暗殺教室でも俺の青春はまちがっている。   作:sewashi

72 / 109
棒倒し開始。
八幡の役割は……


六十七時間目 棒倒しの時間

『ただいまより、A組対E組の棒倒しを始めます。両者整列』

アナウンスがかかり、俺らは並ぶ。

「よっしゃ、皆! いつも通り殺る気で行くぞ!」

おうよ! とE組の面子の返事。

「彼等はライオンに処刑される異教徒だ。A組の名を聞くだけで震えて鉛筆も持てないようにしてあげよう」

おーう、とA組の面子の返事。

『椚ヶ丘中体育祭、棒倒しのルール説明! 相手側の支える棒を先に倒した方が勝ち! 掴むのはいいが、殴る蹴るは原則禁止。武器の使用ももちろん禁止! 例外として! 棒を支える者が足を使って追い払うのや、腕や肩でのタックルはOKとする!』

そしてアナウンスが続く。

『なお、チームの区別をはっきりする為、A組は帽子と長袖を着用する事!』

そうアナウンスが流れてA組は長袖と――

「あれ、帽子じゃなくてヘッドギアだぞ」

「要するにあっちだけ防具ありか」

杉野と岡島が言ったあと……

「あれって、確実に去年の比企谷対策だよな……」

「浅野の奴、結構根にもってんだな……」

前原と千葉が言った。

本当に去年はすみません。

とにかく、棒倒し開始だ。

人数差は倍。少人数で勝ちたいなら普通は防御を捨てて攻める……と浅野は予想するはずだ。

……だから俺らの初期陣形は……

『お、おい、勝つ気あるのかE組。攻める奴が一人もいないぞ!』

……全員守備になり、完全防御形態だ。

そして誘い出す。

浅野はアメリカ男の攻撃部隊五人に攻撃に入らせる。

(よし、村松、吉田。なるべくザコっぽく行け!)

(了解)

(ザコっぽくな)

吉田と村松がアメリカ男に立ち向かう。

「くそが」

「無抵抗でやられッかよ!」

そして――

 

ドゥッ!

 

吉田と村松はアメリカ男のタックルで客席まで吹っ飛んだ。

「亀みたいに守ってないで攻めたらどうだ。フン、と言っても通じないか【英語】」

……ビッチ先生の英会話の授業のお陰か、このアメリカ男の英語が何て言っているかは大体は俺でも分かる。会話できるかは不安だが……あと、読み書きも不安だが。

そして赤羽が英語でアメリカ男に言う。

「いーんだよ、これで。今の二人はE組の中でも最弱……って感じごたくはいいから攻めてくればぁ?【英語】」

するとアメリカ男は浅野の方をチラッと見てから……

「では、見せてもらおうか【英語】」

他の四人と共に突進してきた。今だ磯貝!

「今だ皆! “触手”!」

磯貝の暗号によって俺らは……ジャンプして防御をどいた。

そして勢い余った五人の上に乗っかる。そして――

 

ずん!

 

自軍の棒を半分倒してアメリカ男を中心としたA組五人をがんじがらめにした。

「け、ケヴィンはん! 動かへんから何とかしておくれやすえ!【英語】」

「だったらまずはテメーがどけ! 重いし、その訛りが腹立つんだよ!【英語】」

あ、瀬尾もいたのか? てか本当に英語の訛りが酷い。ビッチ先生に聞かせたら速攻で公開ディープキスの刑だな。

なにはともあれ、これでまずアメリカ男は封じた。あとは――

浅野は今度は助っ人無しの五人チーム二組を向かわせた。

「よし出るぞ攻撃部隊! 作戦は“粘液”!」

磯貝、前原、木村、岡島、杉野、赤羽の六人が中央突発。すると……

A組の向かってきた攻撃部隊がE組の攻撃部隊を追いかけてきた。しかもE組の攻撃部隊が向かっていった方向にはフランス男とブラジル男が……

そしてE組の攻撃部隊がとる行動は……

 

ドドドドドドドドド!

 

『なんで全員こっちくんの!?』

……観客席へ逃げ出した。

「場外なんてルールにはなかった。来なよ、この学校全てが戦場だよ」

赤羽が言う。イスと客を器用に使って赤羽達は逃げ回る。

そして観客達の視線が変わり始めた。

最初はA組の助っ人がE組をどれだけ吹っ飛ばすかを楽しみにしていた観客だが、今は『E組はどんな方法で勝つ気なのか?』と言う興味の視線に変わり始めた。

さて、そろそろかね?

さてここで問題です。さっきから俺はどこで棒倒しの状況解説をしているのでしょうか?

アメリカ男の上。つまりは自軍の棒を守っている?

実は違う。

(行くぞ!)

((おうよ!))

 

ガシィッ!

