しかし、なぜかこうなってしまいました。
本当にもうどうしてこうなった!?
学園祭が終わり、二学期期末試験が近づいてきた。
「一学期中間の時、先生はクラス全員50位以内という目標を課しましたね。あの時の事を謝ります。先生が成果を焦りすぎたし、敵の強かさも計算外でした」
たしかに、さらには当時は最初からやる気もなかった寺坂とかいたし……
「ですが、今は違う。君達は頭脳も精神も成長した。どんな策略や障害にも負けず目標を達成できるはずです」
殺せんせーは言う。
「堂々と全員50位以内に入り、堂々と本校舎復帰の資格を獲得した上で、堂々とE組として卒業しましょう」
今は寺坂も含めて全員がしっかりとやる気だ。今回こそ確実に……すると杉野が言う。
「……そう上手くいくかな。進藤から聞いたけどA組の担任が変わったらしいぜ、新しい担任はなんと……」
杉野は言う。
「……浅野理事長だ」
マジか……!? ついにラスボス降臨かよ……
「正直、あの人の洗脳教育は受けたくないよ、異様なカリスマ性と人を操る言葉と眼力。授業の腕もマッハ20の殺せんせーとタメ張るし」
「あの人の授業受けたら、多分もう逆らえる気がしないな……」
全くだ。しかもそれが良い方の教育だけに特化しているわけじゃないからタチが悪い。人を堕落させる教育も出来るからタチが悪い。理事長の洗脳でギャンブル廃人へと化した人を見たことがある。あれは恐ろしかった。
そして、殺せんせーは今回のテストでいつものようにマッハの分身授業かと思いきや、言い出す。
「さて、今回のテストですが、今回は生徒の皆さんにも先生になっていただきます」
……先生になる?
「皆さんの得意な科目が苦手な人に授業してもらいます」
なんだと!?
「それっていつも放課後にやってる勉強会とは違うんですか?」
片岡が言う。そんなことやってたの? 俺知らないよ? あ、多川の事か?
「はい、放課後などに行っている勉強会では、どうも教わる人がかたよります。なので教室でクラスのみんなで教え合うことで、教える側もより深く理解が出来、何よりチームワークが強くなります。今回の目標は一人だけでは達成出来ませんからねぇ」
なるほど……
「もちろん先生もいつも通り分身での個人授業を行います。それでは皆さん始めましょう!」
殺せんせーの宣言で授業が始まる。
……。
…………。
………………。
放課後。山道を降りていると不破が言い出した。
「理事長と殺せんせーってさ、なんかちょっと似てるよね」
「あー、そうかもな……」
「どこが!?」
俺の答えに潮田が言う。
「二人とも、異常な力もってんのに普通に先生やってるとこ」
「だな、あれだけの才覚ありゃ総理大臣にでも下手すりゃなれるハズだ」
「なのに、たった一つの学園の教育に専念してる」
そうだ。だから隙も迷いもない。すると……
「あれ? 浅野君だ」
なんであいつが?……
「こんなことを君達に言いたくないが、頼みがある」
浅野は言い放つ。
「単刀直入に言う。あの怪物を君達に殺して欲しい」
デジャヴきたな……殺せんせーと烏間先生にはじめてあったときの事を思い出しちゃったよ。しかし、浅野の言うことは意味が違うのだろう……
「もちろん、物理的に殺して欲しいわけじゃない。殺して欲しいのは……」
「……理事長の教育方針……か?」
俺が言うと浅野は続ける。
「そうだ。具体的には君達E組がトップ50を独占して欲しい。その上で僕が1位になることで理事長の教育をぶち壊せる」
すると片岡が……
「……浅野君。君と理事長の乾いた関係はよく耳にする。ひょっとして、お父さんのやり方を否定して振り向いて欲しいの?」
一見、そう思えるが……
「ちげぇな、浅野。浅野家の家訓は『たとえ親だろうと蹴落とせる強者であれ』だ。今更、否定して振り向いて欲しいなんてコイツが思うかよ……」
俺の発言にE組の面子は目を丸くしていた。
「……そうだ。そう教わってきたし、そうなるように実践してきた。人はどうあれ、それがうちの親子の形だ。だが、僕以外の凡人はそうじゃない……今のA組はまるで地獄だ。E組への憎悪を支えに限界を超えた勉強をさせている。もしあれで勝ってしまったら、彼等はこの先、その方法しか信じなくなる。敵を憎み、蔑み、陥れる事で手にする強さは限界がある。君達にすら手こずる程だ。A組の皆は高校に進んでからも僕の手駒だ。偏った強さの手駒では、支配者である僕を支えることは出来ないんだ」
浅野は言い放つ。
「――時として敗北は、人の目を覚まさせる。だからどうか……正しい敗北を僕の仲間と父親に」
浅野は頭を下げて言う。浅野が頭下げるところなんて、奉仕部時代にも見たことねぇ……
このプライドの高い浅野がここまでするってことは、本当に荒木や小山達を気遣っているって事か……
……するとこの雰囲気をぶち壊すものが一人……
「え、他人の心配してる場合? 1位とるの君じゃなくて俺なんだけど」
おいこら! 赤羽!
