蒼穹のファフナー Benediction   作:F20C

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今回も前半は主人公視点、後半が芹視点です。
上げてから落とす、そんな回になるかと思います。

ファフナーっぽさ、出てくればいいんですが。。。


レゾンデートル -Ⅱ-

夏祭りでは、毎年珍しい光景を見ることが出来たりする。

いつもはアルヴィスの制服姿、仕事着姿の大人たちが金魚すくいの店出してたり射的屋出してたり……真壁司令と遠見先生が浴衣姿で出店を回っていたりとか。

というか、あの2人は去年も、前の年もそうだったような気がするなぁ……いや下手に詮索するようなことじゃないだろうけど。

 

それに、俺にとってはそれはそこまで珍しい事ではなかった。

現在進行形で、俺は珍しいものを……あぁ、違うな……珍しいのは俺自身の方だ。

 

さっきから、芹のことを自然に目で追いかけてばかりいる。

一体どうしたというのか、意識して視線を外しても、いつの間にか視線がそちらに行ってしまう。

 

 

「(あー…くそ……絶対芹が手を繋いできたからだ……)」

 

 

手を繋ぐなんて、これが初めてではないし、なんてことない行為のはずだった、だったんだ。

でも、あの時の頬を紅潮させながら、芹らしくない、しおらしい様子で懇願されたことも相まってなのか、手を繋いでいる間は異常なほど心臓の音が大きく聞こえたような気がした。

 

芹は確実に無意識だろうけど……女の上目遣いがあそこまで破壊力あるとは……

正直なところ、あんなの大げさに言ってるだけだろうとか思ってたけど、とんでもないな。

 

いや、まさか芹だったからだとか……?

………な、無い無い無い無い…それは無い、無いったら無い。

 

 

「うおぉぉぉぉ!!! 秘技!! トライデント・ゴウクラッシャアァァ!!」

 

「いや広登、ポイを三枚使うの反則だから。あとゴウバイン欠片も関係ないし」

 

「しかも一匹も取れてないし、ポイのほうがクラッシャーされてるし…お、私は一匹目ゲット~」

 

「ぐおぉ!?」

 

 

当の本人は、里奈と広登と一緒に金魚すくいに興じている。

どうやら広登が金魚すくい勝負を仕掛け、それに二人が乗ったような形らしいが、これでは結果は想像に難くない。

なんでもかんでも、ゴウバインがなんとかしてくれる訳ではないようだ。

 

というか、広登のやつなんだかいつもよりギア上げてるなぁ……

 

 

「よぅ、どーしたよ色男? さっきからボーっとして」

 

「ホント、芹と二人して顔赤くしながら手を繋いで歩いてると思えば、今度は心ここにあらずって感じになっちゃって」

 

「け、剣司先輩に咲良先輩?」

 

 

自分で思っていた以上にボーっとしてしまっていたようで、広登達と合流した時に偶然一緒になった剣司先輩と咲良先輩の接近に気が付かなかった。

ここに来た時は車椅子に乗っていた咲良先輩は、今は自分の足で歩いている。

今日は調子がいいと言っていたが、確かにそのようだ。

 

フェストゥムとの戦闘、ファフナーに搭乗する事によって進行する同化現象で、一時期は意識不明にまで陥っていた先輩がここまで回復してくれたことは素直に嬉しかった。

それに、剣司先輩と咲良先輩の夫婦漫才(二人に言ったら怒られた)を見るのは、俺も好きだった。

 

 

「あれ、一騎先輩たちとわたあめ買いに行ってたんじゃ……」

 

「あぁ、その道中で溝口さんが射的屋やってるの見つけてな。一騎と遠見とカノンの三人はそっちに行っちまった」

 

 

そう剣司先輩が言うように、少し先に一騎先輩達がいるのが見えた。

そして、射的に使うライフルを持っているのは遠見先輩で……少しして、『お、お嬢ちゃん! そろそろ勘弁してくれよ~』という溝口さんの声が聞こえてきた、

射的屋で何が起こっているのか、簡単に想像できてしまった。

 

 

「で? 皆各々で遊んでる中、あんたはなにしてるわけ?」

 

「いえまぁ、ちょっと考え事を…」

 

「もしかして、芹のことか?」

 

「な、なんでそうなるんですか……」

 

 

正直なところ図星だった。

そこまで分かりやすい性格をしているつもりはない……ないのだが、今回ばかりは大当たりだった。

 

昼間の一件もあって、芹を神社まで迎えに行く道中は、やや足が重かった。

だが、浴衣姿の芹を見て、芹に手を握られた瞬間、そんなものは彼方にすっ飛んでしまっていた。

あいつと手を握り合って歩いていた僅かな時間、俺は時間の流れが速まるのを感じ、どういう訳かそれに抗いたくなるような気さえした。

皆と合流した後も、その時間が、その時の芹のことが頭から離れなかった。

 

俺は、テンパっているのだろうか……

いつも通りの自分でいられないことに、若干恐怖を感じてしまう。

 

 

