蒼穹のファフナー Benediction   作:F20C

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今回から時系列的には劇場版本編に入っていきます。


視点は前半修哉、後半は芹です。
すこ~しずつ、ジワジワと滲ませるようにファフナーらしい所を出していかねば。。。





レゾンデートル -Ⅰ-

相変わらずの夏日のなか、時刻は既に16時に差し掛かろうとしている。

竜宮島の夏祭り当日、俺達生徒会はその準備に絶賛奔走中だった。

 

前日までに出店に必要なスペースの整理や、提灯などの準備は進めており、後は大人たちの班がそれを組み立て飾り付ける。

懸念していた小楯のおじさん不在問題についても、剣司先輩の尽力もあってなのか、おじさんは祭りの準備に顔を出し、陣頭指揮を取ってくれているらしい。

これで出店、飾り付け関連の問題はクリア、唯一の懸念としては祭りの催し物の一つである灯篭流しの準備にやや遅延が発生していることくらいだが、こちらも祭りまでには収拾がつく見通しだ。

 

 

「広登、暉、今持ってる分はC-15に運んどいてくれ。その一組で最後だから」

 

「(コク)」

 

「あいよ! しっかし毎年思うけど凄い数だよなぁ」

 

「島中の各家ごとに用意されるからな。これを作る方も大変だったろうさ」

 

 

広登が言うように、用意した灯籠の数はこうして並べてみると壮観ですらあった。

各家庭に配布するまで、どこにどの家の灯籠が置いてあるかを分かりやすくする為、竜宮島高校のグラウンドを一定範囲で区切ったスペースに一時的に配置しているが、運ぶのはもちろん作るのも並ではない労力がかかっただろう。

無論、全て人の手というわけではないし、オートメーション化されたところもあるだろうが。

 

手元の端末に開いている灯籠の配置整理表を見れば、この竜宮島にどれだけの人が住んでいるのかを思い知る。

もっとも、この島が稼働し始めた頃から比べれば、その数はどれだけ減ったのか想像すら難しいかもしれないが。

 

 

「何にしても、死者を弔う催し物だ。これ以上灯籠の数が増えないように願いたいね」

 

「確かにな……って、無駄口叩いてる暇なかったな。暉、さっさと整理しちまおうぜ」

 

「(コクコク)」

 

 

そう言うと、小さく頷いて肯定の意思を見せた暉を連れ、広登は灯籠を満載した台車を引っ張っていく。

2年前のフェストゥム襲来から、流す灯籠の数は格段に増えた。

 

フェストゥムに同化された人や、戦闘で犠牲になった人、そしてファフナーに搭乗していたパイロット。

この2年間で、あまりに多くの人間がいなくなってしまった。

軽く口にした程度だったが、これ以上増えてほしくないというのは心の底から思っていることでもあった。

 

 

「んっ……?」

 

 

と、やや暗い会話から辛気臭いことを考えていた最中、俺はリィィ…という耳鳴りが聞こえたと思うと、自分自身の視界が急激に霞んだように感じた。

いや、視界が霞んだだけではない、体から力が抜けそうにすらなった。

 

危うく崩れ落ちそうになるが、一瞬の内に鉛のように重くなった体に無理やり命令を出し、膝に手を付く形に落ち着ける。

数瞬の間に出来事ではあったが、額には大きな汗の粒が浮かんでしまっている。

 

やや日光に当たりすぎたのか、ここ最近の疲れが溜まっていたのか……それとも安定していた病状がその休息時間を終えたのかは分からなかったが、これ以上は立っていられない。

俺は若干ふらつきながらも、なんとか校庭の隅の木陰に逃げ込み、休憩用に設置されている長ベンチに腰掛ける。

 

 

「ふぅ……」

 

 

一息つき、何度か瞬きをした後、再度目を見開くと視界の霞は消えていた。

体の怠さはやや残るものの、座っただけでかなり楽になった所を見ると、やはり日射病にでもなりかかったというところか。

普段から外を出歩いてばかりの広登達なら、この日光などなんてことないだろうが、流石に普段から引き篭もり気味の俺がアクティブになるには厳しい環境だったということなんだろう。

 

だけど、広登と暉達に実作業を任せておいてこれは流石に情けなさ過ぎる。

作業ももう終わりだけど……俺、役に立ってんのか……?

