今回は三人称視点→広登視点→芹視点
のような構成でお話を進めていきます。
今作では、広登の気持ちをやや明確にして書いていきます。
エグゾダスでは頼むから生き残ってくれよ……
あ、それとですが、お気に入り登録頂いた皆様、ありがとうございます。
なんだか急に数が増えたようで……数字見て『ファッ!?』ってなりました。
以降も頑張って更新していきますので、お楽しみ頂ければと思います。
竜宮島の住人にとって、それは『告知』にも等しいものだった。
赤い、カード型ディスプレイに表示されるのは名前、写真、身体データ、そしてファフナーパイロットとして必要不可欠なシナジェティック・コード形成数値など。
テーブルの上には、そんな形の一枚の指令書が静かに鎮座していた。
それが意味するところはただ一つ。
ファフナーパイロットとして、島の護り手として生きることを命じられるということに他ならない。
その役を担うことになった子供達の家族の悲痛な表情を、真壁史彦は、遠見千鶴は何度も目の当たりにしてきた。
無論、一部の例外は過去にあったが、現在二人の目の前にいるまだまだ若い女性は、間違いなく前者であった。
「そんな……どうしてシュウくん……どうして修哉なんですか!? あの子は病気で…」
「シナジェティック・コードの形成、ファフナーへの適正に身体的能力は関係しない……君もそれはよく理解しているはずだ」
「それは…」
滝瀬 絵梨も、史彦の言うことは十分理解していた。
彼女自身、平時は教職に就きながらもアルヴィスのスタッフ、それもファフナーブルグでの機体開発に携わる身だ。
ファフナーがどういったもので、パイロットに必要な能力が何か、そしてファフナーに乗るということがどういうことなのか、嫌というほど理解している。
子供たちがファフナーに乗って戦うという現実に心は当然のごとく痛み、そんなものを作る自分を、戦いを子供に押し付ける自分達大人の無力さを何度呪ったことか。
だがしかし、同時に心の中の片隅で考えていたのかもしれない。
『ファフナーに乗るのが修哉でなくてよかった』という、とても人前では口に出すことが出来ない、人間としての醜い、利己的な気持ちを。
無論、人間である以上、そう言った思考は仕方のないこと、当たり前のことでもある。
しかし、だからこそ、今目の前にあるこの事実が、現実が、そんな思いを胸に持った自分への罰なのかと、絵梨は考えてしまう。
「島上空に現れた謎の現象、新たなタイプのフェストゥム、島を訪れた人の形をしたフェストゥム、島のコアの成長期。島は再び、戦いに臨まねばならない可能性が高い」
「……その為に、子供たちに命を削って戦えと…? 私達大人はそれを見ているだけで…こんなこと一体いつまで……」
「……私達も、最大限のバックアップを約束します」
「………でも、こんなこと…修哉にはなんて言えば……」
分かっている、理解している。
史彦自身、こんな事は望んでなどいないということは。
当然だ、史彦もまた、息子である一騎をファフナーパイロットとして、自らの手で戦地に投入した。
自ら承認し、それ以降もアルヴィスの司令として、多くの子供達を戦地に送って来たのだ。
史彦に続く千鶴もまた、娘である真矢を送り出し、同化現象に苦しむパイロットたちを救おうと奔走している。
史彦、千鶴を恨んだところで、それは見当違い、意味のない行為だ。
彼ら自身、絵梨と同じ痛みを知っている、家族を戦わせ、自分は見ていることしか出来ないという痛みを。
それに加えて史彦には島を取り仕切る役割を担う身として、どれほどの覚悟を必要とするのか、どれほど良心の呵責に苦しんだのか、絵梨にも計り知れないモノを背負っている。
そして絵梨と同じく、子供達の無事な帰還と、安息を願っていることも大人たち皆が知っていることだ。
修哉がファフナーに乗るということに、未だに賛成などは出来ない。
しかし、竜宮島に住む者として、この島に生かされている者として、権利を得ると同時に義務を果たさねばならない。
絵梨にとって、不本意ながら最愛の弟にファフナーパイロットに選ばれてことを告げなければならないという事実が、心に冷水を注ぐような感覚を与えている。
「……ファフナーへの搭乗については、修哉くんの方から申し出があった」
「え?」
「新型フェストゥムとの戦闘が終わった後、『島の皆の役に立てることはないですか』と……そして、『叶うなら、自分をファフナーのパイロットとして使って欲しい』と」
「そんな…! だってあの子、そんなこと私には一言も…!」
