今回は前半を里奈ちゃん視点。
後半はシュウ視点としております。
今回は姉登場回でございまする。。。
お気に入り登録頂いた方、感想をくださった方、評価して頂いた方、本当にありがとうございます。
まさかこんなに感想来るとは思わなかったので、またしてもビックリしてしまいました(汗
今後共、どうぞよろしくお願い致します。
夕焼けのオレンジからやや夜の色がにじみ始めた時間、あの後は焦る芹が可愛くて弄るのをやめられなかった。
私こと、西尾 里奈としては、いつまでたってもハッキリしない、いやお互いに色々と気付けていない2人をアシストしたつもりなんだけど、中々どうして成果は芳しくない。
今も目の前を歩いている二人を後ろから観察しながら家路についているわけなんだけど、浮ついた、色気のある話の一つも聞こえてこない。
やれクワガタどうだとか、やれ新しい圧力鍋が欲しいだとか、なんとも言えない話に興じてしまっている始末。
ていうか、クワガタは芹だろうけど、修哉ってば圧力鍋って何よ……
この二人のことは小学生の頃くらいから気が付いてて、そこからずっと見守ってきたというか、出歯亀みたいな事してたって言うほうが正しいか。
昔は修哉の病気も今ほど安定してなかったから、学校休むのも、何週間も来なくなるなんてよくある事だった。
そして、たまに学校に来る修哉だけど、お姉さんの絵梨さんに面倒を掛けたくなかったのか、送り迎えとかは頑なに断っていたみたいだった。
いつもボケーッとしながら、フラフラ歩いて登校する修哉を見ていられなかった……とか、子供の頃は考えてなかったから、多分自然にそうしようと思えたんだろう。
疲れた顔で歩く修哉の手を芹が引っ張り、広登が背中を押す。
私と暉は、そんな三人を後ろからのんびり歩いて追いかける。
今でさえそんなことはないけど、昔はそれが普通だった。
「(何となく過ごしてたけど、今思うと懐かしいなぁ…)」
昔を懐かしんでややセンチメンタルな気分になるが、今はそれは重要じゃない。
目の前を歩いている幼馴染二人の関係が、その『昔』から全く以て前進していないことのほうが、私にとっては重要だったりする。
いやいやいや、普通は幼馴染から恋仲に~とか、友情発恋愛行き~とか……あ、どっちも一緒か。
兎も角、そんな風になって然るもんじゃないだろうか?
じゃあお前自身はどうなんだって聞かれると………わ、私には遠見先輩という心に決めた人がいるからして何の問題もない、うん、どこもおかしくない。
……あーもう、まどろっこしい!
「ねー、修哉。ちょっとちょっと」
「ん? なんだ?」
ごちゃごちゃ考えてても仕方ないと思った私は、今度は芹ではなく修哉の方をつついてみることにした。
前を歩いていた修哉を手招きして呼びつけ、芹に聞こえないように気をつけながら尋ねてみる。
「修哉ってさ、芹のこと……どう思ってるの?」
「……どう…とは?」
「だからこう……好きとか嫌いとか」
「なんだ、そんなことか……そんなの、好きに決まってるだろ?」
おおぅ!?
自分でもちょっと突っ込んだ聞き方したと思ったけど、こんなにはっきりした答えが返って来るなんて。
これは芹の方から攻めるんじゃなく、修哉の方から崩していくべきだった?
でもまぁ、そうだよね。
何だかんだで甲斐甲斐しく自分の世話を焼いてくれる幼馴染に惚れない理由なんかーー
「まぁ、幼馴染だからな。好きじゃなきゃここまで長い付き合いになんないだろ? それは広登もお前も、暉もそうだと思うぞ」
「デスヨネー」
お約束のテンプレートォっ!!
いや、何となくそんな感じのオチが付くだろうなーとは思ってたよ?
でもさ、あんまりにもお約束すぎだと思うよ修哉……
そうじゃなくってさぁ、男と女の関係として、友達へのライクじゃなくて、ラブ! LOVEの方の感情はないのかってことを聞きたいのであって…!
