最上階を目前として、烏間先生も回復してきた。
見張りの一人を締める。
「ふうぅ~……大分体が動くようになってきた」
見張りを締める烏間先生を見て茅野と磯貝はビビっていた。
「まだ、力半分ってところだがな」
これで半分なのかよ!
「力半分ですでに俺らの倍強ぇ……」
「あの人ひとりで入った方がよかったんじゃ」
だよな。烏間先生の力半分で俺らの倍強いなら、俺らの力の差は四分の一。烏間先生も十分怪物先生ってことかよ……
そんなことを考えていると、律が最上階のパソコンカメラに侵入した。
黒幕はテレビモニターでウイルスに感染した奴等をにやにや見ていた。すると殺せんせーが言う。
「あのボスについてわかってきた事があります」
わかってきた事?
「黒幕の彼は殺し屋ではない。殺し屋の使い方を間違えています。元々は先生を殺すために雇った殺し屋。ですが先生がこんな姿になり、警戒の必要が薄れたので見張りと防衛に回したのでしょう……でもそれは殺し屋本来の仕事ではない。彼等の能力はフルに発揮すれば恐るべきものです」
たしかにさっきの銃撃戦は戦術で勝ったがあいつは狙った的を一ミリも外していない。赤羽の時も日常で後ろから忍びよられたらあの握力で瞬殺されたし、俺も光の加減をしっかりとされたらピアノ線に気づくことも出来ず殺られていたかも知れん。
俺らは烏間先生が締めた見張りからエレベーターのカードキーを奪って、最上階へ行く。
部屋の中はだだっ広い。俺らは体育で習った“ナンバ”で物音を立てないように黒幕に近づく。
いた。
奴の近くに治療薬が入っていると思われるスーツケース。プラスチック爆弾の起爆装置がつけられている。奴の手元にリモコンがある。
打ち合わせではまず接近。
取り押さえられればベスト。もし気づかれたら烏間先生が奴の腕を狙撃。それと同時に全員で襲いかかって拘束。
烏間先生の手の合図で今だ!
「かゆい」
黒幕が喋った。
「思い出すほどかゆくなる。でもそのせいかな、いつも傷口が空気に触れるから……感覚が鋭敏になってるんだ」
そう言って、黒幕は部屋中になにかを投げる。
これは……リモコンの予備!?
「言っただろう。元々マッハ20の怪物を殺す準備で来てるんだ。リモコンだって超スピードで奪われないように予備も作る。うっかり俺が倒れ込んでも押すくらいのな」
聞き覚えのある声だった。俺らは絶望的な顔を浮かべる……そう俺らは黒幕の正体を知っている……
「ロヴロさんが連絡がつかなくなった殺し屋四名。そして連絡がつかなくなったのは身内もいる。防衛省の機密費――暗殺に使うはずだった金をごっそり抜いて、俺の同僚が姿を消した」
烏間先生は黒幕の名前を言う。
「……どういうつもりだ。鷹岡ァ!!」
黒幕=鷹岡は回転椅子を使って振り向いた。
その姿はかつての甘いもの好きの近所の親父みたいな外面雰囲気はまるでなく、両頬にひっかいた跡がついて目はギョロッとした狂ったような男だった。
「悪い子達だ。恩師に会うのに裏口から来る。父ちゃんはそんな子に教えたつもりはないぞ。仕方ない。夏休みの補習をしてやろう」
鷹岡はリモコンを構えながら椅子から立つ。
「屋上へいこうか。愛する生徒に歓迎の用意があるんだ。ついてきてくれるよなぁ? おまえらのクラスは……俺の慈悲で生かされているんだから」
俺らは、ついていくしかないのか……
次回、鷹岡対渚リターンマッチ。
その名は必殺技の時間。