「その時点で、既に彼のパイロットへの任命は決まっていたが……なるほど、やはり君には何も告げてはいなかったか」
しかし、修哉は既に決めていたのだ、姉である絵梨には何も告げることもなく、島を守るための戦いに参加することを。
修哉からの申し出を聞いた史彦がまず思ったことは、修哉が聡い少年だということだ。
この島の防衛能力の課題について、子供ながらに推測を立てたのだろうが、物事の全体をよく見ていると驚きもした。
彼の言う『島の皆の役に立てること』というのが、ファフナーに乗ることとは、皮肉極まることではあるが。
「明日の午前から、ファフナーの接続テスト、模擬戦闘訓練が予定されている。今日の内に、彼に何があったのかを聞いておくのがいいだろう…」
「……はい」
「こんなことを言える資格は私にはないが、修哉くんの家族は君だけだ。君が彼を支えて欲しい」
「………」
絵梨は見るからに落胆していた。
何の相談もされず、命を天秤にかける選択を弟がしていたという事実に、打ちのめされたような思いだった。
史彦の言うとおり、今日は修哉にどうして勝手にこんなことを決めたのか、話をしようと絵梨は考えた。
ーーしかし、修哉がその日、家に帰ってくることはなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ファフナーのパイロットになるということは、正直な話をすると、夢でも見てんじゃないかって思うくらい衝撃だった。
俺、堂馬 広登にとっては、今も手に持っているゴウバインヘルメットを託してくれた衛先輩のように戦えるんだと、嬉しく思う気持ちもある。
それと同時に、島を守るための戦いという責任と、死ぬかもしれないという恐怖もまたあった。
この前の戦闘から、また島が戦いになるかもしれない、だが島を守るための力が足りない。
俺がファフナーのパイロットに選ばれたということを教えてくれた大人が言う事を端折って説明するとそうなるらしい。
一騎先輩たちが敵を撃退して大喜びしてたけど、実際の状況は俺の思っていたよりも悪いのかもしれない。
竜宮島の空が妙なオーロラに覆われていることも、なにか関係があるのか……?
「まさか、私達がファフナーに乗ることになるなんてね……しかも、まさか暉まで…」
「……」
「揃いも揃って生徒会メンバーだしな。なんつーか、仕組まれてたんじゃねーかって思う」
今日はファフナーとの接続テスト、そして模擬戦闘訓練をするとかで朝からアルヴィスのファフナーブルグに向かっている。
必然的に、同じく新しくパイロットに指名された里奈、暉……そして、芹も途中で一緒になり、こうして移動しているわけだが、やっぱり里奈のやつは暉がパイロットになったことが面白くないらしい。
この姉弟の折り合いが悪くなるのは日常茶飯事のことだが、今回はファフナーに乗って島を守らないといけないんだ、そのあたりはやや不安になる。
「でもさ、生徒会メンバーってことなら修哉いないじゃん」
「修哉って……あいつのあの体でファフナーなんて乗れるわけ無いだろー?」
「ん~ま、それもそっか」
里奈がこのメンバーを見渡しながらそう言うが、修哉……病気で体の弱いアイツが選ばれるなんてあるはずないだろ……
ファフナーに乗るってことは……確か、乗れば乗るほど同化現象?ってのが進むって聞くし、戦闘になれば同化現象とか関係なしに体にダメージが溜まっちまう。
それを考えれば、あいつが選ばれる可能性なんてゼロに近い。
ま、今回ばっかりは俺達に任せて守られる側にいてもらえばいいさ。
世の中には、適材適所?ってのがあることだしな。
「シュウ……」
と、修哉の名前が出てくると、それまでやや元気のない様子でだんまりを決め込んでいた芹が、そう口を開いた。
元気がなさそうなのは朝に合流した時からだったけど……なんか悩んでるみたいだ。
……そういや、この前の戦闘が終わった後、修哉となんか喧嘩…?みたいな事してたけど……なんか関係あるんだろうか?
話の内容は遠巻きだったから聞こえてこなかったけど、芹は今にも泣きそうな顔で、修哉もなんか辛そうな顔してやがった。
「な、なぁ…芹。修哉と、その…なんかあったのか?」
「……分かんない」
「分かんないって……お前らこの前、なんか喧嘩してただろ? アレと関係あるんじゃないのかよ」
「だって…シュウ、私に何も話してくれないから……分からないよ……」
どうやら、何かあったらしいのだが、芹の言うことを何とか整理すると、修哉に何かあったけど、何も話してくれなくて落ち込んでるってところか?