「だってなぁ…さっきからボーっとしながら芹の方ばっか見てりゃあ、誰にだって分かんだろ?」

 

「うっ……それは」

 

「普段は掴みどころ無いくせにねぇ……今日のあんたは珍しく分かりやすい」

 

「っぐ……そんな二人して人の痛いところ突かないでくださいよ」

 

 

もうホント……この2人早く結婚すればいいのに、いや割とマジで。

あーもう……なんか凄い恥ずかしいし……

 

今までこんな風になったこと、一度も無かっただけにどうしていいかよく分からない。

この前だって、溝口さんや遠見先輩に冷やかされても受け流せてたのにさ……。

 

 

「気にしないでください、ちょっと……テンパってるだけですから」

 

「ま、修哉がそう言う位なら、本当にテンパってるんでしょうね」

 

「だな。普段のお前なら、俺達に自分自身がおかしくなってて、困ってる事自体言わねぇだろ」

 

 

確かに、剣司先輩の言うとおり、普段なら俺自身がテンパってることを自白するなんてあり得ない。

つまり……今の俺はそんなことも出来ない状態になってるってことなんだろう。

 

我ながら、予想外の事態に対応する力が弱いと自己嫌悪に陥りそうになるが、反省は後だ。

これ以上、先輩に気を遣わせる訳にはいかない……早く……早くいつもの滝瀬 修哉に戻らなければ……

 

 

「ねぇねぇ! シュウ見てよ、これ! 金魚すくい、私10匹も取れちゃったよ!」

 

「お、おう……! さ、流石は元生物部だな!」

 

「?? 金魚すくいと生物部関係なくない?」

 

 

いつもの自分に戻らねばと思ったその時、どうやら金魚すくいロワイヤルの勝者となったであろう芹が、貰ったらしい金魚を入れた袋を片手にこちらにやって来る。

その表情は混じりっけのない陽の光のような笑顔で、今が日の沈んだ夜であることを一瞬忘れてしまった。

ヤバイ……また自分の中の決定的な何かがグラグラ揺れてしまっている。

 

って言った傍からこれかよ!

ていうか、何でそんな満面の笑みで笑いかけるんだよ、心臓がバクバク煩くなるだろうが!

 

ついでに、剣司先輩と咲良先輩の方を見ると、案の定ニマニマしながら俺達の事見て、空気読んだぜみたいな顔してどっか行っちゃうしさ!

 

 

「あ、そうだ。これからりんご飴買いに行くけど、シュウも来る?」

 

「えっと……あのだな。………いや、俺はちょっと手洗いってくる」

 

「そっか。じゃあ、シュウの分も買っておくから」

 

「……あぁ、悪いな」

 

 

俺と芹は、そう言葉をかわすと一旦別れることに。

これは別に、芹といると何故かテンパってしまう現象から逃げたいわけではない……断じて違うからして。

 

単純に、腕時計が示す時刻を見た瞬間、俺は一つやることがあることを思い出したからだ。

そう、今日この時間にセッティングした、広臣さんの一世一代の舞台結果を確認するという、大事な用事を。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

指定した場所は神社の裏手、姉ちゃんには事前に連絡しておいて、この時間この場所にきてもらう手筈になっていた。

あとは、広臣さんがそこに現れて姉ちゃんにプロポーズという流れ。

 

シンプルだが、姉ちゃんの気持ちが広臣さんに向いていることを考えれば、成功率は計算するまでもない。

きっと、これで……姉ちゃんも幸せになってくれる。

もう俺なんかに煩わされたりせずに、自分の家庭をもって、好きな人と生活をして、上手くいけば二人の新しい家族だって生まれるかもしれない。

 

俺は、そうなることを欠片も疑いもせずに、神社の裏手の物置の影から事の顛末を見守るつもりだった。

果たして、俺が来るのが少し遅くなったからか、到着した頃にはそれは始まっていた。

 

俺の予想とは180度違った、最悪の結果をもたらす形で。

 

 

『絵梨さん……!僕と、僕と結婚してください……!』

 

『広臣…くん……』

 

「(すごいタイミングで来てしまった……盗み聞きするみたいで我ながら趣味悪いけど、舞台設置料としてここは一つ)」

 

 

俺は自分の中で広臣さんに詫びを入れ、物音を立てないようにしつつ耳を澄ませる。

広臣さんのプロポーズのセリフは実にシンプルだったが、鈍い我が姉には回りくどい言い方をしても通じない可能性がある。

その辺りを理解してのシンプルケース、流石は広臣さんだ、姉ちゃんのことをよく理解してる。

 

いや、単純に緊張して何とか捻り出した言葉かもしれないけど……。

 

 

『………』

 

 

さて、広臣のプロポーズのセリフにも問題はなかった、ここまでくれば勝利条件は揃ったはず。

あとは、姉ちゃんがプロポーズを受ければ何もかもがーーー

 

 

『……ごめんなさい、広臣くん……まだ、君の気持ちを受け入れることは出来ないの……』

 

『え……?』

 

 

瞬間、俺の中の時間が止まった。

頭の中が空白になっていく感覚が、姉ちゃんが今なんと言ったかを理解しようとする俺の意志を一緒に掻き消していく。

 

おい、ちょっと待てよ……

今、姉ちゃんはなんて言った?

