蒼穹のファフナー Benediction   作:F20C

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久しぶりの後日談です。
ごちうさでSAN値を回復できたので書き上げました。

活動報告にも書きましたが、ファフナーの最新の状況について色々考えまして、
今書いているエグゾダス編の最初の二話、多分白紙の方向にすると思います。

シュウと芹ちゃん、織姫ちゃんの疑似家族のお話に力入れた方がいいかと思って。。。

勝手なお話ですみませんが、ご容赦くださいませ。。。


あと、いつも感想頂まして、本当に有難うございます。
貰いっぱなしで、コメ返しが中々出来なくてすみません。。。
ちょこちょこ返して行こうと思いますので、よろしくお願いします。



After Days - 悪夢 Ⅱ-

『記憶とは活動したり、消すことのできない持続である。』

 

そんな言葉がある通り、記憶というものは早々簡単に消えてくれないもので、一晩寝て起きて(電源OFF・ON)という手順を踏んでも、脳内の不揮発な領域に残っているようだ。

これが電子的なストレージであればファイル消去でもすれば消えてくれるのだろうが、人間の脳はそこまで融通が利く作りになっていない。

いや、だからこそ素晴らしい部分も勿論あるし、この記憶は、『1週間前のシュウとのキス未遂事件』の記憶は消したくはないシロモノだ。

 

だがしかし、その記憶が頭の中の大部分を専有してしまい、他の作業が疎かになってしまうのも悩みどころなわけで。

今も私は、家族団欒の食卓の中にあって、その記憶をもう何百回目か分からないが再生しながら、ふにゃけた顔をしてしまっていた。

 

 

「ふへぇ…」

 

「まーたこの娘は、食事中にトリップしちゃって……」

 

「ふむ……」

 

「ほら芹! 修哉くんとの妄想もいいけど先にご飯食べちゃいなさい!」

 

「……はっ!? も、妄想なんてしてないし!思い出してただけだし!」

 

「それはそれで問題だろうに…」

 

 

今日も今日とてだらしない顔で呆けてしまっていた私にお母さんからの喝が入り、私の心は夢心地の世界から現実世界に強制転移させられる。

我に返ったばかりの私が、明後日の方向にズレている反論をすると、お母さんは『全くもう…』という表情、お父さんは気難しそうな顔で『やれやれ…』といったような表情をする。

自分の発した言葉の意味を、漸くスリープモードから復帰した脳が理解すると同時に、私は顔を朱にそめて勢い良くお茶碗に盛られた白米を頬張る。

女の子的にどうなのか、と言う自問自答はあれど、恥ずかしさを誤魔化すのに私は必死だった。

 

 

シュウとのキス未遂事件、あれから一週間ほどが経過したが、あれ以降は特に何かが進んだのかと聞かれれば、『1ミリも前に進んでいない』という答えになる。

気不味いとか、会えていないということではないのだが、何となくそういう空気にならないとでも言えばいいのか。

 

いや、多分これは私とシュウ、どちらもがヘタれているということなのだろう。

普段通りにしながらも、敢えてそういう方向へ話を持っていかない。

付き合いが長いせいか、特に示し合わせることもなく、それが自然体のように、僅かな不協和音すら出さない。

そう言った芸当がすんなり出来てしまうのもある意味では考えものだ。

 

 

「修哉くん、明日から学校来れるんでしょう?」

 

「う、うん……しばらくは車で送ってもらうらしいけど」

 

「あらー、それじゃあ暫くの間はラブラブ通学出来ないわけだ」

 

「べ、別にそんな特別なことなんて考えてない! ちょっと手繋いだり、あわよくば腕組んだりとか……って、何言わせんの!」

 

「お母さんはそこまで言ってないわよ」

 

 

返す言葉もない。

ここ最近……というか、シュウと『そういう関係』になったあの日から、昔を少し思い出したというか、調子を取り戻したというか……そう、言ってしまえば私は舞い上がってしまっていたのだ。

人の言葉に過剰に反応して自爆したり、今みたいに食事中にフニャフニャしてしまって両親に呆れられてしまうのも、全てはそこに起因している。

 

いやでも、自分でも怖いくらいの舞い上がりっぷりだ。

これが家の中だけで済んでいるからまだいいかもしれないけど、流石に島の人達にまで見られるのは困る。

外での立ちふるまいには、十二分に注意しないと……!

