2学期始業式。殺せんせー暗殺期限、残り6ヶ月。
俺らは体育館に集まると……
「久し振りだな、E組ども」
A組の六英傑の瀬尾。荒木、榊原、小山もいた。
「メゲずにやってくれ。ギシシシシ」
なんだったんだ?
「比企谷君」
ん? 今度は……
「……雪ノ下?」
「……2学期は頑張りなさい」
は? 雪ノ下が慰め? どうしたんだ?
そして始業式が始まる。そして終わっ――
『……さて、式の終わりに皆さんにお知らせがあります。今日から3年A組にひとり仲間が加わります』
ん? A組にも転校生か?
『昨日まで彼はE組にいました』
なんだと!?
『しかし、たゆまぬ努力の末に好成績を取り、本校舎に戻ることを許可させました。では彼に喜びの言葉を聞いてみましょう!』
そしてステージに生徒がたつ。
『竹林 孝太郎君です!』
なんで竹林が!? いや、夏休みメイド喫茶に行ったあと竹林の前に止まったリムジンは浅野理事長のリムジンだ。やはりと言うべきか……
『――僕は、4ヶ月余りをE組で過ごしました。その環境を一言で言うなら、地獄でした。やる気のないクラスメイトたち先生方にもサジを投げられ、怠けた代償を思い知りました。もう一度本校舎に戻りたい、その一心で勉強しました。生活態度も改めました。こうして来られたことを心底嬉しく思うと共に、二度とE組に落ちることのないように頑張ります。――以上です』
そしてステージの上にいた浅野学秀が……
「おかえり、竹林君」
そして……
『おかえり、よく頑張った!』
『偉いぞ竹林!』
『お前は違うと思ってた!』
他の生徒は竹林をたたえる。俺らは疑問で何も言えなかった。
……。
…………。
………………。
E組校舎に戻って言うことは当然、竹林の事だった。烏間先生は竹林の口封じのための交渉、殺せんせーは理事長に話を聞きに行った。
「なんなんだよ、あいつ! 百億のチャンス捨ててまでぬけるとか信じらんねー!」
「しかもここの事地獄とかほざきやがった!」
「言わされたにしたってあれはないよね」
確かに浅野の奴が紙を渡すとこが見えたからあのスピーチは竹林じゃなくて浅野が考えたものだろう……しかし、それをためらいもなく言うとは……
「竹林君の成績が急上昇したのは確かだけど、それはE組で殺せんせーに教えられてこそだと思う。それさえ忘れちゃったのなら……私は彼を軽蔑するな」
あの片岡がここまで言うとは……
今思うと、竹林はメイド喫茶の時も言っていたが要領が悪い。
暗殺訓練もナイフや狙撃、動きの基礎も最下位だった。
ひょっとしたら……
「竹林も考えての決断かもな……」
俺に注目が集まる。
「んだよ八幡。あいつの肩を持つのかよ?」
「そういうわけじゃねえよ寺坂。よく考えてみると竹林は訓練であまりいい成績を残せてねぇ、実際本当は居心地が悪かったのかもってことだ。種類は違っても寺坂の時と同じだ」
クラスの連中は少し考えた。
「でもよ、それならそれで相談くらいしてくれてもいいじゃねえか!」
「そうだ、放課後一言言いにいくぞ!」
……。
…………。
………………。
放課後。俺らは本校舎の校門前で竹林を待つ。
「おい、竹林!」
「………………」
磯貝が代表して竹林に聞く。
「説明してもらおうか。何で一言の相談もないんだ。竹林?」
竹林は黙ったままだ。すると奥田が……
「なにか事情があるんですよね? 夏休み旅行でも竹林君いてくれてすごく助かったし! 普段も一緒に楽しく過ごしていたじゃないですか!」
「ケッ、暗殺訓練の成績が最下位だったからって、暗殺と無縁になりたかったのかよ?」
寺坂も言うと赤羽が言う。
「賞金百億。やりようによっちゃ、もっと上乗せさせるらしいよ」
そうだ。一人で殺せば百億には変わりないが、俺らの夏休みの集団暗殺が殺せんせーを追い込んだことで集団で殺せば総額三百億まで上乗せされることが改めて告げられた。
「分け前、いらないんだ、竹林。無欲だね~」
すると竹林は……
「…………せいぜい三億~十億円」
「?」
「僕単独で百億ゲットは絶対無理だ。上手いこと集団で殺す手伝いが出来たとしても、僕の力で担える役割じゃ……分け前は多くても十億がいいとこだ」
俺が前に賞金を遺産分配のようにわけたときは百億円をE組28人と烏間先生とビッチ先生で30人で分けて一人三億にしたんだ。確かに上乗せさせても一人十億がいいとこかもしれない。
「僕の家はね、代々病院を経営してる。兄二人もそろって東大医学部。十億って金はうちの家族には働いて稼げる額なんだ」
なるほど……
「『出来て当たり前』の家なんだ。出来ない僕は家族として扱われない。僕が十億手にしたとしても家族が僕を認めるなんてありえないね」
竹林は悔しそうに続けて話す。
「『良かったな』『家一番の出来損ないがラッキーで人生救われて(笑)』と言われて終わりさ」
「………」
「昨日、初めて親に成績の報告ができたよ。トップクラスの成績をとって、E組からぬけられること、そしたら……『頑張ったじゃないか。首の皮一枚つながったな』って言われたよ。その一言をもらうためにどれだけ血をはく思いで勉強したか!」
竹林はさらに言う。
「僕にとっては地球の終わりより、百億よりも、家族に認められる方が大事なんだ」
竹林は呪われているかのように、辛そうだった。
「裏切りも恩知らずもわかってる。君達の暗殺がうまくいくよう祈ってるよ」
潮田は竹林を止めようたしたが、その潮田を神崎が止めた。
正直、竹林は親には認められてよかったとも思うが、なにか見落としている気がする。竹林はこのままでいいのだろうか……
次回は見守りの時間。