まぁ、あいつが昔から、自分の事は何でも一人で解決しようとするところは見てきてるから知ってるが……
『っち……あいつ、また芹に心配かけてやがんのかよ……』と、やや汚い言葉が心の中に響くが、俺はそれを必死に消そうとする。
だが、同時に……修哉と芹の間にある、特別な何かに嫉妬している俺がいることを自覚する。
一つ、事実を言うと……俺は多分、芹に惹かれている。
多分ってのは、俺が今まで人を好きになったことがない、所謂初恋ってやつだからだ。
……だから、いつも修哉と芹が一緒にいる所を見ると、腹の奥で…こう……黒い何かが生まれそうになるし、今もこうして芹に悲しい顔をさせている修哉にムカッ腹が立ちそうになる。
でも同時に、修哉の良いところも俺は沢山知っているだけに、今回の事も修哉なりの事情があるんだということも分かってしまう。
俺とは幼馴染で、体は弱いけど頭はよく回るし、いつも全体を見て適切な判断を下す、面倒見もいいし、俺達の取り纏め、リーダー役のようなやつだと思ってる。
だけど、やっぱり……だからこそ、そんな奴が惚れてる女と仲良くしてるところ見るのは気持ちのいいもんじゃない……
「ま、まぁそのなんだ。俺たち、今日からファフナーのパイロットなんだぜ? この島をビシッと守ってさ、アイツの事見返してやりゃあいい」
「見返す?」
「おう! 悩みがあるなら、この頼りになるファフナーパイロット様に言ってみろ! ってな」
「ふふっ……なにそれ……」
ややふざけ気味に言ってみたが……良かった、やっと笑ってくれたな。
でも、今回ばかりは、あいつの出る幕はないんだからな、冗談ばかりってわけじゃない。
でもって、島のことは、芹のことは俺が……俺が守るんだ……!
と、そんなことを考えていた俺だったが、ファフナーブルグに到着したと同時に、言葉を失うことになる。
俺だけじゃない、里奈も暉も、芹もだ。
ーーもう一つ、事実を言ってしまおう。
俺は、修哉のことを……ずっと、心の中のどこかで下に見ていた、見下していた。
病気で体が弱くて、すぐに倒れて……可哀想だと思うと同時に、どこかで自分よりも下の存在と思っていた。
その思いは、ファフナーのパイロットに選ばれたことで、より存在感を増したような気がする。
ファフナーに乗って島を守る存在、完璧なアドバンテージで修哉に勝ったと一方的に感じていた。
けど、ファフナーブルグにいたそいつの姿を、既にシナジェティック・スーツに身を包んだ修哉の姿を見た瞬間、修哉の声を聞いた瞬間、そんな醜い感情が別の、より黒い何かになるのを感じた。
「よっ、遅かったなお前ら。どうよこれ、似合うか?」
「シュウ……?」
嬉しそうにシナジェティック・スーツを見せながらそう言う修哉を見て、俺の隣にいた芹が小さく呟いたのが聞こえた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
多分私は、幽霊でも見ているような顔になっていた。
「よっ、遅かったなお前ら。どうよこれ、似合うか?」
「シュウ……?」
まるで新しく買った服を見せるみたいに、シュウは身に付けた黒いシナジェティック・スーツを見せる。
その笑顔は紛れも無く本物で、まるで新しいオモチャを買ってもらった子供のようにも見えた。
なんで?どうして?どういうこと?
どうして今、ファフナーブルグに修哉が居るの? どうしてそんな、まるでファフナーに乗るみたいにシナジェティック・スーツを着ているの?
