠意努力する』とも書いてあるわね。」ルカがそうい言って微笑んだ。

「茉莉香ちゃん、頑張らないとね、八人だって。」クーリエが笑った。

「ナハハハ・・・」

 茉莉香は、苦笑いして、ごまかした。

「でも、これって、おかしいわよ。宴会の時は、私の名付け親のことしか言ってなかったよねえ。ケインが司会をした時に、そう言ってたでしょ。」茉莉香が言った。

「いいえ。私は、ちゃんと『成人した加藤茉莉香の名付け親等を決める儀式』と言いました。『等(など)』と言う言葉を、ちゃんと言いましたよ。船長、聞いてました?」

 ケインが言った。

「ええ~~、何、それ。」

「それが大人の言葉づかいよ。茉莉香。」ミーサが笑った。

「そんなの、あり? ・・・・うーん、

 それに、私の子供の名付け親八人の順番は、なぜ最初にモーガン卿が出てくるの?

 あの人、一番最初にカードゲームで負けたから、最下位のはずでしょ。なぜなの?」

茉莉香が言った。

「え!?」

 女三人が同時に叫んで、茉莉香の顔をじっと見つめた。

「え? 三人とも急にどうしたの? まさか、あの勝負、八百長だったの。」

「失礼ねえ、ショービジネスと呼んでほしいわ。」ルカが言った。

「話はそっちの方向じゃ無いでしょ。クフフフフ・・・・。」

 クーリエが笑った。

 


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