 

 

「あれ? シュウ?」

 

「んあ…? あぁ、芹か……そっちの作業はもう終わりか?」

 

「うん…ちょっと早く終わったから……って、そんなことはどうでもいいよ! シュウ、顔真っ青じゃない!」

 

 

ベンチに座りながら体力回復を図っていると、別作業に言っていた芹が戻ってきていたようで、俺の様子に驚いたようで駆け寄ってきた。

と言うか、自分では見れないから仕方ないけど、顔色まで悪くなってたか。

どうも……参ったねこれは…まさかこんなタイミングで戻ってくるとは思ってなかった。

 

 

「ちょっと立ち眩みしただけだ。作業も広登達のお陰で終わったとこだし、一旦うちに帰って休むさ」

 

「で、でも……」

 

「大丈夫だって。のんびり歩いて帰る分には問題ないし、もうほぼ治ってる。それに、芹もこれから神社に行くんだろ?」

 

 

そうだ、一先ず俺の仕事は片付いたが、芹はまだこれからやることがある身だ。

神社での仕事が残っている芹に迷惑はかけられないし、祭りを回ろうと誘った手前、俺がその約束を反故にするようなことは出来ない。

 

それに、話している間にも体の方は元に戻りつつある。

あとは家で少し休んでしまえば、日が落ちてから出歩く分には問題ないはずだ。

 

俺だって、折角準備した夏祭りには参加したいし、最後まで見届けたいじゃないか。

 

 

「……分かった。でも、一応絵梨さんには連絡入れて…」

 

「ダメだ!」

 

「っ!」

 

 

芹が納得してくれたと思い安心した俺だったが、続けて芹の口から出てきた姉ちゃんの名前を聞くと同時に、俺は無意識のうちに強い言葉でそう言い放っていた。

まさか俺がこんな語気を強めて拒否すると思っていなかったのか、芹はやや身構え気味になってしまっている。

しまった……こんなビックリさせるような気はなかったが、事ここに至ってそれを言っていても仕方ない。

 

……それに、これについては何を言われても譲るつもりはなかった。

今日は、夏祭りだけじゃない、姉ちゃんと広臣さんにとって特別な日になるかもしれないんだから。

二人にとって、新しい何かが始まる日なのだから。

 

 

「しゅ、シュウ…?」

 

「………」

 

 

…もうこれ以上は、ダメだ。

これ以上、俺が姉ちゃんに、芹に、広登に、里奈に、暉に、皆にとって障害物になって、『そういうモノだと理解されてしまえば』

きっと俺は本気で自分を許せなくなる。

きっと俺は自分が生きていることが許せなくなる。

きっと俺は自分自身を定義できなくなる。

 

 

ーーー俺がどこにもいなくなる。

 

 

「あ~……いや、姉ちゃんたちも忙しいだろ? ただの立ちくらみで呼びつけるのもなんだしな。ちょっと強く言っちまった、ごめんな」

 

「……う、ううん。私もちょっと騒ぎ過ぎだったかもだし……」

 

「いや、心配してくれてありがとな芹。じゃあ、俺は一度帰って休むよ。悪いけど、広登達には伝えておいてくれないか」

 

「…分かった。気を付けてね」

 

「サンキュ、頼むよ。18時位にまた迎えに行くから、神社で待っててくれ、じゃな」

 

 

だから、こうやって誤魔化すしかない。

俺は大丈夫だからと、心配はないと、迷惑はかけないと、役に立てると、皆の理解をねじ曲げる。

あぁ、なんと卑怯で愚かなことか。

 

自分自身でもそれを理解しつつも、だらだらと今日までそれが続いてしまい、もうどうしようもない所まで来てしまっていた。

 

 

「シュウ……」

 

 

背中に届いた芹の声に、俺は気が付かないふりをしてその場を立ち去ることしか出来なかった。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