……あぁ、何でだろ、一人でくるくる空回りして一人で疲れきってる自分が道化に見える……。
ふふふ…笑え、笑うがいいわ……って、私ってば誰に言ってんだろう。
「それじゃあさー、もしも芹に好きな人が出来て~みたいなことになったらどうする?」
「ん~……」
ちょっとばかし精神的に疲れた私は、ちょっと投げやり気味にそんなことを聞いてみた。
自身の好奇心を満たしたい……という気持ちもややあるが、このもどかしい2人を何とかしたいというのも事実。
ともあれ、これ以上あれこれ聞くと、それが切っ掛けで二人の間の空気が変わってしまうのも困る。
変な質問だけど、修哉をつつく棒は今日のところはこれに最後にしておこう。
「それは……なんか嫌だな」
「嫌……ねぇ…。それはどういう理由で?」
「分からん。ただこう……なんかモヤモヤした気分になるかなぁ……」
「へぇ……」
最後に投げ入れた小石だったわけだけど、これはちょっと予想外の収穫だった。
もしかすると、私なんかが余計なことをしなくても、この2人はそう遠くない未来に収まるべきところに収まってしまうかも。
女の勘と言うと説得力が薄れてしまうかもしれないけど、そんな気がした。
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学校からの家路について少しした頃、そろそろ里奈の家である西尾商店が見えてくる。
里奈からは、ついさっき意図のよく分からない事を聞かれたが、一体何を知りたがっているんだこいつは……。
まぁ、それはいい。
俺には里奈のことよりも、西尾商店から出てきた二人の男女の姿のほうがよっぽど気になってしまったのだから。
「ねぇ、うちの前にいるのって絵梨さんと五島さんじゃない?」
里奈にそう言われる前から、実は気が付いていた。
西尾のばあちゃん、里奈と暉の祖母でもあり、ファフナー開発においては随分と知識のある技術者でもあるらしい人が経営する小さな商店。
あの二人、アルヴィスの仕事、いや恐らくはもうすぐそこに迫っている夏祭りの件についてだろう、何かしらの相談をしに来たんだろうか。
そして、俺達が気がついたのと同じように、向こうの二人組もこちらの存在を認めたようで……
「あら~?」
「あぁ……なんだか嫌な予感がしてきた」
「あらあらあら~♪」
俺の若干の諦観を含めた言葉が聞こえているのかいないのか、それとも意図的に認識していないのかは不明だが。
長い黒髪を揺らしながら、眩しいばかりの笑みを浮かべながら俺に近寄ってくる女性。
あぁ、これは確実にハグするつもりだ、頭で考える前に、経験則から俺はそう判断した。
と同時に、これから起こるであろう彼女の自称愛情表現から脱するべく、女性の両腕が俺を補足する数瞬前、俺はちょうど隣にいた芹の腕を引っ張って、俺の代わりとして生贄に…いや、差し出すことにした。
「ちょ!?」
ガバっと言う音と、予想外のことに驚いた芹の声が交差する。
許せ、芹……流石に往来でこの人にハグされるのは勘弁願いたいんだよ。
今度楽園で好きなモノ奢ってやるから、それでチャラにしてくれ。
「シュウくんじゃないの~♪ あらあら、こんなところでバッタリ会うなんて、やっぱり朝のおはようのハグしてあげれなかったから寂しかったのね~」
「のふぉ!?」
「修哉、あんた割とえげつないことするよね」
「往来のど真ん中で姉にハグされる身になってみろ、泣きたくなるぞ」
芹のなんとも言えない声を背に、里奈がジト目でこちらを見てくるが、流石にこれは勘弁だった。
芹を俺だと思って強烈にハグし続ける女性、俺の姉である滝瀬 絵梨の愛情表現らしいのだが、高校生になった身の上で姉のハグをオープンに受け入れる勇気は俺にはなかった。
アルヴィス内でも姉ちゃんのこの『困った癖』はそこそこ知られているが、大人たちからは微笑ましいものとして捉えられ、俺と同い年くらいの男連中からは怨嗟のような視線を受ける。
別にうっとおしく思っているわけではないが、家族愛にもTPOは大切だと、俺は声を大にして言いたい。
「あらあら? シュウくん随分柔らかくなって……まるで女の子みたいに………あらあら? 芹ちゃん…?」
「ふ、ふぁい……」
「姉ちゃん、そろそろ気が済んだか?」
「あ! シュウくんてば芹ちゃんを身代わりにしてお姉ちゃんのハグから逃げたのね!?」
そして、漸く全力全開でハグしている相手が俺ではなく芹であることに気がついた姉ちゃんは、目を回してしまった芹を腕に俺を睨んでくる。
いや、睨んでくると言っても、おっとりした雰囲気が強すぎて迫力の欠片もないわけだが。
睨んでもダメです、俺はそんな講義には断固として応じませんとも。
