蒼穹のファフナー Benediction   作:F20C

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予定していた通り、エグゾダス編は書きなおしてます。
最初から竜宮島サイドの話をメインに据えていく方向に。

その分、芹ちゃんの出番が増えればいいと思ってます、はい。

というか、アニメ本編、毎回熱い展開ばっかりですね。
そんな中、私が最も興奮したのは24話の芹ちゃんのおっぱいでした。
大きいことは正義だからね、仕方ないね。






EXODUS
Clover Days -Ⅰ-


『言葉を紡ぐべき時間もあれば、眠るべき時間もある』

 

どこのどなたの言葉だったのかは忘れたし、そもそもが自分で本を読んで獲得した言葉ですら無い。

 

しかしながら、この言葉に今の私は最大限の賛同を示そう。

朝……と言うには、既に太陽は高く昇ってしまい、時計の針も容赦なく経過した時間を示してくれている。

起きなければ、という意思はあるものの、体がその意思を無視して中々起動してくれないわけで。

 

まぁ、今日は午後から予定はあるもののそれ以外の時間はフリー。

しかも、昨日はほぼ徹夜で研究室に篭もりっきりだったのだから、その分の睡眠時間は確保せねばならない。

さっきの言葉の一部を借りるとするのなら、今こそが『眠るべき時間』なのだから。

 

 

「んー…………んん…?」

 

 

もうしばらく今日という日の一部を睡眠時間に割り当てると決めた私は、寝返りを打ちながら、『傍に居るはずの存在』に抱き着こうと腕を伸ばす。

しかしながら、やや広めのベッドを私と共有していると思っていた存在はそこにはおらず、私の腕は虚しくも空を切るに終わる。

 

おかしい。

毎日、という訳ではないにしろ、昨日夜遅くに帰える事になった私を迎えに来てくれた彼は、帰宅後に軽い夜食を作ってくれただけでなく、お風呂の用意や、寝間着の用意までしてくれて。

私の我侭に付き合って、確かに同じベッドに身を沈めてくれていたはずだった。

 

 

「ん~………シュウ……?」

 

 

その存在を求めるように、私は彼の名前を口にする。

寝ぼけたような、いや実際寝ぼけている私の小さな声は誰の耳にも入るわけでもなく溶けていく。

もしもシュウが居たのであれば、抱き着いた上でもう小一時間ほど寝るつもりではあったが、その目論見は淡くも消え去ってしまった。

 

仕方がないと、ボケっとした頭に少し活を入れて体を起こし、私はベッドから立ち上がる。

同時に、丁寧にやや神経質な気もする気がする程キッチリ畳まれた男性向けの寝間着を見つける。

 

あぁなるほど、シュウは私よりもずっと早く起きていたわけだ。

そうと分かれば、私には起きるより他の選択肢は無かった。

 

 

「……いい匂い…」

 

 

私の部屋と台所までの距離はそう開いていない。

故に、部屋のドアを開いた瞬間に食欲を刺激されるようないい匂いがすることも珍しくない。

そう言えば、昨日の夜から昼まで泥のように眠っていたため、当然の如く朝ご飯など食べているわけがない。

 

やや寝ぼけ気味だった私の足は、その匂いに釣られるように台所へと歩みを進める。

果たして、台所にはいい匂いの正体と、先程まで私が探していた彼の姿があった。

 

 

「ん?……あぁ、起きたのか芹。昼ご飯作ったから起こそうと思ってたが手間が省けたな」

 

 

少しくせっ毛気味の黒髪に、左右で色彩の異なる瞳の同い年の男の子。

エプロン姿が妙に様になっていて、主夫ですと自称しても大多数が納得してしまうであろう彼。

 

滝瀬修哉。

諸事情によって立上家で私、そしてお父さんお母さんと寝食を共にしている……その、私にとっては『良い人』と言うか、分かりやすく言えば『恋人』というか何と言うか……

と、ともあれ、私にとっては欠かせない、大切な人だ。

 

 

「ったく……寝癖で髪の毛がぷち爆発してるじゃないか……美人が台無しだ」

 

「んん~……くすぐったい……」

 

「って、髪直してんだから動くなっての……!」

 

「んー……いやぁ…」

 

