そろそろ劇場版本編に足を突っ込んでいきたいですね。
お気に入り登録頂いた皆様、ありがとうございます。
需要少ないかなぁと自分で思っていたんですが、ちょっと驚いてます。
引き続き頑張りやす(`・ω・´)ゞ
喫茶店『楽園』での昼食の後、俺と芹は再度お天道様のお恵みが燦々と降り注ぐ道を歩き、島の学校施設である竜宮島高校に足を運んでいた。
高校と言っても、生徒数はそこまで多くはないし、小学校と中学校も同じ校舎を使っているから、正直なところ進級した気が未だにしていない。
そんな学校の生徒会、その仕事部屋たる生徒会室に到着し、俺はいつも通り、開き慣れた戸を開ける。
生徒会室は先程までいた『楽園』程ではないにしろ、生徒の体調面を考慮して適度な空調の使用は許可されている。
部屋に入ると同時に、ややひんやりとした、しかし寒くない程度の空気が体を包んでくれる。
「お疲れ様でーす。すいません、ちょっと遅くなりました」
「すみません、同じく遅くなりました~…」
「ご苦労だ二人共。それに今日は前もってこの時間に来ると昨日のうちに報告があった。予定時間通りに来たのであれば問題はない」
部屋に入って俺と芹が挨拶すると、既に席について作業を進めている生徒会副会長、羽佐間カノン副会長が軍隊チックな感じがやや抜けない形ではあるが、出迎えてくれた。
いや、軍隊チックというと少々語弊があるかもしれない。
カノン先輩は、元々は人類軍側の兵士、ファフナーパイロットであり、二年前の人類軍による竜宮島占拠の折、人類軍に見捨てられるような形でこの島に残され、島を消滅させるために軍艦に積んだフェンリルを起動させるという任務を押し付けられた。
が、そこを一騎先輩に説得され、結果として竜宮島へ帰属する事になったと聞いている。
今では、羽佐間先生の養女として迎えられ、こうして竜宮島高校の副生徒会長を務めるくらいに島に馴染んでいる。
やや硬い口調は中々抜けないそうだが、不器用ながらも面倒見のいい先輩として信頼を得ており、俺自身、体のことをよく気に掛けてもらっている。
「修哉やっときた~。早くこの予算表整理してよ~」
「すまん……修哉……俺は数字を見ると蕁麻疹が……グフッ」
「悪い里奈、すぐ片付けるからデータだけ俺のPCに回してくれ。あと、広登はさっさと自分の仕事しろ」
「ひ、酷い! 俺は修哉の負担を減らそうと頑張ったのに!」
「結果が伴ってないからな。あと、計算間違ってるから。なんで夏祭りの支出が年間予算を天元突破してるんだ?」
カノン先輩に続いて、同級生且つ芹と同じく幼馴染である
里奈の双子の弟である
どうやら、俺が来るまで少し仕事を引き取ってくれていたらしいが……うん、やはり広登には竜宮島の報道+アイドルを極めてもらうことにしよう。
プリントアウトされた予算表を見て、俺は切にそう思った。
苦笑いしつつ、いつも俺が座ってる席のPC端末を立ち上げ、里奈が回してくれた予算表ファイルを開く。
パッと見た感じでも数値がおかしなことになっているところ、予算表内の文言と数値内容がマッチしていないところが目立つが…直すのはそこまで大変じゃなさそうだ。
考えつつも、キーボードを走らせつつ修正部分に正しい数値を入力していく。
「相変わらずキーボード速いよなぁ修哉」
「家に強制引き篭もり状態になると、指先動かすことくらいしかやることないしな」
「ともあれ、うちの会計様は頼りになって助かるぜ」
全く調子のいいことを言ってくれる広登だが、こいつはこいつで島のテレビなどに『積極的に』出ている事もあってかイベントの段取りなどは上手いものだ。