 

断ったのか?

拒否したのか?

受け入れなかったのか?

 

いや、あるわけがない、そんな事があっていいはずがない。

あっていい道理がない、あっていい理由が存在しない。

 

自分から幸せを遠ざけようとするなんて、そんな非合理的なこと。

いや、だとすればそんな不要な要因、前提条件は全て排除してしまえばーー

 

 

『シュウくんの体のことを考えると、今はまだ、そういうことは考えられなくて……』

 

『……』

 

『まだ、シュウくんを一人にする訳には、私だけが幸せになることはできない……だから今は…ごめんなさい』

 

 

俺は、鈍器で頭を殴られたような感覚を覚えた。

リィィ…と耳鳴りが頭の中で響き、視界が揺れ霞む。

 

なんだそれは……

なんなんだこれは……

この結果をもたらしたものは……

 

あぁそうか……我ながら、なんと愚かなことか。

俺は見落としていたのだ、取り零していたのだ、間違っていたのだ、最初から、徹頭徹尾、何もかも全て。

 

 

俺は、その場から逃げるように立ち去った。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

「シュウ~? はぁ~……もう、トイレって行ったきり全然帰ってこないし……どこで油売ってんだか……」

 

 

りんご飴を買いに行った後、私は一向に戻ってこないシュウを探しすため、里奈たちと一旦別れていた。

お昼の時のことを考えると、どこかで倒れているという最悪のケースも有る、それを考えるとただ待っていることが出来なくなった。

 

竜宮島の夏祭りと言っても、祭りは祭り、一時的にそこそこ人口密度が高くなった神社内で人を探すのは中々骨が折れる。

でも、人の悲鳴やざわつきが聞こえてこない所を見ると、シュウがその辺りで行き倒れになっていない証明にもなる。

 

 

「あ、シュウ!」

 

「………」

 

 

と、根気よく探すこと数分程、時間にしてみれば大したことはないけど、私を心配させた罪は重い…

これはベビーカステラの一つでも奢ってもらわなければ。

 

………食い意地が張った女の子とか思われないかな?

い、いや別に今更シュウにどう思われようと構わないし、シュウの場合『たくさん食って肉付けろ肉、お前痩せ過ぎなんだよ』とか真顔で言いそうだけど。

全く、女の子の苦労も知らないで……まぁ、実際にシュウが言ったわけじゃないけど。

 

 

「もー、探したんだからね? どこほっつき歩いてたの? 里奈達もう灯篭流し見に行こうって、先行っちゃってるよ」

 

「………」

 

「私達も早く……って、シュウ聞いてる?」

 

 

あれ?シュウってば私の話聞こえてる?

なんだか全然反応ないけど、もしかしてトイレ空いてなくて余裕ないとか……?

 

そんな馬鹿みたいな事を考えている途中で私は気が付いた。

シュウの顔色が昼間と同じように真っ青になって、いつもの温かみを宿した灰色の瞳から、一切の感情が消えて虚ろな、濁った色になっていることに。

 

 

「ちょ、ちょっとシュウ? どこか痛いの? もしかしてまた体がーー」

 

「……俺が……間違ってた…」

 

「シュウ…?」

 

 

漸く口を開いたと思ったら、シュウの言うことの真意が読めない、脈絡のない言葉だった。

しかし、シュウは虚ろな瞳のまま、弱々しい口調で続ける。

 

それを聞いた瞬間、私は心臓を掴まれるような感覚を覚えることになった。

 

 

「……俺が、ここに居ること自体が、間違いだった……」

 

「え……? それってどういう…?」

 

 

シュウの言葉の真意を尋ねようとする私……だったけど、それは叶わなかった。

一瞬、小さく島全体が揺れたというか、何かにぶつかったような振動を体に感じたのだ。

 

そして、間髪入れずに、警戒を促すけたたましいサイレンの音が聞こえてくる。

何があったのかと周囲を見渡すと、異常の原因はすぐに理解できた。

 

灯篭流しが行われている海岸線、ついさっきまで灯籠しか流れていなかったそこに、大きな船が現れていた。

その船が、海岸線のコンクリート壁に突っ込み、座礁する形で止まっていたのだ。

 

 

 

 






浴衣姿の芹ちゃん、劇場版では一瞬チラッとしか出てこなかったけど最高や!
エグゾダスでも着てくれていいのよ?
寧ろお願いします。

前半見て頂ければわかりますが、もうあれです、修哉は芹にアレなわけです。
でもってその逆も然り。
無自覚って怖い。

修哉の自己嫌悪が、自己否定というか、自分で自分を不必要な存在とする思考がより強くなってきましたが……うーん、こういうシリアスなのは難しいですねぇ。。。
精進します。


次回はザインの戦闘を軽く描きつつ、今回の主人公と芹の話の続きを。

今週末からちょっと忙しくなるんで書き溜めせねば。。。


ではでは、また次回。


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