「あぁもう……珍しく寝ぼけてんなこいつ…」

 

 

寝ぼけてはいた……が、既にほぼ覚醒しつつあった私なわけで……まぁ、シュウに甘えてみるのもいいじゃないかと、声を大にして言いたいわけだ。

髪を直してくれているシュウに抱き着き、胸元におでこをグリグリ押し付ける。

シュウの安心する香りが鼻孔をくすぐり、一瞬にして心が満たされるのを感じる。

あぁー……もうずっとこうしてたい……というか、また眠くなってきた……これは二度寝しても許されるパターン…

 

 

「って、立ったまま人を枕にして二度寝しようとすんな…!」

 

「あぅっ!」

 

「ほれほれ、さっさと顔洗ってこい。髪梳かすのは飯食った後でやってやるから」

 

「は~い……」

 

 

優しいデコピンと一緒に却下されてしまった。

残念だけど、流石に目が覚めつつあるし、少し甘え過ぎている自分に恥ずかしさを覚えてしまったので大人しく従うことにする。

 

……あと、気のせいだろうか、シュウが日に日にお母さん化しているような気がするのは。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

寝ぼけていた時の記憶というものは、完全覚醒した後に思い返すと泣きたくなるレベルで恥ずかしいもので。

私は目の前で箸を動かしているシュウの姿を伺いながら、彼の作ってくれた昼食を有り難く頂くことにする。

魚をメインに据えたメニューは島においてはポピュラーなものだが、やはりシュウの作るものはレベルが高い。

というか、多分私の味の好みに合わせて作ってくれたのだろう、箸の進みがそれを物語るように素晴らしい。

 

………多分、私が料理して作っても同じようなこと出来ないだろうな……なんだか複雑というか、何と言うか。

 

いや、確かには美味しいけれど、それはそれでいい。

問題は、さっきまでの甘えん坊な私の態度だ。

恥ずかしいし、シュウに呆れられてないか、面倒くさい女とか思われてないか……気になって仕方ないのだが、直接なんて聞けるはずもない。

 

 

「さっきのことなら気にするな、俺は気にしてない」

 

「え?」

 

「あぁ言うお前も……まぁ、そのなんだ……悪くない。可愛かったしな、ポンコツっぽい芹も」

 

「なっ……!?」

 

 

心を読まれた…!

いや、まさかそんな筈は……あ、もしかして顔に出てただろうか?

人の感情の機微というか、他人の行動と心の動きにシュウは敏感だし、私の様子からそれを見破っていても不思議はない。

……まぁ、男女間の関係的なそれは全然ニブチンだったけど。

 

 

「か、顔に出てた…かな…?」

 

「いや、なんとなく……まぁ、お前のことだし、分かるよ」

 

「そ、そうですか……」

 

「そうなんですよ…っと……ほら、口元にごはん粒付けたままだ」

 

「う……」

 

 

シュウは私の口元に付いたごはん粒をヒョイッと取ると、それを迷いなく自分の口に入れてしまう。

漫画の中ではよく見かける光景が、自身の目の前で繰り広げられている事に唖然としながらも、やはり恥ずかしさが勝ってしまう。

こういう事を平気で、何の躊躇いもなくやってしまうのだから質が悪い。

 

この二年、シュウがなんど他の女の子に無自覚にフラグを立てそうになったことか……

それを思い出すと胃が痛くなると同時に、目の前の女子力の高いパートナーを恨みがましく睨んでしまいたくもなる。

 

 

「そ、それはそうと! お父さんとお母さんは?」

 

「二人共、とっくの昔に仕事に出たよ。今日はアルヴィスだってさ」

 

「そっか……シュウは? 今日はどうするの?」

 

「んー……今日はブルグで作業する予定もなし、一騎先輩のとこでヘルプの予定もない……芹の手伝いしようとか漠然と考えてた。あ、明日は忙しくて一日居ないけど」

 

「ほんと? じゃあ、シュウに面倒な計算全部任せちゃおうかなぁ」

 

「任せろ。全部自動化してくれるわ」

 

 

私達の世代が学校を卒業してから暫く経ち、ファフナーパイロットという第一種任務に加えて、それぞれに第二種任務が割り当てられている。

私で言えば、神社の巫女という仕事と特殊医療とドクターコースの履修、研修への参加などがそれに当たる。

里奈も、不満たらたらそうだったが、西尾商店の店番をしているし、剣司先輩など学校の保険医をしながら医学について猛勉強している。

 

