もしもーし、誰かいませんか?
誰かいたら、もしもしに応えてください。
緩んだ糸電話は音を伝えない。独り、紙コップに語り掛ける悲しい一刻。
少女は静かにコップを置き、立ち上がる。
歩く。
糸を辿り、糸を頼りに。
対のコップに辿り着くが、やはり誰もいない。
もしもーし、私です。私はいませんか?
少女はコップを放り投げ、糸を辿った。
もしもーし、私はいますよ。何か御用ですか?
コップを放り投げ、糸を頼りに走る。
よかった。誰もいないのかと思いました。
コップを置く。走る。
ただ、話したかっただけ。話し相手がいないのは淋しいもの。
走る少女の顔は満面の笑み。
そうなんですか?私も寂しかったんです。話し相手が欲しかったんです。
ペタペタと軽い音が響く。
ここって静かよね?私たち以外にはいないのかな?
白いワンピースがはためく。
そうですよか?こっちは雑音が多くてげっそりしますよ。閑なそっちが羨ましいくらいです。
ぱたぱたと布が踊る音がする。
そうなの?人の声はする?
長い髪が揺れる。
ヒトの聲は……。わからないです。ざわざわと聴こえるだけなので……。
キャハハ……高い、笑い声が響く。
なら、今、この場で互いの声が聞こえるのは私たち二人だけってことね。
白い肌が、僅な光を反射する。
そうですね。こういう場所で互いの声だけでも聴こえるというのはとても、ありがたいことです。
ワンピースと髪が擦れる音すらも聴こえる。
そうね。暗くて姿も見えないけど、あなたはそこにいるのよね。
白い少女が、走りながら嬉しそうに大きく両手を広げ廻った。
はい。間違いなく私はここにいます。貴女も同じく、そこに存在します。
コップが落ちる音が聞こえた。
あなたって変なしゃべり方よね。固っ苦しいしゃべり方。
少女が走りながら嬉しそうにたどたどしいグランパディシャを決める。足も上がらず、着地も不安定だが、彼女の心境を美しく表していた。
そういう貴女の喋り方も異常に感じます。
ですが、美しく思います。
指で糸を辿る音が聴こえる。恐らく少女が糸を頼りに対の少女に向かっているのだろう。
私たちってそっくりね。寂しがり屋で、一人ぼっちで。でも、あなたがいる!
そうですね。私達はどこか似ているのかもしれません。でも、貴女がいるので、私は独りではありません。
そうね。あなたにあってみたいわ。こっちに来てみない?
会ってみたいですが、難しそうです。
何で?
貴女は貴女の心に会うことはできません
あなたはどこにいるの?
貴女のなかです
なら、一緒なのね。
はい。
それなら安心した。
それはよかったです。
あなたはここにいるのね。
はい。
私は一人じゃないのね
はい。
少女は独り、暗く広い部屋で高らかに笑う。