竹林君目線からスタート。
A組に入っての初授業。
「準備は出来てるか、竹林」
「E組の先生は適当だったと思うけど、A組の先生は進み早いから取り残されんなよ~」
「せっかく表舞台に戻ってこれたんだ、竹林君ならついてこられるさ。大変だろうが一緒に頑張ろう。ね」
浅野君にそう言われて授業に入る。
(これが……A組の授業!?)
僕は予想すらしない答えが出た。
(E組じゃ、一学期でやったとこだぞ)
しかもやたらと非効率的だ、早口で書いては消し書いては消しの繰り返しで生徒の都合は一切無用。
殺せんせーの音痴な替え歌レッスンの方がまだ難しく思う。
放課後。
「なあ、放課後、どこかでお茶でもしてかないか?」
「え、あ、なじもうとして気を使わなくていいぜ竹林、俺らすぐに塾だからよ。お前だってそうだろ? じゃな!」
A組のクラスメイトは勉強が出来てE組じゃない人間にはごく普通に接してくれるが昔の僕みたいにいつも勉強に追われてる。余裕なのは……六英傑の六人とあとは数人だけ。
比企谷や寺坂もあいつらなりに僕の事を知ろうとしてくれていたな……比企谷なんてぼっちを貫くとか言ってたくせに……
ん? なんかいる!
竹林視点から数時間前。
E組校舎。
「おはようございます」
竹林がA組に行った翌日。殺せんせーは真っ黒に日焼けしていた。
「何でいきなり黒いんだよ殺せんせー」
「急きょ、アフリカに行って日焼けしました。ついでにマサイ族とドライブしてメアド交換も」
なんだ、そのローテクなのかハイテクなのかわからん旅行は……
「これで先生は完全に忍者。人ごみで行動しても目立ちません」
恐ろしく目立つわ!
「そもそもなんのために?」
岡野が聞くと殺せんせーは答えた。
「もちろん、竹林君のアフターケアです」
アフターケア?
「自分の意思で出ていった彼を引き止める事はできません。ですが、新しい環境に彼が馴染めているかどうか先生にはしばし見守る義務がある」
なるほど……確かにな。
「もちろんこれは先生の仕事。君達はいつも通りに過ごしてください」
すると少しクラスは沈黙して、前原が言う。
「俺らもちょっと様子見に行ってやるか。暗殺も含めて危なっかしいんだよあのオタクは」
「なんだかんだで同じ相手を殺しに行ってた仲間だしな」
「ぬけんのはしょーがないけど、竹ちゃんが理事長の洗脳でヤな奴になったらやだな~」
倉橋の意見には同感だ。俺も見に行くか……
「うんうん、殺意が結ぶ絆ですねぇ」
そして放課後で本校舎。ほとんどの奴等は烏間先生に教わった植物のカモフラージュで、こっそりと見ているが、俺は関係ない。
「よ、竹林」
「うわっ、ひ、比企谷!? 何で? E組生徒は必要なく本校舎に入ることは禁止だよ!?」
俺は普通に校舎の中に入った。竹林とは廊下であう。
「大丈夫だよ。本校舎の妹に忘れ物を届けに来たって行ったら入れてくれたから問題ない」
「そ、そうなのかい?」
「なら、さっさと届けに行ったらどうだ? 比企谷」
そこで第三者、浅野学秀が話してきた。
「まあいいだろ? 本校舎に行くなら竹林がA組に馴染めてるかついでに見てこいって、E組の連中が言ってたからってのもあるんだよ」
「そうかい。ならしっかりと馴染んでいるから心配ないよ、だろ? 竹林君」
すると竹林は……
「あ、ああ。心配ないよ……」
と言う。
「そっか。んじゃ俺は小町探しに行くわ」
俺は行くと……
「比企谷。君は今でも、強者になりたいとは思わないのか?」
浅野が俺に言う。さっさと出ていけと雰囲気作っといてよく言うな……
「ねえよ。少なくとも、お前みたいな強者にはな……」
俺は本校舎を出た。小町の話はもちろん嘘だ。
……。
…………。
………………。
翌日。今日は創立記念日で全校集会がある。そして竹林がなにやらスピーチを行うようだ。
その事で千葉が……
「胸騒ぎがする。なにか大事なものをメチャクチャに壊してしまいそうな……」
奇遇だな。俺も感じる。
『僕のやりたいことを聞いてください』
ステージ上で浅野学秀が笑っている。竹林に何をさせる気か……
『僕のいたE組は、弱い人達の集まりです。学力という強さが無かったために本校舎の皆さんから差別待遇を受けてます』
そして竹林は言い放つ。
『でも僕は、そんなE組が、メイド喫茶の次くらいに居心地が良いです』
全校生徒。浅野学秀や俺らも含めて驚く。
どうやら浅野のやろうとしていることと竹林がやろうとしていることが違うようだ。
『……僕は嘘をついていました。強くなりたくて、認められたくて。でもE組の中で役立たずの上、裏切った僕を、E組の皆は何度も様子を見に来てくれた。忘れ物を届けに来たなんて嘘をついてまで来てくれた人も居ました』
それは俺のことか? 竹林……
『先生は僕のような要領の悪い生徒でもわかるよう、手を替え、品を替え、工夫して教えてくれた。家族や皆さんが認めなかった僕の事をE組の皆は同じ目線で接してくれた。世間が認める明確な強者を目指す皆さんを、正しいと思うし尊敬します。でも、もうしばらく僕は弱者でいい。弱いことに耐え、弱い事を楽しみながら、強いものの首を狙う生活に戻ります』
するとさすがに限界か、浅野学秀が動く。すると竹林は……
『理事長室からくすねてきました。私立学校のベスト経営者を表彰する盾みたいです』
竹林はそれを……
『理事長は本当に強い人です。全ての行動が合理的だ』
バシャァァン!
木製ナイフで叩き壊した。
『浅野君の言うには過去これと同じ事をした生徒がいたとか、前例から合理的に考えれば――』
竹林はスッキリした顔で言う。
『――E組行きですね。僕も』
全校生徒はポカーンとしている。俺は……
「おかえり……竹林」
小声で言った。
全校集会が終わり、E組校舎へ戻ろうとすると……
「比企谷!」
浅野学秀に呼び止められた。なんだよ……
「竹林君に何を吹き込んだ!」
は? なんのことだ?
「彼は言ったぞ、僕が怖がっているだけだと……君と同じ事を!」
「ほう、竹林も言ったのか?」
「白々しい。君が彼になにか言ったんだろ!」
「……浅野。悪いが今回、俺は竹林にはノータッチだ。竹林の自身の言葉だよ。それに――」
俺は浅野に言う。
「――その通りだろ」
俺はE組校舎に戻った。
数日後の体育。
「2学期からは新しい要素を暗殺に組み込む。その一つが火薬だ」
「か、火薬!?」
「空気では出せないそのパワーは暗殺の上で大きな魅力だが、前に寺坂君達がやったような危険な使用は絶対厳禁だ」
そういややったな寺坂。
「そのためには、火薬の安全な取扱いを一名に完璧に覚えてもらう。俺の許可とその一名の監督が火薬を使う時の条件だ。さあ、覚えてくれるものは?」
烏間先生は分厚いマニュアルを手にして言う。ほとんどの連中は嫌そうにしていたが……
「勉強の役に立たない知識ですが、まあこれもどこかで役に立つかもね」
「暗記できるか? 竹林君」
竹林は言う。
「ええ、二期OPの替え歌にすればすぐですよ」
竹林孝太郎。火薬監督として、E組に復帰。
次回はおやつの時間。
巨大プディング(プリン)!