島での生活を送るにあたって、皆それぞれ、言ってみれば『職に就く』というプロセスを踏んだわけだ。

そしてそれはシュウにも当て嵌まるわけで。

 

 

「まぁ、ファフナー関連の仕事で宿題あるし……それやりながらになるけど」

 

「ん、全然いいよ。でも、あんまり無理しちゃダメだからね、元気になったって言っても虚弱体質は変わらずなんだから」

 

「分かってるよ。パイロットってことも含めて、割り当たってる作業は少なめになってんだから」

 

「それで一騎先輩のとこで手伝いしてたり、私の手伝いしてちゃ同じな気もするけど……まぁ、助かってるから何も言えないけど」

 

 

シュウは現在、技師の道を志している。

絵梨さんの辿った道を歩みたくなったのか、それとも機械いじりに興味が湧いたのか。

もしかするとその両方かも知れないが、一週間の内の決まった日にドッグでの作業に従事しており、主に武装開発関連の作業をしているらしい。

現役のファフナーパイロットということもあり、そう言った面でも重宝されているらしいが、見習いとしては筋が良いとは聞いている。

 

その仕事に加えて、暇な時は一騎先輩の店でヘルプに入ったり、私の研究の手伝いをしたり、この前なんか学校で子供の相手なんかもしていたらしい。

そんな感じで、暇な時間は何でも屋のように働いているような感じなシュウなのだが、本人によれば『出来るだけいろんな事をしてみたい』と言うことらしい。

お父さんから、鈴村神社の神主についての仕事の話も、時々いろいろ聞いているようで……

まぁその、私とのことを考えてくれているらしい。

 

病気による『長くは生きられない』という枷が無くなった反動なのか、それともそれを取り戻そうとしているのか。

無論、私達パイロットはファフナーに乗った時点で『同化現象』という病に掛かっている状態ではある……が、それは治療の研究が進めば改善の余地があることだ。

ともあれ、本人は至極楽しそうに、毎日をエンジョイしているようなのだが。

私としては、夢中になって体を壊さないかとか………あと、私に構ってくれなくなったりとか、そういう不安があったりするわけだけど…

 

 

「気にしなくてもいいよ、好きでやってることだし。それに、お前と長く一緒にいたい」

 

「ま、またそういうことを平気な顔して言う……」

 

「お前の照れる顔見て楽しんでるんだよ」

 

「むぅ~…!」

 

「膨れっ面もなかなか可愛いもんだ」

 

 

こんな感じで私をいじめてくる辺り、そんな不安は当面不要なのかもしれない。

私は頬を膨らませながらも、そんなことを考えながら紅潮している顔をなんとかしようと必死だった。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

日もすっかり昇り切り、ジリジリとした暑さと太陽光線が肌を攻めてくる。

汗がじんわりと滲みはするが、カラッとした暑さという印象が強くそこまで不快なものではない。

シュウも虚弱体質ではあるものの、以前と比べると見違えるほどに体力が付いたようで、少し歩いただけで息切れするということはなくなった。

無論、走ったり無理な運動はご法度ではあるのは変わらないのだけれど。

ともあれ、アルヴィスを目指してシュウと二人で並んで歩くこの道も、数年前とは違って大分安心して歩くことが出来るようになったのだ。

 

 

「しばらくは晴れが続きそうだな」

 

「出た、シュウの天気予報。まぁ、ほぼ百発百中だから信用してるけどね」

 

「いろいろ『見える』からな。でも、だからってお天気キャスターやれって話はどうかと思う」

 

「広登の思い付きはいきなりだからね……でも、お天気キャスターならまだマシじゃん……私なんて…私なんてさ……!!」

 

「やめろ、思い出し笑いするだろ」

 

「か、彼女がクワガタのコスプレさせられてバラエティ出されてるのに酷い!?」

 

 

シュウにしか見えない世界、彼の右目は、痛みと引き換えにそれを与えた。

今言ったとおりの天気予報も、気温や湿度、空気中の水分や大気の流れ、空の色、様々な情報を読み取ることのできる右目の義眼が可能にしている。

便利だと思うこともできるが、生まれ持った目を失ったという代償と比較してどうなのかなど、問うべきものではないだろう。

 