 

 

「ところで芹、修哉くんに例の話はしたのか?」

 

「え……あぁ…えっと……まだ、です…」

 

「全く……お前から伝えるように言って一週間だぞ……」

 

「い、いざ話そうとすると……テンパっちゃって……」

 

「彼を引き取る事は、既にアルベリヒドからも正式に許可を取り付けてある、後は彼の気持ち次第。それに今の修哉くんにとって……滝瀬の家は一人で済むには些か広過ぎるだろう…」

 

「お父さん…」

 

「滝瀬夫妻には、生前は随分と世話になった。その恩返しという訳ではないが、最低でも彼が成人するまでは、私達で面倒を見る」

 

 

確かに浮かれていた、この上なく、どうしようもなく。

しかし、お父さんからの話がその気持ちを一気に萎ませていく。

いやそれどころか、自分は何をしているんだと、自分を責めてしまいた気持ちにすらなってくる。

 

PTSDを発症して、シュウは毎日苦しい思いをしているというのに、私ときたら思いが通じたことばかりに気持ちが傾いていた。

お父さんの言うとおり、一人で住むには広すぎる家に一人というのは、今のシュウにとっては孤独感を与えるばかりかもしれない。

思い出が、絵梨さんとの思い出が多く詰まったあの家は、今のシュウの心にどう映るのか、私には想像することしか出来ないけれど、私だったら孤独感に押し潰されそうになるはずだ。

そこに出てきた、うちでシュウを引き取る話はある意味では渡りに船だったのかもしれない。

 

その話をお父さんから聞いたのが丁度一週間前、シュウとの…ニアミス事件があった日の朝の事だった。

しかし、それは即ち、シュウと一緒に暮らすという事になるわけで……できたてホヤホヤな私達としては、些かハードルが高い。

いろいろと『アレな』想像してしまい、その話をしようとする度に、シュウのことをまともに見れなくなってしまい……結局のところ、私は二の足を踏み続けていた。

 

 

「……それに…だ。芹、お前が……その、なんだ……彼と……将来のことを考えたいというのであれば、いい機会にもなるだろう」

 

「あらあら、その話をすると時だけそっぽ向いて……」

 

「言うな……彼であれば何の文句もない、寧ろ好ましいとも思っている……が、これも娘を持つ父親の性というやつだ」

 

 

お父さんはムスッとしつつも、どこか照れたような様子で、お母さんはニマニマしながらそんな話を進めている。

当然、私は顔を赤くしながら、身を縮めるしかなくなる。

 

私も十分舞い上がっているように思うけど、お父さんとお母さんもこの件についてはかなり積極的だ。

シュウとの関係を賛成してくれるどころか、全面的に応援してくれるのはとても嬉しい……けれど、出来れば私達のまだ考えていないような話を、階段を3段くらい飛ばすように進めるのはやめて欲しい。

 

………いや、もちろんそうなれたら嬉しいけど…。

 

 

「ともあれだ、明日の夕方には話すようにしなさい。その後、出来ればうちに連れてくるように」

 

「は、はい…」

 

「ということは、明日の夕飯は4人前ね~。修哉くんの好きな食べ物何かしらね~」

 

 

と、そんな感じで、再度お父さんから念押しをされる形になってしまった。

しかし、シュウの身の上を考えれば、私がヘタレて二の足を踏んでいる場合じゃない。

 

明日こそ、シュウとちゃんとお話しよう。

うん、会ってすぐ、スピーディに!電撃作戦だ!

何事も勢いに任せればなんとかなる!

