八幡とは話しませんが。
進路相談のあった翌日。
潮田のかーちゃんが潮田の転級相談に来るとの事だ。
本来、E組では三者面談や正式な家庭訪問を行う場合、烏間先生がやるのだが、タイミングが悪く現在はアメリカに防衛省の仕事で出張中だ……
「殺せんせーは任せとけって言うんだけど……」
殺せんせーじゃダメだろ……松方のじいさんの時は百歩譲ってよかったが実の親じゃ話は別だ。自分の子供が未知のモンスターの元で暗殺やってるなんて知ったら転級どころか転校させられるぞ……
「じゃあ、私が代わりにやる? 担任役」
ビッチ先生の提案。まあ、鶴田さんや鵜飼さんがやるよりはいいと思うが……
ためしにと片岡が母親役で面談の練習をしてみる。
「教師として最も大事にしている事はなんですか?」
「あえて言うなら、一体感ですわ」
一体感?
「まず、渚君にはキスで舌を使わないようにさせています」
あ、ダメだこりゃ。片岡は殴りかかろうとするが潮田がとめた。
「問題外だ」
「訴えられるぞ。こんな痴女担任」
ごもっともです。
「ていうかさ、うちらの名目上の担任って烏間先生だよね?」
「だな、少なくとも担任が男か女か位は統一しねーと親同士で話があわなくなる。ビッチ先生の代役はどっちにしろ無理だ」
速水と俺とで言うと、教室の外の殺せんせーが……
「ヌルフフフ、むしろ簡単ですよ。先生が烏間先生に上手く化ければいいのでしょう?」
なんでそんな発想になるのか? いや、最善策かも知れないが……
「いつものクオリティの低い変装じゃ、誤魔化せねーぞ」
「今回は完璧です!」
殺せんせーは自信満々に教室に入って来た。
「おう、ワイや、烏間や」
『再現度ひっく!?』
全員思った。殺せんせーの姿は烏間先生と似た髪型のヅラを被り、腕がソーセージみたいになってダサいパンタロンをはいただけだった。
「いつもの似せる気ゼロのコスプレじゃねーか!」
「烏間先生、そんなダサいパンタロンはいてない~」
「そしてなぜ関西弁!?」
そして殺せんせーは……
「いや、でも眉間のシワとかそっくりやろ」
「その前に鼻! 口! 耳も!」
「なんで腕がソーセージみたいになってんだよ」
「烏間先生のガチムチ筋肉を再現したんや」
本当に無駄な所ばかりこるな~。
「今までギャグのノリでごまかしてきたけど、真面目に人間に似せるのって難しいね」
「最大の問題はサイズね。太ってるだけって言うのも限界があるし……」
「座りっぱにして絞り出すしかないかな?」
俺らは殺せんせーを机の中に押し込む。
「顔のパーツは菅谷。頼むぞ」
「りょーかい」
かくして、殺せんせーを烏間先生に変装させて、ころすま先生誕生したのだった。
ころすま先生を用意して、潮田を校舎の外で待機させると、一人の女性が来た。
「渚のかーちゃんだ」
あれがか。けっこうきつそうだ。
俺らは教室に隠れて待機。
「ようこそ、渚君のお母さん。山の中まで大変だったでしょう、冷たい飲み物とお菓子でも」
ころすま先生は自作のグァバジュースとマカロンを出す(潮田のかーちゃんの好物らしい)。
そして本格的な面談の前に雑談に入る。
「渚君から聞きましたが、体操の内脇選手のファンだそうで、この前の選手権、大活躍してましたねぇ」
「あら、先生もご覧になってたんですか?」
相手のツボを押さえてる。流石殺せんせーだ。
「まぁ、しかし、お母さん、綺麗でらっしゃる。渚君も似たんでしょうかねぇ」
ころすま先生がこの発言をした瞬間になにやら潮田のかーちゃんの表情がこわばった?
「この子ねぇ、女でさえあれば私の理想にできたのに」
潮田のかーちゃんは潮田のヘアゴムをとって言う。『私の理想』?
「えぇ、この位の齢の女の子だったら長髪が一番似合うんですよ。私なんか子供の頃は短髪しか許されなくて」
この発言でなんとなく、潮田が髪を伸ばしていた理由がわかった気がした……
「そうそう、進路の話でしたわね。私の経験から申しますに、この子の齢で挫折する訳には行きません。椚ヶ丘高校は蛍大合格者も都内有数ですし、中学までで放り出されたら大学も就職も悪影響ですわ。ですからどうかこの子がE組を出られるようにお力添えを」
「……渚君とはちゃんと話し合いを?」
「この子はまだ何もわかってないんです。失敗を経験している親が道を造ってやるのはとうぜんでしょう」
潮田がなにか言おうとしたが、潮田のかーちゃんが黙らせてしまった。
ころすま先生は――
「なぜ渚君が、今の彼になったのかを理解しました」
――ヅラをとって言った。
潮田親子は驚いて吹き出す。いいのか? 一応、烏間先生役だぞ?
「私、烏間惟臣は……ヅラなんです!」
烏間先生がヅラと言うことにされてしまった。
「お母さん。髪型も高校も大学も、親が決めるものじゃない。渚君本人が決めるものです」
ころすま先生はヅラを引き裂いて言う。
「渚君の人生は渚君のものだ。貴女のコンプレックスを隠すための道具じゃない」
その通りだ。
潮田はこの母親に二世の人生を強制されてきたのだろう。潮田はこの親の機嫌を伺いながら生きてきたからあんな才能を身に付けてしまった。
「この際ですから担任としてハッキリ言います。渚君自身が望まぬ限り、E組から出ることは認めません」
ころすま先生がこの発言をすると、潮田のかーちゃんはぶちギレて叫んだ。狂いすぎてなんて言っているのかは、わからないが言いたいことはなんとなく理解できる。
「見てなさい! すぐに私がアンタの目覚まさせてやるから!」
潮田のかーちゃんはE組校舎を出ていった。
ころすま先生は殺せんせーに戻り、潮田に言う。
「うーむ、つい強めに言ってしまいましたが、最も大事なのは渚君自身が意志をハッキリ言うことですよ」
潮田は弱気だ。
「……でも、今は一人じゃなんにも出来ないうちは、母さんの2周目でいた方が……」
「なんにも出来ないわけがない。殺す気があればなんでも出来る。君の人生の1周目は、この教室から始まっているんです」
殺せんせーは潮田をいつもの髪型にまとめて言う。
なにはともあれ、三者面談は終わった。
そんな中、俺はひとつの疑問があった。
「つか、殺せんせーがマッハで烏間先生を連れてくる。じゃ、ダメだったのか?」
空気が固まった。え? なんかおかしいこと言った?
『それを面談が始まる前に言え!』
誰も気がつかなかったのだろうか?
その日の夜。潮田親子はE組校舎で現れた殺し屋に襲われかけたが、潮田が殺し屋を倒してかーちゃんを守ってE組に残ることを一応は許してもらったらしい……
次回は学園祭編に入ります。
俺ガイルキャラを出します。(予定)