二階へ来ると、烏間先生が言う。
「……さて、君らをなるべく普段着のまま来させたのにも理由がある。入り口の厳しいチェックさえ抜けてしまえば、ここからは客のフリができる」
なるほど。学校のジャージや制服だと団体客でもなければ目立つからな。しかし――
「客？ 悪い奴等が泊まるようなホテルなんでしょ？ 中学生の団体客なんているンすか？」
菅谷が言う。その通りだ。中学生の団体客だと言うだけで目立つと思うが……
「調べてみたが結構いる。芸能人や金持ち連中のボンボンたちだ」
あー、なるほど……俺にもそういう奴には心当たりがある。王様のように甘やかされて育った上に悪い遊びに手を染める奴等だ。奉仕部時代に雪ノ下から聞いたことがあるな。正確には由比ヶ浜と話していたのを聞いていたのだが……
「そう、だがら君たちもそんな輩になったフリで、世の中をなめてる感じで歩いてみましょう」
え？ そんなことする必要あるの？
すると寺坂、吉田は不機嫌そうな顔。矢田、茅野はなにかにイチャモンつけてるみたいな顔。菅谷、赤羽は紙を丸めてタバコを吸ってるみたいな感じに、その他は不自然な笑顔を浮かべていた。俺はいつも通り――
「ヌルフフフ、比企谷君が一番上手ですよ。見事な目の腐りっぷりです」
――殺せんせー。俺、ノー演技なんですけど……
……。
…………。
………………。
ホテルを進むと何回か他の客に遭遇したが、俺たちはごく普通に客だと思われた。俺らはヒソヒソ話す。
（本当にただの客同士って感じだな）
（むしろ視線も合わせない）
ま、向こうも俺らをどこかの名家の坊っちゃん嬢ちゃんかマフィアの御曹司とかと思ってんだろ？ だったら関わりたくないだろうしな。
逆に言えば俺らも敵の顔を知らないわけだから、客のフリして襲ってきたら烏間先生しか頼れねぇ……つか、奴等は何時俺らにウイルスを盛ったんだ？ 飲食物からの感染って竹林は予想してたが、ディナー食ってねえ三村、岡野、海老名さんが感染したなら……盛られた機会は……
俺が考えていると、寺坂と吉田が先急いで烏間先生の前に行った。すると、帽子を被った客が……あいつは！？
「て――」
「寺坂君！ そいつ危ない！」
「あ？」
俺が言おうとする前に不破が叫ぶ。すると、帽子を被った客はスカーフをマスクにしてズボンのポケットからなにかを出した。烏間先生が二人を引っ張った瞬間、ガスが充満する。烏間先生が帽子を被った男に蹴りを入れる。すると男は……
「なぜわかった？ 殺気を見せずにすれ違い様殺る。俺のオハコだったんだがな、オカッパちゃん」
「ボブだし……だっておじさん、ホテルでサービスドリンク配った人でしょ？」
周りが気づく。俺はわかっていた。
「断定するには証拠が弱いぜ。ドリンクじゃなくても……ウイルスを盛る機会はたくさんあるだろ」
たしかにそうだが……こいつは盛る相手を選び間違えている。
「皆が感染したのは飲食物に入ったウイルスからって竹林君が言ってた。クラス全員が同じものを口にしたのはあのドリンクと船上でのディナーの時だけ、なのにディナーを食べ損なった三村君、岡島君、姫菜が感染したことから感染源はドリンクだけになる。従って犯人はあなたよおじさん君！」
不破は名探偵のようなポーズで決める。俺もそんな感じに予想していた。
「すごいよ不破さん！ なんか探偵みたい」
「普段から少年漫画読んでるとね、普通じゃない状況が来ても素早く対応できるのよ。特に推理ものはマガジン・サンデーとメガヒット揃い！」
……シャンプは？
全員、それを思ったらしく、不破に聞くが……
「え？ ジャンプの推理もの？ なんかあったっけ？」
「おいこら、あるだろが！ 探偵じゃないが小学校の学級会を舞台にした裁判ものが！」
『いや、それよりも言うべき作品があるだろ！』
さて、なんのことやら。
俺らがそんな会話をしていると烏間先生がガクッ！と倒れかける。
「毒物使いですか。しかも実用性に優れている」
「俺特性の室内用麻酔ガスだ。一瞬吸えば象すら気絶するし、外気に触れればすぐ分解して証拠も残らん」
なんか、奥田が聞いたら興味持ちそうな話だな……
そこを考えると海老名さんたちに盛ったって言う人工的に作ったウィルスってのもこいつが作ったんじゃ……ならこいつを拘束すりゃ全員助かるんじゃね？
「交渉決裂。ボスに報告するとするか」
毒使いは振り向くがすでに俺らが道を塞いでいるため、戻れない。
俺らは烏間先生から敵と遭遇したときには即座に退路を塞いで連絡を断つようにと言われている。
烏間先生は毒男の顔に蹴りを入れて倒れた。
おいおい、俺らの最大戦力を失ったぞ……どうすんの？ これから……
ネウロを最近読んでみましたが、なかなかの話ですよね。