 

 

「よっし…!女は度胸!」

 

「そこは嘘でも愛嬌と言いなさい」

 

 

気合を入れたのにお父さんに呆れられた。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

朝の学校というのも、中々に久しぶりで、妙な高揚感すら覚えてしまう。

まるで、夏休み明けの一番最初の登校日。

始業式とホームルームを無難にこなせば帰れるということに対するお気楽感と、夏休み後半に味わう虚脱感からの脱却。

しばらく学校の門をくぐることが出来ていなかった俺にとって、今感じているものはまさにそれだった。

 

ともあれ、別に長期休みを満喫したわけでも、大量の夏休みの課題に四苦八苦していたわけでもない。

日々のリハビリに銃の撃ち方のレクチャーによって気持ちのいい汗を、義眼がもたらす激痛と毎晩のように見せられる悪夢による寝不足で若干フラフラな程度である。

目の下に隈とか無いといいんだけれど。

 

 

朝の独特な匂いを鼻に感じつつ、教室へ向かう。

時間の経過とともに校舎内の人口密度は上昇していくだろうが、やや早く着きすぎたのか、生徒の姿はまばらで静かなものだ。

 

そんな、やや静かな空間にあって、その『静かさ』が似合う人物が、廊下の壁を背にて、少し厚めの専門書のような本をお供にして立っていた。

何をさせても絵になる人だが、その姿は一つ学年が上の先輩というには、やや大人び過ぎているようにも見えてしまう。

 

皆城総士先輩。

二年前の戦いで、一度は体を失い、島からいなくなってしまっていたが、先日の第二次蒼穹作戦終了と同時に、竜宮島に帰って来た。

一騎先輩たちと同学年の先輩で、有事の際はパイロットとしてではなく、ジークフリートシステムの搭乗者として、ファフナーパイロットたちの指揮官の立場にある人だ。

 

 

「総士先輩」

 

「滝瀬か、その様子では予定通り今日から復学というところか」

 

 

声をかけると、読んでいた本をポンと片手で閉じ、こちらに帰って来てから掛けるようになったらしいメガネを、空いている方の手でクイッと上げる。

「本とメガネがここまでに合う奴もそういねぇよな」とか、剣司先輩に言われてムスッとしていたけど、そこについては俺も正直否定出来ない。

 

 

「はい、遠見先生ももう大丈夫だろうと……っ!?」

 

 

と、俺の方に向き直った総士先輩の問に答えようとしたその瞬間、いや正しくは俺の右目が総士先輩の姿を完全に捉えた瞬間、それは起こった。

先輩の姿を捉えた右目、その視界内に突然大量の表示枠が乱立し、様々な数値やエラーメッセージなどが表示されたのだ。

 

 

「まだ、右目には振り回されている…と言うところか」

 

「すみません、そんな所です。ちょっと気を抜くと勝手に解析とか初めて……俺も困ってるんですけど、慣れるまで辛抱するしか…」

 

「まぁ、『僕を』見たからそうなったんだろう。しばらくは、直接右目で僕を見ないようにするといい」

 

「はい……総士先輩が悪いわけじゃないのに、すみません…」

 

「気にするな、コレばかりは仕方のない事だ」

 

 

実を言うと、この現象自体は初めてではない。

原因は大まかに2つに分けることが出来、一つは右目の義眼を未だに扱いきれていない事にある。

さっきも言った通り、この義眼は気を抜くと視界内あるモノ、生物・非生物を問わずにデータ解析を行ってしまう。

無論、不具合などではなく、俺自身がこの目を御しきれていないというだけの話だ。

 

この前なんか、里奈の身長・体重情報をうっかり読み取ってしまい、事もあろうにそれを無意識に口にしてしまったのだ。

結果は……まぁ、お察しである。

しかも芹にまでジト目で睨まれることになるし……色々散々だった記憶しかない。

 

2つ目の理由は、総士先輩の体にある……らしい。

詳しいことはそこまで突っ込んで聞いてはいないが、一度体を失った総士先輩は一度フェストゥムの側に行って体を作り直し……いや取り戻したのだという。

しかし、取り戻した体は当然以前の生身と全く同じではなく、フェストゥムに近しい体だというのだ。

それが起因しているようで、俺の右目は総士先輩に対しては殊更過剰に反応してしまうらしい。

謎の多い対象に敏感になるのは仕方ないことかもしれないが、さっさと何とかしないと流石に日常生活を送るのに不便だ。

 