「シュウぅ……よくも私を身代わりにぃ………」
「すまん、ちょうどいい位置にいたもんだから、つい」
「鼻にミヤマクワガタの刑」
どうやら、刑罰がランクアップしたようだ。
「ご、ごめんなさいね芹ちゃん……私ったら思わず思いっきり……」
「あぁいえ……悪いのはシュウですから」
「そ、そうよね? 卑怯な手を使うシュウくんが全部悪いわよね」
「おう、弁護士を呼んでもらおうか」
目を回していた芹も徐々に回復してきたようで、姉ちゃんの腕から離れると、ムスッとした様子で隣の『大きな子供』同様、俺を睨んでくる。
加えて、妙な結託関係を結んで俺を攻めてくるときたもんだ。
いやいや、芹が俺を睨むのも文句言うのも分かるけど、姉ちゃんがそれを言うのはおかしいだろう。
そもそも、姉ちゃんが人目も気にしないで抱きかかって来るから……
「ま、まぁまぁ……絵梨さん、修哉くんも恥ずかしかっただけですから」
「むぅ……広臣くんはシュウくんの味方するんだ……」
「あ、いやその……はは…困ったな…」
「(広臣さん……弱いなおい…)」
そこで唯一俺の味方をしてくれたのが、姉ちゃんと一緒だったメガネを掛けた言葉通りの優男、
姉ちゃんの1つ年下であり、アルヴィスでは先輩後輩の関係で、頼り……には今みたいになったりならなかったりするけど、優しいお兄さんという感じの人だ。
ファフナーブルグでの仕事に従事されており、技術力の方も若い中でも評判、やや押しが弱いところがあるけど、面倒見のいい性格もあってスタッフからの信頼を得ている。
あと、ついでに言うとである。
うちの困った姉とは恋人関係という、まさに菩薩のような人である。。
「それはさておき。姉ちゃんと広臣さん、西尾のばあちゃんのとこに何しに来てたの?」
「あぁ、今度の夏祭りのことでね。灯篭流しに使う道具とか、飾り付けについてちょっと相談をね……」
「そっか……小楯のおじさんがいないから……」
「う~ん……ホントは保さんに頼ってばかりなのはダメなんだろうけど、どうしても僕達だけじゃノウハウが足りないところがあってね」
昼間の剣司先輩の話にも出ていたが、小楯のおじさん、小楯 保さんは最近は酒浸りの生活を送り、ファフナーブルグにも顔を見せていないらしい。
亡くなった息子さんである、衛先輩が乗っていたファフナーを修復したって聞いたけど、それ以降は現在のような生活を送っているらしい。
事情が事情なだけに、こればかりは本人にしか解決できない問題だが……こうやって、小楯のおじさんがいないと困る人もいるのも事実。
できるだけ早く、立ち直ってもらうことを祈るしかない。
「西尾先生のお陰で、ギリギリ何とかなりそうではあるんだけど……まだちょっと厳しい状況だね」
「流石にブルグを完全に開けちゃうわけにもいかないしね……あっちの仕事もあるわけだし」
拗ねていた姉ちゃんも、真面目な話になると難しい表情をしつつ広臣さんに続く。
夏祭りももちろん大切な行事ではあるだろうが、アルヴィスの機能を全て停止させてしまうわけにも行かない。
夏祭り当日も、CDCやブルグなどアルヴィス施設に常駐するメンバーは立てるとのことだし。
ここで俺たちも手伝うと言えればいいんだけど、俺達にも生徒会としての仕事があるため、おいそれと安請け合いできない事情がある。
こちらはこちらで、スケジュール的には何とかなりそうというレベルで、リスクがないわけじゃない。
当日になれば、どうしたって計画にないことが起こったりするものなのだ。
「まぁ、なんとか僕らで頑張ってみるさ。作業が早く終わりそうな班から人を回してもらえる可能性もあるしね」
「そうですか……すみません、私達も手伝えればよかったんですけど」
「あぁ、いいんだよ。本当はもう少し早く作業を進めないといけないところで、もたついていたこっちの落ち度だからね」
「そうそう、あなた達にはあなた達の仕事があるんだから。大人の心配をするなんて早い早い」
「え、姉ちゃんって大人のつもりだったの? またまたご冗談を」
「シュウくんがストレートに失礼なことを!?」
芹も同じようなことを考えていたようで、申し訳なさ気にそう言うが、そこは広臣さんだ。
俺達の事情も理解してくれているわけで、気にしないように言ってくれる。
姉ちゃんも、ふんすっという感じで大人ぶってるけど、正直広臣さんのほうがよっぽど大人っぽく見える。
1歳年齢は違うというのに、どこでこうも差がついたのか……
っと、そうだ……前に広臣さんに頼まれてた件、ちょっと話しておかないとな。
「広臣さん、ちょっと……」
「ん? 何かな修哉くん」
「『例の件』についてちょっと……」