お祭り特有の明かり、音、空気が伝わってくる。

夜の帳が下り、夏祭りが始まって少し経った頃、私こと立上 芹は神社の境内で人を待っていた。

 

先ほどまで身に付けていた巫女装束から着替え、今は浴衣姿となっている。

着付けとかおかしくなってないかな……? 鏡とか見てチェックはしたんだけど……

 

今年は新しい浴衣にしてみたりしたんだけど……あ~、多分シュウは気付いてくれないかな……あんまり期待しないでおこう。

 

 

「(……昼間のシュウ、どこかおかしかったな……)」

 

 

あの時、シュウの姿を見た時はゾッとした。

青白い顔をして、辛そうな表情で椅子に腰を下ろしていれば、何事かと思ってしまうだろう。

話している内に顔色とかは元に戻ったけど、本当にただの立ちくらみなんだろうか……あの時はシュウの様子がおかしかったこともあり、強く言えなかったけど無理やりにでも遠見先生のところに連れて行ったほうが良かった…?

 

いや、それも気になるけど、私が絵梨さんに連絡しようとした時のシュウのことも、同じくらい気に掛かっている。

あんなにハッキリというか、語気を強めて何かを言うこと事態、珍しいのだ。

 

そして何より、私がそこにいるのに、まるでそれが見えていないような、どこか虚ろな目をしたシュウのことが脳裏から消えなかった。

 

 

「(多分、聞いても答えてくれないよねシュウは……はぁ……乙姫ちゃん、私どうすればいいのかな……?)」

 

 

答えは帰ってこないかもしれないが、私が心の中で親友に問いかける。

彼女なら、この島のこと、島の人間の事を誰よりも知っていて、愛しんでいる彼女なら、こんな悩みは抱かないかもしれない。

まるで解答を諦めて、先生に答えをねだるようだけど、他にどうすればいいか私には分からなかった。

 

幼馴染の悩み一つろくに理解してあげられない、なんと無力なのだろうかとやるせなさを感じてしまう。

私にできる事、してあげられる事はないのだろうか……

 

 

「芹」

 

「あ…シュウ」

 

「悪い、遅くなった。待たせたか?」

 

「う、ううん。私も浴衣の着付けとかあって遅くなったから、今さっき来たところ」

 

 

と、いつの間にか、今の私の悩みの中心にいる人物たるシュウが目の前にいた。

声をかけられるまで気が付かなかった……それくらいちょっと真剣に考えてしまっていたらしい。

 

さり気なく、デートで待ち合わせた男女のような会話になってしまっていることに気がついたけど、意識すると何故か恥ずかしくなったので口には出さない。

シュウも浴衣でも来てくるかと思ったけど、カーゴパンツにTシャツに薄手のジャケットという普段着のままだ。

まぁ、男の人で浴衣を着るのってどちらかと言うと大人ばっかりだしね。

 

 

「芹、新しい浴衣にしたんだな。うん、似合ってる」

 

「シュウが……浴衣の変化に気がついた……?」

 

「いや、そんな幽霊でも見たような顔されるとさすがに傷つくわ」

 

「ふ、ふん! 普段の行いが悪いからでしょ!」

 

 

あぁヤバイ……シュウに浴衣似あうって言われただけなのに、新しい浴衣に気が付いてくれただけなのに……。

何でこんなに嬉しいだろう……自分の事なのに、わけ分かんない…

さっきまであんなにこいつの事で悩んでたのに……ホントおかしいよ私。

 

いやいや、あ、焦るな私!

ただ単に浴衣を褒められただけ! 特別なことじゃない! 寧ろこれが普通! 緩むなほっぺた!

って、意識しないようにすればするほど逆効果だしこれ!