それも兎も角としてだ、ついこの間、広登のバラエティの企画に巻き込まれ、恥ずかしいコスプレさせられた私を思い出し笑いするのは如何なものかと、私は声を大にして言いたい。

あぁそう言えば……あれの放送ってそろそろだったような……うわぁ、考えたくない。

 

 

「と言うか、シュウは天気予報するだけなのに、あんな爽やかな愛想笑いすることないと思いますけど?」

 

「いや、あれは広登の指示でだな……『もっと爽やかアイドルチックに!ハートを撃ち抜く感じで!』とか無茶ぶりにも程があるだろ…」

 

「へ~……それで『今日は一日雨ですが、皆さんの心は快晴になるといいですね(ニコッ)』とか言っちゃうんだ? っぷ……あ駄目だ、私が思い出し笑いを……」

 

「言うなよ!なんか泣きたくなってくるだろ!と言うか、もう忘れてくださいお願いします」

 

 

実際、あのカッコいいという言葉の意味を間違えたような台詞は広登のセンスだろう。

そういうセンスにかけては若干壊滅的なところがあるのだが、それは彼自身が言えばバラエティ向けになる。

まぁ、シュウが言えばスベっているような形になるわけで。

 

それ以来、シュウは広登の番組制作の手伝いをしてはいるものの、台詞などの指示は完全シャットダウンしている。

普通にやってても受けはいいんだから、それが正解なんだろうけれど………私としては若干面白くない事にも繋がるわけで。

 

……ただでさえパイロットってこともあってモテるっていうのに……あぁ面白くない。

『そんな事』にはならないと分かってはいても、ハイそうですかと納得できるほど、私はまだまだ人間が出来上がっていなかった。

 

 

「修哉お兄ちゃん、芹お姉ちゃん!」

 

 

と、やや自分勝手な自分の思いに辟易としていた時、私達の進行方向から元気な女の子の声が飛んで来る。

声につられてシュウと一緒に視線をそちらに移してみれば、一組の親子の姿がそこにはあった。

母親、日野弓子先生と手を繋ぎながら、空いている方の手を私達に振ってくれている一人の少女。

 

日本人の、私達の親の世代が受胎能力を失って以来、人工子宮出産ではなく自然受胎で生まれた初めての子供。

二年前のフェストゥムとの戦争でも、敵のミールと会話するという形で島を救ってくれた少女でもある。

元気に手を振る、少女、美羽ちゃんはこの猛烈な暑さを演出している太陽に負けないくらい眩しい笑顔であった。

 

 

「こんにちは、美羽ちゃん」

 

「こんにちはー!」

 

「弓子先生も、こんにちは」

 

「えぇ、こんにちは。二人共、今からアルヴィスへというところかしら」

 

「そんなところです」

 

 

シュウは美羽ちゃんと弓子先生に順に挨拶を、私も同じく挨拶を交わす。

見れば、弓子先生の手には西尾商店で買ったのであろう、美羽ちゃんのお絵かき用の画用紙とクレヨンの入った袋が下げられていた。

母娘で仲良く買い物ついでにお散歩というところだろうか、見ていてやはり微笑ましい光景だった。

 

 

「美羽ちゃん、新しいお絵かき用具買ってもらったんだ」

 

「うん!新しいお友達、エメリーって言うんだけど、その娘のこと描くの!」

 

「うん…?新しい友達?」

 

「ちょ、ちょっと美羽…!」

 

「そうだよー!もうすぐ会えるって、エメリーも言ってるの!」

 

 

しかし、その微笑ましさの中に、僅かな陰りが見られたのは、美羽ちゃんが『新しい友達』の話をした時だった。

シュウが美羽ちゃんの話に怪訝そうな顔をすると、弓子先生は少し慌てた様子で美羽ちゃんを窘めるような態度になった。

 

新しい友達、エメリー。

名前から島外から来た人かとも思える。

しかし、四年前の戦いの最中、人類軍に見捨てられた人達が竜宮島の新しい住民として迎えられて久しいが、少なくともそんな名前の、しかも美羽ちゃんと年齢の近しい女の子など居なかったし居るはずはない。