 

「えと…総士先輩も久しぶりの登校……ってところですか?」

 

「たまには…な。それに、少し頼まれ事をしていてな」

 

「頼まれ事ですか、またファフナー関連ですかね」

 

「半分はそうだ、後の半分は……そうだな、らしくないお節介…か」

 

「お節介……ですか」

 

 

俺が右目を手で覆い隠しながら、総士先輩に尋ねると、再度メガネの位置を直しながら先輩は答える。

普通の学生……というには俺も相当特別な存在(パイロット)になってしまったが、総士先輩は俺の比ではない。

二年前…それよりもずっと前から竜宮島や外の世界、フェストゥムやファフナーのことを知っていて、大人に近しい位置で戦いに身を置いていた人だ。

アルヴィスの事もそうだが、フェストゥムの側から帰って来たとあって、それに伴う検査もあるし、同化現象の治療法確立のための研究もあるらしい。

 

先輩も俺同様、今日まであまり学校には足を踏み入れていなかったようだが、そんな人がらしくないお節介?なるもののためにここに居る。

この時間からまるで俺を待っていたかのように、ここにいたことを考えると……

 

 

「俺のPTSDについて……ですか」

 

「話が早くて助かる。溝口さんから、いろいろと話は聞かせてもらった」

 

「………」

 

「話の中で、気になった点が一つあった。滝瀬、お前がフェストゥムとの戦闘を、戦闘によって得られる興奮を忘れられないという話だ」

 

 

話の方向性はおおよそ予想通り。

きっと、溝口さんが心理面的な、それもファフナー関連の問題については総士先輩を一手打たせるのが良いと判断したのだろう。

長い時間、一騎先輩達世代のファフナーパイロット達とジークフリートシステムでクロッシングを行い、意識と痛みを共有していた人だから。

 

そんな総士先輩が俺の抱える悩みの一つを確認するように尋ねてくる。

その声には軽蔑の色も、怒ったような色も感じられない。

よくも悪くも、総士先輩の淡々とした口調は感情を読み取ろうとするには、少し難易度が高い。

 

 

「すみません、こんな感情、良くないものだってことは分かってます」

 

「別に責めるつもりはない。昔の一騎も、ファフナーで戦っているときは近しい心理状態だった」

 

「一騎先輩も…? そんなまさか…」

 

「クロッシングで意識を共有していたからな、紛れも無い事実だ。一騎自身、僕にはそれを隠したがっていたが」

 

「そう……だったんですか……」

 

 

そして、その淡々とした口調で総士先輩は、俺の予想外の事実を伝えてくる。

『あの一騎先輩』も、似たような状態になっていたのだと。

ジークフリートシステムの管理者である人の言葉を疑う余地はないのだろうが、俺は思わず否定してしまっていた。

 

別に、一騎先輩と同じだからそれで良い、という話ではない。

けれど、島の英雄も同じ悩みを抱えていたのだという事実は、俺の卑屈な心を否応無しにに浮き上がらせた。

 

 

「お前と一騎は、少し似ている」

 

「……」

 

「戦いの中に自分の価値を見出すことは、確かに良いことではないのかもしれない……しかし、お前は自分の為だけに戦おうとしたわけではないはずだ」

 

「それは……」

 

「滝瀬、お前はなんの為にファフナーに乗って戦おうと思った?」

 

 

そう尋ねられ、俺は数瞬考える。

物事の始まり、その理由と原因を頭の中で文章化するのはそう難しいことではなかった。

しかし、頭の中で考えた綺麗で、詰まりようのない言葉の羅列は、俺の口からは出てこなかった。

 

出てきたのは、辿々しい、自身の心の弱い部分を必死に打ち明けようとする、弱々しい声だった。

 

 

「……最初は…いなくなるためでした……でも、何が何でも守りたいものがあるって気がついて、それを奪われるのがどうしようもなく怖くなって……」

 