今日も午前中はあっちこっち走り回っていたらしいが、このアクティブさは正直羨ましい。
適材適所と言えばいいのか、そこは役割の棲み分けだと思って納得するしかないが。
そんなことを考えているうちに、予算表の修正は完了。
プリントアウトして里奈にパスすると、広登の時のおかしな数字から修正されていることが確認できたようでホッとした表情になった。
最終的にカノン先輩にチェックを掛けてもらい、この件は完了となった。
「あれ、そう言えば剣司先輩は?」
「剣司はいつものところだ。午前中少し顔を出してくれたが、午後からは咲良のリハビリと保さんのところだそうだ……」
「そうですか……」
この生徒会の長はカノン先輩……と言っても十分通用しそうであるが、カノン先輩は副会長という地位。
実は生徒会長は、中学時代から
剣司先輩もまた、カノン先輩や一騎先輩たち同様ファフナーパイロットであり、蒼穹作戦を成功に導いた立役者の一人でもある。
そんな会長だが、現在は先の戦いで妻子を失ったファフナーのメカニック、小楯保さんの世話や、自身と同じファフナーパイロットの
酒浸りの保さんの世話も、咲良先輩のリハビリの付き添いも平行するなど、並大抵のことではない。
もしかすると、剣司先輩自身、責任のようなものを抱え込んでいるのかもしれない。
以前無理をしないようにそれとなく言ってはみたが、こんな体の俺だ。
逆に『お前こそあんまり無理するんじゃないぞ、体調悪い時は言えよな』と言われる始末で終わってしまった。
「そんな顔をするな、修哉。剣司には、私からも言っておくさ。口で言ってダメな時は実力行使で休んでもらう」
「はは……カノン先輩ならやりかねないですね」
表情に出ていたのか、カノン先輩は剣司先輩のことは任せておけと言ってくれる。
……確かに、俺から言うよりもずっと効果はあるだろうし、カノン先輩が言うとおり、実力行使で休んでもらうことも出来るだろう。
いやまぁ、もちろん平和的にことが済めばそれでいいのだが、これで剣司先輩が体調を崩しでもすれば、今度は咲良先輩や保さんが責任を感じてしまってという負のスパイラルに発展するかもしれないしなぁ…
ともあれ、この件は一度忘れよう。
今は目の前に積まれた作業を崩していかねば……
そうして思考を切り替え、俺は集中のスイッチをONにして自分の担当作業である、夏祭りに使用する備品の棚卸し表の作成を進めることに専念した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
私、立上 芹が椅子に腰掛けつつも、体の中に溜まった何かを放出するように背伸びをしたのは、時計の針が夕方を示すくらいの位置に差し掛かった頃だった。
窓からは薄いオレンジ色の光が溢れ、生徒会室の色を統一しようとしている。
そんな生徒会室には、現在は私と里奈、修哉の三人しかいない。
カノン先輩と広登、暉の三人は外回りと言っては妙な言い回しかもしれないけれど、夏祭りで出店が出る神社の方に出向いていった。
今日はそのまま直帰するとの事だったので、私達もいい頃合いで仕事を切り上げ、生徒会室に鍵かけて帰ってよしとのこと。
私自身、割り振られた作業は特に問題なく終わってるし、里奈と修哉の作業が順調なら後1時間以内には帰れる。
「………」
ふと、目の前の席で作業している修哉を見ると、相変わらずのキータッチでPCをせわしなく叩いている。
いや、少しばかりキーボードを叩く速度が落ちているような気もする……もしかして疲れたのかな?
