殺せんせーの話が終わる。
「先生の過去の話は以上です。なお、不明な点や……疑わしい点がある人は指摘して下さい」
殺せんせーを疑う奴は居なかった。俺らも、茅野も……理由は全て繋がったからだろう。殺せんせーが万能だったのも、どんな暗殺も知っていたかのように避けれた事も……
雪村先生の死の責任を殺せんせーに求める奴もいなかった。二人とも苦しむ生徒をほっとけない先生だとわかるからだ。
「先生の教師としての師は誰であろう雪村先生講演会。目の前の人をちゃんと見て、対等な人間として尊敬し、一部分の弱さだけで人を判断しない。彼女から……そういう教師の基礎を学びました」
殺せんせーは語る。
「先生はそれに、自らの知識を足して、皆さんと向き合う準備をしました。自分の能力を限りを尽くし、君達に最高の成長をプレゼントするために、どんなやり方がベストなのか? 考えて考えてたどり着いたのが、先生自身の残された命を使った暗殺教室です」
そうだ。殺し、かわし、教える。
暗殺という興味を与えつつ、勉強や他の事にもモチベーションを維持し、テンションをあげ、俺らの心の闇は晴れていった。
「前にも言いましたが、先生と君達を結びつけたのは、暗殺者と標的という絆です。そうでなければ、先生は君達の担任になることはできず、本気で真剣に先生にぶつかって来ることもなかった」
殺せんせーは言う。
「だからこの授業は、殺す事でのみ修了できます」
殺せんせーは続けていう。
「無関係の殺し屋が先生を殺す。出頭して殺処分される。自殺する。期限を迎えて爆発する。もしも、それらの結末で先生の命が終わったなら……我々の『絆』は卒業の前に途切れてしまう。もし仮に殺されるなら、他の誰でもない、君達に殺してほしいのです」
殺せんせーが来たばかりの頃、たった5秒でクラス全員の家をまわって表札を取ってきたときクラス全員が思った事がある。
“この先生を殺さなきゃいけないのか”
――と、そしてその時から今まで、クラス全員が思いもつかなかった事がある。いや、正確には思いはしたかもしれないが深く考えなかった事がある。殺せんせーが過去や結末の真実を話さなかったのは、俺らにその考えを持たないようにするため……だから全員が伸び伸びと成長できた。殺せんせーがE組に来て9ヶ月。30分欠けて先生になった理由を話終えたとき、俺らの頭のなかに殺せんせーとの思い出が駆け巡った。
怖かった事、イラついたこと、嬉しかったこと、悔しかったこと、楽しかったこと――
俺らはこのとき、はじめて平塚先生が俺らに『殺せんせーは殺せない』といった本当の意味を理解した。
それはこんなにも恐ろしい課題を突きつけられていたのだと、はじめて気が付いた。
“この先生を……殺さなくちゃならないのか!!!”
――と……
……。
…………。
………………。
爆発の期限は3月13日とはっきりと分かった。……奇しくもその日は、椚ヶ丘中学の卒業式の日だ。
年が明けて、1月6日。結局、冬休みに暗殺を仕掛けた生徒は一人もいなかった。
殺せんせーの暗殺期限まで、あと66日となった。
次回は目標の対決編まで投稿予定です。