「………」

 

「戦って守れるなら、守りたい。どんな手段を使ってでも、何を犠牲にしても構わないと……気が付いたら、もう無我夢中で。その緊張感がいつまで経っても消えなくて」

 

 

自分でも言葉数が多いとは自覚している。

しかし、整理したはずの言葉にいつの間にか余計なものが張り付き、一気に口から出てきてしまったのだ。

ともあれ、吐いた唾は飲めぬ、である。

 

総士先輩が聞き上手……と言う話はあまり聞かないが、俺は一気に出しきった言葉の結果を。

先輩からの反応をただ静かに待った。

 

果たして、その答えは、『俺の思う俺自身の状態』を否定するものだった。

 

 

「そうか……であれば、今のお前の心理状態は戦いを求めているのとは少し違う」

 

「え?」

 

「お前はただ恐れ、恐怖しているんだろう。またフェストゥムが島に来て、自分の大切なモノを奪おうとしないかと」

 

「っ!」

 

「奪われるのが怖いから、戦わなければと、強くならなければと自分を追い立てる、その結果が焦りと夢の内容の一部に影響を与えている。求めているのではなく、自身の強迫観念がそうさせているだけだ」

 

 

強迫観念。

少し前で言うのであれば、『俺はいなくならなければならない』という自分で自分を呪うようなあの思考が思い出される。

今だからこそ、それは間違いだと迷うことなく言える。

 

しかし、その強迫観念はまた形を変えて俺の中に巣食っているのだと、総士先輩は言っている。

総士先輩の言葉には不思議な力が、言うなれば強力な説得力があるように感じる。

それは話の文脈・内容から冷静に物事を分析し、推論を立てるにしてもその下地には論理的な裏付けがあるからだろうか。

 

 

「戦うことは、必ずしも悪ではない。さっきお前に聞いた『なぜそうしたいのか』、『自分が戦う理由がどこにあるのか』を忘れさえしなければ、な」

 

「戦う理由……」

 

「もしそれを忘れてしまった時、溝口さんの言ったように、お前は自分で自分を殺すことになる」

 

「………」

 

「……だが、お前は一人で戦うわけではない、仲間と島と、全員で戦う。それをよく覚えておくことだ」

 

 

それだけ言うと、総士先輩は俺の方をポンと叩きながら、俺の横をすり抜け廊下を歩いて行く。

俺は総士先輩に言われた言葉を頭の中で反芻しながら、その背中を静かに見送った。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

やや物足りなさを感じる朝の登校時間……まぁ、具体的に言うのならいつも隣りにいる存在が欠けている状態に物足りなさを感じているのだ。

今日が初めてというわけではないし、ここ最近はずっとそうだった。

しかし、今日からシュウが復学するという事実が、私の感覚をやや過去に戻しているのだろう。

 

きっとシュウは既に学校に着いている頃合い。

教室の、私の隣のいつもの席に座って本でも読んでいるのだろう。

その姿を想像すると同時に、私の足はそのスピードを加速させる。

 

 

「ふぅ…」

 

 

気が付けば校門をくぐり、下駄箱で靴を履き替え、いつもの教室の扉の前にまで来ていた。

いつもの扉、後はこの扉を開くだけで学校でシュウに会うという、私にとって数ヶ月待ち望んでいた日常の一コマを取り戻せる。

フェストゥムとかファフナーとか人類軍とか、そういったものとは別の次元にある尊く、大切なものを再び手に出来る。

 

深く、自身の気持ちの高ぶりを抑えるための深呼吸をして扉に手をかける。

 

 

「おはよー」

 

 

極力普段通りの声で、何でもない風を取り繕いつつ、私は教室に足を踏み入れる。

そうだ、お父さんと話していたこと、シュウにもちゃんと話さないと……そうなったら、シュウと私は一つ屋根の下……となれば行き着き先は…

い、いやいや、そんなピンク色な事は今すぐにはならないからして……

 