「言ったじゃん。次はE組全員容赦しないって、1位は俺で2位は比企谷君。その下もずっとE組で、浅野君はいいとこ10番ってとこかな?」
おいこら! 俺に総合2位とか難題押し付けるな!? とるつもりではあるが……
「おお~、カルマがついに1位宣言」
「一学期期末と同じ結果はごめんだけどね」
「今度は俺にもまけんじゃねーのか、ええ!?」
村松、竹林、寺坂と言う。そして赤羽が寺坂に膝げりを入れる。そして磯貝が言う。
「浅野。今までだって本気で勝ちに行ってたし、今回だって勝ちにいく。いつも俺らとお前らはそうしてきただろ。勝ったら嬉しく負けたら悔しい。そんでそのあとは格付けとかなし。もうそろそろそれでいいじゃんか」
磯貝は言い放つ。
「『こいつらと戦えてよかった』ってお前らが感じてくれるように頑張るからさ」
赤羽も言う。
「余計な事考えないでさ、殺す気で来なよ。それが一番楽しいよ」
浅野はニッと笑い……
「面白い。ならば僕も本気でやらせてもらう」
浅野は去っていった。
そのあと、俺はみんなと別行動をとると……雪ノ下が居た。
「……比企谷君……」
「浅野から聞いた。A組が大変な事になってるみてーだな?」
「ええ、でも本当に大変なのはA組じゃないわ……」
……? どういう事だ?
「本当に大変なのは由比ヶ浜さんよ……」
「……小町から聞いたよ。理事長の洗脳受けたんだって?」
「ええ、今日も放課後に理事長特別講義を受けさせられてるわ……恐らく由比ヶ浜さんは今回、A組レベルどころか英傑レベルまで成績が急上昇するはずよ……」
マジか!? どんな授業だよ!?
「……でも問題はそこじゃないわ。A組でもE組でもない由比ヶ浜さんは今回のテストでトップ50のA組とE組に並ぶ成績をとってしまえば、このやり方しかできなくなってしまうことよ。A組の人はE組に負ければ目が覚めるでしょうけど、A組じゃない由比ヶ浜さんは並ぶだけで正しかったと錯覚してしまう……私にはどうしようも出来ないのよ……」
そうだ。由比ヶ浜は元々そんなに勉強が出来る方じゃない。E組に来たとき由比ヶ浜がいなかったのが不思議に思ったくらいだ。いつもなら寺坂や菅谷といい勝負の由比ヶ浜だが、今回はかなりの強敵となり、トップ50に入っただけで洗脳の虜になってしまう……だが……
「……その対策は、本当は気がついてるんだろ? 雪ノ下」
「ええ、だけど……」
たしかにその方法はいばらの道だ。しかし……
「それしか方法はねぇだろ? 雪ノ下、お前にそっちは任せる」
「……E組に入って、変わったのね……わかったわ。それと今回のテスト。私も負けるつもりは無いわ」
そう言って、雪ノ下は去っていった。
いよいよ最終決戦。どうなることやら……
二学期期末編の途中ですが、次回は番外編になると思います。そろそろ浅野君と八幡の因縁を投稿したいので……ちょっと時間がかかりそうですが、頑張ります。
タイトルは一昨年の時間。