 

A組の棒に飛び込むE組が3人。俺と村松と吉田だ。

俺は自分のステルスヒッキーを生かして。吉田と村松は負傷退場のフリをして別動隊となり、客席の外からA組の棒へ向かっていたのだ。つまり俺は客席の外から棒倒しの状況解説をしていたのだ。

「へっ、受け身は嫌ってほど習ってっからな」

「客席まで飛ぶ演技だけが苦労したぜ」

いや、あれは素で吹っ飛んだだろ……そして俺の役目は――

「今だ! 磯貝!」

「逃げるのは終わりだ! 全員“音速”!」

「「「よっしゃァ!」」」

――俺らがA組の棒へたどり着いた事を磯貝に報告。A組が磯貝達の攻撃に向かい、守りが手薄のこの時に……

攻撃部隊の六人が懐に入る。

棒の防御部隊に韓国男がいるが、棒に引っ付いた俺らを無理やり引っ張れば棒ごと倒れる。すると……

 

ぶわっ!

 

「グエッ」

 

スッ……バキッ!

 

吉田と岡島が浅野によって棒から吹っ飛ばされた。

「君達ごときが僕と同じステージに立つ。蹴り落とされる覚悟は出来ているんだろうね」

本当にこういう所だけ親父にそっくりだな、浅野は……

そして客席に散っていたA組の面子も戻りつつある。磯貝まで落とされた。俺は――

「今だ!」

――ととある奴等に呼び掛ける。すると……

「何ッ!?」

E組……潮田、菅谷、千葉、三村が援軍。

「……ちょっと待て、あいつら守備部隊だぞ!?」

「……ってことは……E組の守備は二人だけ!? どうやって押さえてんだあれ!?」

そう、潮田達の守備部隊が攻撃へ向かったため守備は寺坂と竹林の二人だけ。竹林は観客に聞こえるように大声で言った。

 

「梃子の原理さ」

 

観客はまだ疑問に思っていたが……もちろん方便だ。いくら梃子でも五人を二人で支えるのは無理がある。だが……

「俺らは知ってんだぜ? 浅野、お前の目的がE組全員を潰すことだって。あいつらは棒を倒す指示がでない限り抜けれるが動けねぇ。俺らはお前に指示が出来ないようにしてやるよ」

「ふぐぐ!」

潮田や三村に邪魔されて指示どころか喋ることもままならない浅野。

「あ、慌てるな! 支えながら一人ずつ引き剥がせ!」

棒の下から小山が指示。

棒を倒せとアメリカ男達に指示した方が勝つためには賢明なのに……

仕上げは頼むぞ……

「来い、イトナ!」

 

ガッ! ビュンッ! ガッ!…… ゴトンッ!

 

堀部のハイジャンプによって堀部は棒の先端に飛び付き、俺らは棒を押してA組の棒は倒れた。すなわち……

「「「よっしゃああ! 勝ったああ!」」」

……E組の勝利だ。

『すっげー』

『よく勝ったな、あの人数差で!』

去年の俺のやったハチマチ偽造事件は卑怯さが悪目立ちして反則負けになったが、今回は誰の目から見ても不利な戦いを奇跡的に勝った事で反則負けもなく、観客もE組の評価が変わる。

……本当に勝ててよかった。

 ……。

 …………。

 ………………。

閉会式が終わり、片付けていると、周りは下級生を中心に『E組凄い』の声があちこちで聞こえる。

「へへ、なんか俺ら、マジでスゲーのかもしんねーな」

ま、暗殺なんてしてんだ。普通じゃないことは確かだな。

そしてE組にはまだ確認することがある。

「おい浅野。二言は無いだろうな?」

「磯貝のバイトの事、黙ってろよ」

「……僕は嘘はつかない。君達と違って姑息な手段は使わないからだ」

よく言うな……山ほど姑息を使っておいて……

ま、ともあれ、磯貝のバイトは黙ってもらえることになった。

「さすがだったよ、お前の采配。最後までどっちが勝つかわからなかった。またこういう勝負しような!」

おお、流石磯貝。発言もイケメンだ。

「消えてくれないかな。次はこうはいかない。全員破滅に追い込んでやる」

浅野はそう言って離れる。

「ケッ、負け惜しみかよ」

「いーの、いーの。負け犬の遠吠えなんて聞こえないもーん」

寺坂と中村の発言。ま、そうだわな……

「彼も君と同じ苦労人さ、磯貝。境遇の中でもがいている」

「そうなんだよな……俺も去年、反則負けとは言え、あいつを負かしたことで理事長から結構大変な思いさせられたらしいし……」

具体的にどんな思いさせられたのかは知らないが……

そして磯貝は……

「俺なんてあいつに比べりゃ苦労人でもなんでもないよ。皆に助けてもらった今日なんかさ『貧乏で良かった』って思っちゃったよ」

浅野のような派手さはないが、地道にコツコツチームを勝利に導く。

前でも上でもましてや下や後ろでもなく横にいるE組リーダー。それが磯貝だ。

リーダー対決はE組の完勝……

「うわっ、パン食い競争のパンの余りがある! これ持って帰っていいかな? ねっねっ」

……なのか?




長くなりました。
八幡を目立たせることは余りできませんでしたが、それが八幡の役目ですよね?
次回は松方のじいさん。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。