そんな雑念は置いておいて、今はシュウが戻ってきた学校生活を取り戻してーー

 

 

「滝瀬くんほんっとに久しぶりだよねー、心配してたよー!」

 

「目の怪我、大丈夫? 困ったことがあったらいつでも力になるから!」

 

「滝瀬くんって、パイロットの中でもエースなんでしょ? 戦闘の様子は見てたけどカッコ良かったよー!」

 

「凄かったよね~、フェストゥムを何十体も同時に相手して、あっという間に倒しちゃって。もう島のヒーローだよ~!」

 

「せ、戦闘中のコンビネーションっていうかフォーメーションとかってどんな感じ……!?広登くん×修哉くんとか、暉くん×修哉くんなの!?」

 

「ちょっと貴女ふざけないでよ!!それを言うなら修哉くん×広登くん、修哉くん×暉くん!修哉くんは攻め!これは譲れないとあれほど」

 

 

「え、いやその……別に俺だけが戦ってたわけじゃ……というか、後半の二人やめてくんない!? それフォーメーションでもなんでもないわ!!」

 

 

しかして、私の思い描いていた学校生活はシュウの席周辺に展開された、黄色い声達という存在によって容赦のない絨毯爆撃を加えられ、脆くも崩れ去ったわけで。

私は扉を開けたままの状態で数秒フリーズ状態になってしまった。

 

な、ナニコレ?

なんでシュウは女の子たちに取り囲まれているのでしょうか?

 

 

「あ、おはよー芹」

 

「なんか、大変なタイミングで来ちゃったね……」

 

「り、里奈に暉……これは何のお祭り?」

 

「祭りって言えば祭りかもねー……ま、芹にとっては面白く無いかもだけど」

 

 

いつも通り、いや若干この場の空気を楽しんでいるような節が見受けられる口調で里奈が声を掛けてくる。

暉は暉で、四方八方から女の子の嬉々とした声を浴び、困惑しているシュウに同情している様子だ。

 

里奈の言う、私にとっては面白く無い祭りは現在進行形で参加者のボルテージを上げているのだが、一体何が彼女たちをそうさせるのか。

というか何がどうしてこうなったのか、私には皆目検討も付かなかったわけで。

 

 

「まーパイロットってやっぱり花形だしね。それに修哉はこの前の騒動でエース扱いされてたから、注目度上がっちゃうのは無理ないって」

 

「で、でもシュウにだよ!? 何がどうしてそんなことに……」

 

「芹…アンタそれ本気で言ってる? 修哉ってば昔から結構モテてたよ? 面倒見いいし、割りかし紳士な性格だし、見た目も整ってるから」

 

「確かに……結構女の子とかに……その『いいお話』を受けてたしね」

 

「ま、無意識に芹のことを意識してたのかは知らないけど、全部断ってたみたいだけどね……それでも、パイロットになったこととあの活躍ぶりでまた『ファン』が増えちゃったってわけ」

 

「………」

 

 

知らなかった……いや、割と本気でだ。

シュウはモテていた。私がそれに気がついていなかっただけで、その事実は確かにあった。

話を聞いていた最初は、まぁ当然面白くない話ではあった。

 

当然だ。私だって人間、嫉妬くらいはしてしまう。

 

 

しかしながら、里奈の説明を最後まで聞いて、彼女の口から今シュウを囲っている女の子たちが『ファン』であるという事実を耳にした瞬間、私は一気に落ち着きと冷静さを取り戻した。

 

『ファン』

そう、ただのファンに過ぎないのだ。

いやはや、全く持って驚かせてくれる、これがシュウご所望のハーレム計画とかなら大泣きしてやるところだが、たかがファンに過ぎないのか。

 

 

「くっそおぉぉぉ!!修哉のやつ、アイドルの俺より目立ってんじゃねぇーか!! ていうか、俺の時はこんな感じじゃなかったのにぃ!!」

 

「それはまぁ……普段の行いって言うか、人徳?」

 

「里奈、割とマジで凹むからやめろ」

 

 

教室の隅っこで、他の男子と一緒になってシュウに若干の怨嗟の視線を送っていた広登だったが、里奈の容赦のない言葉の前に脆くも崩れ去っていた。

とまぁ、広登のお馬鹿は一旦放置しておくとして……

 

私は一つ深呼吸を置いてから、ゆっくりと歩みを進める。

行き先は言うまでもなく、女の子に包囲されているシュウのところ。

暉の慌てたような声が背中に聞こえたような気がするけれど、何をそんなに焦っているのだろう?