これじゃあまるで、修哉も私達と一緒でパイロットに選ばれたみたいじゃん……
「お、おいおい! これってなんの冗談だ? 修哉もパイロットになったとか言わねぇよな?」
「それ以外にないだろ? 生憎と、コスプレの趣味はないよ」
私と同じ疑問を広登が代弁するかのようにシュウにぶつけると、シュウはそれをさも当然のように肯定する。
内心で私が否定し続けていた推測を、シュウがあっさりと現実にしてしまった。
信じたくなんか無かった。
私自身パイロットに選ばれたことには、それはそれで驚きはしている。
もちろん、戦うのは怖いし、ファフナーの乗るっていうのも実感がないし、そういう意味でも怖いと感じてしまう。
でも、ファフナーのパイロットを新しく選ぶとなると子供からというのが定石だし、可能性くらいは感じていた。
ただ、体の弱いシュウが選ばれるなんてことは、私自身が選ばれる可能性以下だと……いや、そもそも想像なんてしていなかった。
「いやはや、俺もびっくりしてるんだよ。真壁司令から連絡あった時はホント驚いた」
「で、でもさ? 修哉ってば体弱いじゃん。大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫……っていうか、じゃないと選ばれないだろ?」
「いやまぁ、それはそうだろうけど」
さすがの里奈も、ちょっと戸惑いながらもシュウに尋ねてはみるけど、シュウ自身は驚くほどいつも通りだ。
この前の戦闘の後に見せていた、辛そうな雰囲気は欠片も見えてこない。
……でも、まるで何かを吹っ切ったような、スッキリしたようには見えるんだけど、どこか危なげな感覚を感じた。
なんだか、私達とは違う、何か別の覚悟を決めてここに立っているような。
「……シュウ、今からでもいいから、パイロットになるのやめよう?」
「え? どうして?」
「シュウの体でファフナーなんかに乗ったら、危ないに決まってるからじゃない!」
「危ないのは、皆同じだろ? それに、味方は多いほうが生き残れる可能性は高くなる」
シュウに微かな危うさを感じた私は、シュウにパイロットを降りるように言ってはみるけど、シュウは正論で返してくる。
やや怒気を含んだ私に対し、シュウはそれを受け入れるような……いや違う、ふと暖簾に腕押しという言葉が頭に浮かんだ。
あぁ、違う……私は別にシュウに怒りたいわけじゃない……私はただ、シュウにファフナーに乗って欲しくないだけなのに。
そんな私の様子を見て、シュウはいつも通りの優しげな表情のまま、私の頭にポンポンと手を置く。
「そんな顔するなって。島を守るなら、皆で守ろうぜ。俺だけ仲間外れはよしてくれよ」
「でも…でも…!」
「それに、俺もこれで、やっと島の役に立てるんだ。それが何より、嬉しくて堪らない」
「………」
「頼むよ芹……そうだな、全部終わったら、お前の言うことなんでも一つ聞いてやるからさ」
島の役に立てることを、シュウは言葉通り、本当に嬉しそうに語る。
それでも、私は納得など到底出来そうにもなかった。
シュウは嬉しそうにそう語ってはいるけど、きっと何か別のなにか……本当の何かを隠してる。
それは多分、この前の夏祭りで見せた、あの感情の消し飛んだ様子のシュウと関連している。
そう感じる根拠は、と尋ねられると答えに窮するけれど、一つ答えられるとするならば……幼馴染の勘とでも言っておきたい。
「……私は、納得してないけど……シュウが一回決めたこと、覆さないこと知ってるから……」
「そうだな……」
「だけど……いなくなったりしたら、絶対…絶対に許さないから。引きずってでも島に連れて帰るから」
「……あぁ…頼むよ」
シュウがファフナーに乗ることに、私は納得しない、絶対に。
けど、シュウが私に言われたからってそれをやめることはない。最初から分かっていたことだった。
こいつは朴念仁で、変なところで抜けてて、それでいて頑固なんだから。
だったら、私は私で島の、シュウのためにできる事をする。
そう、夏祭りのあの時、決めたことだよね……この強がり頑固幼馴染に、自分から弱音を吐かせて、私を頼らせるって。
「えーと、ご両人? 夫婦喧嘩はその辺でいい? 羽佐間先生がそろそろ説明始めたそうなんだけど」
「あはは……ご、ごめんなさいね、空気読めなくて……」
里奈の言うとおり、側には既に困った顔をした羽佐間先生が…
………シュウの事になると周りに注意が回らなくなるところも、何とかしないといけないかも。
シュウと一緒に茶化してきた里奈に突っ込みつつ、私は再度、そう心に決めた。
三角関係、トライアングラーですね。
なお、ファフナーは三段変形しないのでその辺は平にご容赦を。
次回は修哉のファフナー搭乗→模擬戦になります。
やっとこさ主人公の戦闘回でございまする。(戦闘シーン自信が……(白目))
主人公機については、感想でも質問いただいていましたが、欠番機の内の一機を割り当てます。
コアの数が原作と合わないかもですが、そこは一つ多く存在してたって設定で。。。
エグゾダスではボコボコ増えましたが。。。
2話分ほど書き溜めできた。。。
これでゲーム崩せるぜ・・・!