暗殺教室でも俺の青春はまちがっている。   作:sewashi

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発表会編です。
八幡は何役でしょう?


九十八時間目 演劇の時間

椚ヶ丘中学の演劇発表会が近づいてきた。

もちろん今回も俺らE組待遇はある。

「俺らだけ予算が少ないわ、山の上のこの校舎からセット運ばなきゃいけないわ、俺らの劇は観客が昼メシ中にやらなきゃいけないわ……」

全く迷惑な事だ。冬の暗殺の準備やら、受験やら俺らは本校舎の連中とは違い忙しいと言うのに……

結局、この学園は表向きには何も変わっていない。いや、正確には1つだけ変わった。

由比ヶ浜の署名活動に本校舎3年のほとんどの面子が署名を書いたことで椚ヶ丘の受験日の前日に中等部E組の希望者のみの高等部への最終高等部進学試験が実施されることとなった。といっても受験しなおしで入学とほとんど変わらんが……

それ以外は何も変わっていない。だが、足りないピースがはまり、正常運転になったような気がした。

それにこの発表会が終われば椚ヶ丘での生徒としての行事は終わる。

「よーし、やると決めたらパパッと終わらそーぜ」

おーう、とクラスの返事。

監督は三村。脚本は狭間と海老名さん。ナレーターは律と予想通りの役が決まり、主役は潮田、茅野が推薦されたが本人達が嫌がったので……

 

「先生……主役やりたい」

 

………………。

クラスの空気が一瞬止まった。そして次に来るのは――

「やれるわけねーだろ、国家機密が!」

「そもそも大の大人がでしゃばるな!」

「だ、だって先生、1度くらい劇の主役とかやってみたかったし! 皆さんと一緒のステージに立ちたいし!」

皆が対先生弾を撃ちまくり対先生ナイフをなげつけたりするなか狭間と海老名さんが……

「いーわよ。先生が主役の脚本。書いたげる」

狭間が言った。え? まじで……

「いいねぇ、私とキララちゃんで最高の作品を作ろうじゃないの! じゃあ、比企谷君と杉野君で主役の引き立て役を……」

「断る」

「ちょっ!? 比企谷君やってよ~」

「噛むから無理だ。相手が杉野なのが嫌な予感がするし……神崎、変わってくれ」

「え? わたし?」

「適任だろ」

「でも……」

「杉野も神崎とならいつも以上に頑張れるだろ」

「ま、まあな! 神崎さんさえ良ければ!」

「う、うん、声は他の人があてるなら……」

こうして次々と役が決まる。

「よっしやるか!」

「せっかくだ、本校舎の連中が飯も食う間もないくらい興奮の渦に叩き込もうぜ!」

おーう、とクラスの声が上がった。

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 

発表会当日。お弁当タイム。俺らの出番だ。

 

ビ―――――――!

 

アラームがなり、証明が入り、桃の形をした殺せんせーがステージ上に現れる。

 

『桃です』

 

ナレーション担当の律が言う。

 

ボッ! ボッ!

 

そして証明が二つはいる。そこにはおじいさん役の杉野とおばあさん役の神崎……

「電波エコーで測定しました。これの中で……胎児が育っているようなの」

……の声をあてる役の不破が言う。

『おじいさんの目の色が変わりました。瞬時にこの桃の価値を覚ったのです』

ナレーターが台詞を言うと、杉野は邪悪な表情を演技しておじいさんの声をあてる役の吉田が台詞を言う。

「こりゃすげぇ! とんでもない珍品だぞ! マスコミが飛びつかないわけがねぇ! 見せ物にすりゃ俺は一生大金持ちだ!」

おじいさんの台詞を言い終わると、おばあさんがスッとあるものをだし、ナレーションが流れる……

『離婚届です』

観客の箸や飯を食う手が止まった……

『おばあさんは別れることを迷っていました。ですが……子供の人権を無視するようなおじいさんの非道な言葉。「俺達」ではなく「俺」という言葉。おばあさんの心は今、決まりました』

演出担当の茅野が上からビーズを流す。

『30年の結婚生活で二人の間にできた溝は……まるで洗濯にいった川のよう』

同じく演出担当の矢田が煙を機材から出す。

『二人の空間の息苦しさは……山の柴を燃やして出たCO2のよう』

おじいさんの台詞。

「……この桃は、俺のもんだ。夫婦の共有財産だ。どう分けるかは、世帯主の俺が決める」

すると後ろの襖が開き竹林と片岡が現れる。二人の役は……

『弁護士です』

……だ。

「奥様の代理人を務めます。以後の話は我々を通して頂くよう」

竹林弁護士の声を当てる役の木村が台詞を言う。

「桃の件ですが……婚姻関係はとうの昔に破綻しており、財産分与の基準日はもう過ぎたと考えられます。モラハラの慰謝料を含むと桃一つでは足りませんよ?」

片岡弁護士の声を当てる役の速水が台詞を言う。

そしてナレーションが流れる。

『おばあさんへの30年にわたる暴言や暴力。生活費もずいぶん前から入れておらず、証拠も全て揃っていました』

物語はおじいさん対おばあさんの裁判に入った。

『おじいさんに裁判で勝ち目はありませんでした。なのでおじいさんは恫喝に村の男達を雇いました。しかし男達は――』

恫喝に雇われた男達役の寺坂と村松。

『――警察に連れていかれました』

警察官役の中村と俺が、寺坂と村松を連行する。

『おばあさんは、新居に桃を持って帰りました』

おばあさんは床のビーズを少し手に持つ。

『まるで命が洗濯されたような晴れやかな気持ち。おばあさんの人生は桃とともに、今、始まったのです』

そしておじいさんのパートに移る。

『イヌ、サル、キジです』

イヌ役は前原。サル役は岡島。キジ役は堀部だ。

きびだんごに見立てた演出用のライスボールを貪り食う。

『どうやら彼は、人を襲う訓練をしているようです。畜生共はエサをもらって無邪気に従っているだけです』

おじいさんはムチを持ちながら邪悪な顔をしている。

『邪悪なのは財産欲にまみれたおじいさんだけ。鬼ヶ島は……私達人間の心の中にあるのかもしれません』

そして桃にライトが当たる。

 

『生まれてくる桃の子供にも……いつか鬼が宿るのでしょうか……』

 

照明が消えて千葉が《完》の文字をスッと出す。

これにて劇は完結だ。そしてたくさんの――

 

『『『重いわ!!』』』

『食欲無くなったじゃねーか!!』

 

――ブーイングの嵐だった。ここは建前でも拍手にしてほしかったな~。

その後、俺達は客席から飛び続ける弁当殻やペットボトル、空き缶などを避けながら桃に擬態した殺せんせーを回収したのだった。




次回は茅野編。
原作の暗殺教室も次のジャンプでついにラスト!
この作品もそこまで行けるように頑張ります!

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