私はこんなにも落ち着いていて、冷静で、この上なく心がフラットな状態だというのに。

 

なに、大した話をするわけじゃない。

朝、お父さんに言われていた『例の話』をしようとしているだけなのだ。そう、これは言わば重要情報の伝達であり、朝の何でもない一幕。

 

果たして、ややスペースの開いていた場所を起点に、シュウの席の後ろにたどり着いた私は、優しくシュウの肩に手を置いて、やわらかな声で言葉を続ける。

 

 

「おはよう、シュウ?」

 

「あ、あぁ…悪い丁度困ってたところなんだ。おはよう、芹………………様」

 

 

おやおや、なんでシュウは私に様付けなんだろう?

おかしいね、ホントに……

 

気の所為か、私を見る目が少し怯えを含んでいるような気がするし、体もガタガタ震わせているではないか。

あぁ成る程、こんなに沢山の女の子に囲まれちゃったらそれは怖いよね。

であれば尚更、いち早くこの状況を解決してあげるのが私の仕事だろう。

 

 

「ねぇシュウ?」

 

「な、なんでございましょうか……!」

 

 

そして私は、『何か』に怯えるシュウを安心させる意味でも、最高の笑顔を浮かべながら、シュウに言った。

 

 

「ちょっと……屋上行こっか?」

 

 

 




・芹ちゃん一家の団欒
 芹ちゃん、完全に妄想の世界へ
 ちなみに芹ちゃんパッパはシュウの事は認めています、色んな意味で。
 シュウを引き取ることについては、剣司のそれが例になります。。。
 多分、後見人的な人は必要でしょうし。


・シュウと総士
 総士に話すことで少し気分を楽にしてもらう。
 無印時代の一騎は、確かフェストゥムとの戦闘で高揚というか
 満足を感じていたようですね。


・シュウの義眼
 いろいろ見えてしまいます。
 芹ちゃんの今日の下着の色もバッチリです。


・シュウ、モテ期
 基本、昔からモテてましたが全部断っていた模様。
 まぁ、嫁(無意識)がいるから多少はね?


・竜宮島のおなごたち
 まぁ、HENTAIの国日本、その民の生き残りとあれば、多少腐ってる人も居ます。
 仕方ないね。


・芹ちゃん、おこです、マジおこです
 笑顔ですが、オーラはおこのそれ。
 屋上につら出せとか言われたらちびるレベル
 思いが通じ合ったばかりですので、デリケートな時期なのです。


[雑記]
○エグゾダス後期
 
 ・英雄帰還
  甲洋おかえりぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!
  待ってたぜヒーロー!!

  で、あのダークライザーソードなんや・・・たまげたなぁ・・・

  ガンドレイク「正しく使ってくだしあ・・・」

  ルガーランス「大丈夫、直に慣れるから」

 ・毎回破られるヴェルシールド
  もうちょっと頑張れよと思うのは私だけですかね。。。

  フェストゥム「おらおらぁ!!これがいいんだろう?いい声で鳴かせてやるよぉォォ!!」

  シールド「んほおおぉぉぉお、らめえぇぇえ!!! 破られちゃう、破られちゃうのぉぉぉぉおお!!」

  みたいな妄想をしてしまうのも仕方ないね

 ・芹ちゃん、もっと食べさせて宣言
  芹ちゃんに食べられたいンゴねぇ・・・
  シュウをおいしく食べてもらおう(どういう意味でかはお任せします)

 ・アザゼル型に当て馬にされるダスティン隊
  ざまああああああああぁぁあぁぁ!!!!!


ほな、また・・・



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