シュウもそれが分かっていたが故に、怪訝そうな表情になったのだろう。

 

 

「ごめんなさいね?美羽ったら、最近空想のお友達の話ばかりで……」

 

「空想のお友達……ですか?」

 

「島に歳の近い子が居ないから、その影響だろうとは思うのだけれど……」

 

「はぁ…」

 

 

弓子先生の説明を聞いて、『あぁ、そういうことか』と納得しながら私は生返事を返してしまったが、『本当にそうなのか?』という疑問は拭えないままだった。

美羽ちゃんは、二年前での戦争でもそうだったように特別な力を持っている。

言うなれば、『新しい人類の形の一つ』とでも形容できる存在だ。

 

そんな子の言葉を、寂しさを紛らわせたい子供の戯言で片付けられるのかと、そんな風に考えてしまったのだ。

慌てた弓子先生の様子も、美羽ちゃんの特異性を不安に思ってのことだと考えれば、辻褄は合ってしまう。

 

 

「美羽?あんまりそのお話をしてお兄ちゃんたちを困らせないの」

 

「え~……でもエメリーは…」

 

「いいから…ママの言うことを聞いてちょうだい…お家に帰ったら、ママがたくさんお話聞くから、ね?」

 

「は~い……」

 

 

優しく美羽ちゃんと諭す弓子先生に、少し納得できなさそうな表情で返事をする美羽ちゃん。

別に今みたいな話をされても一向に構わないのだが、そこはヘタに口を挟むことではないし、不安がっている弓子先生の気持ちを考えても、軽率なことを言うべきではないだろう。

 

 

「ママの言うことを聞けて、美羽ちゃんは偉いな。ほら、ご褒美ってわけじゃないけど、これあげるよ」

 

「わ~!修哉お兄ちゃん、ありがとう!」

 

 

少し変わってしまった空気を元に戻そうと、シュウは肩にかけていた鞄からお菓子を出すと、美羽ちゃんの頭を撫でながらそれを渡す。

そのお菓子は美羽の好みの品物だったらしく、少しシュンとしていた表情は一瞬で笑顔に戻る。

 

相変わらず、場の空気には敏感なシュウだが、その修正方法に関しても定評があると言わざるをえない。

 

 

「あらあら……修哉くん、ごめんなさいね」

 

「いえ、大したことではないので気にされないでください。では、俺達はそろそろ」

 

「本当にありがとう。さ、美羽もお兄ちゃん達にご挨拶しなさい」

 

「修哉お兄ちゃん、芹お姉ちゃん、ありがとう!またね~!」

 

 

弓子先生と元気を取り戻した美羽ちゃんに挨拶をして、その場で別れる。

元気に手をぶんぶん振りながら、弓子先生と帰路に就く美羽ちゃんの姿を見ていると、さっき一瞬感じた違和感も徐々に霧散していく。

シュウも同じ気持ちのようで、微笑みながら美羽ちゃんに手を振り返していた。

 

 

「……子供って、いいよな」

 

「うん…そうだね………って、うぇ!?」

 

 

と、美羽ちゃんの姿が見えなくなった頃に、ボソッとシュウの口から出てきた言葉に、私は数秒遅れてから変な声を出して反応してしまった。

いやいやいや、『子供っていいよな』って、つまりはそういう事ですか?そういう事になっちゃうんですか、シュウさん!

 

それはつまり、自分も子供が欲しいとかそういう思いがあって、もしよければ『今夜どうですか?』ってことなんですか!?

シュウがパパになって、私がママになるんだよって話ですか!!

 

 

「そ、それはまだ私たちには早いんじゃないかな!!」

 

「はい?」

 

「だ、だって私達パイロットだし!そんなまだ責任取れるような状態でもないっていうか、あぁいや、でも決して嫌ってわけでもなくて!時間を少し置いてから、またゆっくり考えるのもありかなって思うわけで!何人くらいとか、男女の比率とか色々!」

 

「何の話をしてるんだお前は……」

 

「だ、だから子供の話!!」

 

「…………あー……」

 

 

慌てて捲くし立てる私に、シュウは若干戸惑った様子を見せるが、少し考えて今の話の流れと、私の様子から意図に気がついたようで。

少し顔を赤くしながら、納得しましたと言う様子で、手で顔を隠しながら頭を振る。

 