「あ、あぁ…! そうか……」
姉ちゃんが精神的ダメージに沈んでいる間に、俺は広臣さん小さい声で話しかける。
例の件というだけで、広臣さんは内容を理解したようで、やや緊張した面持ちで俺の話を聞いてくれる。
話の内容は他でもない。
広臣さんと姉ちゃんの事について、正確に言うと、広臣さんが姉ちゃんとの関係を前に進めたいという相談事についてだった。
まぁ、ざっくりといえば、広臣さんが姉ちゃんにプロポーズしたいということだった。
「夏祭り当日、姉ちゃんには神社の裏手に行くように俺が仕向けます。同じく、広臣さんも神社に来るようにしてください」
「わ、分かった……済まないね…。絵梨さんの弟である修哉くんにこんなことを頼んで……」
「……いえ、これは俺自身も望んだことですから。それに、姉ちゃんも多分喜ぶと思いますし……お互いに気持ちが同じなら、それでいいんじゃないかって」
「そ、そうなのか……それはなんというか、嬉しいというか。あぁ、まずい……今から心臓がバクバク言ってるよ僕」
俺が考えたのは特に何のひねりもない作戦、夏祭りというイベントの裏でこっそり2人を会わせ、邪魔者がいない状況下でプロポーズなり何なりしてもらおうということだ。
作戦と呼ぶのもおこがましいものだが、俺が広臣さんに話した通り、あの25歳には見えない子供っぽさを残す姉ちゃん側もそれを望んでいる節がある、下手なことをしないでも成功率は高い。
それに何より、お互いが幸せになるのならそれに越したことはないと舞台設定を買って出たわけだ。
あと……姉ちゃんにはそろそろ、自分の幸せを考えてもらいたい。
今まで迷惑しかかけてこなった俺だ、どんな形にしても少しくらいそれをアシストしたいし、しなくてはならない。
もういい加減に、俺のことなんか気にしないでーー。
「俺にできる事はこんなことくらいですが……頑張ってください」
「……あぁ、ありがとう……十分過ぎるくらいだよ。あとは、僕自身がどうするかだけだ」
「……上手くいくことを祈ってます」
そんな短いやり取りを以て、今回の作戦会議は終了となった。
後は広臣さんが言った通り、彼がどう事を持っていくかだけ。
まぁ、おそらく結果は後から付いてくるだろう。
それにまぁ、広臣さんみたいな人がお義兄さんというのも、俺にとっては理想的でもある。
「むぅ~……またそうやって2人でこそこそ話してる……何の話してるのかなぁ? シュウくん、お姉ちゃんに教えなさい」
「姉ちゃんがこの前、体重計の上で青い顔してたって話だよ」
「う、嘘!? な、なんでシュウくんがそれを知って……?」
どうやら、俺はどさくさ紛れに地雷を発掘してしまったらしい。
姉ちゃんは『そんなバカな……いやアレは500g増えただけだし……お姉ちゃん的にはノーカンだし……』とかブツブツ言いながら虚空を見つめている。
……ほんと、この人は大人とカテゴライズしていいんだろうか。
閑話休題
そうして、まだブルグに仕事が残っているとかで、真っ白になった姉ちゃんと広臣さんはアルヴィスの方に戻っていった。
すみません広臣さん、フォロー頼んます……
「なんだか、あの2人って良い感じだよね」
「そうそう、お似合いって感じで。自由奔放な年上女性に振り回される、世話好きの年下男性って感じ」
二人の背中を見送りながら、芹と里奈がまるでドラマを見た後の感想のようにそう語る。
芹と里奈の感想は、言い得て妙というか、結構合ってると思う。
これで、後はドラマのエンディングよろしく、2人は結ばれてめでたしめでたしとなってくれればいいんだけど。
「でも俺と違って、姉ちゃんって鈍感だからなぁ……広臣さんの真剣な気持ちが上手いこと伝わればいいんだが」
「あー……修哉がそれ言っちゃうんだ」
「え? 俺なんかおかしいこと言ったか?」
「べっつにー。はぁ…芹も苦労しそうだねぇ…」
「わ、私は関係ないし…!」
何故か里奈に呆れたような視線を送られたような気がしたが……え、これって俺が悪いの?
俺があの2人をくっ付けるのにどんだけ苦労したか、それこそ本一冊に出来るぐらいだというのに。
と、どこか釈然としないモノを胸に感じつつ、俺達の竜宮島での一日がまた過ぎていった。
お姉ちゃんと広臣は幸せになれるといいですね(ニッコリ)
今週放送で、やられそうになった里奈ちゃんが剣司の名前読んでましたね。
里奈ちゃんが女の子好きだと思ってた私をお許し下さい・・・!
まぁ、その設定を活かすとすればエグゾダスからになりますけど。。。
次回から劇場版本編に入っていきます。
シュウの人間として壊れている部分と、それに対する芹を書いていきたいですね。
ではでは、また次回m(_ _)m