今日は遠見先生のところ行って、楽園へ行って、学校に来て…と修哉にしてみればそこそこの運動量だ。
私達からすれば、なんてことのない距離かも知れないが、体力的に不安のある修哉にとっては長旅になってしまったかもしれない。
「(そう言えば……シュウに夏祭りに誘われた時はちょっとビックリしたな……)」
昼にあった楽園での一幕は……まぁ、結果としてはお約束なものかもしれないけど、シュウからあんな誘いがあったことに正直に驚いてしまった。
いや、驚いたというか……もっと別の、うーん…うまく言葉出来ないなぁ……。
……うん、きっとシュウから誘われたことがなかったから余計にビックリしただけだよね。
そうやって納得しないと、変な方向に考えがまとまって、自分でもわけ分かんないことになっちゃいそうだし……
「(しかも、当の本人は素知らぬ顔だもんね……これじゃ、私がシュウに振り回されてるみたいで腹立つし)」
私がそんなことを考えている間も、シュウは黙々と仕事を進めている。
……こう見ると、シュウはどちらかと言えば中性的な顔立ちだなぁ…病気のこともあるから体つきの方は必然的に頼りなさ気だけど。
里奈の双子である暉も中性的な部類だけど、いい勝負だと思う。
くせっ毛気味の黒髪はそろそろ首のうなじあたりまで届きそうになっているし、どこか温かみを感じさせてくれる灰色の瞳。
女物の服でも着せてみようかな……絵梨さんに言えば喜んで協力してくれそうだし……あ、やっぱやめとこう、絶対何日か口利いてくれなくなるし。
「(でも、よく考えるとシュウが怒ったところってあんまり見たことないっていうか……そんなことあったっけ?)」
温厚という言葉が似合うくらい、シュウは感情を剥き出しにして怒ったりする所を、幼馴染である私も見たことがなかった。
お調子者の広登に対しても、キレの良いツッコミ入れるけど、邪険にしたりしたことはない。
ちょくちょく喧嘩、というか里奈が暉に苛ついて声を荒げる時も、まぁまぁとやんわり仲介に入って場をそれとなく収めたりしている。
それは私に対しても同じで、困った時や落ち込んだりした時は、決まってシュウが一番欲しい言葉をくれたりして。
周りに気を遣って、フォローしたり、いつも一歩後ろに下がったところから全体を見てるような。
それでいて、自分の事は一人で何とかしようとする。
本当は、一番周りに気を使ってもらうべきなのは自分のくせに。
だからこそ、シュウの世話をあれこれ焼こうとするのかと問われれば、まぁそれも理由の一つではあるかもしれない。
あまり自分の事を大事にしない病人というのは、見ていてハラハラするから。
それを何とかしたいと思ってしまうのは、人情というものじゃないだろうか。
そして、それに加えて、私がそうしたいと思う理由は……それは一番最初の夏祭りのお誘いの件と同じで良く分からない。
……分からないのだ。
「………ほうほう…」
「な、なに? 里奈?」
と、そんな取り留めのないようなことを考えてることに集中していると、隣に座っていた里奈が私の顔を見ながら、何故かニヤニヤと口元を緩ませている。
見れば、里奈の担当分の仕事は完了したようで、ボーっとしていた私を見ていたみたいだけど……なんでそこまでニヤけ顔?
「べっつに~。修哉の顔を真剣に見つめながら考え事する芹を見て、乙女だなぁとか、全然思ってないから」
「なっ!?」
「まぁまぁ、そう照れなくてもいいって~♪ 青春を謳歌するのだぞ若者よ~」
「違っ…そういうのじゃないから!」
どうやら、私はかなり真剣にシュウのことを見つめてしまっていたらしい。
そこを目ざとく気がついた里奈は、嬉々とした表情で、且つシュウには聞こえないように小声でからかってくる。
必死に否定する私だが、それが余計に怪しく見えるのか、里奈のニヤニヤは収まりはしなかった。
う~ん……これは、しばらくこのネタで弄られてしまいそう。
というか、里奈だって私と同い年でしょうに……
「ふぃ~……やっと終わった…って、何遊んでんのお前ら?」
「な、なんでもないから! シュウには関係ない話!」
「そんなことはないでしょうに~。芹は修哉に熱視線をですね~♪」
「だ~か~ら~、違うんだってばぁ!」
「なんかよく分からんが……元気だなお前ら」
仕事を終えたシュウも会話に入ってくると、里奈は若干芝居がかったような口調であれこれ口に出そうとするから、私はそれを止めるのに必至だった。
シュウはシュウで、それをのほほんとした様子で見てるだけだし。
まったく、誰の所為でこんなことになったと……
そんな浮ついたやり取りをしながら、その日の生徒会の仕事は終了した。
窓から注ぐオレンジ色の光は、いつの間にかその色をより濃くしていた。
こんな平和な時間がずっと続けばいいですね(暗黒微笑)
それはそうと、EXODUSの円盤、購入された方は多いでしょうか。
私めも発売日に買いに行きましたが、第一話の完全版が収録されており、
非常に楽しめました。
テレビ放送版ではカットされていた、人類軍側の戦闘もそうですが、
竜宮島での日常シーンも追加されており、大満足でございます。
総士の「料理というものを教えよう」には笑いました。
ではでは、また次回