 

 

「シュウこそ! もう体調は大丈夫なんだよね!」

 

「あ、あぁ……あの後、1時間位寝させてもらったしな、もう完璧だ。心配かけて悪かったな」

 

「べ、別に心配なんてしてないし…! でも……それならよし!」

 

 

ややテンパッていた私は、投げつけるような形でシュウの体調を回復具合を問いかける。

私の妙な勢いに押されながらも、シュウはもう大丈夫と答えてくれる。

けど、シュウ自身が言うとおり、血色も良くなってるし、ふらついている様子もない。

どうやら、本当に体調は回復してくれたみたいで、まずはその事にホッとしておこう。

 

心配はしてたに決まってる……けど、それは口にしないでおく。

それを言ってしまうと、多分シュウ、すっごい気にしちゃうだろうし……

 

 

「じゃ、広登たちも待ってるだろうし、行くか」

 

「…うん」

 

 

そう言うと、シュウは歩き出し、私もそれを追いかける。

追いかけると言っても、シュウの歩くスピードは早くないからすぐ追いついてしまう。

必然的に隣り合って歩く形になってしまうが、その速度は私にとっても、シュウにとっても丁度いいものだった。

遠くもなく近くもない、昔から変わらないこの距離感もなんとも心地良かった。

 

……でも、いつまでも、このなんとなくイイ感じの時間が続くのだろうか?

いや、そうじゃない。

この私にとって、都合のいい距離感に浸っているだけの状態を継続させているだけでいいのだろうか?

 

シュウは多分、今……いや、もっと昔から何かに悩んでいたのかもしれない。

今までそれに気がつけなかったのは、私自身がこの距離感に留まったまま動こうとしなかったから。

 

私はさっきまで、シュウの方から近くに来てくれて、私に弱音を聞かせてくれることばかりを考えていた。

でも、そんな受け身だからダメなんじゃないだろうか?

今はシュウの方から悩みの内容を打ち明けてはくれることは絶対にない……だったら、話してくれるようにしたいと思う。

私になら何もかも、全部を見せてくれるような、シュウにとってそういう存在になれれば。

 

だから……

だったら私は……

 

 

「芹…? 手…」

 

「いいからこのまま歩く! ……それとも、嫌とか?」

 

「い、いや…そんなことはない…」

 

「……(ホッ)」

 

 

私は、手始めに隣を歩いているシュウの右手を握ってみた。

特に理由があったわけでも、何かしらの根拠があったわけじゃなく、何となくこうしてあげたいと思った。

シュウから不思議そうな顔をされるけど、そこはもう、勢いに任せて現状維持だ。

幸い、シュウは嫌がる素振りも見せずにそのままでいてくれて、少し遠慮がちではあったけれど、柔らかく握り返してくれた。

 

少し気になることとしては、シュウの顔が微妙に赤くなっているような気がしたこと……うーん、お祭りの照明のせいかな?

 

というか手を繋いで歩くとか小学生以来……ってあれ? これって傍から見ると色々邪推されちゃうような……?

いやいや、別にそういうこと(・・・・・・)じゃないし、これは……諸々の事情が…

 

……誰に言い訳してるんだろ、私……

 

 

そうして手を繋いだまま、出店賑わう夏祭り会場を歩く私とシュウ。

特に会話があったわけじゃないのに、強い充足感に心が浸かっていく。

ただ隣り合って歩いていた今までとは違って、なんだかこう……一緒に歩いているという感覚が強くなったような気がする。

 

……そして、何よりの驚きと変化が、この時間がより長く続いて欲しいと思っている自分がいた事だった。

 

 

 

ちなみに、手を繋いだまま里奈達……と一騎先輩や遠見先輩達とも鉢合わせすることになり、大いにからかわれたことは言うまでもない。

 

 

 

 





前半は修哉視点で、彼のやや人間として壊れている部分の片鱗をお見せできたかと思います。
若干、自分で自分を脅迫しているような思考を持っています。


後半は芹視点。
修哉に何もしてやれない無力感から、思い切った行動に出てもらいました。
ちょっと暗い雰囲気だな……って結局イチャイチャしてんじゃねーか!!みたいな感じになりましたね。


さてさて、次回は修哉には一度軽く絶望してもらいます。
優しいだけの日常回は終わりでございますよ(満面の笑み)
サブタイも新しくしたことですし。。。


ではでは、また次回。




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