果たして、頭の中がピンク色且つ、明るい家族計画的な感じになっている私に対して、シュウは極力、努めて冷静に続ける。

 

 

「あー…そのだな、今のは、あぁ言う元気な子供って一緒にいるだけで元気分けて貰えるようでいいよなーって話でだな……」

 

「…………え」

 

「まぁその……考えないでもなかったけど、芹の想像してたような事を言ったつもりじゃない……いや、勿論、そうなればとか思ってはいるけど……って、芹?」

 

「………………」

 

 

シュウの言葉の真意を聞き、それを理解すると同時に私の顔は瞬間湯沸し器よろしく、真っ赤に染まる。

へなへなと、その場にしゃがみ込み、自分の口走った言葉を頭のなかで反芻しながら、『やってしまった』という後悔の波に揉まれる。

 

あぁ……もう、もう………いろいろ、ダメだぁ……

完全にエロいこと考えてるってバレた……うわああああぁ……

 

 

「もう……もうお嫁に行けない……」

 

「いや、俺が貰う」

 

「そんな優しさ要らないよお……!!」

 

「じゃ、じゃあなんだ? 苗字変わるの嫌か? 婿か、俺が婿入りすればいいのか?」

 

「そういう問題じゃないいぃぃぃぃぃ!!!」

 

「あ、ちょ! 芹!?」

 

 

恥ずかしさのあまり顔を隠しながら全力疾走してしまう私、シュウが色々優しいことを言ってくれたように思えたけど、そういう事じゃ、そういう問題じゃない……。

相変わらず、変なところで朴念仁。

 

果たして私は、羞恥心に耐え切れずに、学生時代の自己ベストを大きく更新する速さでアルヴィスに向かう道を全力疾走する羽目になったわけで。

結局、その日は夕食になるまで、恥ずかしさに耐えながら、シュウとはギクシャクしたまま過ごすことになってしまった。

 

 

 

第二次蒼穹作戦から2年、様々なものを失って、また同時に手に入れることになったあの日から2年。

豊かで暖かな日々は、今日もこうして続いていた。

 

 

 




そんなこんなで、今回はかなり平和且つ、緩い感じの第1話です。
肩の力を抜いて読んでいただければ。

ファフナーらしく無いほどに平和ですが……

安心してください、最初だけですよ。



・シュウの主夫っぷり
元々掃除洗濯炊事についてはやっていたので、レベルはそこそこ高いです。
まぁ、料理については一騎には負けますが、たまに楽園の手伝いしている模様。

・寝坊助芹ちゃん
珍しく寝ぼけてます(半分だけ)
こっちの芹ちゃんは、アニメ本編に比べると少しポンコツです。
終盤の件とか、そのポンコツっぷりを体現してます。
ヒロインとして決めるところは決めて頂くのでご安心を。

・シュウ、フラグ乱立
後日談でも書きましたが、彼はモテます。
無自覚にフラグを建築してしまうこともあり、その度に芹ちゃんの瞳からハイライトが消えます。

・彼らのお仕事
シュウも芹ちゃんも第一種任務はパイロットですが、当然第二種任務もあるわけで。
しかしながら、ずっとパイロットでいるわけにもいかないです。
シュウの場合はその後のことを考えて、第一種任務は技師としての道を考えている様子。
第二種任務はいろいろやってみたいことが多いようで、体のこともあり、まだ固定はされていないです。
本人は何でも屋みたいに働いていますが。

・シュウの天気予報
義眼の力ってしゅごい
後日談から年月が経過しているので、かなり使いこなせています。
その真価は戦闘で発揮することになれば。。。

・子供の件
まぁ、そういう方向の話も考えてしまうのは仕方ないですね。
同化現象や因子の件もありますが、明るい未来を考えています。
が、芹ちゃんはいろいろと大事な階段をすっとばしてます。

ややヤキモチ妬きな芹ちゃんですので、もしかすると瞳からハイライトを消した状態でシュウのマウントポジションを取得、「あなたがパパになるんですよ?」と彼の手足をベッドに拘束してそのまま・・・

やだ、興奮してきた。



ほな・・・また・・・



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